eastern youth | NAGOYA CLUB QUATTRO | 2019.08.12

三者三様の在り方

8月12日、名古屋クラブクアトロで行われた、同会場の30周年記念イベント”New Direction 2019″にeastern youthが出演した。共演はthe 原爆オナニーズとKen Yokoyama。一番手のKen Yokoyamaのフロントマン、横山健(Gt/Vo)は登場するなり日の丸の旗を掲げ、”We’re Fuckin’ One”のコールアンドレスポンスで観客を惹きつける。演奏が始まるやいなやクラウドサーファーが続出。横山が韓国の国旗を持参した観客を見つけると旗を借りて掲げ、その姿を撮影OKしてSNSでの拡散を呼びかける場面もあった。終始観客と密にコミュニケーションをとりながらライブが進み、クライマックスはSHAM69の”If the Kids are Unite”のカヴァー。「もし俺達が団結すれば、決して分断されることはない」と歌われる、サビのシンガロングが空間を満たした。

Ken YokoyamaおよびPizza of DeathTシャツ着用のファンが終演後一気に後方へ下がり、フロアの観客が大きく入れ替わった後でのeastern youthの出番となった。登場時のSEは天井桟敷レーベルのコンピレーション・アルバム『薔薇門』に収録されている”性解放宣言”。森崎偏陸による切迫した演説のなか、吉野寿(Gt/Vo)、村岡ゆか(Ba)、田森篤哉(Dr)”が登場するとフロアに残った熱気と喧騒は瞬時にかき消えた。夏の日の午後”の厳かな始まりからの割れんばかりの爆音。緊張感を保ったまま”砂塵の彼方へ”繋ぐ流れ。観客は固唾を吞んでステージを見つめる。

ビシッと締めた”砂塵の彼方へ”で沸き起こった歓声から少し間をおいて、吉野が語る。

「団結するったってよ、何の下に団結するの。国ですか、民族の血ですか、村の掟ですか。団結して何を変えようとしているんですか。一人ひとりは空っぽなのに。音楽で団結なんかしなくていいんだよ。一人ひとりに戻るんだよ。あんた誰、好きな食べ物何? どこで生まれたの? どうやって生きてきたの? どうやって来たのここまで? 自転車? バス? 帰り、何食べるの?」

話が脱線気味になっていく様子に笑いが起こるが、吉野の口調は真剣だ。

「そうやって一人ひとりが話し合ったりして。出会って、関わって。一個一個だよ。地道なことだよ。それ以外に助かる道はねえ」

男性客から次々と雄叫びのような歓声が飛ぶ。

「冗談じゃねえんだよ、一緒にされてたまるかよ」

と吐き捨てて”ソンゲントジユウ”が始まった。ステージで「ネトウヨ死ねや!」と叫んで両手の中指を突き立てていた横山も、ヘイトスピーチデモのカウンターに自ら足を運び、ギターアンプの上に”SHOW RACISM THE RED CARD”と書かれたパッチを付け、中指を立てたモデルハンドを置き続ける吉野も、民族差別を許さない点では一致している。さっきまでシンガロングしていたKen Yokoyamaがお目当ての観客のなかには、水を差された気分になった人がいたかもしれないが、吉野は以前からインタビュー(https://limpress.com/interview/4305)やライブでも、同様のことを語り続けている。ライブでその場限りの一体感に酔うだけではなく、各々が個に立ち返って対話し、尊重し合うことが大事では? と根本を問いかけるMCは、観客に誤解なく届いたはずだ。

そこから突き進んだ4曲は、吉野が絞り出す歌声、握る拳に込めた力、振りかざすギターの勢い、力いっぱいのアクションのキレ、フロアを睨みつける形相。一瞬一瞬がさらに凄みを増していた。”いずこへ”が始まると歓声があがったり、サビを一緒に歌う観客もいるが、連帯を求めてではなく、自分が歌いたいから歌うといった様子だ。ソールドアウトした満員フロアのなかにいても、吉野の叫び、村岡と田森と織りなす鉄壁の響きに曝されるうちに、どんどんバンドと一対一で向かい合っていく感覚に陥っていく。

“夜明けの歌”の前にはゆっくりギターをつま弾きながら、ふたたび吉野が語る。

「ずいぶん昔から、(the 原爆オナニーズの)TAYLOWさんにはよくしていただいているんですけども、同じステージに立つのはこれが初めてでございます。感無量でございます。TAYLOWさんみたいにいい先輩はいませんよ。横山くんには、ずいぶん昔、新しいレーベルが始めたんだってね、ピザオブデス。(と言ったら、返された言葉が)『ピッツァオブデスです』…….すいませんでした! ピッツァ!」

と言いなおす吉野に場内爆笑。「冗談だからね、頭にきているわけじゃないからね」と続ける。フロアの空気が、観客の笑顔とともに少しほころんだ。

ラストはしみじみと染み入る”夜明けの歌”から、疾走感に満ち、間奏ではカタルシスが爆発してフロアもワッと沸いた”街の底”。クラウドサーフィンもモッシュも一切起こらないかわりに、空間にみなぎる終始張り詰めたテンションが観客を圧倒した。eastern youthが貫き通してきた姿勢と、特異性が際立つ50分間だった。

トリのthe 原爆オナニーズは熟逹したパフォーマンスで風格を見せつけた。TAYLOW(Vo)が大人のパンクスのために年代物のタンスから引っ張り出してきたというガーゼシャツをまとい、「こっちは70年代からパンクスやってるんだ!」とのMCにフロアが喝采を送る。eastern youthの札幌時代、初代ベーシストの三橋徹氏がブッキングしたライブに出演したが、そのときはビートパンク時代の怒髪天と共演することになり、今回eastern youthとは満を持しての初顔合わせであるという秘話も明かされた。後半になるにつれクラウドサーフィンとサークルモッシュの勢いは増し、アンコールではかつてthe 原爆オナニーズに参加していた横山健がギターで飛び入りした。TAYLOWが横山に「できるよね?」と当日声をかけて急遽実現したというサプライズに、フロアは大いに盛り上がった。

3つのパンクバンドによる豪華な共演。それぞれが長年サヴァイヴするなかで築き上げてきた、三者三様の在り方が見えた。ジャンルや会場の周年イベントの祝祭感だけでは決して一括りにはできない、見応えのある一夜となった。

<SET LIST>
01.夏の日の午後
02.砂塵の彼方へ
03.ソンゲントジユウ
04.いずこへ
05.雨曝しなら濡れるがいいさ
06.たとえばぼくが死んだら
07.夜明けの歌
08.街の底


<eastern youth 日比谷野外大音楽堂公演 開催概要>
2019年 9月28日(土) 日比谷野外大音楽堂
開場 16:45 / 開演 17:30
※雨天決行・荒天中止
前売:¥4,500(全席指定) / ペアチケット:¥8,000(全席指定)
※未就学児童は保護者同伴に限り入場可(小学生以上はチケット必要)
※未就学児童でも座席が必要な場合はチケットが必要です。
詳細: https://smash-jpn.com/live/?id=3150


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Text by Keiko Hirakawa
Photo by Keiko Hirakawa