外へ向かう音
品川プリンスステラボールはかなり埋まっていた。年齢層は20~30代中心で、こざっぱりした人が多い。ネクタイを締めた仕事帰りの人がやや少なめ。外国人も目につく。会場内には落ち着いた雰囲気があって、パーティの浮かれた感じとも違う。19時30分ほぼ定刻にティコのドラマーでもあるローリー・オコナーがあらわれて、ステージ中央にある機材を操作する。まずは、ローリー・オコナーのソロ・プロジェクト、ナイトムーヴスのライヴが始まる。
「ヘイ、ガイズ」とローリーによるあいさつがあり、冒頭から2分ほどノイズが放出され、背後の大きなスクリーンにはさまざな無線パルスの波形のようなものが映し出されている。そして音楽が徐々に形を表してきてエレクトロニカなものからビートが入ってくる。キラキラした美しい電子音による40分ちょっとの旅だった。
セットチェンジ中は大きなスクリーンに青空と白い雲を背後にした険しい雪山と氷河が映し出される。静止画かなと思ったら、手前に人らしきものがいて動いていた。
20時30分ころスコット・ハンセン率いるティコ(スコットのMCでの発音だとTychoが「タイコ」と聞こえる)が登場する。「グライダー」から始まったライヴは、配信サービスで聴ける音源のイメージを大きく裏切らないアレンジなんだけども、バンド形式で演奏されるだけで、こんなにも印象が変わってしまうのかという驚きがあった。
ステージには、先にでていたドラマーのローリー・オコナーを始め、ベース&キーボードにビリー・キム、中央にギター&ベースにザック・ブラウン、上手に主にキーボードでスコット・ハンセンという編成だった。スタジオで録音された既発の音源は穏やかなものだったけれども、ステージでは、もっと生々しくナチュラルでオーガニックなものである。ローリーのドラムが大活躍していてバシバシとドラムを叩いていた姿は、ほとんどロックといってもいいくらいだった。
スクリーンにはSF映画ようなの一場面(たぶん『惑星ソラリス』だと思う)や宇宙、波、砂漠、天から降ってくるたくさんの本、サーフィンなどの映像が今までのティコのアルバム・ジャケットの画像とともに映し出されていた。どれもティコの音楽と結びつき、ドリーミーな世界を作っていた。心地よい。
アンコールは「レシーバー」と「モンタナ」。ティコの音楽は、繊細なので、内向きの音楽だなと感じていたけれども、このライヴによってティコは外に放たれる音なんだなと認識を改めるようになった。ライヴのあとにティコのアルバムを聴いてみると、ライヴで感じた生き生きとしたものもちゃんと録音物の中にあることに気づく。今度は、その体験をより広い場所で味わいたいという気持ちになった。
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