朝霧JAM 2017 | 笑顔と、緩やかな熱さあふれる2日間

朝霧JAM - It's a beautiful day 2017.010.07 – 08

最近、音楽との付き合い方が変ってきたなぁと感じる。かつては、自ら財と時間を存分に投じて、自分の音楽を見つけるべくとことん追い求めていたが、一切その気負いが無くなった。歳を重ねるごとに、自分の”欲”を満たすというものに対する関心が無くなってきたということなのだろう。

今年はそんなところからやってきた朝霧ジャム。去年までは出演するアーティストを隅々まで調べ上げてから参加したが、そういうことももう止めた。「知っとくべき」、「調べねばならない」というところからでは音楽を純粋に楽しめない。出演アーティスト/バンドが誰であろうが関係ない。ただ、あの唯一無二の空間で音楽を心ゆくまで体感しに行くだけだ。

朝霧ジャムは、雄大な富士山を一望できる静岡県富士宮市の朝霧アリーナで2001年から開催され、今年で16年目を迎えるフェスティバルだ。参加者のほぼ全員が、テントを張ってキャンプし2日間を過ごす。キャンプをゆったりと楽しむことを主眼においたフェスということで、ライヴのタイムテーブルも本数に考慮し、ゆったりと組まれている。仲間とのキャンプが楽し過ぎてライヴを観るのを忘れちゃった人が続出という、そんなゆったり感、まったり感満載のフェスなのだ。

朝霧アリーナが、フジロックの候補地だったという話をご存知だろうか。直撃した台風のため、二日目がキャンセルとなった富士天神山スキー場で開催された第一回目のフジロック。翌年、富士天神山スキー場スキー場での開催ができなくなった時点で浮上した、候補地のひとつだったのだ。フジロックという名にふさわしい富士山を望む絶景。あの規模で、ここで富士山と対面して自己表現するアーティストの高揚感は、計り知れないものがあったことだろう。ま、そんなことを夢想したところでしょうがない。フジロックは、フジロック。朝霧ジャムは、朝霧ジャム。それぞれの空間を存分に味わい、楽しみ尽くすことだ。

さて、本題の今年のライヴの話に移ろう。朝霧ジャムの“ジャム”というキーワードは、ジャム・バンドに代表される即興的演奏の“ジャム・セッション”とは趣旨と異なる。込められているのは、ジャンルレスに様々なミュージシャンが集い、音楽を楽しむというコンセプトだ。「こういうジャンルしか聴かない!」という人こそ朝霧ジャムを体感してほしい。単にジャンルレスだけではない、朝霧ジャムならではの“緩さ”が加味された音空間は、「あれ?この音、普段聴かないけど何か良いぞ!?」という目からうろこ体験をすること請け合いだ。

初日のレインボー・ステージ、のっけの3連発に今年の朝霧ジャムの見せ場が訪れた。今年で25周年をむかえる浪速のファンクバンド、オーサカ=モノレールと“ソウル/ファンクのゴッドファーザー”ことジェイムズ・ブラウンのバックシンガーを30年強に渡り務めたディーバ、マーサ・ハイによるマーサ・ハイ・ウィズ・オーサカ=モノレールの激アツコラボステージを皮切りに、今もニューヨークの中心で歌を届け続ける、ベテランシンガー・ソング・ライターのガーランド・ジェフェリーズがじんわりと感動で会場を包み、箸休めの暇なくウィルコ・ジョンソンが激アツのギターフレーズの弾丸を飛ばしまくった。もうこれだけで満腹。大満足だ。

 同時間帯のムーンシャイン・ステージも負けてはいない。ソイル(・アンド・ピンプ・セッションズ)の秋田ゴールドマン、ヨシダダイキチ、濱元智行、そしてボアダムズ・OOIOOのヨシミオの4人で結成されたサイコバブが奔放なステージを繰り広げ、“YMO第4のメンバー” 松武秀樹によるロジック・システムがモーグ・シンセサイザーを操り、温故知新な音でオーディエンスを魅了。フジロックのルーキー・ステージ出演以降、出世街道まっしぐらなダンが会場をダンス・フロアにし、続く北アイルランドはベルファストからの刺客、バイセップの登場でダンが温めたフロアを更に加熱した。
 
日も暮れたレインボー・ステージでは、14年振りにこの地に戻ってきたエゴ・ラッピンが、中納良江節満載のエネルギーに満ち満ちたステージを披露し、裏のムーンシャイン・ステージでは、英国産ポスト・ダブステップの雄、マウント・キンビーがダークな質感から遊び心に満ちたものまで多様な音像でめくるめく音世界を創出した。マウント・キンビーからバトンを受け取ったデトロイト・テクノ第2世代を牽引したカール・クレイグが誰もが知るクラシックのフレーズをフックに駆使し、集ったビートマニアを唸らせ初日のムーンシャイン・ステージを締めくくった。レインボー・ステージ初日のトリは、スコットランドはグラスゴーのベルセバことベル・アンド・セバスチャンだ。行き交うバスを見て、「あのバスを見てよ!僕、バスが見るのが好きなんだよ」と無邪気にはしゃぐフロントマンのスチュアート・マードックや、オーディエンスをステージに上げて一緒に楽しそうに演奏する様はいつ観ても微笑ましく、彼らが醸成するポップ感と相まって、とても幸せな気分にさせられる。朝霧ジャム初日を一転の曇りもない完璧な空間に仕上げて、幕引きを行った。

初日の終演後の時間が、朝霧ジャムのお楽しみのひとつだ。今年は天候に恵まれ、数年ぶりにレインボー・ステージ前の焚き火も復活し、囲んで談笑している。何とも親密な時間だ。闇夜にくっきりと浮かび上がる富士山が、幻想的で本当に美しかった。

2日目は恒例のラジオ体操からスタート。快晴で今年は2日目のレインボー・ステージ1発目を飾る、DJみそしるとMCごはんとケロポンズによるスペシャルユニット、DJみそしるとMCごはんのケロポン定食も参加し、ゆっくりと朝霧アリーナ一帯が目を覚ます。ラジオ体操後ゆるりとライヴが開演し、キッズの笑顔や楽しむ姿満載の、この上なく平和な幕開けを演出した。続いて登場したのは、今年の朝霧ジャムのハイライトといっても過言ではない、チャランゴだ。昨今スペインからの独立問題で揺れる、カタルーニャ自治州出身のバンド。とにかく盛り上げ上手。総勢10名が一体となって、縦横無尽に前進で表現し尽す。発散される熱量がハンパないステージを繰り広げてくれた。3番手としてヨギー・ニュー・ウェーブスが顔を見せ、真夏のようなぎらつく太陽の中、いつも以上に熱を帯びたシティ・ポップでオーディエンスの体を揺らし続けた。

ムーンシャイン・ステージでは、三船雅也と中原鉄也によるロット・バルト・バロンがオープニングアクトとして登場。ベース、キーボード、バイオリン、トランペット、トロンボーン、計5名のサポートメンバーとともに、極上のサイケデリアを醸成した。続くは、思い出野郎Aチームが揃いのジャージに身を包んで登場した。ボーカルの高橋一はダミ声で歌詞の一部を朝霧仕様に変えて歌い、オーディエンスの笑いを誘い、お得意のファンキーなグルーヴにムーンシャイン・ステージはディスコさながらのダンスパーティー会場と化したのだ。

10年ぶりの登場となるウーアを見ようと大勢のオーディエンスが押しかけた、昼下がりのレインボー・ステージ。不思議な衣装とお茶目で飾り気一切なしの言動、そして魂の込められた圧倒的な歌に酔いしれた。同時間帯のムーンシャイン・ステージでは、ジズーと、チョンの2組のインストゥルメンタル・バンドが続けて登場。ベース、ギター、ピアノ、ドラムの4名で構成されたジズー。朝霧ジャム初登場にして、ジャズを基調に確かなミュージシャンシップとともに出力される力強い音の塊に、オーディエンスはただ身を任せ揺れていた。アメリカはサンディエゴ出身のマスロックバンド、チョン。こいつらは凄かった! 2本の超絶“バカテク”なギターが渦巻く圧巻のグルーヴに、居合わせた全員がただ息をのみ聴き入るしかなく、完全にノックアウトされたのだ。

ムーンシャイン・ステージでのチョンの怒涛の演奏が繰り広げられていた中、レインボー・ステージでは、長岡亮介(ヴォーカル/ギター)、川村俊秀(ドラム/コーラス)と三浦淳悟(ベース/コーラス)による3ピースバンドのペトロールズが、しっとりと心地よい時間を演出していた。寂しいが、いよいよ今年の朝霧ジャムも終盤にさしかかって来た。今をときめくチャンス・ザ・ラッパーと、同郷のシカゴシーンから飛び出した新世代ラッパーのノーネームが、ムーンシャイン・ステージに登場。ノーネームの、今ここをオーディエンスと分かち合い楽しむ姿に、みるみるうちに空間が笑顔で埋まっていった。そして、レインボー・ステージでは、昨年のタイコクラブで初来日にして、会場を盛り上げまくったマイク・ファビュラスによるプロジェクト、ロード・エコーが、メロウかつジャジーに心地よいバックビートを伴って、粋にオーディエンスを踊らせた。2日目のムーンシャイン・ステージのトリをつとめたのは、デトロイトに拠点に活躍するDJ / プロデューサーのセオ・パリッシュ。独自の音楽哲学に基づいた黒いグルーヴに、オーディエンスは徹頭徹尾ただただ身体を揺らし続けた。

完全に陽も落ち、テントを撤収した人も傾斜でまったり見ている人もいる中、今年の大トリのサチモスが満を持して登場! 2年振りの朝霧出演にしてヘッドライナーという飛ぶ鳥を落とす勢いの彼ら。今年の朝霧ジャムの締めくくりにしてフェス・シーズンの終わりを飾るに相応しいステージで、オーディエンスを圧倒したのだった。

これで、今年の朝霧ジャム特集は完了だ。姉妹サイトのフジロッカーズ・オルグでは、ふもとっぱらキャンパー&わんちゃん連れパーティの取材記事や、会場で出会ったインターナショナルな皆さん特集キッズランド・レポートに、子連れフェス体験記と音楽だけではない、朝霧ジャムの魅力をこれでもかと紹介している。今年の朝霧ジャムを振り返ってニヤニヤしていただきたい。では、来年また朝霧の地で!

朝霧JAM 2017 全ライブレポートはコチラより

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Text by Takafumi Miura
Photo by fujirockers.org