太陽肛門スパパーン、Only Love Hurts(a.k.a.面影ラッキーホール) | 東京 下北沢GARDEN | 2019.09.01

エロく楽しく時代と対峙

19時04分ころゲストであるO.L.H.(Only Love Hurts)のバンドメンバーが現れる。メンバーたちは演奏を始め、リードヴォーカルのアッキーの登場を待つ。ヴォーカルが遅れて登場するのはR&Bやソウルのバンドによくある様式だ。

フロアをほぼ埋めた人たちをかき分けてアッキーがステージに向かい、お客さんたちと歓声を上げながらステージに登る。RCサクセションの「よォーこそ」を歌うのだけど、そこはOLHだけあって単なるカヴァーでは終わらない。「よーこそ、ここへクッククック」と付け加える。このネタも50代前後でないとわからないんじゃないかと思うけど、笑いが起きているのでOKなんだろう(ちなみに桜田淳子「わたしの青い鳥」(1973年)が元ネタ)。

アッキーが「助け合ってるかーい」と忌野清志郎「愛し合ってるかーい」をオマージュして叫ぶ。

「今日は9月1日なんでちゃんと非常口がどこにあるか確かめてくださいね」などといい、事故で植物状態になった恋人を歌う「ベジタブルぶる~す」(タイトルや歌詞の冒頭のところから近藤真彦「スニーカーぶる~す」のパロディなんだろう)、続いて事故で下半身付随になった恋人にゲスなことを思い巡らす「私が車椅子になっても」(これは森高千里「私がオバさんになっても)と事故2部作を歌う。

10人以上のバンドによるサウンドは分厚く、ファンクでブルースでさまざまな音楽に対応できる。アッキーのヴォーカルが圧倒的で、声だけ聴けば非常にソウルフル。幼児虐待を歌う「ゴムまり」、ドメスティックバイオレンス男との暮らし「あたしゆうべHしないで寝ちゃってごめんね」の2曲連続のバラードが沁みる。EW&Fを思わせるファンク「パチンコやってる間に産まれて間もない娘を車の中で死なせた…夏」と、実際の事件から取材したものというよりは、あるかもしれないというイメージを言葉にして連ね、虚構の世界を歌う。虚構、仮想の世界なんだけど、演奏の迫力とアッキーの歌唱によってなぜか説得力を持ってしまうのだ。

萩原健一のカヴァーで「54日間、待ちぼうけ」。この曲はショーケンが逮捕され拘留された日数を歌ったものである。そして「俺のせいで甲子園に行けなかった」でお客さんたちもステージの振りに合わせて踊りまくり、ロッド・スチュワートの“Da Ya Think I’m Sexy?”ぽいイントロなどいろんなディスコソングの集合体であり、90年代の東京のクラブシーンを歌った「東京(じゃ)ナイトクラブ(は)」まで盛り上がりは続いた。OLHは11月3日に同じところで、単独ライヴがおこなれるので、そちらも期待しよう。

そして、メインアクトである太陽肛門スパパーン。この日は太陽肛門スパパーン30周年記念ライブであり、「xxは、もう、走れませんー2019東京オリンピック閉会式―」というタイトルがついたものだった。

バンドは通常のフロア入口から入場する。旧日本軍らしき帽子を被った男を先頭に、男はブリーフ一丁(エプロンかけたり、ストリングスの人たちは正装だったりする)、女は割烹着で現れる。トランペットの音が鳴るたびに進んでいくのだけど、総勢20名を越すメンバーなので行列が長い。「中尾勘二さんもブリーフじゃん……」という呟きが聞こえる。

大所帯のバンドなのでボーン隊の厚みがすごく、ジャズをベースにした日本のいつくかの大所帯バンドと同じく、演奏自体に備わる音の快感がある。ジャズ、歌謡曲、ファンク、ブルース、フォーク、ディスコ、そしてプログレッシブロックがごちゃまぜになった音楽の洪水が押し寄せてくる。そして、ブリーフ一丁の男たちが怪しく活躍し、彼らによる時代を風刺したコントがこれでもかというくらい披露される。

フロアに降りて、お客さんたちを巻き込んでのパフォーマンスも多い。生尻パーカッション(お客さんにも叩かせる)とか「viva USA」で一斉の振り付け(「YMCA」的な)など、客席も休ませない。途中、フォークユニット、ザ・ヒメジョオンのコーナーがあり、そこでリーダーの花咲政之輔が突然「かぐや姫占い」を始める。70年代に活動していた日本のフォークトリオであるかぐや姫のメンバー、南こうせつ、伊勢正三、山田パンダの誰が好きかを挙手させるのだけど、特にかぐや姫について考えたことないお客さんたちは戸惑っていた。なんとも脱力するMCである。あと「太陽肛門スパパーン」というバンド名はジョルジュ・バタイユの著書から取ったのではないという話をする。

ザ・ヒメジョオンとしての演奏は、花咲政之輔が弾き語り、美しいヴァイオリンとチェロが被さってきて、下ネタの歌詞が荘厳な感じで響いてしまうという「うなぎ屋」などを披露した。そして大所帯バンドに戻り、再び迫力あるサウンドを繰りだしてきた。この国に決別を告げる「哀愁グッバイ」、そして「オリンピック閉会式」と題した風刺する劇を経て、ラストの盛り上がりまでてんこ盛りの内容であった。フロアからアンコールを求められ、もう一度「viva USA」を演奏してフロアもお客さんたちが踊りまくり22時近くまで続いたのだった。

Text by Nobuyuki Ikeda
Photo by Yen-Ling Chen