eastern youth | 東京 日比谷野外音楽堂 | 2019.09.28

鳴り止まないアンコール、その先へ

2002年10月以来、17年ぶり。9月28日に日比谷野外音楽堂でeastern youthのワンマンライブが開催された。会場のキャパシティはバンドが主催する対バン・イベント「極東最前線」を開催している渋谷クラブクアトロの3倍を超え、全国ツアー最終日にライブが行われることが多い渋谷O-EASTの2倍以上。それでも指定席券は完売し、追加で発売された立見エリアも沢山の観客でごった返していた。「いざ野音」と全国からファンが集結したからこその大盛況。季節は初秋。晴れても雨でも、スペシャルな一夜となることはわかっていた。

15時30分すぎに始まったサウンドチェックでは、”ソンゲントジユウ”、”サンセットマン”、”道端”が演奏された。会場の外から耳を傾けて本番への期待を膨らませるのも、野音の醍醐味のひとつ。16時45分に開場すると、徐々に暮れていく空のグラデーションの下、観覧エリアは続々と埋まっていく。

開演は、偶然この日の東京の日没時間と同じ時刻だった。17時30分。森崎偏陸の”性解放宣言”の演説とともに、ステージにメンバー3人が登場する。曇天の日没時特有の青みがかった空気のなか、向かい合う3人。やわらかく鳴らされるフレーズに、この瞬間を待ちわびた観客からの拍手が呼応する。吉野寿(Gt/Vo)のギターから”ソンゲントジユウ”が始まると、一気に歓声が沸きあがった。吉野の一音一音に魂がこもった激烈なギターと、絞り出すほどに胸を打つ歌声。村岡ゆか(Ba)の演奏は丁寧かつ厚み豊かで、安定感に満ち溢れている。爆音の中心となる田森篤哉(Dr)の煌めきをまといつつどっしりと迫力あるドラムは、野音のスケール感に一層映えていた。吉野による曲中のモノローグからは、尋常ではない気迫が伝わってくる。

「ようこそお越しいただきました。eastern youthです。うだつの上がらぬまま、ずいぶん長いことバンド活動を続けてまいりましたが、かき集めるといるもんですね?」

客席がびっしり埋まった様子を見渡した、吉野の第一声。

「今日はたくさん曲をやろうと思っているので、長々話をしていると途中で電源落とされるらしいですよ。集団的熱狂とかいりませんからね。各々のスタイルで、最後までよろしくお願いします」

2曲目に早くも”夏の日の午後”。さらなる歓声が場内を揺らす。続けて”砂塵の彼方へ”。村岡のコーラスとともに、広がりのあるメロディーが一帯を開放感で満たしていく。サビのシンガロングに胸が熱くなった”故郷”が終わると、吉野へ次々と声援が飛んだ。

「目の前に扉があります。中に人の気配がある。中っていうか、扉の向こう側に。『もしもし、すいません。もしもし』応答がない。扉はある。気配がしている。もしもし。応答がない。招かれざる客なのか、用のない俺なのか」

「諦めませんよ、出会いを。用無しでも、諦めませんよ。諦めません」

言い聞かせるように繰り返して”扉”。すっかり日も暮れて、輝くステージが夕闇に浮かんでいる。”いずこへ”は大歓声で迎えられ、”雨曝しなら濡れるがいいさ”は、大サビの吉野の渾身のパフォーマンスに圧倒される。

「日が暮れるのが早くなりましたね」と語り始める吉野。夏が短い北海道生まれのため、若い頃は夏が好きだったが、「だけどもうたくさん。もう許してほしい。鎮まってほしい」という様子に笑いが起こる。

「夏が来たって面白いこと何にもありませんよ。なんにも面白くない、夏。ファック夏。ひとりぼっちですよ、夏が来たって。海なんか行きませんよ、俺は。行ったって、海の家でずっと飲んでるからねー。肴は夕陽ですよ。夕陽で一杯」

9月も終わるのに日中の気温は高いが、曲間に聞こえてくるのは秋の始まりを告げる虫の声。夏と秋の境目に聴く”サンセットマン”は格別だった。Aメロで泣いているように震える吉野の歌声。歌詞が聴く者の心に寄り添っていく。”踵鳴る”では、疾走感とともに凄まじいエネルギーが放たれる。感極まった男性客から、雄叫びが上がる。

「明らかに酔っ払ってる。どうしてみんな酔っ払ったら、そんなに雄叫びをあげたいの?」と吉野がツッコミを入れると、客席から返ってくる雄叫びのボリュームが上がる。「これだけの人数が酔っ払ってるって考えていいですか。居酒屋ですからね、隣り同士仲良くやってくださいよ」。集団的熱狂を拒否するかわりに、街の底にある居酒屋のような懐の深さがeastern youthのライブにはある。

“スローモーション”を終えて「やっと半分です」と言いながら、吉野はギターでアリランのメロディーを奏で、”月影”。3人の発する音塊が渾然としつつ、刺激的に冴え渡る。ここから”青すぎる空”、”道端”、”裸足で行かざるを得ない”といった、20年以上前に作られた名曲が立て続けに演奏された。

ライブの模様は川口潤監督によってDVD化され、来年3月4日に発売される。吉野は「今日ビデオみたいなの録ってますけど、きっと一切観ません。自分の姿見たって、なんかさ……」と映像を直視できない気持ちを語る。

「こらぁもうだめだ、俺はもう生きていけない。ウワーだめだ! と思って、バシバシ身体を叩くんですよ。自分で自分の体を傷つけるのは、自分を滅ぼすためにやるのかね、なんて若い頃は思ってましたけど。あれ、そうじゃないんだね。自分が死んでないんだってのを確認するためにやるんだね。『痛え、痛え、痛えよ!』って。この歳になってやっとわかってきましたよ。バカだなあ、俺。と思ってます。バカでもなんでも生きていくしかねえもんね。ダメだと思ったら、やり直すしかねえよ。何回も、何回も、3回も10回も、100回も」

“矯正視力〇・六”以降、一曲ずつMCを交えて進む。”ナニクソ節”ではイントロのギターを刻みながら「私、本当になんの役にも立たない人間なんです」と不甲斐なさを詫びる。当日、日比谷公園で開催されていた「日韓交流おまつり」に触れ、「おんなじなんだよ。酔っ払ってフラフラ帰るのはどこの国の人だってさ。切ねえのも一緒、泣きてえのも一緒だよ。話しましょうよ。ふるさとですよ、ここの街が。街がふるさとですよ」と語って始まった”街はふるさと”。「心のなかで、あのペラッペラの鐘の音が鳴り止まんのです」と札幌の時計台の心象風景を語った”時計台の鐘”。夜の空気との化学反応で、村岡の歌うパートも深みを増して沁みてくる。

立ち上がるのは、生きている実感への渇望。哀しみを受け入れて乗り越える底力。弛まぬ反骨精神。個として独り立つ覚悟と、他者への寛容な眼差し。吉野流のヒューマニズムとも言える姿勢が、古い曲から最新曲まで貫き通され、表現の核となっている。

村岡加入直後から再び演奏されるようになった”たとえばぼくが死んだら”を終えると、吉野は「タモ!」と田森に呼びかけてMCを振った。

「こんばんは、17年ぶりの日比谷野音です。前回の思い出は全然ありません。今年の大イベント、野音もなんとか無事に終了できそうなんで、この後もまた年末まで何本かライブありますんで、またみなさん来てください」

昨年のツアー以来となる田森のMCに、観客も喜んでいる。

「久しぶりにこんなにたくさん曲をやったので、もうちょっと限界にきています。あともう少しなんで、みなさんよろしくお願いいたします。今日は本当にありがとうございました」

大きな拍手を受けながら、淡々と語る田森。吉野が「そうですよ、これからも媚びません」と続けて”荒野に針路を取れ”。最高のシチュエーションで聴く”夜明けの歌”を心に刻んで、本編ラストは”街の底”。吉野が間奏でギターを弾きながら観客のほうへ近づいていく。一歩ごとに歓声も大きくなり、場内は最高潮の熱気に包まれた。

アンコールでは、いつもどおり村岡が語る。

「今日はお越しいただきありがとうございます。雨が降らなくてよかったです。こんなにたくさんの人の前で喋ることがないので、何を話していいのかわからないんですけど、本当にありがとうございました」

あたたかな拍手が会場を満たすが、吉野は村岡へもっと喋るように促す。

「eastern youthに入れていただいて4年経ったんですけど、入ったばっかりの時はどうなるんじゃろうなと思ってたんですけど、こういうかたちでバンドが続けられてよかったです。ありがとうございます。これからもがんばります」

2015年。前任のベーシストの二宮友和が脱退する際のツアーに足を運んだ人たちも、これからどうなるのかと思っていたはずだ。17年前、村岡は観客として客席にいて、二宮はこの日は客席でライブを観ていた。終演後、二宮に話を聞くと「村岡さんが担う部分が前より大きくなって、今のeastern youthならではのうねりがあった」とライブの感想を聞かせてくれた。二宮は現在、PANICSMILEuIIInでベーシストとして活躍している。二宮とeastern youthがそれぞれの道を歩みはじめて流れた4年の歳月と、村岡のバンドへの惜しみない献身と尽力を思わずにいられない。

「村岡さんのおかげで拾った命なんですよ」と吉野が続ける。

「もとより有名になろうとか、なにか一旗あげてやろうと思って札幌から出てきたわけじゃないんですよ。ただ東京の方が仕事がある、建築現場数が多い。それで、なんか面白いことあるかなと思って。だから、みなさんを盛り上げて楽しませようとか、そういう気持ちをあまり持たないで、ただただアホみたいにわめき散らして今日まできてしまったんですよ。毎回毎回ライブをやるたびに、もうここまでだろう、もうダメだろう、もう次はないだろうと思って今日もそんな気持ちでやってますけど、それにしたって日本全国、底からさらえばこのくらいの人数はいるんだなと思いましたね。みなさん、ひとりじゃないですよ」

3連符のリフが鳴らされ、前回の野音でもアンコール1曲目に演奏された”歌は夜空に消えてゆく”が、17年前の記憶と現在をつないでいく。観客の拍手を受けながら吉野が発した「みなさん、ひとりじゃないですよ」は、安易なセリフではない。今日を限りと言わんばかりの演奏を地道に重ねてきたバンドと、3000人の観客一人ひとりとの、出会いの尊さとかけがえのない信頼関係を表していた。間もなくこの時間は終わって、各々は日々の生活へ還っていく。ステージと客席一帯が青色に沈み、吉野がスポットライトに照らされる印象的なライティングも相まって、忘れがたい場面となった。

二度目のアンコール。吉野がカウントすれば客席からも盛大なコールが上がって、”DON QUIJOTE”。本編22曲とダブルアンコールで、合計24曲。最後まで持てる力を全て込め、バンド史上最高曲数のライブをやりきった。「今日は本当にありがとうございました! また会う日まで! さよなら!」。締めの挨拶に、満場の大喝采が沸き起こる。吉野はステージ中央で両手を掲げて応えていた。

3人がステージを降りたあとも、鳴り止まない拍手。三度目のアンコールを望む歓声は、次第にeastern youthを呼ぶコールへと変わっていった。ステージセットの撤収作業が始まり、SEの”上を向いて歩こう”も鳴り終わった。観客へ退場を促すアナウンスが繰り返されてもおかまいなしで、沢山の人たちが客席にとどまり、バンドを呼び続けていた。同日、12月8日(日)に渋谷クラブクアトロで行われる年末恒例の「極東最前線」の開催が発表された。野音で演奏されなかった代表曲や、隠れた名曲もまだまだ沢山ある。昨年の結成30周年と、今年の野音ライブという大きなトピックを超えて、eastern youthはふたたび新たな一歩を踏み出していく。

<SET LIST>
01.ソンゲントジユウ
02.夏の日の午後
03.砂塵の彼方へ
04.故郷
05.扉
06.いずこへ
07.雨曝しなら濡れるがいいさ
08.サンセットマン
09.踵鳴る
10.スローモーション
11.月影
12.青すぎる空
13.道端
14.裸足で行かざるを得ない
15.矯正視力〇・六
16.ナニクソ節
17.街はふるさと
18.時計台の鐘
19.たとえばぼくが死んだら
20.荒野に針路を取れ
21.夜明けの歌
22.街の底

E1.歌は夜空に消えてゆく

E2.DON QUIJOTE

<極東最前線 〜にゅーでいらいじんぐ2019〜 >

2019年 12月8日(日) 渋谷クラブクアトロ
GUEST: NITRODAY
開場 17:00 / 開演 18:00
前売:¥4,000円(前売/ドリンク代別)
詳細:https://smash-jpn.com/live/?id=3261

オフィシャル先行予約 ※WEB抽選制
受付期間: 10/3(木)11:00〜10/6(日)23:59
https://w.pia.jp/t/easternyouth-fareast/

一般発売:10/19(土)
チケットぴあ(P:163-986)/ ローソンチケット(L:73487)/
e+(Pre:10/12-14・QUATTRO Web:10/12-14)/ 岩盤(ganban.net)/ 会場

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Text by Keiko Hirakawa
Photo by Keiko Hirakawa