ポップな学園に入学だ
アンコールの演奏が終わり、アン・ルイスの「グッド・バイ・マイ・ラブ」が流れる。あまりに若々しくてかわいい声なんでアン・ルイスが歌っているとは思わなかった。ライヴ後の喧騒の中でこの歌が流れることが、この日の50回転ズのライヴにふさわしいと思えた。
甘酸っぱく、切なく、ノスタルジック。バンドはそれらに疾走感を加えて駆け抜けた。ライヴの中盤に披露された新しいアルバム『ザ50回転ズ』からの曲は、ダニーが「学園モノ」と称したように、彼らでさえすでに失いつつある「若さ」を甘酸っぱく再現、もしくは仮想した世界を作ったのだった。
こうした世界はもともと50回転ズにあるさまざまな要素のうちのひとつで、彼らが敬愛するラモーンズもポップさをこよなく愛するバンドだったのだ。そうしたセンスをきちんと受け継いでいるのだ。この日披露された曲たちは、ポップセンスがいい具合に熟成されたと感じる。
そうした「11時55分」(新曲)「純情学園一年生」(新曲)と「Please Don’t Say」「あの日のロックンロール」の既発曲の組み合わせは絶妙で、「涙のスターダスト・トレイン」から加速した終盤の定番「YOUNGERS ON THE ROAD」「MONEY! MONEY!」「おさらばブギウギ」の盛り上がりにつなげていったのは見事である。
話はライヴのスタート時点に戻る。程よく埋まった渋谷クラブクアトロは、彼らと共に年をとった人、その人たちが連れてきた子どもたち、若くしてファンになった人など年齢の幅も広く、曲によっては最前列でモッシュやダイブも起きたのだった。ステージには『グッバイ・セブンティーン・ツアー」に因んで「17」という数字のフィギュアがアンプの上に置かれている。ステージ背後の50回転ズのロゴは光ったり消えたりする。
いつものようにドクター・フィールグッドの「ライオット・イン・セル・ブロック・ナンバー9」で入場し、まずは「Vinyl Change The World」でライヴが始まる。この曲もノスタルジックに走りだすものだ。続く「ハンバーガー・ヒル」は新曲で哀愁を含んだソリッドなロックナンバー。
ここまできてようやく自己紹介の曲、「50回転ズのテーマ」。間髪入れずに「1976」と続く。リズムに乗って今回のツアーはアルバム発売のツアーであること、9年ぶりのフルアルバムdあること、それまでの歩みをコミカルに話す。また50回転ズのヒットパレード(ん?)もやると宣言。新旧取り混ぜたステージとなった。
すでにベテランといってもいい年齢になり、ライヴの場で鍛えられ、お客さんとの呼吸も抜群である。歌詞に「渋谷」と入れてフロアから歓声を上げさせる。「Killer」のエンディングでは長くギターソロをやってから、「これは俺たちワンマンライヴって聞いてたんですけど? このあとのバンドが楽しみですか? このあとに誰もでませんよ! 体力温存してる場合か!」とダニーは煽る。
新曲「新世界ブルース」は「天王寺エレジー」や「アタイが悪いのサ」の系譜に連なる演歌テイストが沁みる。「デヴィッド・ボウイをきどって」はドリー作のポップで軽快な曲である。ボウイはボウイでもBOOWYを思わせるようなポップセンスとスピード感あるロックの爽快さが両立している。
定番の「Mr.1234 Man」「サンダーボーイ」「グローリー・グローリー」でしっかり盛り上げて、中盤から終盤につなげていったのだ。
アンコールは、新曲「あの日の空から」と定番「ロックンロール・マジック」。ロックンロールの夢の余韻の中、アン・ルイスの曲がフルコーラスで流れた後の話は、まだツアー中なのでとっておこう。いえることは、まだ帰るなということだ。
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