KING BROTHERS | 愛知 名古屋 HUCK FINN | 2020.06.28

俺たちは自由だ

愛知県の名古屋ハックフィンは、30年以上も続く歴史ある老舗ライブハウスだ。新型コロナによる緊急事態宣言が解除され、6月中旬から営業を再開していた。その日、6月28日(日)は人数を制限した上でpowerfool(ライブハウス支援イベントチーム)とThe Modern Lovers(カレー&バー店)主催のイベントが開催された。チケット売上の利益は全てライブハウス支援サイト「SAVE THE LIVEHOUSE」(ライブハウス緊急支援募金)に寄付されるという。入り口では質問票への記入や検温が行われ、フェースガードの貸し出しも行なっていた。来場者は全員マスクを装着している。フロアに足を踏み入れると、ステージから2メートルの場所にはラインが印されており、観客がステージから一定の距離を保てるような措置も取られていた。これら全て、コロナ禍以前のライブハウスでは見かけない光景だった。

万全の対策が取られた中、事前発表・事後報告無し完全シークレットとしてキングブラザーズが出演した。ライブのスマホ撮影もSNSへの書き込みも禁止というアナウンスがライブ前になされた(この記事はライブハウス、主催者、キングブラザーズの承諾のもと掲載している)。

マスクを被った3人がステージに登場する。1曲目に”魂を売り飛ばせ!”から始めるバンドの意気込みは凄まじかった。「ライブハウスでめちゃくちゃになろう」ケイゾウ(Vo/G)の声を合図に歓声が湧き上がる。マーヤ(G/スクリーム)は笑顔を浮かべては繰り返しシャウトする。10代の頃からハックフィンに出演している名古屋出身のゾニー(Dr)は激情を抑えずビートにぶつけていく。ケイゾウは「今日は全員が狂ったように踊りまくって、ロックンロールで免疫を手に入れて帰りますから」「ロックンロールの鼓動が今日もこの場所で燃え盛っているんでしょ?」と次々と煽っていった。1曲1曲をあっさり終わらせたくない思いが、セッションのように曲をどんどん広げていく。

「俺たちは自由だ」「何もかも自由だ」とケイゾウは歌の間に差し込み、マーヤはステージから飛び降り「逃げろー」と言いつつステージ前で転がりながらギターを弾く。一挙手一投足に歓声が沸き起こり、バンドはとてつもないパワーを放出していく。

ライブは破壊力と推進力、あらゆるエネルギーがバンドからフロアへ、観客からステージへ行き来していた。日常の中で見る配信ライブと、目の前でバンドが鳴らしているライブは似て非なるものだった。”69″でぶっ放されるゾニーのビートにも、交互に追いかけ合う2人のギターにも、はやる気持ちが溢れていたし、重ねるコーラスに乗る3人の共通の思いは観客に汲み取られ、歓声に変換されていった。100の配信を見るより1のライブに勝るのものはない。それは火を見るよりも明らかだった。それは、”GET AWAY”で歌い上げた後にマーヤが「ライブハウスのライブはいいなぁ!」と笑いながら放った言葉に、集約されていると思う。

「皆さん溜まりに溜まりまくってるんでしょ? 名古屋のロックンロールめちゃめちゃ熱いでしょ? クールダウンに汗撒き散らして家に帰ったらしっかりうがいしてください」ケイゾウが声を張り上げて最後の曲”ルル”を叫ぶと、フロアからも声にならない声がいくつも聞こえた。

イベント後、SNSでこの日のライブについての書き込みを探したが、結局見付けることは出来なかった。それはどういうことか。この日、この場所で見て感じた思い、ライブハウスを守りたいという思いの証なのではないだろうか。誰に咎められることなく自由にライブハウスでライブを楽しめる日々の再来を願わずにはいられない。

今後のライブ予定詳細はキングブラザーズ オフィシャルサイトにてご確認ください。

▼KING BROTHERS | 記事一覧
SMASHING MAG アーカイブス

Text by Tomoko Okabe
Photo by Tomoko Okabe