toe, H ZETTRIO | 東京 恵比寿LIQUIDROOM | 2020.12.2

出したかった音、浴びたかった音

【“SMASH go round”とは】
数多くのライブコンサートを企画してきたSMASHがセレクトしたアーティストをピックアップ。ピックアップされるアーティストはライブにおいて更なる実力を発揮するアクトをチョイスし、生演奏の醍醐味を多角的に提供するコンテンツとして開始。

https://smash-jpn.com/live/?id=3443
 
コロナウィルスの感染拡大が続いている状況で、どのように音楽と向き合うのかという試みである“SMASH go round”。今回はポストロックのtoeとピアノトリオであるH ZETTRIOの2つのバンドが登場する。

入場時は最近のライヴではすっかりお馴染みになった検温、web問診票に登録してからフロアへ。フロアはテープで区画が作られてお互いの距離を保つ。もう当たり前の光景だけど、お客さんたちはみなマスク着用で、始まる前に注意事項がアナウンスされた。終了時は規制退場が告げられる。

チケットはソールドアウトだった。このような状況なので以前のような密集したフロアにはできないけど、「人が集まってライヴの始まりを心待ちにしていてる」という雰囲気は感じることができた。

20時を過ぎたころ、まずはtoeが登場する。山嵜廣和がひとりアコースティックギターを持ってステージへ。開口一番「あけましておめでとうございます」。フロアは笑いに包まれたけど、同時に切実な思いである。

なかなか人前で演奏する機会がなかった2020年、toeは夏に野外の小さなフェスでは演っていたけど、ライヴハウスでこうした形で演奏するのは久しぶりなわけで、思わずでた「あけましておめでとうございます」なのだろう。そして、キーボードに中村圭作を含む他のメンバーも現れてまずは「グッドバイ」から始まった。出したかった音。お客さんがいてその前で思いっきり楽器を鳴らすことがどれほど待たれていたのか。一音、一音に熱が込められていた。

楽器が織りなす繊細な響きを繰り返し重ねて豪快にトップまで引き上げるとフロアも呼応する。バンドは出したかったし、フロアは浴びたかった音である。その思いの交錯がライヴという場であり、この日リキッドルームで起きたのだ。

柏倉隆史によるドラムは端正に刻み、変拍子にも対応したテクニカルなものだけど、演奏が熱を帯びてくると激しく会場全体をアゲていく。メンバー同士のスリリングな絡みが目の前で繰り広げられるライヴならではの楽しみだ。インストゥルメンタルの印象が強いけど、「レイテストナンバー」やラストの“F_A_R”のヴォーカル曲も味わい深いものだった。

<set list>
1.グッドバイ
2.New Sentimentarity
3.Etude of Solitude
4.I DANCE ALONE
5.レイテストナンバー
6.Because I hear you
7.エソテリック
8.F_A_R

30分くらいの転換のあと、H ZETTRIOが登場する。ライヴハウスは久しぶりとのこと。H ZETT Mの疾走するピアノ、キレ味あるH ZETT NIREのベース、H ZETT KOUのハイスピードでスウィングするドラムが合わさって、フロアを引っ張り上げる。「炎のコンテクスト」から始まったライヴは、明るく楽しく駆け巡るエンターテイメントが溢れたものだった。

「距離」でスローダウンして落ち着かせ、“Workout”、「祭りじゃ」で最高潮にフロアを揺らせた。コロナウィルスで鬱屈した気分を吹き飛ばすような演奏を繰り広げる。もちろん大声をだしたり、隣の人とモッシュしたりということはできない不自由さはあるけど、それでもこうした音楽が目の前にあることはどれだけ幸せなことか。

「情動」でまた落ち着かせ、“Middle”で軽快に余韻を作って締めくくる。アンコールを求める拍手が起こり、再び現れたバンドは“Silent snow”を披露。12月1日に配信されたばかりの曲。これからの季節にぴったりなムードで終えたのだった。

リキッドルームをでたのは22時を過ぎていた。少し遅いけれども、仕事終わってからでもいける時間帯なのがよい。もちろん、ネット配信でこのライヴを観る人たちも家に帰ってからリアルタイムで観られるのでよいのではないだろうか。フロアで大きな音を気兼ねなく体験するのもよいし、さまざまな事情で現地にいくことができない人にも配信という形でその空気を共有することができるので、こうした試みは、これからしばらくはスタンダードな音楽のあり方として定着するのではないだろうか。

<set list>
1.炎のコンテクスト
2.負けるなチャンプ
3.TOKYO
4.距離
5.Workout
6.祭りじゃ
7.情動
8.Middle

encore
Silent snow

Text by Nobuyuki Ikeda
Photo by SARU(SARUYA AYUMI)