JET | 東京 新木場Studio Coast | 2018.03.07

他を寄せ付けないロックンロールの力

JET、実に8年2ヶ月ぶりの東京単独公演が行われる会場は新木場Studio Coast。この日の東京は、前日の春のような暖かさから一転、真冬のように寒い一日だった。しかも、会場は海沿いということもあり、海風で一掃寒さが身に染みるのだが、踊る気満々のファンがTシャツ、革ジャン、薄手パーカー・・・などかなり”気合の入った”格好で開場を待っていた。開場前からすでに”ロックンロール”だ。

この日のオープニングアクト、ドミコのパフォーマンスが終わり、20時ほぼきっかりに、JETの地元オーストラリアのサイケデリック・ロックバンドThe Masters Apprenticesの”Rio de Camero”をBGMに、クリス・セスター(Dr./Vo.)、マーク・ウィルソン(B.)、キャメロン・マンシー(Gt./Vo.)、サポートのキーボード、ニック・セスター(Vo./Gt.)の順でステージに登場した。

クリスの「トキヨー!」の大号令とともに、”Get What You Need”でライブはスタートした。髭をがっつり蓄えたニックのヴォーカルの調子も良さそうで、曲のピッチは音源よりも若干ゆったりめだが、粘っこさと重厚感が増していることが楽曲に厚みを持たせていた。間奏のブレイク中、抑えられない衝動が生んだオーディエンスのハンズクラップからのギターソロに「これ、きたぞ!」と言わんばかりに大盛り上がりを見せる。いきなりアクセル全開のステージは、続く”She’s a Genius”でニックの煽りに対してオーディエンスの「おおおおっおおっおっおー♪」のフレーズのレスポンス。その勢いはそのままに、”Roll Over DJ”へなだれ込み、盛り上がりをさらに加速させる。

ライブの中盤は、”Lazy Gun”、”Black Hearts (On Fire)”、”Skin And Bones”、3枚のアルバムのミドル・テンポのロックチューンを立て続けに投下。さらには、日本では初公開(前日名古屋公演のを除く)の”Shiny Magazine”から、”Seventeen”、”Walk”と続き、中盤のクライマックスは”Look what you’ve Done”。ピアノ伴奏のみのAメロのヴォーカルパート時点でオーディエンスからシンガロングが発生していた。ファーストからのこの曲が世に出てからもう15年経つが、ファンのこの曲に対する思いがそのシンガロングから感じられた。

そんなほんの少しの感傷に浸っていると、その状況を打ち破るが如くビッグ・アンセムがぶち込まれた。タンバリン?ベースライン?そう”Are You Gonna Be My Girl”だ。狂ったように暴れるモッシュピット周辺のオーディエンス。ニックのシャウトも絶好調で、その盛り上がりをさらに加速させる。そしてブレイクからのニックの「I said, are you gonna be my girl?」のセリフ、そしてブレイク大解放からの大シャウト&大モッシュと、この曲の持つ最高の緩急が、最高の盛り上がりを作り上げていた。

アンコールでは、”Shine On”をアコースティック・ギター一本で弾き語り、曲の途中からは天井に吊るされているミラーボールからの光が会場内全体を星を描くように照らし出し、ラストのフレーズ「And I will shine on for everyone(すべての人々のために光を注ぐよ)」と重なりつつも感動的な空間を作り上げていた。曲が終わると、そこにクリスが加わり兄弟での弾き語り”Move On”。そこからラストへ怒涛の畳み掛けは”Last Chance”からの”Cold Hard Bitch”と、”ジェットンロール”節全開でフィニッシュを迎えた。

ライブを終えて、しばらくは会場内外に余韻に浸るファンの姿が多く見受けられた。思いはそれぞれだと思うが、きっと「ロックンロールってやっぱりいいよなぁ」という思いは同じだろうと勝手に想像している。

2018年現在。今の音楽シーンに於いて、ロックやロックンロールは絶対に必要な存在ではなくなってしまった。それは、2010年代に入ってからのEDMブームの到来、そして、あらゆるジャンルのクロスオーバーが当たり前になっていったことが、要因のうちの二つであることは間違い無いだろう。そんな中、約8年2ヶ月のぶりの東京単独公演で感じたのは「”ロックンロール”を”ロックンロール”として受け入れることができる幸せ」だった。他の音楽ジャンルのキャラクターに全く引っ張られることなく、ロックンロールに没頭できたのは、彼らのロックンロールに対する真摯な姿勢と変わらぬスタンスに、僕らが昔と変わらず影響を受けているから。それは、懐古的な感情から生じたものでは決してなくて、今だからこそ響く「”ロックンロール”の力」が感じられたことによるものだと確信している。

<SETLIST>
Get What You Need
She’s a Genius
Rollover D.J.
Lazy Gun
Black Hearts (On Fire)
Skin and Bones
Shiny Magazine
Seventeen
Walk
Look What You’ve Done
Kings Horses
Come Around Again
Bring It On Back
Are You Gonna Be My Girl
Put Your Money Where Your Mouth Is
Take It or Leave It
Get Me Outta Here
Rip It Up
–Encore–
Shine On
Move On
Last Chance
Cold Hard Bitch

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Text by Shuhei Wakabayashi
Photo by Keiko Hirakawa