【 rockin’on sonic 総括】2025年の洋楽初め

効率・快適を追求した会場で聴く音楽は

正月休みに幕張へ

ロッキンオン・ソニックは、ロック・イン・ジャパンやカウントダウン・ジャパンを手がけるロッキング・オンが新しく手がけた洋楽の屋内型大型イベントである。1月4日と5日という多くの人たちは正月休みである期間に、カウントダウン・ジャパンの会場を流用しておこなわれた。

自分は1月4日のみ参加。当日は家をゆっくりでたので会場に着いたのが13時30分ころだった。この頃には入場にもさほど時間がかからずすんなり幕張メッセの中へ。すでにLUVCATの演奏が始まっていた。入場してまず目に入ったのは、たくさんの長テーブルと長椅子のほとんどが空いていることだ。

快適さを追求した会場

ステージはカウントダウン・ジャパンの2番目(ギャラクシーステージ)と3番目(コスモステージ)に大きいステージが交互に使われてステージ間の距離もあまりなくすぐ移動できるし、時間の被りもなく全てのアクトが観られるという触れ込みだった。しかし、全てのアクトを最初から観るとなると、ライヴと移動で時間が埋まり、トイレや食事や休憩ができずクオリティ・オブ・ライフが低下してしまうし、疲労をなるべく翌日に残したくない人は自分で休み時間を作らないといけない。飲食スペースだとステージはみえないけど音は聴こえるので、着いてすぐのLUVCATとWEDNESDAY、そしてST.VINCENTの前半は食事休憩などの時間に当てることにした。

多くの人はライヴを観ることが中心のようなので、飲食店にはあまり行列ができてなかった。各店舗には1食あたりの提供時間が掲示されていて、並んでいる人がどれくらい待つのかわかるようになっていたけど、そもそもあまり並んでない。トイレも幕張メッセにある既存のトイレ以外にも建物の外に仮設トイレが並んでいたので、長時間待つことはない。冬の幕張メッセなのでコンクリートから冷気が漂うかなと思ったけど、温度もちょうどよくライヴを観ているときはコートを脱いでいた。

ステージからステージへの導線や費やす時間の短さ、飲食やトイレの待ち時間の少なさは、ロックイン・ジャパンやカウントダウン・ジャパンなど大規模なイベントでいかにお客さんを快適に過ごさせるかを追求したノウハウが遺憾なく発揮されていた。そもそもカウントダウン・ジャパンと比べてお客さんが少ないというのが大きな要因でもあるけど。

マナーのよい客層

来ている人たちも、30代後半〜50代が中心で、長テーブルで食事をしていると、周りで聞こえる会話は子どもの塾の話だったりする。自分も会場で20数年ぶりに会った友人がいたけど、話す内容は最近の体調のことだった。男女比は半々くらいだし、子ども連れ一家もいた。外国人も欧米系や中華系の人もけっこういた。今や日本でおこなわれる洋楽アーティストのライヴで中国語が聞こえるのはもはや当たり前というか。

この手の会場ではしゃぐ人や、暴れる人や、酔い潰れる人や、音楽そっちのけで自撮りしたりするような人もいない。ちゃんと手拍子をして、コール&レスポンスに応え、ステージから合唱が促されればちゃんと歌う、というように真面目に音楽を聴きにくる感じの人が多かった。そのためマナーがよくてお客さんの行動で不快になることはなかった。

ステージはカウントダウン・ジャパンの2番目に大きいギャラクシーステージがキャパシティ2万人くらい、3番目のコスモステージが8000人くらいで、少なくとも初日は広さも十分、インフルエンザが流行しているので気をつける人は、後ろの方であればそれなりに他人と距離が取れて、前にいこうと思えば、いけなくもないくらいの混み具合。どちらのステージも両脇に大きなスクリーンがあるためアーティストの様子もよくわかる親切設計。

ここまで書いたように、お客さんが過ごしやすいように環境が整えられていて客層もよい。ロッキンオンの手がけるイベントにありがちな注意書きの多さ、注意を促す係員の多さを気にしなければ百点満点である。

印象に残ったステージ

このような環境でライヴも素晴らしくて楽しめた。先に書いたようにステージを観ていない時間もあったけど、音は聴こえるので「WEDNESDAYは狂ってるな〜」とか椅子に座りながら思っていた。

JIMMY EAT WORLDは年月を経ても瑞々しいメロディとコーラスをエッジのあるギターサウンドに乗せて疾走してギャラクシーステージを盛り上げていった。

ST.VINCENTは、先に書いたように途中から観たけど、ロック寄りになったマドンナみたいでサウンドが尖っていて刺激的だった。ただ、時間が押していたのかPULPの時間が近づくとフロアの後ろの方はどんどん人が抜けていき、自分も最後の1曲を切り上げてPULPが演奏するステージに向かっていった。「全部が観られる」のが売りではあったけど、こういうことが起きてしまう。仕方ない。

そしてこの日、多くの人たちの目当てはPULPだったと思われる。ギャラクシーステージはかなり埋まっていた。バンドが登場する前にはスクリーンに和訳付きのメッセージを映しだし、27年ぶりの来日公演の期待を煽りまくる。“I Spy”から始まったPULPのステージはヴォーカルのジャーヴィス・コッカーがクネクネと踊り、歌うというフロアの人たちが待ち望んだものだった。ジャーヴィスも素晴らしかったけど、キーボードのキャンディダ・ドイルのキャラクターにもヤられた。眼鏡を下げ気味にかけた姿は『ブリティッシュ・ベイク・オフ』や『ソーイング・ビー』のおばあちゃん枠の出演者みたいで、ほっこりと笑みがこぼれるような雰囲気を醸しだしていた。

“Disco 2000”や“Do You Remember the First Time?”や“Babies”などの人気曲を演奏して、アンコールにはみんなが待っていた“Common People”で大歓声で大合唱だった。どれほどまでにPULPが求められていたのかを実感できたのであった。

複数のよいライヴを観られたという満足度は高かった。効率よくアーティストを観ることができて、長い時間待たされるというストレスもなく素晴らしいイベントだった。冬におこなわれる大型のイベントは、ブリティッシュ・アンセムズ、エレクトラグライド、マジック・ロック・アウトと定着したとはいえずに今に至るものが多い。なんとかロッキンオン・ソニックは今後も続いて欲しいけど。

Text by Nobuyuki Ikeda
Photo by Keiko Hirakawa