映画『ヒプノシス レコードジャケットの美学』は、バンドのドキュメンタリー映画と同じだ

数々のアルバムジャケットをデザインしたアート集団が輝いた1970年代

ヒプノシスは主に70年代、ピンク・フロイドやレッド・ツェッペリンのアルバムジャケットを手掛けたデザイン・アートグループである。U2やビョークなどで有名なロック・フォトグラファーであるアントン・コービンが監督を務めてヒプノシスのドキュメンタリー映画が作られた。

2013年に亡くなっているストーム・ソガーソン(トガーソン)は過去のインタビュー映像からで、基本的にはオーブリー・パウエルのインタビューやヒプノシスが関わったミュージシャンたちが当時を振り返り証言する。同時期に活躍したロジャー・ディーン、後に活躍したピーター・サヴィルの同業者も登場する。

ストームとオーブリーが若いころに出会い、他の友人たちとLSDやマリファナを一緒にやった思い出から始まり、ピンク・フロイドやレッド・ツェッペリン、ポール・マッカートニー、10cc、ピーター・ゲイブリエル(ガブリエル )……と本人もでてきて有名なアルバムジャケットを回想していく。撮影時のエピソードやボツになったアイデアを別のアーティストに転用したという身も蓋もない話もでてくる。ストームは気難しいとかいろんな悪評もあるけど、アイデアが豊富でプレゼンの天才であり、ストームのアイデアを形にするためにオーブリーが奔走する。その関係がジブリの宮崎駿と鈴木敏夫とかにみえる。

有名なピンク・フロイドの牛やプリズムや燃える男(本当に燃えていたようだ)、発電所の上を飛ぶ豚、レッド・ツェッペリンの『プレゼンス』の変な黒い物体、ウイングス(ポール・マッカートニー)の『グレイテスト・ヒッツ』の破天荒なエピソードや10ccの『オリジナル・サウンドトラック』の描き込みの細やかさなどのエピソードがたくさんなので、それらのアルバムが好きな人は楽しめる。そして80年代、パンクやニューウェーブの台頭で手掛けていたアーティストが古くなり、勢いを失っていく。ミュージックビデオ製作にも乗りだすけど上手くいかずに解散となる。

若き日にスタートして破天荒なエピソードも込みでサクセスストーリーを歩み頂点を極めるけど、時流に乗れずに人気は下降して解散、というのはバンドのヒストリーみたいなものだ。これ、劇映画でもよかったのではないかというような話である。オーブリーは解散を悔やみ涙を流す。 

しかし、その見事にまとまった話ではあるけど、引っかかるところはある。ヒプノシスが手掛けたアーティストが古くなったというところから新しいアーティストが台頭した、とでてきた映像がデペッシユ・モードの“Just Can’t Get Enough”なんだけど、この映画の監督ってアントン・コービンなんだよな、とデペッシユ・モードとアントン・コービンの結びつきの強さを考えると、手前味噌感がしてなんだかモヤモヤする。それとヒプノシス解散後もストームはアルバムジャケットのデザインは続けていてマーズ・ヴォルタやMUSEなども手掛けていて2013年に亡くなる前まで活動していたので、決して時代遅れとなり、そのまま消えた訳ではない。その辺の補足は必要なのではないか。

あと、ヒプノシスのファンということでノエル・ギャラガーがインタビューにでてくる。『モーニング・グローリー』のジャケットのデザインは後悔しているとか、娘に「アルバムジャケットって何?」と聞かれたことなど、一応現代的な視点代表みたいな立場で語る。ノエルはちょくちょく映画の各所に顔をだしていていいアクセントになっていた。

Text by Nobuyuki Ikeda
Photo by  LIM Press