OASIS | 東京 東京ドーム | 2025.10.25

オアシスが日本に帰ってきた!そこにいた5万人のファンが世代を超えて、ひとつとなった感動のライブ

 2009年のバンド解散以来、16年ぶりに行われたオアシス初となる東京ドームでのライブは、日本でしか味わえない特別な2時間15分だった。そこには、オアシスサウンドの象徴であるビッグなサウンドとダイナミズムがあり、全力で呼応する日本のファンたちとの熱狂的な一体感、そしてお互いをリスペクトし合うまでに“回復”したギャラガー兄弟による、「オアシス」であることの矜持が感じられた。

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 僕ら日本のオアシスファンにとって、この16年間は一体何だったんだろう?昨年『oasis live ‘25』日本公演が決まったとき、まず思い浮かんだのは、ノエルとリアム2人のソロとしての軌跡と、そこから繋がっていくオアシス大復活の青写真だった。

 ファンにとってのこの16年を語る前に、まずはノエルとリアム、彼ら2人の16年間を振り返る必要がある。解散以降、ロック・ミュージシャンとしての2人の道のりは実に対照的だった。ノエルは、ソロユニット「ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズ(以下NGHFB)」としての地道な活動を通じて、シンガーとしての成長を示し、“ソングライター”としてはクリエイティブの幅を広げていった。一方、リアムが歩んできた道のりは「紆余曲折」の一言に尽きる。ビーディ・アイでの失敗やプライベート上の問題により、一時は「どん底」まで落ち込んでいた。しかし、当時できた新しいパートナーや親友ボーンヘッド、そして新たな仲間たちの支えによって、ソロとして大成功を収め、ロックンロールスターとして華麗なる大復活を遂げたのである。
 
 それも踏まえ、日本のオアシスファンにとっての16年間を一言で言うならば「再結成を巡る賛否の16年」だったように思う。オアシスの解散以降、ノエルは一貫して再結成に対して否定的であり、一方でリアムはそれを強く望んでいた。ファンもまた、「純粋にオアシスの再結成を望む」賛成派と、「ソロ活動を確立した二人が、ノエルの意思に反してまで無理やり再結成する必要がない」という否定派に別れていた。しかし、昨夏に再結成が発表されると状況は一変した。ノエルにその兆候が見られたからだ。
 2023年にリリースされたNGHFBのアルバム『Council Skies』のテーマは「原点回帰」。その後のツアーのセットリストもNGHFBからオアシスへと遡る構成で、「原点回帰」を強く意識させるものだった。これらの展開は、ノエルの中でもう再結成への決意・覚悟は決まっていたんじゃないかと思わせるもので、だからこそ、再結成の発表によってそれらの賛否が吹き飛んだように感じられたのだと思うのだ。

 では、今回のオアシス再結成は一体どうなるのか?ノエルとリアムの2人がステージ上でどう交わり、その関係性が復活したオアシスにどんな変化をもたらすのか?リアムのヴォーカルのコンディションは?ノエルの今のオアシスに対する思いは?それら様々な期待や疑問の答えを求め、筆者は日本公演に先立つ、7月のロンドン公演を観に行ってきた。結論、再結成したオアシスは「圧巻」という言葉がチープに聞こえるほどに、「最強」で「最高」なロックバンドになっていたのだ。
 リアムのヴォーカルは1996年以降絶頂期と言えるほどに絶好調で、ノエルのギターもヴォーカルも最高に冴えわたっていた。そんな2人と並ぶようにオアシスのサウンドを支えるバンドメンバーの演奏もまた本当に素晴らしかった。後期オアシスを支えたゲム・アーチャー(Gt)とアンディ・ベル(Ba)、リアムのライブバンドにも参加しているジョーイ・ワロンカー(Dr)にクリス・マッデン(Key)、そしてなんと言っても今回のオアシス再結成における精神的支柱でもあるポール・“ボーンヘッド”・アーサーズ(Gt、以下ボーンヘッド)の存在はとてつもなく大きかった。

 さて、前置きが長くなったが、ここから日本公演について書いていきたいと思う。韓国・日本・オーストラリアを回るツアーの開始前、このツアーのボーンヘッドの不参加が発表された。前立腺がんの次なる治療準備のためということで、残念ではあったが、いまは緩和を願うばかりだ。
 しかし、日本公演の前に行われた韓国公演の映像を観た限り、ボーンヘッドの代役を務めたマイク・ムーア(Gt、彼もリアムのソロライブに参加している)が十二分に代役を果たしていたし、何よりメンバーたちの背後には、NGHFBのツアー時からメンバーのバックに鎮座していたペップ(マンチェスター・シティの監督)のパネルと共に、ボーンヘッドのパネルもそこに立っていた。位置的にはリアムとノエルの間からややリアム寄りの場所、そう、ツアーで彼が立っていた場所である。だから、パネルとはいえ、彼がそこに居るだけでも、この日も変わらずオアシスを変わらずオアシスとして感じることができたような気がするのだ。

ライブ前から始まっていた再結成を祝う「オアシス祭」

Photo by Shuhei Wakabayashi

 10月25日土曜日、初日の東京ドームは雨にもかかわらず、22番ゲート前に設置されたオフィシャルグッズ売り場には、朝から長蛇の列ができていた。これ自体はドーム公演ではよくある光景である。しかし、今回のオアシスの大きな盛り上がりは、10月上旬から始まっていた。全国数カ所に展開されたポップアップストアをはじめ、公式オンラインストア、さらにはadidasやポールスミスらとのコラボ展開など、それらはどれも大盛況で、グッズも完売続出。まさに「オアシス祭り」といったところだった。
 会場に目線を戻すと、際立っていたのは集まっていたファンが想像以上に若かったことだ。ロンドン公演でもかなり若いファンの多さは際立っていたが、それは日本も全く変わらなかったような気がする。

 17時30分、この日のゲストアクトを務めたASIAN KUNG-FU GENERATIONのライブの熱演の余韻が残る中、オアシスへの期待感が高まっていく。30分という短い転換時間があっという間に過ぎ、場内に流れ始めたのはザ・ローリング・ストーンズのサイケデリック・トラック“We Love You”だった(ちなみにエディンバラ公演はアンダーワールドの“Born Slippy”が流れていて、その会場に居た筆者の友人曰く「狂喜乱舞の世界だった」と語ってる)。この曲を作ったミック・ジャガーとキース・リチャーズがサポートし続けてくれたファンに対する感謝を込めたこの曲は、まるで今のギャラガー兄弟とファンの関係性と重なるようで、開演前から胸に迫るものがあった。

Oasis is back!! “Fuckin’ In the Bushes”で爆発した16年ぶんのファンの情熱

ⒸBig Brother Recordings

 オアシスといえば開演時間で始まったことがほぼほぼないことで有名だが、今回のツアーはどの公演もほぼオンタイムでスタートしている。それはこの日も同様、開演時間になると、巨大スクリーンには巨大なデシベルメーターと「THIS IS NOT A DRILL(これは訓練ではない)」という巨大文字が映し出され、これから始まる熱狂体験の始まりを予感させた。

 スクリーンの表示が一瞬消えると、“あの”ドラムイントロが流れ始めた!“Fuckin’ In the Bushes”、ロック界最強の“出囃子”だ。約16年ぶんのファンの情熱が凄まじい大歓声となりドームを包み込む。直後、ノエルとリアムが両手を上げ手を取り合って入場し、穏やかな笑みでハグを交わした。このハグはただのハグではない、紆余曲折を経て心を直に通わせる、ノエルとリアムだけの特別なハグ。その瞬間、場内には歓喜の大歓声が上がった。リアムの「お前らいいか、俺は最高に興奮してるぜ!」という号令と共に、ライブは“Hello”からスタートした。リアムからの《Hello, hello, it’s good to be back.(ヤァ、ヤァ、戻って来れて嬉しいぜ)》という歌詞に、僕ら日本のファンは拙い英語ながらも大合唱で応える。「そう!この感覚なんだよ!これを待っていたんだ!」そんなファンたちの心の叫びが聞こえるようだ。

 “Hello”が終わると、リアムはファンに「アリガット!」と呼びかけると、ファンにとっては感涙もののリアム定番の感謝の一言にドームが沸いた。“Acquiesce”のイントロが始まると、ドーム中にファンの大合唱が響き渡る。ファン全員が待ち望んでいたであろう、リアムとノエルのヴォーカルの掛け合いが披露されると、「待ってました!」と言わんばかりに会場のボルテージは爆上がり、「ペース配分なんて関係ない!」そんな勢いを持ってオーディエンスは全力で楽しむ。
 曲が終わると、まだライブ序盤にもかかわらず、リアムはタンバリンを客席へ投げ入れた。こんなちょっとしたムーブからも、リアムの心の余裕がうかがえるようだった。リラックスしながらもクールかつ熱く歌い上げ、時にはおどけた姿も見せるリアムの振る舞いは、今のツアーの充実っぷりを物語っているようだった。

 オープニング2曲で早くもボルテージは最高潮!ヘリコプターのSEが鳴り響くと、ドームに轟き渡るゲムのギターイントロから“Morning Glory”が始まった!オアシスライブにおける屈指のアンセムでファンたちは終始大合唱。それだけでも十分な満足感があったが、最後の最後でリアムが最高のフェイクをかましたのだ!歌詞上は最後《Need a little time to wake up, wake up(お前はもう少しで目覚める、目覚めるんだぜ!)》で締めるのだが、この日はラストの《wake up》だけ《take off(そして飛び立つんだ!)》と置き換えて歌い上げるリアム!そんな最高すぎるアドリブに感嘆のあまり頭を抱えてしまった筆者。こんな風に、ファンの沸点を一気に上げ、会場全体を巻き込んでしまう掌握力もまた、リアムのヴォーカルの唯一無二のものであり、僕らが待っていたリアムの姿なのだと、改めて実感した瞬間だった。
 続く“Some Might Say”でもリアムのヴォーカルは最高だ!音源から感じる、オアシス初期の自信に満ち溢れながらもどこか未来への不透明性を感じさせるメランコリックなそのサウンドは、このドームでも強く感じられたし、一方“Bring It On Down”では、“Some Might Say”とは逆に、音源やライブ音源を大きく上回るほどの“どデカい”ロック・サウンドへと変貌し、ファンたちを圧倒した。

会場のファン同士が言葉を交わし、一心同体となった“Cigarettes & Alcohol”

 今回のライブツアーにおいて特筆すべきは数多くあるが、中でも「リアムのコンディションの良さ」には一際目を引くものがあった。ただコンディションが良いだけじゃなく、それがライブを重ねるごとに右肩上がりに上がってきているというから驚きだ。かつては、日によって声の調子はまちまち、彼自身の機嫌にも波があったりで、毎回ライブを観るたびにハラハラしたものだったが、今はそれが全くない(少なくとも表だったところでは見えない)。その流れもあって、この日のリアムもまた絶好調!正直ロンドンの時よりも良かったんじゃないかと思うほどのヴォーカルだった。
 そんなリアムの好調っぷりは、ひとえに彼のストイックに自らをケアし続けた賜物である。酒も控え、タバコも断ち、日々のランニングといった積み重ねが、今のリアムの調子の良さを支えている。それほどにリアムは今回のオアシスのツアーに掛けているし、今も現在進行形でオアシスに魂を注いでいる。加えて、そんな魂には、かつての“ヤンチャなガイ”とは違い、沢山の人たちへの尊敬や感謝も含まれている。そんな思いは、続く“Cigarettes & Alcohol”で確かに見て取れた。

 それは曲前のMCでのこと。リアムは英語が苦手なファンにも理解できるように、ゆっくりと丁寧にこう説明した。「みんな、うしろを向いてくれ。隣のやつと肩を組んで、それでみんなでジャンプするんだ。シティ・ユニバース(ユニバース=共同体の意)がやる“ポズナン”だ」。今回のツアーの中で、“Cigarettes〜” での「ポズナン」は間違いなくライブでのハイライトだった。特にギャラガー兄弟の地元マンチェスター公演の映像で観られた、まるで会場全体が波打つようなファンたちのポズナンはとにかく凄まじかった。それを踏まえると、リアムのMCでの丁寧な説明は、「この素晴らしい体験を日本のファンたちにも味わって欲しい」という彼なりの思いやりだったように思うのだ。
 無論、観客の中には当然「ポズナン」を知らないファンもいただろうし、知っているけどやることを躊躇っていたファンもいたと思う。だが、そうしたファンに積極的に声をかけ、一緒にポズナンを“完遂”させようとするファンもまた多くいて、筆者の周囲も含め、会場のあちこちでそんなそんなコミュニケーションが生まれていたのではないか──そう思うと、ただそれだけで胸が熱くなった。そんな対話が身を結び、イントロが流れ始めると、ファンたちによるポズナンがドーム全体に広がっていた。ファンたちから迸る高揚感と、そこにあった皆の笑顔が最高に印象的だった。無事日本でも遂行できた“Cigarettes & Alcohol w/ ポズナン”は、日本で初めて「シンガロング」とは異なる形で「オアシス体験」を生み出してくれた。
 そんな高揚感や達成感の余韻を一気に振り払うように、ライブはどんどん加速していく。ノエルの疾走するギターソロから始まった“Fade Away”、ジョーイの堅実かつ硬いアタックによって曲に込められたアティテュードを増幅させた“Supersonic”、そしてどこからどう聴いても非のつけどころがないリアムのヴォーカルにシンガロングが炸裂する“Roll With It”と、ファンを圧倒しつづける名曲ラッシュにファンの大歓声は止まらない!

 そんなオアシスの最高な状態を聴くことができたのは、東京ドームの音響改善も絶対に切り離せない材料だった。これまで音響の部分で、音の質には難があった東京ドームで、ここまで「いい音」で彼らのサウンドを堪能できるとは正直思わなかった。これは、ドームの音響設備の改善に加え、今回のツアーで使われているスピーカー、そして4本の柱型のスピーカーによるものが非常に大きい。この構造によって、会場の後方や両サイドにも音が満遍なく響き渡り、オアシスの爆音をドーム全体に轟かせ、空間の隅々までサウンドで埋め尽くすことができたのだ。

ソロ活動で熟成され、存在感が増したノエルヴォーカルのオアシス曲たち

ⒸBig Brother Recordings

 “Roll With It” が終わり、リアムがステージを後にすると、ここからはノエル・ヴォーカルのターンが始まる。オアシス解散後の彼のソロ活動を観てきたファンは知っているだろうが、昨年行われたソロツアーやフジロックでのステージからも見られたように、ノエルはシンガー・ソングライターとして著しい成長と飛躍を遂げた。そんな彼が持つ存在感は、今のオアシスというバンドにも違和感なく溶け込んでいく。

 ノエルタイムの1曲目は“Talk Tonight”で幕を開けた。優しくそして温かく歌い上げるラブソングは、ノエルのアコースティック・ギターとゲムのエレキ・ギター、そしてクリスのキーボードが重なる音色の素晴らしさ、そしてファンのスマホライトによりドーム一面に埋め尽くされた光も相まって感動的な光景を生み出した。続く“Half the World Away”では、サビをファンに委ね、ファンがそれに応える様子を見て微笑むノエルの表情が印象的で、このツアーを通してノエルもまた充実していることが伺えるシーンだった。
 曲が終わると、間髪入れずに“Little By Little”が爆音のイントロとともに投下された。“Fuckin’ In the Bushes”を除き、『Be Here Now』より後にリリースされたアルバム・楽曲で唯一セットリストに組み込まれているこの曲は、NGHFBのライブでもずっと歌い続けられてきた曲だ。ソロ活動中に曲の存在感は増し、この曲はいつしかライブで絶対不可欠なファンに深く愛される曲になった。その証拠に、この日も会場が揺れるほどの大合唱が沸き起こり、ノエルはサビの大半をファンに委ね、ラスサビ前にはノエルが「Come on!!」と煽るように叫び、それに全力のシンガロングで応えたファンたちによって、ドームは大きな高揚感に包まれた。

 ライブは後半に突入し、“Little By Little”のアウトロからのギター・フィードバックノイズが鳴り響き、そこからシームレスに始まったのが“D’You Know What I Mean?”だった。かつて、この曲に否定的だったファンから「冗長」とか「うるさ過ぎる」などと言われていたこの曲は、このツアーで大きく変貌を遂げていた。リアムのヴォーカルを中心に、バンドメンバーたちが作り上げる重厚なグルーヴがグイグイと曲を引っ張り、冗長どころかいつまでも聴いていたくなるほどの曲へと進化していたのだ。曲が終わり、その満たされた感情をさらに大きくしたのが“Stand By Me”だった。サビ前に「さぁ、歌え!東京!」とリアムがシンガロングを促すと、ファンはそれにしっかりと応える。
 そんな開放的な雰囲気から一転、続くアーティストの闇と光について歌われたロック&ソウルバラード“Cast No Shadow”では、包容力を感じさせるメロディとグルーヴに、リアムとノエルのヴォーカル&コーラスが溶け合い、オーディエンスを魅了。曲が終わると共にスクリーンに荒々しいノイズが映し出されると、ノエルの唸るようなギターイントロから始まったのが、オアシスの中でも珍しいラブソング“Slide Away”だ。重くそして力強く歌い上げるリアムのヴォーカルと、新たなアレンジも見られたノエルのギターは、この曲のエモーションを一段上にあげ、さらにファンを熱狂させた。極め付けはラスト、リアムとノエルの二人の「What for !!!」の咆哮だ。もう何も言うことはない、最高だ!

世界のどこかにいる誰かに捧げる ── その曲の普遍性は、いつの日か多様な解釈を与え、僕らを永遠に変えてくる曲となった

 “Slide Away”の熱狂が冷めやらぬ中、ノエルのアコギ・イントロと共に“Whatever”が始まると、いよいよライブもラストに近づいてきていることを実感させられる。2009年の解散後も様々なTVCMで起用され、リリース以来日本でずっと愛され続けてきたこの曲は、日本のファンにとっては “Wonderwall” や “Don’t Look Back In Anger” に並ぶほど特別な曲だ。さらに言うなら、「オアシスのリアム」が歌う “Whatever” はより“特別”である。何せ後期オアシスのライブにおいて、この曲がセットリストに組み込まれることは多くなかったし、組み込まれていたとしてもアコースティック・バージョンとしてノエルが歌うことが多かった。つまり、若いファンは「オアシスのライブでリアムが歌う“Whatever”」を知らないのだ。そんなファンたちの大きな待望感は、イントロが流れ始めた瞬間に大歓声と共に一気に膨れ上がった。スクリーンにはジャケット写真を彷彿とさせる緑の広大な草原と青い空があり、目の前には伸びやかな声で歌うリアムがいる。そして、ファンたちは声を張り上げ、心地よさそうにシンガロングを響かせた。

 そして、曲のリリースから何百回と聴き込んだこの曲の歌詞が、31年という時を経て、今だからこその新たな解釈が生まれた。

《How long is it gonna be / Before we get on the bus and cause no fuss / Get a grip on yourself it don’t cost much (俺たちもいつかは / 一緒のバスに乗り込んでも騒ぎを起こさななくなるさ / しっかりしろよ 大したことじゃない)》

《Free to be whatever you / Whatever you say if it comes no way, it’s alright(お前も何にでもなれるよ / 声に出せばどんなものにだってな うまくいかなくても気にするな)》

 リアムがこのフレーズを歌った瞬間、思わず涙が溢れてしまった。オアシス解散後、落ちるところまで落ち、踠き苦しみながらも、そして多く仲間たちの力を借りて、リアム大復活を遂げた。そんな「現在(いま)のリアムの声」のように聞こえたからだ。

 地に足がついていない感覚の中、リアムの「ここに来れなかった奴らに捧げる」と告げたMCに続いて始まったのは、印象的なタムのイントロから始まる“Live Forever”だった。“Whatever”の余韻が残ったままで聴くこの曲は、これまで観て聴いてきた“Live Forever”の中で、最も心に強く突き刺さるものだった。ノエルがたった30分で書き上げ、オアシスというバンドを“誕生”させたこの曲が、人種、肌の色、性別、障害…といったあらゆる違いを超えて、ファンに等しく響く曲になったのは、何も今に始まった事ではない。しかし、その「等しく響く」その在り方自体が、時代の移り変わりと共に、さらに広がりを見せていたような気がするのだ。
 「“誰か”に向けた“Live Forever”」から「人の“心”に向けた“Live Forever”」へ──。今の“Live Forever”は、「生きることへの葛藤」や、その葛藤の先にある「曖昧な輪郭の生と死のイメージ」といった、人が持つ普遍的な感情にダイレクトに響くようになった。《You and I are gonna live forever(俺とお前は永遠に生き続けるのさ)》。そう、この一言に全てが凝縮されている。かつてノエルがこの曲「あの曲は、オアシスを“永遠”に変えたんだ」と言ったように、ファンにとっては「この曲は、僕らを“永遠”に変える」力を持つ、より特別なアンセムとなったのだ。

 本編最後を締め括ったのは、「お前たちがロックンロールスターだ」というファンに向けたリアムのMCから始まった“Rock ‘n’ Roll Star”。曲中、これまでの彼らのアーティスト写真、リリース作品のジャケット写真、ミュージックビデオなど、オアシスの歴史を彩る様々な画像や映像がコラージュされたスクリーン映像は、ライブの終わりが近づいていることを切実に感じさせる。しかし、そこに映し出された彼らの「歴史」はいつまでもファンの中に残り続けるものだ。だからこそ、リアムもファンたちも《Tonight I’m a Rock ‘n’ Roll Star(今夜、俺はロックンロール・スターだ)》と全身全霊を込めるように歌った。オアシスのロック・スピリットの象徴ともいえるこの曲は、本編ラストにふさわしい、圧倒的な存在感を放っていた。

日本“だけ”に生まれた極上のクライマックス

ⒸBig Brother Recordings

 かつてノエルは、オアシスの多くの歌詞には「特に意味はない」と語ることが多かった。実際、何を言っているのか本当にわからないような曲が当時あったのは事実だ。しかし、この31年の時間をかけ、これらの歌詞には、人の数だけの解釈が生まれるようになった。そのキッカケとなった一つが、先ほど“Whatever”のくだりでも書いたように、解散後のリアムが経験した紆余曲折の出来事からの復活劇だったように思うのだ。その過程に表出していたリアムの“リアル”な感情は、映画『As It Was』でも語られていたし、先日公開された『ロックフィールド オアシス復活の序章』でも描かれていた。そして、それを観たファンはより彼に感情移入するようになったように思うし、それは筆者自身もまた同じだ。
 とはいえ、曲のイントロが流れるたびに、条件反射的に気持ちが昂ってしまうオアシスファンの性(さが)はどうしたって抑えることはできない。そこから溢れる「パッション」と「感情移入」。それが同居するようになったのが、今の絶好調オアシスに通じているような気がするのだ。
 
 本編ラスト“Whatever”、“Live Forever”、“Rock ‘n’ Roll Star”の流れから既に生まれていた感動と熱狂の入り混じった感覚は、アンコールで投下された“ラスボス”4連弾によって、ファンのボルテージをさらに高みへと導いた。中でも、NGHFBを経てさらに円熟みを増したノエルがヴォーカルをとる“The Masterplan”はこれだけでもクライマックスと言えるほど壮大で、かつ荘厳だったし、ノエルが「Sing!!」と叫び、それに応えるファン全身全霊のシンガロングが曲を支えた “Don’t Look Back In Anger” では、スクリーンほぼ全面に映し出された「ファンたちが全力で歌う姿と光景」に、オアシスのこの曲が「みんなの歌」であることを証明しているようだった。

 曲が終わっても収まらないファンの気持ちの昂りと高揚感がドーム内のを満たす中、リアムが再びステージに登場すると、先に登場していたノエルは笑顔で「みんな、リアム・ギャラガーだ」と、まるで弟を自慢するかのようにドヤ顔でを迎え入れていた。「兄貴、どんだけ弟が大好きなんだよ!」と思わず突っ込んでしまいそうな光景だが、そんな二人のやりとりもまたファンにかけがえのない喜びを与えてくれた。そして、続く“Wonderwall”では、そんな二人の繋がりや絆を感じさせ、ファンの心をまっすぐに貫いた。スクリーン中央には、“Wonderwall”のシングル盤のジャケット写真にあった黄金色のフレームが映し出され、その左右にはアコギをかき鳴らすノエルと、両腕を後ろに回し“リアム立ち”で堂々と歌い上げるリアムがいる。傍目には見たらとるに足らない並びの画かもしれないが、ファンにとっては途轍もなく大きな意味がある。何故なら、それは「これが俺たちのオアシスなんだよ」と確信した瞬間だったからだ。

 “Wonderwall”が終わっても、スクリーンには無数の光が輝き続けている。その場にいた誰もが「あぁもう終わってしまうのか」、そんな哀しさを感じ始めると、リアムが口を開いた。

「オマエら、いいか。これが最後の曲だ。今日は来てくれてありがとう。ずっとサポートしてくれてありがとう、俺たちは○ァッキン・ナイトメア(悪夢)だ。俺ら兄弟喧嘩したり、解散したり、いろんなごちゃごちゃナイトメアみたいな事やってきた。それでもついてきてくれてありがとう。お前ら、俺たちがめちゃくちゃな悪夢だってことは分かってるよな?けど、このバンドを再び世に知らしめてくれて最高だよ。“Champagne Supernova”、マジで愛してるぜ!」

 そう口にすると、リアムは右の拳をファンに向け、突き出した。リアムの不器用ながらもファンへの思いが十分に感じられたMCに思わず胸が熱くなった。そして始まった正真正銘のラストナンバー、“Champagne Supernova”では、曲冒頭からファンに大きな感動をもたらした。それは、スクリーンに映し出された「富士山と、その麓に広がる桜色の自然風景」の映像。ロンドン公演でも同様の映像は映っていたが、それは何処かとは特定できないような自然風景で、それがここ東京ドームでは、はっきりと「日本の抒情的風景」に変わっていたのである。

Photo by Shuhei Wakabayashi

 しかし、富士山からは噴煙らしき薄い煙が立ち昇っている。ゆっくりとスクロールし、その先に映り込んできたのは、逆さになったビル群。そこからさらにスクロールすると、今度は夕日に照らされた海があり、そして夕日の茜色はやがて闇に溶け入るような光景が広がっていた。再び富士山周りの自然風景が映し出されると、先ほどは白煙だった噴煙は危うさを感じさせる黒煙と変わっていた──。そんな “時が廻る世界” を表現したような世界観の映像は、曲が持つ多幸感や哀愁、そして不穏な空気が奇跡的なバランスで混ざり合い、会場の空気を不思議な感情で満たしていく。そんな感情の中でも、ファンたちはライブの終わりを告げるこの曲を全力でシンガロングする。そんな光景は、ノエルがこの曲について、ドキュメンタリー本『supersonic』で口にしていた言葉そのものを映し出しているように思えた。

「この曲にはどこかすごく大きな悲しみがある。でも、ステージから見渡すと6万人が一斉に歌ってるんだ。そうすると、もう“歓喜の歌”って感じになるんだよ。これはマジックとしか言いようがない。マジでそう思う。あの光景を見たら意味なんてどうでもよくなるんだよ。一人一人がそれぞれ自分なりの意味を読み取って歌ってるんだからさ」

 ライブという夢が徐々に覚めていくように、スクリーンに映し出された夕日がゆっくりと沈んでいく。曲のアウトロで、リアムがノエルのそばに歩み寄り、二人は片手でハイタッチを交わした後、身を寄せ合うように優しくハグをした。スクリーンにもはっきりと映し出されたその時の二人の温かい笑顔は、今回のツアー、そしてこの日のライブがいかに充実したものだったかを物語っていた。

ⒸBig Brother Recordings

オアシスが世代を超え、愛されているロック・バンドであることを肌で感じた初日

Photo by Shuhei Wakabayashi

 ドーム公演初日のライブは、彼らが絶頂期だった1996年のネブワース2DAY彼らと肩を並べる ── いや日本のファンにとっては、ここで実体験したからこそ、それ以上のライブと言ってもいいかもしれない。そしてそれは、オアシスの最高なパフォーマンスだけでなく、オーディエンスが古参ファンだけでも成り立たなかったと思う。そこに多くの新しく若いファンたちがいたからこそ、そう言えるライブになったんだと思う。

 オアシス再結成以前から、兄弟それぞれの日本のソロライブ会場には若いファンが多く詰めかけていた。また、今回のドーム公演に先立ち、全国で展開されたポップアップショップにも若者の姿が目立っていたのもまた事実としてあった。しかし、今振り返ると、それらは「若いファンがたくさん集まっていた」というただの事実に過ぎず、「若いオアシスファンが増えた」という実感には結びついていなかったように思うのだ。
 その理由は明らかで、それは今回のツアーのロンドン公演を観て感じたことと共通している。ウェンブリー・スタジアムには、老いも若きも関係なくファン同士がライブ中も「体話」をしている光景があって、そこに筆者も参加できた。これがロンドンで感じた「若いファンが増えた」という実感だった。しかし、正直なところ、日本とイギリスでは音楽のトレンドや生活における音楽の立ち位置の違いもあるし、イギリスと全く同じようにはならないだろうなとは思っていた。だが、初日のドーム公演で、その認識は変わった。その理由のひとつは “Cigarettes & Alcohol” の「ポズナンをやろう!」と声をかけあったファン同士の交流と、曲後に皆が「オアシスライブの体験を共有し合えた!」という喜びからきたもの。もうひとつは、ドーム内で筆者が実際に遭遇した出来事にあった。

 オアシスの開演前、東京ドームの場内コンコースでひとりの若い青年に声をかけられた。「あの・・・ウェンブリー・スタジアムに行かれたんですか?」(この日筆者はロンドン公演限定のTシャツを着ていた)。その青年はマンチェスター公演を観に行ったらしく、二人「イギリス本国でオアシスを観た」という共通点もあって、すぐに打ち解けることができた。そんな彼との会話の中で、純粋な好奇心から、彼にこんな質問をしてみた。「どうしてオアシスを好きになったんですか?」。すると彼は「自分はイングランドサッカーが好きで、(会場内に流れていた“Wonderwall”)それで知ったんですよ」と答えてくれた。
 サブスクで曲を聴いて感動したとか、SNSのショート動画でファンが演奏している映像を観てハマったとか、そういうケースはよく聞くけれど、まさかサッカーアンセムでオアシスファンになるファンがいるとは・・・。デジタルマーケティング全盛の今、“アナログ”な接点からオアシスを好きになるファンが、まだ確かにいるという事実。それを知れたこともまた「若いファンが増えた」という“実感”に繋がったのだ。

 この日の東京ドームには、筆者も含めたオアシス・リアルタイマーのファンはもちろん、U2やキュアーなどをリアルタイムで聴いてきた上の世代のファンや、ストロークスやホワイト・ストライプスを通ってきた30〜40代のファンがいて、さらにその下にはThe 1975やマネスキンらがリアルタイムの20代と思しきファンたちがたくさんいた。文字通り老若男女のファンが集まっていたわけだが、しかしそこに世代の壁はない。皆等しく「オアシスのライブ」を思う存分に楽しんでいたからだ。
 ここまで広い世代を網羅しつつ、しっかり若い世代に引き継がれているロック・バンドは極めて稀だろう。ノエルが書くオアシスの楽曲の普遍性と、リアムのロックンロールスターとしてのカリスマ性を、これまでとは違う形でファンたちと実感できたことを、いま心から嬉しく思う。

<セットリスト>
Intro. Fuckin’ in the Bushes
01. Hello
02. Acquiesce
03. Morning Glory
04. Some Might Say
05. Bring It On Down
06. Cigarettes & Alcohol
07. Fade Away
08. Supersonic
09. Roll With It
10. Talk Tonight
11. Half the World Away
12. Little by Little
13. D’You Know What I Mean?
14. Stand by Me
15. Cast No Shadow
16. Slide Away
17. Whatever
18. Live Forever
19. Rock ‘n’ Roll Star
EN01. The Masterplan
EN02. Don’t Look Back in Anger
EN03. Wonderwall
EN04. Champagne Supernova

各音楽サービス別のプレイリストまとめページ

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Text by Shuhei Wakabayashi
Photo by ⒸBig Brother Recordings