【朝霧JAM ’25総括】晴れなくても素晴らしかった朝霧

天候がイマイチでも音楽の力を感じた朝霧JAM

前回、前々回の朝霧JAMが晴天に恵まれて「晴れただけで100点満点」といっていたけど、では今回のように基本的に曇りで時折雨が降って霧に包まれるときもあったときは何点なんだろう?

でもやっぱり最高だった。観たライヴが素晴らしかった。音楽の素晴らしさを浴びた2日間である。

初日、霧に包まれるステージ

初日の土曜日はレインボーステージに登場したANGIE McMAHONは「ニッポン、サイコー」と明るくお茶目に演奏している姿が印象的だった。ムーンシャインのんoonはオシャレさとロック的なエッジ、緻密な演奏と迫力が両立していた。“Forest”ではラッパーのACE COOLを迎えてステージ前を埋めたお客さんたちを沸かせる。ラストの“BILLION”はスケールの大きなノイズがムーンシャインを包んでいった。

レインボーステージのD.A.N.はエレクトロニカな音像が朝霧の空気と溶け合って浮遊感をもたらした。そしてHIATUS KAIYOTE。霧がでてきてステージを包んでくる。ネイパームの声を中心とするバンドの音が霧の中から立ち上ってくるようなゆらぎを表していて、この場で聴く音楽として最適なものとなっていた。定番だけど“Red Room”が鳴ったときがやっぱり素晴らしくて天候まで味方につけたこの日のベストであった。

2日目、雨が上がった? 夜空に

2日目の日曜日も天候は相変わらず。常に雨が降りそうで降らない、でも少し雨粒が落ちてくる、というような微妙なものだった。

BIALYSTOCKSは素晴らしかった。“Mirror”のような70年代のAORぽい曲やCMでも使われた“差し色”などシティポップとかの文脈で語ることができる音楽性で爽やかさは午前中の朝霧JAMに合っていた。

ANNIE & THE CALDWELLSはシンプルで格好いいギター、ベース、ドラムをバックにソウルそのものの歌声を聴かせてくれる。最小限のバックからはファンキーな踊れるビートが繰り出されていた。ブラックミュージックの豊かな土壌から生まれたものを体感する。

ムーンシャインに移動すると、鬼の右腕がやっていた。音としてはハードプログレですさまじい演奏なんだけど、目を引くのは2体の山羊の着ぐるみが奇妙な動きをしていることだ。物珍しさもあってお客さんは多かった。

さらに奥に進んでカーニバルスターでは、落語家の桂九ノ一がDJをしていた。かける曲は洋邦とり混ぜたロックンロールだった。かける曲と動きの機敏さがすごい。魚屋さんが魚をさばくような鮮やかな手つきでレコードを回していく。ザ・ブルーハーツの“少年の詩”でのパフォーマンスも凄かった。

ムーンシャインで田島貴男。ひとりでアコースティックギターを弾き、サックスを吹き、ループを作ってさらに音を重ねながら歌うという忙しさ。もちろん大定番曲“接吻”も歌う。「ミサイルの先にはソウル(魂)がある」と歌う“ソウルがある”は現在の状況を思えば切実に響く。

レインボーステージに戻りZAZEN BOYSに間に合う。“柔道二段”松下敦のドラムとMIYAのベースの迫力がすごい。さらに“カシオマン”吉兼聡の繊細で鋭いギターが加わり、それらをバックにして向井秀徳がギターを弾き歌いまくる。“HIMITSU GIRL’S TOP SECRET”から始まり、カシオマンの変態なギターが暴れるポップな“Weekend”、重たいファンクナンバー“安眠棒”など、朝霧でもどこでも変わらぬテンションで演奏する。“ポテトサラダ”では向井のコミカルなダンスがみられた。1945年に戦災に遭った少女の物語である“永遠少女”がすごく心に沁みてきた。現在の世界情勢にもシンクロする曲に震える。

続けてレインボーステージのGLASS BEAMSがすごかった。配信で聴いていた音と比べて何倍も迫力があるうえにサイケデリックでファンクな音は朝霧の空気にすごく合っている。打ち込みの機材も使いつつ、ギター、ベース、ドラムとシンプルな編成でインドから中近東の香りを漂わせレインボーステージ前を踊らせた。

朝霧JAM最後は忌野清志郎 ROCK’N’ROLL DREAMERS。バンドのメンバーは 藤井一彦 (Gt)、井上富雄 (Ba)、宮川剛 (Dr)、伊東ミキオ (P.Key)、梅津和時 (A.Sax)、多田葉子 (T.Sax)、渡辺隆雄 (Tp)だった。まずは“よォーこそ”で始まり、“ベイビー!逃げるんだ”を藤井、ギターでGLIM SPANKYの亀本寛貴が参加する。本来ならGLIM SPANKYの松尾レミも歌う予定だったけど代役として急遽、暴動クラブの釘屋玄が歌った。最初バンドの音がでてきたときはどうなるかと思ったけど、ホーン隊のキレがよくなって、さすがベテランなので、やっていくうちにバンドの音がよくなっていくことを感じる。

釘屋は残り、続けて“つ・き・あ・い・た・い”。ギターは暴動クラブからマツシマライズが参加した。“ぼくとあの娘”は真心ブラザーズからYO-KINGが登場して歌う。

一旦、バンドが退いて、片平里菜と山口洋がボブ・ディランの“風に吹かれて”をRCサクセションの『COVERS』に収められたヴァージョンの通り日本語詞で歌う。

バンドがステージに戻り、“スローバラード”を歌うのは田島貴男。先ほどまでムーンシャインで濃いライヴをしていた田島貴男がこちらでも濃い歌声を披露する。“ドカドカうるさいR&Rバンド”でダイアモンド✡ユカイが登場して、ジョン・レノンの“イマジン”を全員で歌う。もちろんこれも『COVERS』のヴァージョンの日本語詞だ。最後は全員で“雨あがりの夜空に”。完全に雨が上がったか微妙な天候だったけど、どちらにせよ朝霧の締めくくりにふさわしい曲で大いに盛り上がったのだった。

今回の朝霧は土曜の深夜から日曜の朝にかけてが晴れているといえば晴れていたくらいで天候には恵まれなかった。しかし、特に2日目の音楽的な充実はすごかった。キャンプサイトでまったりと過ごすのもよいけど、ライヴを観続ける朝霧もやっぱりよい。音楽の力を再確認した朝霧JAMになったと思う。

Text by Nobuyuki Ikeda
Photo by Keiko Hirakawa