LIAM GALLAGHER | 東京 豊洲PIT | 2023.08.22

ロックンローラーとして、ソロとして、バンドとして最高になる

リアムが5年ぶりに日本へ帰ってくる。前回の来日は武道館公演をはじめとしたアリーナツアーで、ソロデビューアルバム『As You Were』を提げたツアーでもあり、ソロとして初の大々的なツアーでもあった。そのステージで、リアムは“ソロシンガー”そして“ロックンローラー”としての覚悟と姿勢を証明し、ソロとしての輝かしい未来をファンに見せつけた。その後、リリースされた2枚のアルバム『Why Me? Why Not.』と『C’MON YOU KNOW』はいずれも全英1位を獲得し、映画『As It Was』でも描かれていたようなオアシス解散後の苦悩や葛藤、新たなコミュニティーの誕生を経て見事な復活を果たしたのだ。

今回の来日ステージは、サマーソニックでの2ステージ(東京と大阪)と、『SUMMER SONIC EXTRA』での単独公演1ステージの合わせて計3ステージ。サマソニ東京2日目は、(細かい揉め事こそあったけれど)リアムの機嫌は上々だったし、ライブは最高に仕上がっていた。そして何よりファンの熱量が半端なかった。リアムファンじゃないリスナーも多いであろう環境の中においても、スタジアムに響き渡ったシンガロングは壮観だった。そんなサマソニが終わり、2日後に行われたのがサマソニのアウトトラック的イベント『SUMMER SONIC EXTRA』だった。8/16(水)には同イベントとしてジェイムス・ブレイクの単独公演が行われたのだが、SNSの反応やセットリストを見たかぎり過去最高クラスに良いライブだったことが容易に伺えた。要はアウトトラック的ライブでも、本気のフルセットライブだったということだ。そんな本気ライブがリアムで、しかもキャパ3000人の豊洲PITで観れるのだから、期待するなと言う方が無理な話だ。チケットは言わずもがな即完売。「現時点における完全体のリアムがライブハウスで観れる」これから起こる事実を妄想して、どうしても興奮が抑えきれず、僕は開場時間よりかなり早い時間に会場入りした。

会場に着くと、そこには既に多くのファンが集まっていた。グッズの先行販売(16:30〜)もあったので、それの影響もあっただろうが、既にサマソニで売り出されていたグッズを身に纏っていたファンも多かったし、ただ単純に「いてもたってもいられなかった」人が多かったんだような気がする。さらに注目すべきは、以前と変わりつつあるファン層。ここ十数年(ノエルのソロデビュー以降)で、海外のオアシスファンの(いい意味での)若年齢化が進んでおり、ノエルのライブも、リアムのライブも、訪れているファンの多くは若いファンで締めている(最新作『C’MON YOU KNOW』にジャケ写っているファンの多くは若者である)。日本はまだ海外とまではいかないまでも、それでもかなり若年層化は進んでいる。そんな若者も含め、開場前にいるファンは3000枚のプラチナチケットをゲットした強運を持った人たちだ。さらに言うと、その運を引き寄せるだけの熱量を持っている人たちでもあるはずだ。そんな前提を踏まえた上で、そんな空間にいると、問答無用にテンションは上がるし、それに引っ張られる形でライブへの期待感も増していった。

開場後の場内には、スレイド、マーク・ボラン、ザ・ジャム…など、わかりやすくリアムが好きそうなアーティストのBGMが流れている(と思ったら、リアムの兄であるポール・ギャラガーがDJをやっていたらしい)。会場前BGMって、アーティストの世界観を作るためのとても重要な要素だと思っていて、そのアーティストが何を聴いて育って、バンドを始めるきっかけは何で、カバーしていたのは何でとか・・・アーティストのストーリーに内包されるものがたくさん詰まっているのだ。だからこそ、それらを聴いていると、リアムの人生過去を共有してもらっているような気になったりもするし、それが感情移入の種になるのだ。

開演時間間近になると、ザ・ストーン・ローゼズの“I Am the Resurrection(以降Resurrection)”が流れ始め、場内の空気は一変すした。「リアム(オアシス)とローゼズは切っても切れない関係だぜ?もはやイコールと言っても過言ではないんだ!そうだよな、おまえら?!」ぐらいのテンションで起こる大シンガロング。最後まで歌い切った姿にオアシスファンの濃さを実感した。
“Resurrection”が終わると、聴き馴染みのあるハードなドラムイントロ!オアシスファンにはお馴染みの出囃子“Fuckin’ in the Bushes”だ!絶叫、いや咆哮とも言える「リーアム!リーアム!」コールが巻き起こるフロア、もう既に最高だ。そして、またもや聴き馴染みのあるギターフレーズからの“Morning Glory”で初っ端から大音量でシンガロングするファン。矢継ぎ早にオアシスナンバーで畳み掛ける。我らのアンセム“Rock ‘n’ Roll Star”!声出し解禁になったとはいえ、まだ“喉スタミナ”が戻っていないファンにとってはしんどい曲の連投だが、もちろん思いっきりシンガロングする。この感覚も「戻ってきた感」があって最高だ。

今回のセットリストは、ソロ7曲、オアシス11曲、カバー1曲という割合。その割合自体はこれまでの単独公演の時とそう変わってないが、この日はソロ曲の存在感が圧倒的に増していた。ヴォーカルがより研ぎ澄まされアンセムオーラがアップした“Wall of Glass”に、『As You Were』の路線を踏襲しつつもさらに超王道なロックンロールを突き詰めた“Shockwave”と、今日セットリストに組み込まれているオアシス曲に存在感として全く負けていなかったのだ。
そんなソロの曲を聴いて感じたのは、やっぱりソロ曲もファンあってのものなんだということ。2017年のZepp Tokyoや2018年の武道館で、ファンはオアシスの曲を「自分たちの歌」としてシンガロングしてきたが、ソロ曲はまだそのレベルには到達していなかった。しかし今日は違った。まだオアシスレベルとまだいかないまでも、ソロ曲でも「一緒にこの空間を作り上げてやろう」という気概がこの日のファンから強く感じられたし、“Wall of Glass”での盛り上がりっぷりは、自分も参加しながら圧倒された。比較的聴かせる曲である“Better Days”でも、一緒に空間を体感していることを感じたいレベルの小音量で歌い、他はクラップハンズで盛り上げていたし、そう、何もしてない、棒立ちで聴いているような瞬間がないのだ。一方で、オアシス曲でもしっかりと“仕事”をする。どの曲ももれなくシンガロングし、曲によってはリアムの声をかき消すほどの音量で歌っていたのはそつがない感じ。ライブ日本初公開の“Roll It Over”もがっつり歌っていたし、なんなら“Slide Away”や“Roll With It”のノエルパートも全力でファンが歌っていたシーンはなんとも言えないエモさがあった。

対するリアムももちろん負けていない。この日のヴォーカルは絶好調!最初から最後までしっかりと高音も出ていたし、それに加えて、これまではやらなかったようなちょっとしたテクニカルなヴォーカル回しなども披露していて、彼のヴォーカリストとしての成長もひしひしと感じた。その成長の源にあるのは、アーティスト・コミュニティ(グレック・カースティン、アンドリュー・ワイアット、サイモン・アルドレッド、アダム・ノーブル…など)のメンバーの存在であり、パートナーのデビー・クワイサー、そして息子であるジーンとレノンの存在が大きいことは間違いない。このツアー、ジーンが3曲でサポートドラムとして参加していたしていたのだが、曲終わりのたびに目配せしたり、最後には「よかったじゃねーか」と言わんばかりに肩を組んで歩いたり、そんな些細なことが今のリアムにはたくさんあるんだな。そう思うと、これまであれこれあった分、ちょっとファンとしてホッとした。

ライブも後半に入ると、ここでもソロの圧倒的な曲の力が炸裂する。“Fuckin’ beautiful”なコーラス隊との絡みが絶妙なリアム新機軸のバラード“More Power”(ネブワースのときは、ガンで闘病中だったボーンヘッドに捧ぐ、と歌われていた)、ヘヴィな演奏にリアムのグレイトなヴォーカルが乗り絶妙なバランスのエフェクトが最高な“The River”と、極め付けは今やソロのバラードアンセムとなった“Once”だ。この曲は当初「ノエルのことを歌ってるんじゃないか?」と言われていたことを否定していたリアムだが、歌詞を読んでいると、ノエルとのことをどうしても考えてしまうし、そう考えながらリアムに感情移入してこの曲を聴いていると、なんとも言えない気持ちが込み上げてきた。

リアムは、オアシスの解散後、「オアシス」という存在への囚われや、プライベートでの苦悩を乗り越え、ソロシンガーとしての「リアム・ギャラガー」を確立した。サマソニそしてこの日のステージで彼は「自分はロックンローラーであり続ける決意」そして「ロックでぶっ飛んだ曲を“ソロ”でなく“バンド”としてやるんだという意志」、そんなシンプルでピュアなエゴを体現していた。それは、ぶっ飛んだ音を追求するための大人数バンド編成(ジーンがいる時も含む)という手段であり、スポットライトを決して自分だけに当てることはしない演出にも表れていた。そしてその結果、オアシスの曲は「リアムと言うバンド」の曲になった。

それを証明するかのように、ラストに向けて畳み掛けられた“Cigarettes & Alcohol”、“Roll With It”、“Wonderwall”で起きたシンガロングは、「リアムのヴォーカル」と「楽曲の存在感」から生まれたものではなく、「リアムのヴォーカルも含めたバンド全員が作り出す音」から生まれたもので、そこに感慨深さを感じずにはいられなかった。それは、彼が「オアシスの呪縛」から抜け出したことの祝福でもあり証明でもあるからだ。そして本編ラストは、そんな祝祭的な空気と、全力シンガロングによるカタルシスの中、煌びやかに鳴り響きいた“Champagne Supernova”からの“Live Forever”。最高だった。美しかった。

まだ終わりたくないファンから当然の如く起こるアンコールの要求。「リーアム!」コールから「Chanpiones chanpiones ole ole ole♪」とマンC・チャンピオン・チャントへと移行!これでリアムが気を良くしたかは知らないが、再びバンドメンバーと一緒に再登場。そこから披露されたのが、何とジミヘンの“Are You Experienced?”!バンドメンバーの多さから来る圧倒的な重厚感も最高だったが、それよりも個人的に感動したのは、リアムが“Are you experienced?”と歌った時のリバーブ感。カバーとしてはまだまだ未完成な感じはしたが、将来的に“I Am the Walrus”や“My Generation”のようにラストの曲の定番になる可能性もあるんじゃないかと思うと、楽しみでしかない。

この夏のステージでリアムはソロとしての格がさらに上がったことを証明した。それは既にネブワース公演(映画『LIAM GALLAGHER : KNEBWORTH 22』)で証明されていたとは思うが、実際生で体感するのとはやはりわけが違った。感情的な言葉で表すならば、「ソロ(リアム・ギャラガー・バンド)最高!」「けど、もちろんオアシスも最高!」「だからどっちも演るぜ?だってお前らも聴きたいだろう?!」。そんな感じ。
それはすなわち、今のノエルと似たスタンスになったのでは・・・という理解に通ずるのだが、ノエルとリアムでは決定的に違う点がある。それはノエルが「ソングライター」であるのに対し、リアムは「シンガー」であるということだ。それはパフォーマンスにも表れていた。例えば、サビを全てオーディエンスに委ねるシーン。ノエルの場合は「オアシスの曲は俺の曲でもあり皆の曲でもあるからサビは皆が歌ってくれ」だが、リアムの場合は「俺はバンド(ファンも含む)やってるんだから一緒に歌おうぜ」と言う点で違うような気がするのだ。

つまり何が言いたいかと言うと、ノエルはノエルのソロ道を確立して、リアムもまた自分のソロ道を確立した、と言うこと。そのシンプルな事実が、ファンが期待するところのオアシス再結成の可能性にどう影響していくかはわからないが、来るかもしれないオアシス再結成(来ないかもしれないけど)のタイミングで2人ともアーティストとして「最高」でいてさえすれば、いつか答えは出るのではないだろうか。そんなことを思う単独公演だった。

<セットリスト(ライターメモ)>
01.Fuckin’ in the Bushes (Oasis self-cover)
02.Morning Glory (Oasis self-cover)
03.Rock ‘n’ Roll Star (Oasis self-cover)
04.Wall of Glass
05.Shockwave
06.Better Days
07.Stand by Me (Oasis self-cover)
08.Roll It Over (Oasis self-cover)
09.Slide Away (Oasis self-cover)
10.More Power
11.Diamond in the Dark
12.The River
13.Once
14.Cigarettes & Alcohol (Oasis self-cover)
15.Roll With It (Oasis self-cover)
16.Wonderwall (Oasis self-cover)
17.Champagne Supernova (Oasis self-cover)
18.Live Forever (Oasis self-cover)
– Encore –
19.Are You Experienced? (The Jimi Hendrix Experience cover)

Text by Shuhei Wakabayashi
Photo by MITCH IKEDA