より肉薄して感じられたバンドの生々しい躍動感
2018年の『SONICMANIA』以来8年ぶりとなるマイ・ブラッディ・ヴァレンタイン(以下MBV)の来日公演が、大阪のなんばhatchからスタート。大阪公演にいたっては13年ぶりということで、待ち焦がれた熱気が感じられたツアー初日の様子をレポートしていきたい。
定刻から15分ほど経ち、4人のメンバーにキーボードやギターをプレイするサポートメンバーを加えた5人が登場した、この日のなんばhatch。ビリンダ・ブッチャー(Vo / Gt)が「こんにちは!」と日本語で挨拶すると、ケヴィン・シールズ(Vo / Gt)も帰ってきたぜとばかりに歓声に応え、会場は和やかなムードに包まれる。”I Only Said”〜“When You Sleep”と、稀代の名盤『Loveless』から立て続けに披露すると、コルム・オキーソーグ(Dr)とデビー・グッギ(Ba)の高出力なリズム隊がまず耳を捉える。一方で、ケヴィンとビリンダは伏し目がちに淡々とした佇まいのままギターをかき鳴らし、その静かな立ち姿がかえって目を引く存在感を放っていた。
MBVのライブといえばとかく轟音がフィーチャーされがちだが、この日は音の手触りが際立って感じられるパフォーマンスだった。小気味のいいビートが通底する“New You”では、ケヴィンのトレモロがかったギターサウンドのテクスチャーが心地よく、たびたび入るカッティングも光る。よりアグレッシブな“You Never Should”や、ギターのフレージングが映えていた“Honey Power”、ケヴィンがアコギに持ち替えた“Cigarette in Your Bed”でも、堅実なプレイに裏打ちされたバンドのダイナミズムをしっかりと味わう。こうした感触は、音量に圧倒される状況では見逃していた部分かもしれない。


“Only Tomorrow”では2回やり直すなど、ライブ中5回も演奏を仕切り直す場面があったこの日のMBV。ツアー初日なこともあってか苦心している様子は伝わってきたものの、歓声もどこ吹く風でオンマイクのまま打ち合わせるなど、どこかひょうひょうとしたケヴィンの立ち振る舞いが印象的だった。“Come in Alone”や“Only Shallow”も、アルバム音源がコンプで綺麗にまとまっているのと比べると、ライブではあらゆる方向に尖った表情を見せ、チリチリとしたディストーションの質感や、少しルーズなタッチもそのまま味になり、ライブ感が一気にほとばしる。ケヴィンのつんざくようなフレーズとビリンダのざっくりとしたストロークが絡み合い、ギターロックさながらの熱情がフロアに広がっていた。
アコギを駆使したネオアコ風の爽やかさが漂う“Off Your Face”に続き、“Thorn”と“Nothing Much to Lose”ではハードコアなアプローチを展開。向かい合いながらジャムるコルムとデビーのビートをど真ん中に据えつつ、ビリンダとケヴィンは淡々と自分のプレイに没入していく。一見アンバランスにも映る、綱渡りのようなスリリングなバンドサウンドの応酬に、思わずニヤリとさせられた展開は、この日のハイライトのひとつと言って差し支えないだろう。
途中、ケヴィンが「大阪の人は銃で“バン!”って撃つポーズをしたら、“ウッ”ってやってくれるからいいよね」といった冗談を飛ばしフロアを和ませる場面もあり、全体にリラックスしたムードが漂うなんばhatch。“To Here Knows When”では浮遊感のあるウワモノとドリーミーな歌声に身を委ねて横揺れし、“Slow”でも気だるい恍惚に浸る。全体を通してビリンダのギターストロークの余白や、ハイフレットで歌うように奏でるデビーのベースなど、弦に触れる質感を残した生々しいバンドサウンドのドライブ感が随所に感じ取れた。


そしてイントロのバックトラックで一際大きな歓声が上がった“Soon”では、ダンサブルなビートに揺られながら、それぞれが思い思いの感情を投影していく。溶け込むように後景化していく甘美なメロディに彩られた、これぞMBVなシグネチャー・サウンドを存分に堪能した。コルムもギターに持ち替えてフロントに降りてきた“Wonder 2”では、さながらジェットストリームのような音像にオーディエンスがグラインド。“Soon”ともまた異なるアプローチで、身体に訴えかけてくるMBVの奥深い魅力の一端が垣間見える。
最後は、ニューウェーヴ〜USオルタナ調のダウナーなトーンが滲む“Feed Me With Your Kiss”から“You Made Me Realise”へ。ここにきて、バンドのギアがさらに一段上がり、終盤のノイズパートであからさまに音圧が増したのは少し笑ってしまったが、満を持してブレイクして歌に回帰する瞬間の解放感はやはり格別だ。メッセージ色の薄い歌詞もぼんやりとした陶酔へと誘うMBVだが、まさに「あなたが僕を目覚めさせた」とでも言いたくなるような展開で駆け抜けていった最終盤は、思い返しても夢の中にいたような感覚を残している。
緻密で複雑なプロダクションながら、不思議とスッキリしたシンプルさも同居しているMBVのサウンド。たびたび「ラウダー!」と声が飛んだように、音量や音圧という点では(MBVにしては)抑えめに感じられたこの日の公演だが、それはこのバンドの数多ある魅力の一側面に過ぎないということに気づかされた。ツアー初日ということもあって手探りのムラっ気も感じられたが、そういった手触りも残した細部のニュアンスが重層的に折り重なっていくリアルタイムの構築美を体感するなかで、これまで意識せずに受け取っていた生々しい躍動感を、改めて全身で噛みしめることになった一夜だった。
