フジロックに刻んだ新たな表現の提示
フジロック2日目の、いや今年のフジロックの目玉であるシーアが、激しい雨がこれでもかと身体を打ちつける中グリーンステージに登場した。今宵のグリーンステージ一帯に居合わせた人全員がそのステージを驚きとともに目撃したことだろう。
噂通りに前髪で顔がほぼ覆われて表情をうかがえないシーアは、冒頭の”Alive”から終始直立不動でマイクに手をかけて歌を届ける。その歌声はゾッとするほど音源のそれを忠実に再現され、グリーンステージ一帯全域を完全にジャックしていた。
そして、スポットライトに照らされるのはシーアではなく、マディー・ジーグラーをはじめとしたダンサーたち。プロモーションビデオの世界観を現実に再現したコリオグラフィーに目を奪われた。ダンサーたちの表現だけではない。曲が持つ印象でシーア自らセレクトしているような色が映し出されるバックスクリーン(しかもステージの左右にあるスクリーンと色を異ならせることで、夢の中にいるようなサイケデリアを醸成している)、暗転した時の息づかいと不気味な呟き、そしてこの豪雨自体がライヴの演出ではとすら思えた。
オーディエンスからの歓声がひと際すごかった”Chandelier”。空を照らすグリーンの照明がオーロラのように幻想的に空を照らしていたのが印象的だった。シーアが歌ではない言葉を発したのは「I see you, Fuji. I do.」と、締めの「I love you」のみ。すべて計算し尽され、無駄なものを徹底してそぎ落としたミニマルな表現。前衛的なドキュメンタリー映画を観ているかのような、これまでに体験ことがない世界で魅せてくれたステージだった。