歴史ある街でおこなわれたフェス
東京のどこから出発するかで変わるけど、1時間半から2時間くらい電車に乗ると茨城県結城市に着く。この日は、結城の街でおこなわれる「結いのおと」というフェスのために結城駅で降りたのだ。「結いのおと」は、結城市の地元の人たちが手作りで開催している音楽フェスティバルで、ライブハウスやホールでなく、街中の施設を使って演奏がおこなわれる。
連休中なのにがらんとして寂しい駅前から、古い蔵が並ぶ通りを歩き、フェス会場のひとつである神社へ。そこで受付をおこない結城の街へ。結城の街は駅前より少し離れた城下町がかつて栄えていて、フェス会場もその古い街並みも楽しめる区域に点在している。端から端まで10分くらいである。ライヴ会場の周りには飲食の出店もあり、フェス感は十分にある。
まずはざっと会場を巡ってから、武勇酒造という酒蔵近くのバスケットコートみたいなところに建てられた仮設ステージでmacico。ヴォーカル、ギター、キーボードの3人組で、サポートとしてベースとドラムが参加している。ソウル/R&Bの色が濃く、ゆったりと踊れる洗練されて巧みな曲作りが印象に残る。天候は安定してないので小雨が降ったり曇ったり日が差したり目まぐるしいけど、安定した演奏を聴かせてくれる。予備知識なくても楽しめるフェスにしっくりくるバンドである。ヴォーカルの出身が近いようで地元トークもありつつ、親しみやすさもまた魅力なのだろう。
「つむぎの館」という結城紬のミュージアムの中庭もライヴ会場になっていて、その周辺にもケータリングがでている。そこでカレーを食べながら、水曜日のカンパネラの音を聴く。武勇酒造に戻りTENDRE。メンバー全員着物を着て登場。このあたりで雨が激しくなったり弱まったりと、ステージも機材をシートで保護しないといけない状態に。そんな状況でも、途中から雨も止んで心地よい空間を作り上げていた。
つむぎの館でやっているラッパーのC.O.S.A.を少し覗いて、武勇酒造のサニーデイ・サービスを観る。かなりお客さんも入っていた。「恋におちたら」でスタートする。この街でおこなわれるフェスで聴くにふさわしい曲だった。続く「江ノ島」との2曲で柔らかいライヴの始まりを作る。「夜のメロディ」でゆったりと踊らせて、「花火」で再び柔らかい時間になってから、「パンチドランク・ラブソング」「春の風」とアップテンポになり、「セツナ」で曽我部がギターをかき鳴らし、ベースの田中、ドラムの大工原の3人がぶつかり合う激しさをみせて、「青春狂走曲」で締めくくるという最高の選曲だった。雨が降ったり止んだりという天候も、このころには雲の中から夕日が差してきた。
その夕日の中でアンコールを求める拍手が大きくなり、再びステージに現れて「白い恋人」。ゆったりとした街にサニーデイ・サービスの歌と演奏が溶け込んで、極上の空間を作っていた。
この後も夜に「結いの宴」というプログラムがあり、翌日は1日中第2部としてフェスが続くけど、自分たちはサニーデイ・サービスで終わりで帰路についた。
今回で9回目となる「結いのおと」は、規模と出演者と観客がちょうどいい塩梅で、ストレスなく心地よかった。5月の連休中には他に大きなフェスもあって、それらも魅力的だったけど、小旅行も兼ねて少し遠い街にいくのもよいのではないかと思った。「晴れた日の朝には君を誘ってどこかへ行きたくなる気分になったりする」とサニーデイ・サービスの「恋におちたら」の歌いだしにふさわしいフェスだった。