SXSW 2023 Report それぞれが未来を創る場所

毎年2月に差し掛かると、そわそわして落ち着かなくなってくる自分がいる。そう、翌月3月にはSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)があるからだ。オースティン・バーグストロム国際空港に降り立つと、手荷物引取り所で出迎えてくれるギターのオブジェにはじまり、毎瞬体験する驚きと発見、世界中から集まってくる人たちによって創り出される喧噪の中で包まれる何とも表現しがたい多幸感。音楽を愛する人たちにとってすべてがあると言っても過言ではない場所がSXSWであり、その開催地であるアメリカはテキサス州のオースティンだ。

私は2019年から彼の地を訪れていない。そんな中、今年参加した3名の方へのインタビューをする機会をいただいた。しかも、その様子を動画で撮影するという。インタビューはトータル1時間以上におよんだのだが、時間の関係で削らざるを得なかった。補足の意図も込めて記事としてここに残しておきたい。動画とともに、来年SXSWへの参加を検討される方の一助になれば幸いだ。

出演者プロフィール

・ピーランダー・イエロー
ピーランダー星のZ地域出身にして、オースティン在住。オースティンの名物バンドPeelander-Zの首謀者として、毎年のSXSW出演はもちろんのこと、世界中で通算1600本以上のライヴを繰り広げている。絵描きとしても有名で、グーグルのオフィスの壁やフードトラックへのペイント、住宅の壁画など全米で多数手がけている。

・早川哲也
1999年に初参加し、SXSWに足を運び続けている生粋の音楽ファン。2001年にDas Bootのメンバーとして、Peelander-Zのサポート・ギタリストや現地ミュージシャンとのセッション参加など、ミュージシャンとしての出演歴を持つ。

・森リョータ
写真撮影/映像制作会社「CYANDO LLC.」の代表を務めるフォトジャーナリスト。初参加の2004年来、SXSWを日本人で最も多く取材している一人。フジロック速報WEBサイト「FUJIROCK EXPRESS」のフォトグラファーの統括でもあり、本メディア「LIM PRESS」の運営も手掛けている。

SXSWとは?

SXSWは、アメリカはテキサス州の州都オースティンで、毎年3月中旬に開催されるインタラクティブと映画、音楽を軸とした世界最大級の複合見本市だ。コメディやゲームに特化したイベントもある。

SXSWは1986年に始動し、第1回目が1987年に開催された。その後、毎年拡大の一途をたどってきたものの、2020年は新型コロナウィルスの蔓延によりキャンセル、2021年はオンラインのみの開催。2022年と、今年2023年はオースティン現地とオンラインのハイブリッドでの開催となった。

ここで取り上げるミュージック・フェスティバルは、今年の3月13日から18日に開催され、オフィシャルのみで総勢2000を超える有名、無名、多種多様なジャンルのアーティストやバンドが、ライヴハウスはもちろん、大学の校庭やアパレル店内、教会、駐車場から廃墟に至るまで街中ありとあらゆる場所で連日連夜ライヴを繰り広げた。「ライヴ音楽の都(Capitol of Live Music)」と呼ばれるオースティンを思う存分に味わうことができる、音楽ファンにとってたまらない、音楽を愛するものによる音楽を愛するもののための“場”なのだ。

今年のSXSWについて

3人の話から、パンデミックの前後で大きな変化が生じたことを感じた。早川氏の話にも出てきたような、再開発により大きなビル群が増えたとか、お店やベニューの移り変わり、SXSW来場者に漂うハイソ感など。オースティンは全米でも有数の成長都市と聞いてはいたものの、世界がコロナによる打撃を受けたにもかかわらず、ここに足を運ぶことができている人たちはある種の経済的な余裕があればこそということなのかも知れない。そして、全体的な印象として今年は来場者も少なく、おとなしめだったという感想からも、まだまだ世界が回復の途上にあるということがうかがえる。

SXSW、すなわちライヴ!今年観たアーティスト・バンドについて

もう羨ましいったらない。3人の嬉々とした言葉から飛び出す、数々のライヴ体験談はどうだろう。いやがおうにもテンションを上げられてしまった。森リョータが観た、Balimaya Projectは西アフリカのマンデ音楽とジャズが融合した軽快なビートが心地よいし、The Scratchなんてアイリッシュとメタルの強靭なグルーヴときた。盛り上がらないわけがない。どれも「ライヴを観たい!」と思わせられるアクトばかりだ。早川氏がベストアクトと挙げたDaniel Romano’s Outfit、実はSXSWオフィシャルの出演者ではない(C-Boy’s Heart & Soulで開催された『SoCo Stomp!』フリー・イベントの屋外ステージに出演)。SXSWの開催期間中は昼夜を問わず、数え切れないほどの無料のショーケースが至るところで開催されていて、仮にSXSWオフィシャルのリストバンドやバッジ(首から下げる入場パス)を購入していなかったとしても十分に楽しむことができる。動画には収めきれなかった3人が観た一押アーティストの情報も以下に示しておく。また、Spotifyのプレイリストも作ったので今年のSXSWの世界観を楽しんでいただけたらと思う。

オースティンの食事事情と訪れたいレストラン

オースティンで食に困ることはない。米テキサス州らしいステーキにBBQ、アメリカンなハンバーガーにピザ。メキシコ料理店も多い印象だし、中華にタイ、ベトナムといったアジア系から日本食もラーメンまで何でもござれだ。特に昼の無料パーティーではフリーフードも多く提供されていたのだが、ここ数年間はあまりなくなったようだ。かつてはSXSWに来たらフードは買うな!とアドバイスを受けたことがあるくらいなのだが。いずれにせよ、オースティンを訪れたならぜひ食も楽しんでほしい。3人が提供してくれたおすすめレストランリストも以下に掲載しておくので、来年足を運んでみてはいかがだろうか。

SXSWに参加するにあたって

あなたが音楽好きなら、音楽で何かを引き起こしたいと目論んでいるなら、SXSWに参加して損はないと断言できる。この期間にただオースティンに行くだけでも十分に楽しめるのは間違いないが、3人の話から事前の備えが何より大事だと分かるだろう。事前準備の回答としてピーランダー・イエローからまさか「英語」という真っ当な回答が来るとは思わなかったが、事実その通りだ。現地ではたくさんの出会いや繋がりを作る機会がある。いざという時にコミュニケーションがいかにできるか、自分をPRできるかが重要なのは言うまでもない。来年のSXSWに向けて、自らの英語力をあらためて強化するきっかけとしてはいかがだろうか。また、あると便利な物としてイエローは「自転車」のことも言っていた。SXSWは、オースティンの街全体でやっているようなイベントだ。バスやタクシー、電動キックボードなど色々と交通手段はあるとは言え、いつでも使える自転車があれば快適に過ごせること間違いなしだ。で、「折りたたみ自転車を持ち込む、もしくはオースティン現地で買って、帰りに売って帰ればいいだろ」とのこと(盗難対策は入念に!)。そして、3名全員の見解が一致したのが、SXSWに出演するアーティストの情報はSpotifyのSXSWの公式プレイリストを活用してしっかり事前にチェックしておくということだ。何を観るのか、何をするのか、目的を持ってSXSWに飛び込んでほしい。その上で現地の生情報を活かせるし、シークレットギグやアーティスト自身が提供しているパーティーなどへの参加も挑戦できるというもの。備えあれば患いなしだ。

あなたにとってのSXSWとは

早川氏にとって、SXSWは多くの友人や繋がりを産んでくれた「里帰り」のような場であり、森リョータにとっては「非日常を楽しめる場所」だ。体験した人たちそれぞれの多種多様なSXSWがあるのは言うまでもない。自分がグッと来たのは、赤坂陽月のライヴをオフシャル会場の教会、Central Presbyterian Churchで観たイエローの一言。「人種も超える!国境も超える!もちろん宗教も超えるやで!その瞬間はみんな、赤坂さんの作った音楽を中心にひとつになった」。SXSW期間中にオースティンを包んでいる多幸感の理由がこの一言に恐縮されているのではないだろうか。

そして、来年に向けて

来年のSXSW 2024への道はもうはじまっている。イエロー曰く、SXSWはこの1年間自分が何をしてきたかが問われる場であり、そして未来を見つける場だという。来年のSXSWに行くと決めて、新しい動きを開始する絶好の機会かもしれない。何事もたった今の行動からはじまるのだ。

今年観た一押しアーティスト・バンド

ピーランダー・イエロー
Yogetsu Akasaka
Venus Twins
Otoboke Beaver

早川哲也
Daniel Romano’s Outfit
Hermanos Gutierrez
Black Angels
The Shootouts
Ray Wylie Hubbard
Jaime Wyatt
John Doe Folk Trio
Mylon Elkins

森リョータ
Blondshell
The Scratch
Dream Wife
Balimaya Project

オースティンのおすすめレストラン

ピーランダー・イエロー
East Side King
Franklin Barbecue

早川哲也
Micklethwait Craft Meats
Casa Chapala
Veracruz All natural

森リョータ
Zilker Brewing Co.
Hold Out Brewing

現地速報インスタレポ

#sxswlimpress

Text by Takafumi Miura
Photo by Ryota Mori