フジロック’18 リムプレス座談会 Part 1

フジロック新章の幕開け

今年のフジロックが終わって早1ヶ月が過ぎたものの、まだまだ余韻に浸っている方も多いことだろう。フジロックが終わった週末に、リムプレスのライター3名で集まって、音楽に焦点を当てた座談会を開催し、あれこれ自由に語り合った。共通の見解として出てきたのは、今年のフジロックが彩った音楽には、今の世相を象徴するかようなドンピシャなまとまりを感じたということ。同感の方も多いのではないだろうか。それがどこから来たのか、そしてフジロックが今年を境に新しいチャプターに突入したことを感じさせるほどのインパクトある3日間だったか、ということをお伝えしたい。

ラッパーが今のロックスター

まず、特筆すべきはグリーン・ステージのヘッドライナーのうち2アーティストが、ヒップホップ・アクトだったということだ。ビルボードやSpotify、Apple Musicのチャート上位をラップが占拠し、アメリカで今もっとも聴かれている音楽ジャンルがロックからヒップホップ/R&Bに取って変わったと米経済誌「Forbes」などが取り上げていたのは記憶に新しい。自身の大ヒット作“rockstar”でもって世にその事実を示したポスト・マローンと、2018年ピュリッツァー賞の音楽部門を受賞した時代の牽引者のケンドリック・ラマーの二人が今、このタイミングでフジロックに出演した事実が奇跡だ。圧倒的なリリックのスキルで押す正統派ヒップホップのケンドリックと、ジャンルのボーダーをとっぱらって自由に展開するポスト・マローンというヒップホップのメインストリームの2つの大きな流れや、PUNPEEと5lack兄弟をはじめお茶の間にも浸透している日本語ラップシーンなど、今のヒップホップの多様性や広がる世界を強く感じることができた。詳細は今年のフジロックをヒップホップ面から掘り下げた記事(ヒップホップの多様化をとらえたフジロック2018 )で確認してほしい。

N.E.R.D | Photo by Ryota Mori

言い分のある人生

今を生きる表現者たちの主張ある生き様を感じられたのも今年のフジロックの大きな特徴のひとつと言えるだろう。前出のケンドリック・ラマーは黒人による人権運動である「ブラック・ライヴズ・マター」ムーヴメントの先頭にいる人だし、N.E.R.Dも最新作『No_One Ever Really Dies』におけるケンドリック・ラマーのラップを配した“Don’t Don’t Do It”では、警官によるキース・スコットという黒人男性銃殺事件にインスパイアされ制作したことを公言している。フィッシュボーンはゲットーにおける実態を常に歌ってきたし、パーケイ・コーツも新譜『Wide Awake!』は今のアメリカに対する怒りで満ち溢れていた。パンツ一丁になって圧巻のパフォーマンスを繰り広げたザ・フィーバー333も、自分たちの音楽を「これから起こる新たな革命のサウンドトラック」と位置づけ、‟Made An America”で現代アメリカに潜む欺瞞を叫んでいる。日本勢も負けてはいない。フジロックの箱バン、ルート17・ロックンロール・オーケストラでは、仲井戸麗市がボブ・ディランの“Hurricane”を日本語バージョンでカバー。オリジナルで歌われている殺人の冤罪で投獄されたボクサー、ルービン・ハリケーン・カーターの状況を、狭山事件や足利事件などの日本で起こった同じことに置き換えて歌ったのだ。MONGOL800は、”himeyuri~ひめゆりの詩~”で「平和と呼ぶには遠く 歴史にするには早く」と晴れ渡った空の下、軽快なパンクチューンに乗せて沖縄の現実を訴える。ドナルド・トランプ政権誕生以降の世界に蓄積された不満や怒りが表出していると言えるのではないだろうか。
そして、イヤーズ&イヤーズのオリー・アレクサンダーや、サーペントウィズフィートといった、自らゲイ、クィアといったセクシャルマイノリティーであることを公言しているアーティストの存在も忘れてはならない。イヤーズ&イヤーズのステージを観ていて、オリーの「これが自分なんだ!」という自由でオープンな主張が、ポップな音楽性と彼の可愛らしい存在も相まってファンに温かく受け入れられているのを感じた。

PARQUET COURTS | Photo by Ryota Mori

インスパイアード・オリジナリティ

苦し紛れに「インスパイアード・オリジナリティ」なるキーワードを創作したが、要は吸収した様々な影響を咀嚼し、自分たちの音に昇華しているアーティストの出演が目立ったということを言いたい。今はストリーミング時代の真っ只中。音楽という情報が氾濫している分、インスパイアを受けまくる環境にあり、「ポップ」、「ロック」、「ヒップホップ」、あらゆるジャンルの垣根を越えて巧みに取り入れている。アフロビートを取り入れて次のレベルへ進んだヴァンパイア・ウィークエンドしかり、どのジャンルにも形容できないやりたい放題のステージが楽しかったマック・デマルコしかりだ。2018年の音楽シーンの台風の目であるスタークローラーやスーパーオーガニズムといった若手勢が、それぞれの在り方から他の誰でもない唯一無二の音で会場をガンガンに盛り上げたことは、今年のフジロックを象徴している出来事と言えるだろう。

STARCRAWLER | Photo by Ryota Mori
SUPERORGANISM | Photo by Ryota Mori

フジロック2018を包み込むディランという存在

ボブ・ディラン。この人がフジロックに出演したという事実の重大さを取り上げないわけにはいかないだろう。今年のフジロックに出演した全アーティストが直接的ではないにせよ、ディランの影響下にあることは間違いない。今年で55周年を迎える「ワシントン大行進」にも参加し、公民権運動をミュージシャンの立場から牽引して時の人となったことはあまりにも有名。自国アメリカのルーツ音楽への深い愛と、比類ない圧倒的な声で、デビューから今に至るまでその時々の自分が真摯に感じたことだけを言葉に込めて自由に表現してきた。ポスト・マローンも‟Subterranean Homesick Blues”に最大の衝撃を受けて、ラップに目覚め、ジャンルの境界を飛び回る今のスタイルに至ったことを公言している。上に述べた「ラッパーが今のロックスター」、「言い分のある人生」、「インスパイアード・オリジナリティ」のすべてにリンクする今の音楽表現の土台を創ったのがディランだ。今年のフジロックのラインナップがこれまでにない新しさがありつつも、ドンピシャなまとまり感があるのはディランがいたからに他ならない。ディランのフジロックでのライヴに対する感想は人それぞれのはずで、それでいい。ディランの出演によって、世界中からあらゆる世代の音楽ファンがフジロックに集ったという事実が重要だ。国境を越えて、老若男女が混ざり合えばそれだけで新しいフジロックの可能性が花開くのだから。フジロックが今年を境に、新しいチャプターに入っていくように思えてならない。

尽きない話題…

今年のフジロックを振り返っての話題は尽きるところを知らない。スクリレックスのステージに登場したYOSHIKIに対する拍手喝采の歓迎ムードや、MISIAの巧みな歌に諸手を挙げて絶賛している様から、フジロックが当初の洋楽を聴きに行く場から20数年を経て日本のアーティストの音こそ聴きに行く場に変わったことを感じたし、イヤーズ&イヤーズ、オデッザやチャーチズに見られるようなシンセで打ち込んだ音に生ドラムが入るというバンド形態の変遷も見て取れた。コンピューターで何でも表現できる時代になり、技術がある程度成熟した今になって、ドラムマシンに置き換えられ最初に削られたドラムが復活し、逆にかつてあれだけ目立っていたギターの役割が低下していることが興味深い。そして、今年のフジロックに至る源流は、2013年のフジロックにあるのではとの見解まで出てきた(フジロック’13 ラインナップ)。冒頭で述べた3つの切り口にはまるアーティストが軒を連ねているし、スクリレックスがホワイト・ステージのトリを、ケンドリックがトリ前を務めていた。この位置にいたアクトが今年は一気にヘッドライナー的存在にまで登って来ていることは、未来のフジロックへの示唆のように映るのだが、いかがだろうか。

YEARS & YEARS | Photo by Ryota Mori

皆さんのフジロック2018はいかがだっただろうか。リムプレスではあくまで音楽に焦点を当てたが、今年のフジロックから全方位的に多くのことを語り合い、学ぶことができる。フジロック当日ではない日々をどう過ごすか、来年に向けて各自がそれぞれの場所でどう生きていくかということ、それこそが何より大切だ。今年も無事フジロックが開催され終幕できたのは、日本が平和だからこそ。そのことを噛みしめ、フジロックというかけがえのない場を、深い音楽愛と最高のステージで彩ってくれた全出演アーティストの皆さんに敬意と感謝を表しつつ筆を置くことにする。

<追記>
各ライターが座談会の場で大いに気炎を吐いていた、フジロック2018のベストアクトについては続編の「フジロック❜18 リムプレス座談会 Part 2」にまとめる予定だ。

Text by Takafumi Miura
Photo by Ryota Mori