齋藤允宏のフェスあれやこれや

Glastonbury Festival 2017.06.21 – 25

初めてグラストンバリーの事を知ったのは高校生の時に観たジュリアン・テンプルによるドキュメンタリー映画。当時バンドを組んでいた自分にとって、そこに映っていた大勢の観客と巨大なステージで派手なパフォーマンスをするミュージシャンに目が釘付けになったのをよく覚えている。あれから10年が経って、とうとう今年初めて訪れる事が出来た。

一般ゲートが開く水曜日の前日、火曜日の入場を目指し緑豊かなイギリスの田舎町を車で走っていると無数の巨大な旗が見えてくる。木々の間からちらちら見えるたび、本当にグラストに来たんだという実感が湧いてくる。厳しい手荷物検査を通って会場に入ると、すでに大勢の人がこの中で働いていて、この日はスタッフだけのパーティーが開かれているというので夕食を終えてから早速行ってみることにした。テントからでも灯りが見えたのですぐ着けるかなと思ったが歩けど歩けど一向にたどり着かない。もうほとんど迷子に近い状態で結局2時間ほど彷徨いやっとのことでたどり着くと会場はかなり盛り上がっていて、明日も仕事なんでしょう?とツッコみたくなるほどハメを外してる人たちで溢れている。爆音でテクノからポップスまで何でもかけてくれるDJに楽しくなって結局自分もかなり深い時間まで遊んでしまった。

翌朝、ヘリコプターの音で目が覚める。どうやら会場の外の道路が入場待ちの車で大渋滞らしく、その光景を報道ヘリが撮影しているのだそう。昨晩どうやってテントに戻ってきたのかいまいちハッキリしないけど、とりあえず撮影前に一度シャワーを浴びることにした。テントを張ったホスピタリティ・エリアには24時間使える個室のシャワー室が並んでいてそのほとんどはお湯まで出てくる。グラストはシャワーなんて無いと聞かされていたので、これは嬉しい。何せ今年は記録的な暑さらしく、立っているだけで汗が止まらない。これで一週間はちょっとキツイなぁと思っていたところにシャワー、しかもお湯まで出るなんて。さっぱりしてからカメラを持って散策し始めると、大量の荷物を担いだり紐で縛って引きずったりしてキャンプサイトを目指す人達が目に入る。こっちの人達が使うテントはとにかくデカいか、極端に小さい。そして張り方がかなり適当。ペグを全然打っていないテントもそこら中にある。でもそんなことあまり気にしていないみたいで、テントが壊れても汗びっしょりになりながら荷物を運んでいてもみんな本当に楽しそうに笑っている。きっとここに来ることを一年間、もしかしたら何年間も待ちわびていたんだろう。崩れたテントの前で半裸になって遊んでいる彼らからは意地でも楽しんでやるという気迫さえ感じる。会場は時間が経つにつれてどんどん人が増えていき、木曜日にはもう何処もかしこも人で溢れかえった。翌日からはライヴの撮影が主になってくるので、この日は出来る限り歩いてまわった。笑っちゃうくらい大量の酒を飲んでるおじいさん、コスプレをして練り歩いてる集団、会場中に立っている巨大な旗によじ登る若者、立ち小便をしている男を見つけては大声で罵倒して止めさせてまわっている女性、持ち寄った楽器でセッションをしている人たち。歩けば歩いた分だけ色々な人たちに出会う。目に入る人全員が魅力的で、焼け付くような暑さの中でひたすら声をかけて写真を撮り続けた。日が暮れる頃、会場の奥にある塔に登ってみるとグラストの全景を見渡す事ができた。このフェスが如何に大きいか、話では何度も聞いていたけど実際にこの目で見るとフェスというよりは街にしか見えず、有り得ないくらい巨大なものだった。

金曜日になりライヴが本格的に始まると24時間何処にいても音楽が聴こえてくるようになった。一番大きいピラミッド・ステージからタイムテーブルには載っていない小さな場所まで、会場に無数に存在するステージで繰り広げられるライヴはどれもクレイジーで最高なものばかりだし、何もなくても誰かが勝手に歌いだせばそれがやがて大合唱になっていく。フェス中、何故かホワイト・ストライプスの「セブン・ネイション・アーミー」のギターリフのメロディを合唱する人がたくさんいて、土曜日に労働党党首のジェレミー・コービンが大観衆を前に演説をしてからはリフのメロディに合わせて彼の名前を連呼する光景をよく目にした。

広い会場にはボランティア含め本当に大勢のスタッフがいるけれど、彼らの活き活きと働く姿が印象に残っている。みんな本当に気さくで、拙い英語を話す自分に対しても親切に対応してくれる。日本のイベントではこんなに楽しそうに働く人たちはなかなか出会えないなあと思い、次第にアーティストではなくセキュリティ・スタッフを撮りにステージに行くようにもなった。任された仕事はしっかりこなしながら、自分自身も楽しんでいる姿はとても素敵だ。最前列の客と記念撮影したり、BGMに合わせて踊っていたりとグラストの自由気ままな雰囲気はこの人たちが作っているのかもしれない。

金曜から日曜までは本当にあっという間。連日昼からライブを撮り始めてヘッドライナーが終わった後は明け方まで会場を歩きまわって写真を撮り続けた。この時期のイギリスは極端に夜が短いので遊んでいるとすぐに朝がやってきてライヴが始まる。ろくに眠れない毎日だったけど、寝るのも惜しいほど楽し過ぎてずっと動き回っていた。

長くなってしまったけれど、今回初めて経験したグラストンバリーで一番感動したことはここに来る大勢の人たちがもつ熱量の高さだ。一般の客もスタッフも、ここにいる全員が一年のうちの数日間自由を感じられるこの空間を全力で楽しもうとしていて、そういう人たちが何十万人も集まるからこそ、あの異様なまでの熱気が生まれているのだと思う。 今の時代、写真や映像でいくらでも情報を手に入れる事が出来るので想像と全然違うという事はなかった。けど、実際に肌で感じるとそのどれもが想像より遥かに巨大で、迫力があって、そして滅茶苦茶で楽しい事ばかり。

次の開催は2019年。この桁外れのパワーを持つモンスター・フェスティバルは音楽が好きな人には絶対にお勧めしたい。本当に素晴らしい最高の6日間だった。

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Text by Masahiro Saito
Photo by Masahiro Saito