Kenneth Andrew & the Oddities | 東京 二子玉川ジェミニシアター | 2022.01.08

デヴィッド・ボウイのトリビュートバンド『ジギー・スターダスト』完全再現

原始神母のヴォーカルを務めるケネス・アンドリューは、声質がデヴィッド・ボウイにも似ているのを生かしてデヴィッド・ボウイのトリビュートバンドであるKenneth Andrew & the Odditiesとしても活動している。2017年フジロックのオレンジカフェにも出演し、ボウイの再現度は高く好評だった。

フジロック2017レポート
http://fujirockexpress.net/17/p_3401

ボウイの誕生日である1月8日に二子玉川のジェミニシアターでトリビュートライヴがおこなわれた。ジェミニシアターは二子玉川の高島屋の裏にあるライヴハウスで着席100人くらいのキャパシティである。ほぼ満席で会場のBGMはもちろんデヴィッド・ボウイが流れている。

19時にバンドが登場した。ヴォーカルとギターでケネス・アンドリュー、ミック・ロンソン(ちょっとロン・ウッドも入っている)なギターに伊東正、ベースに山田直子、キーボードは大久保治信、ドラムが柏原克己である。大久保と柏原はピンク・フロイドのトリビュートバンドである原始神母のメンバーでもある。

まずはバンド名の由来でもある“Space Oddity”から始まる。大久保のピアノに導かれて美しいバラード“Life on Mars”。ソウル/ファンクにのめり込んだボウイ中期の“Stay”では山田がサビ前に「Stay~」とコーラスを入れるのが非常にセクシーである。続いて同じくファンク期の“Young Americans”、さらに構築された美を持つ“Station to Station”と、1975~76年のボウイを演じる。日本語のMCは柏原が務め、第一部が終了、休憩に入る。

第二部は伊東がギターをレスポールに、山田がベースをリッケンバッカーに変えて発表されてから50周年である『ジギー・スターダスト』の完全再現が始まる。

アルバムの曲順の通り、“Five Years”からスタート。『ジギー・スターダスト』は火星からきたジギー・スターダストがロックスターとして成功して没落するまでを描く。ケネスの身のこなしは映像を通じて知るジギーを彷彿とさせるものであり、衣装も「華音澄安堵流」という刺繍の入ったマントを纏ったりしてオマージュも徹底している。

デヴィッド・ボウイはルックスが人類トップレベル、年を取っても体型が崩れることも禿げることもなかった。数々の傑作を生みだし、新しいことにも貪欲、セールスには浮き沈みがあるものの、コンスタントに売れており、悪徳マネージャーから搾取されることもなく経済的に困窮することはなかった。そして少なくとも後半生は家族にも恵まれた。マーク・ボランやイギー・ポップを支援したように友情に厚く、後輩ミュージシャンからの尊敬も絶大だ。外からみる限り、非常にリアルで充実した人生であった。にも関わらず、デヴィッド・ボウイは社会から疎外された人、社会に違和感を抱く人、フリークスたちを守護する存在として居続けた。なぜそのような存在でいられたのか。成功してしまうとそれまでのファンから遊離して変わってしまうものであるけど、ボウイには80年代半ばの数年以外はそうみられることもなかった。

それは『ジギー・スターダスト』を発表したからだと思う。さらにはそのアルバムの最後“Rock’N’Roll Suicide”で「You’re not alone(あなたはひとりじゃない)」と叫び、「’cause you’re wonderful(なぜならあなたは素晴らしいから)」と歌ってくれたからだ。そのためフリークスたちの守護者としていることができた。『ジギー・スターダスト』をこうしてライヴで体験すると、デヴィッド・ボウイの1972年から現代までその思想が照射されていることを改めて感じることができる。

『ジギー・スターダスト』の全曲の演奏を終え、本編最後は”Heroes” 。「We can be Heroes Just for one day」というフレーズもまた多くの人たちを励まし、勇気づけたことだろう。本編の締めくくりにふさわしかった。

アンコールは『アースリング』から“Little Wonder”。ケネスはボウイがこのアルバムジャケットで着用したアレクサンダー・マックイーンがデザインしたユニオンジャックをあしらったコートを纏う。ドラムンベースのリズムが使われた曲なのでドラムの労働量が半端ない。こうした90年代の曲も取り上げるのがよい。

もう一度アルコールに応えて、“Let’s Dance”~“China Girl”~“Rebel Rebel”~“The Jean Genie”~“Modern Love”とメドレーで演奏される。80年代と70年代を往還してボウイの普遍性を引きだす。『The Man Who Sold the World』のいくつかあるジャケット写真のひとつにオマージュを捧げ、ケネスは何度も足を蹴り上げる。お客さんたちは、ボウイのファン、ケネスやメンバーたちのファンなどさまざまで、それぞれに湧き立つポイントがあって客席は盛り上がりをみせて終わった。

Text by Nobuyuki Ikeda
Photo by Koichi Morishima