FAN CLUB (NUMBER GIRL, eastern youth) | 東京 日比谷野外大音楽堂 | 2022.05.08

22年後の交差点

「FAN CLUBというイベント、これはですね、我々が福岡市博多区から東京にやってきた、活動の初期の時期にですね、ツーマン・イベントとしてスタートしたんですよ。まさに今、本当に久方ぶりに、20年以上ぶりに、このFAN CLUBを開催することができました。ありがとうございます」

2022年5月8日。NUMBER GIRLのライブ終盤、”OMOIDE IN MY HEAD”の演奏前。クライマックス目前の日比谷野外大音楽堂のステージで、向井秀徳(Gt/Vo)は謝意を述べていた。

この日、ゲストとして出演したのはeastern youth。かつてNUMBER GIRLはeastern youthが主催する対バンイベント、極東最前線に1999年9月と、2000年8月の2回出演している。20年後の2020年5月。極東最前線には再結成を果たしたNUMBER GIRLがふたたび登場する予定だったが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で中止となった。さらに2年が経過して、今度はNUMBER GIRLがeastern youthに声をかけるかたちで再共演が実現したのだった。

まだ明るいが肌寒い、曇天の17時。待ち侘びた瞬間まであと少し。客席は熾烈なチケット争奪戦を勝ち抜いた観客で埋まっている。ライブの模様はインターネットでも生配信される。eastern youthの3人がステージに登場すると大きな拍手で迎えられ、吉野寿(Gt/Vo)は両手でハートマークを作って、観客へ掲げる。

間合いを図るように呼吸を整えて放たれた1曲目は、”今日も続いてゆく”。田森篤哉(Dr)のパワフルなドラムが核となり、村岡ゆか(Ba)が紡ぐくっきりとした低音が、流麗なベースラインを成す。空一面を覆う雲を貫きそうにまっすぐ刺さってくる吉野の叫びと、独特の焼け付くような質感を持ったギターの重音が合わさって、野音一帯が圧倒的な爆音に包まれる。

photo by Keiko Hirakawa

ゆっくりと奏でられたフレーズから”夏の日の午後”に入ると、客席からは「待ってました!」とばかりに拍手が起こる。”砂塵の彼方へ”は、野外で聴くと清々しさがいっそう増す。王道の3曲で、ライブは幕を開けた。

吉野は、「若い頃には沢山いた音楽の仲間も一人減り、二人去り、誰もいなくなってしまいました。そして、今となってはごく稀ですけど、1年に何度か『元気にやってますか? 一杯行きませんか?』と僕に言ってくれる人が、向井ヒデノリ君ただ一人になってしまいました」と語る。

「そして、こんなふうに我々を、自らの企画に呼んでくれるということは、僕がまだ音楽をやってるってことを忘れていない稀有な人で、とても嬉しいです。ありがとうございます」

「向井ヒデノリ君はとてもいい人ですよ。心の優しい人です。冗談で言っているんじゃなくて、心からそう思っています」

吉野と向井の親交は、ファンにとって馴染みが深い。eastern youthのアルバム『ボトムオブザワールド』の収録曲、”直に掴み取れ”の向井の参加はスペシャルなものであったし、ZAZEN BOYSとeastern youth、向井秀徳アコースティック&エレクトリックとoutside yoshinoは頻繁ではないが共演を重ねてきた。吉野も向井も、ソロライブでお互いのカヴァー曲を演奏することもある。

この歳になってもまだ出会いを諦めたわけではない、と語る吉野は「今日だってこんなに人がいるんですよ? この中に、一人か二人はきっと、友達になれる人がいるんじゃねえかなって思ってますよ」と語り、拍手のなか、すぐに「いないかも」と続ける。

吉野と向井はお互いをリスペクトしつつ、決して馴れ合わない関係性を20年以上維持してきた。この日マストで演奏されるだろうと期待していた”地下室の喧騒”が始まる。吉野が向井との邂逅からインスパイアされて生まれた曲を聴きながら、eastern youthとNUMBER GIRLが22年の年月を経てふたたび交差する奇跡と、かけがえのなさを思う。

photo by Keiko Hirakawa

“裸足で行かざるを得ない”から、演奏はさらに熱を帯びていく。吉野は「右を見ても左を見ても、暴力ばかり。だいたい暴力でカタをつけようなんて、動物のやることですよ」と語る。「我々人間ですよ。だからギターがいるんですよ。暴力じゃない。暴力で戦うな、暴力と戦う」と噛み締めるように語気を強めた。背後のギターアンプの上に置かれたトルソーには、ウクライナの国旗色のCRASSの”反戦”のロゴが貼ってある。

直後の”ソンゲントジユウ”は吉野の言葉の余韻と共に毅然と鳴り、ラストの「なあ、そうだろ?」の問いかけも実感と重みをもって響いてくる。「東京に出てきてから30年、ずーっと雪が降ってますよ」と吉野が自らの心象風景を語って始まった”時計台の鐘”は、村岡のコーラスが空に広がる。”たとえばぼくが死んだら”では吉野は何度もギターを振りかざし、渾身の演奏が胸を打つ。

photo by Keiko Hirakawa

“夜明けの歌”はひんやりした空気と相まってドラマチックに響き、堂々の”街の底”で締めた。『口笛、夜更けに響く』から、最新アルバム『2020』まで、新旧の名曲を網羅した60分だった。吉野はステージ中央で一礼し、ふたたび両手で作ったハートを掲げる。青みを帯びてきた空気のなか、3人は惜しみない拍手で見送られた。

セット転換後、NUMBER GIRLのメンバー4人がマスク姿でステージに登場する。向井秀徳(Gt/Vo)と中尾憲太郎(Ba)は上下黒一色の出立ち、田渕ひさ子(Gt)とアヒト・イナザワ(Dr)、は”FAN CLUB”のロゴがプリントされたTシャツを着ている。固唾を飲む観客と、ステージの厳かなテンションがぶつかり合って、空気は静かに張り詰めている。

向井がお決まりの「福岡市博多区からやってまいりました、NUMBER GIRLです」を言い放つと、すかさず客席から拍手が沸き、「ドラムス、アヒト・イナザワ!」の声と共に、”タッチ”からスタート。重量感とうねりのあるグルーヴが野音を一気に染め上げていく。そのまま”ZEGEN VS UNDERCOVER”になだれ込み、アルペジオの切なさに胸を鷲掴みにされる。客席からの大きな発声は控えざるを得ないものの、向井の「バリヤバイ」の激情シャウトとともに、幾多の拳が上がる。

photo by 菊池茂夫 Dynasty Pictures SJK

向井は「バーカウンターは、会場の後ろの方にございます」と客席後方を指差す。ギターを爪弾きながら「鉄のように鋭い風が吹いてる、そんな季節のお話です」と語れば、中尾の硬質なベースが切り込んできて、”鉄風 鋭くなって”。高まる緊迫。暮れゆく空の下で聴く「夕暮れ時間 オレ いる 橋の上」はタイミングが計算されていたのだろうか? と思ってしまうくらいどハマりしていた。

“透明少女”で瑞々しく疾走する最中に日没を迎え、「今週のチャレンジャーをご紹介します。今週のチャレンジャーは、ナムアミダブツだぁ!」の語りと共に始まった”NUM-AMI-DABUTZ”。熱を帯びていく向井の口上。緻密に鳴っているかと思えば、縦横無尽に暴れる田渕のギターが鮮烈だ。稲妻のようなラストを迎えると、向井は「今日のサウンドチェックの後に、自転車乗って築地本願寺に行きましてね、南無阿弥陀仏をね、10回唱えましたよ」と語る。

“CIBICCOさん”から、”TATTOOあり”までの中盤5曲。混沌とした野音の底に観る者の五感がダイブしていくような、濃密な時間だ。じっくりと受け止める”Delayed Brain”から”水色革命”の軽みのコントラスト。向井が山台に立ち、イナザワのドラムを中心として轟音を炸裂させた”日常に生きる少女”や、”TATTOOあり”の狂おしいエモーション。スリリングな展開を、かすかな夜風に吹かれながら観るのがたまらない。

一方、”CIBICCOさん”の間奏で向井は田渕へにじり寄っていく。田渕が堪えきれないとばかりに背を向ける様と、向井の表情が最高すぎる。”Delayed Brain”の冒頭では「こんがらがってるIn my brain~brain~brain~」とMCに地声でディレイを効かせたり、間奏で紫のムーディーな照明のなかギターを鳴らしては「エリック・クラプトンみたいだろ?」と見栄を切り、ラストには「高中正義みたいだろ?」とトドメを刺してくる向井に、観ているこちらの情緒が忙しい。

冒頭のMCを経て、向井はeastern youthに感謝を述べた。沸き起こった拍手に「手のひらの血管がブチ切れるくらい、拍手をお願いします」と向井が言うと、野音はさらに盛大な拍手で満たされた。

photo by 菊池茂夫 Dynasty Pictures SJK

この日4度目の「福岡市博多区からやってまいりました、NUMBER GIRLです」に、この日2度目の「ドラムス、アヒト・イナザワ!」が続いて始まった”OMOIDE IN MY HEAD”。イントロで中尾が掲げた右腕を振り回して客席を煽ると、応えるように拳がガッツリ上がってカタルシスが炸裂した。怒涛のラストスパート。まばゆい光に照らされながら何度もたたみかけてくる向井の叫びと、4人が発する音の洪水に溺れそうになる”I don’t know”で本編ラストを迎えた。

アンコールで再び登場した4人。ギターのコードを鳴らした向井は「なんかこれ、思い出さん?」とおもむろにT. Rexの”20TH Century Boy”のリフを弾き始める。観客とともに笑う田渕とイナザワ、クールにうなずく中尾の姿に和む。向井は再度eastern youthに礼を述べ、”MANGA SICK”が始まると再び空気が引き締まる。イナザワの掲げたドラムスティックが軌跡を描き、きらめきのある轟音が響いて白熱した”はいから狂い”。”IGGY POP FAN CLUB”で客席が揺れる光景は壮観だった。ああ、これで終わってしまう、……終わってしまった! と思いきや、セットリストには予定されていなかったRAMONESの”I Wanna Be Your Boyfriend”のカヴァーが続いて、胸がいっぱいのまま立ち尽くすしかなかった。

演奏を終えた4人それぞれが深々とお辞儀をしながら去っていくまで、喝采は止むことはなかった。また近いうちに、NUMBER GIRLとeastern youthの組み合わせをもう一度観たいと願ってしまう。この日のライブの模様は、5月22日(日)23:59まで、ぴあライブストリームにてアーカイブ配信中だ。

photo by 菊池茂夫 Dynasty Pictures SJK

<SET LIST (eastern youth)>
01.今日も続いてゆく
02.夏の日の午後
03.砂塵の彼方へ
04.地下室の喧騒
05.裸足で行かざるを得ない
06.ソンゲントジユウ
07.時計台の鐘
08.たとえばぼくが死んだら
09.夜明けの歌
10.街の底


<SET LIST (NUMBER GIRL)>
01.タッチ
02.ZEGEN VS UNDERCOVER
03.鉄風 鋭くなって
04.透明少女
05.NUM-AMI-DABUTZ
06.CIBICCOさん
07.Delayed Brain
08.水色革命
09.日常に生きる少女
10.TATTOOあり
11.OMOIDE IN MY HEAD
12. I don’t know

E1.MANGA SICK
E2.はいから狂い
E3.IGGY POP FAN CLUB
E4.I Wanna Be Your Boyfriend


◆『FAN CLUB』ぴあライブストリームアーカイブ配信
配信チケット販売URL:http://w.pia.jp/t/fanclub/
チケット料金:¥3,000
アーカイブ配信期間:2022年5月22日(日) 23:59まで
※イベントオリジナルTシャツの購入可能

Text by Keiko Hirakawa
Photo by 菊池茂夫 Dynasty Pictures SJK (NUMBER GIRL) / Keiko Hirakawa (eastern youth)