パンと音楽とアンティーク2022 | 東京オーヴァル京王閣競輪場 | 2022.09.10

都内でおこなわれたお得フェス

『パンと音楽とアンティーク』というイベントが東京オーヴァル京王閣競輪場でおこなわれた。京王閣競輪場は土日が休みの際にはフリーマーケットの会場になることもあり、競輪をやったことのない近隣の人たちにも馴染みのある施設である。

このイベントは9月10日と11日におこなわれ、自分は9月10日の方にいった。まずは、このイベントのよかったところと改善できるかもしれないところを挙げたい。

よかったところは

・チケット代が安い

前売り券だと1日1,100円。2日で2,100円でフジロックにでるようなアーティストが観られるのでかなりお得だった。

・雨や日光の心配がない

競輪場の施設を使っているので、建物内に入ることができ、屋外には大きなテント状の日除けがあり、雨に当たってライヴをみたり、直射日光の下で開演を待つことはなかった。

・アクセスがよい

京王閣競輪場は京王多摩川駅から徒歩3分のところにあり、新宿からも電車で20分ちょっとでいけるのでアクセスはよい。

・出演者がよい

前述の通り、フジロックにでるようなアーティストが多く、このメンツでこのチケット代なの? と驚きの金額だった。ライヴについては後で述べる。

・座るところがたくさんある

競輪場なので既存のベンチの他に、主催者が用意した椅子とテーブルもあったし、建物内の2階特別観覧席が使えたので休憩や食事するときには非常に助かった。

・食べ物がたくさんある

イベント名に「パン」が入っているので、当然パンがたくさん売っていたけど、パンだけでなくケータリングカーが来ていてご飯ものも食べられる。ビールをはじめお酒もあった。

改善できるかもしれないところ

・食べ物、お酒などが早々と売り切れてしまったところもあったこと

一方、天候もよく、気温も高め、ライヴを楽しむお客さんたちが大勢きていたので、飲食の消費は激しく、ビールは早々と売り切れ、食べ物も売り切れが相次いでいた。売れ残りを嫌って多く持ってきてなかったようだ。その辺の読みは難しいのは理解できるけど。再入場ができたので、外で買ってきて消費する人もいた。店の中には14時頃に販売を再開したところもあった。

・ソフトドリンクを売ってるところが少なかった

アルコールでなく、パンに合いそうなお茶系の飲料や水、ジュースが会場内で売っているところが少なかった。ペットボトルを氷水に浸けて売ればけっこう売れたのにと思った。

・ステージが見えにくかった

主なステージは3つ。他にも子ども向けステージやDJブースもあったけど、主なステージのうち屋内にあるもの2つは、車券を発売したり払戻ししたりするスペースをステージにしていた。競輪場の施設をこのように変えるのは面白いけど、ステージに高さがないので、ステージはほとんどみえないか、頭だけしかみえなかった。ステージを観るには前のアーティストが演奏を終えたときに入れ替わりでステージ前にいくしかなかった。ちゃんと観られたのは野外のテント状になっているステージでおこなわれたカジヒデキくらい。ドミコはPAブースあたりで観たけどそれでも厳しかった。子ども向けのステージも空いた時間が長かったので、そこでもライヴができたのでは、と思った。

・ごみ箱がなかった

これは他のフェスでもあるけど「ごみは買った飲食店で引き取る、外部のごみはお客さん自身が持ち帰る」というスタイルで普段の競輪開催時に使われるごみ箱はふさがれていた。自分がいったときの「橋の下音楽祭」もそうしたスタイルだったし、そうした主催者の姿勢は理解できる。だけど、結果としてトイレに缶やコップが放置されたり、近隣のコンビニのごみ箱がごみで溢れていたのだった。やはり会場に設置した方がよかったのではないかと思った。

・会場内がわかりにくかった

どのステージがどこにあるのか、公式サイトなどにはMAPがあったけど、会場に入ってスマートフォンを立ち上げてMAPを確認しないとわからなかった。矢印で方向を示して「○○ステージ」と書いた紙が貼ってあればいいのにと思った。コンパクトな会場なので慣れれば問題ないけど、初めて足を踏み入れると迷う。また、男子トイレはメインスタンド1階にしかなかったはずだけど、それも表記してくれればと思う。2階のトイレは普段は男子用のところも女子用の貼り紙してあった。その変更自体は女性客が多いので問題ないけど、いってみて変更されたことがわかるので、あらかじめ表記しておけば迷うことはなかった。

これらのうちいくつかは2日目には改善されていたという声もあったけど、来年以降も続けるなら改善してほしいところだった。

会場の広さに対してお客さんは多かったので、このメンツと価格を維持するなら、これからも人気がでそうなイベントなんでバックスタンドも使用することを考えた方がよいと感じた。

競輪場でお祭りを――イベントレポート

客層は音楽好きの若者から初老まで幅広い。映画『花束みたいな恋をした』の主人公2人が別れてなかったら徒歩圏内だし絶対ここに来てただろうなと思った。また子ども連れのベビーカーが多かった。それと音楽とは関係なくパン好き、アンティーク好きの人もそこそこいたので、来ている人は幅広く、お祭り感はある。

先述の通り、主なステージは3つあり、「ポストカード・ステージ」はメインスタンド1階の車券売場、「アクロス・ステージ」はメインスタンド3階の車券売場、「オレンジ・ステージ」は屋外にある円形のテントだった。ロック色が強いバンドは3階、アコースティックなアーティストは屋外という配置はよかった。会場はコンパクトだし、エスカレーターも動いていたので移動も苦にはならなかった(だから会場案内がちゃんとあればもっとよかった)。

本格的に観たのはアクロス・ステージのドミコからだった。観たといってもたくさんの頭の間から、さかしたの頭しか観ていない。音は迫力あったので、ステージがみえない不満よりライヴがよかった気持ちが上回った。ドミコはブルージーでサイケデリックでロックンロールでガレージでパンク。日本のホワイトストライプスだと改めて思った。

中村一義はポストカード・ステージで観る。始まる前、リハーサルからそのままステージに居残り、ステージ前に詰めかけているお客さんたちと話をしていた。テンション上がって笑い声が多く、「パン派かお米派か」などとりとめのないことを喋る。アコースティックギターの三井律郎と2人で親密な感じのライヴを繰り広げた。ラストの“ジュビリー”、“君の声”、“キャノンボール”の3連発は、中村一義という非常に優れたメロディメーカーに生みだされた名曲だと改めて感じた。お客さんたちも盛り上がった。

屋外のオレンジ・ステージはアーティストを360度椅子が囲んでいるステージだった。そこへカジヒデキが登場する。カンカン帽、短パンに白いソックスといういでたち。でてきたときに思わず「(イメージを)裏切らないなぁ」といってしまった。カジヒデキの世界を裏切らない誠実さに溢れたアコースティックギターの弾き語りだった。映画『デトロイト・メタル・シティ』の劇中曲“甘い恋人”も演奏、初見の人にも優しい選曲だった。そしてラストは当然“ラ・ブーム~だってMY BOOM IS ME~”で締める。必殺の曲を持っている強さでオレンジ・ステージを囲んだお客さんたちの高揚感はすごかった。

アクロス・ステージでTENDOUJI。WeezerやFountains Of WayneとHi-STANDARDの中間というべき、ポップでパンクな親しみやすい音楽性でお客さんたちを踊らせる。ベースのヨシダが競輪場のコールセンターで働いたいたとのことで、特殊な環境も楽しんでいたし、お客さんたちもライヴハウスみたいなノリ方、盛り上がり方になっていた。全曲楽しかったけど、“Killing Heads”ではたくさんの手が挙がっていた。“GROUPEEEEE”で本編が終わり、アンコールを求める拍手が鳴り響き、再びバンドが登場して“HAPPY MAN”で締めくくった。

もう一方の主役であるパンは屋外やスタンドの2階にパン屋が出店していた。甘いパン、惣菜パン、サンドイッチ、天然酵母パンなどなどいろんなパンがあって、何を食べようか迷う。人気店なのか長い列ができている店もあるけど、ライヴ優先だと並ぶわけにもいかない。そんななか、甘い系とサンドイッチ系をチョイスした。さらにキッチンカーでチーズハットクを買った。それを2階特別観覧席に座り食べていると、バンクで競輪選手が練習しているのがみえて、その速さに思わず見入ってしまうのだった。

競輪場を利用してこのようなイベントをやるのは興味深いし、続けてほしいものである。今年並みのメンツであれば、またいくと思う。あと、競輪場でここまでできるなら、府中の東京競馬場で、フェス的なことができないかなと想像する。広いし、トイレとか電気とかインフラもしっかりあるし、今年でいえばローリングストーンズの結成60周年を記念した花火をやったのでそれなりに実績あるし、騒音への耐性もあるはず。競馬が開催されている土日が使えないのが非常にネックとなるけど。

Text by Nobuyuki Ikeda
Photo by Nobuyuki Ikeda