その孤独を恐れるな
4月30日、eastern youthがARABAKI ROCK FEST.23(以下、アラバキ)に出演した。フェス2日目、TSUGARUステージのヘッドライナーを務めた。
日中は曇天だったが、夕方には会場から美しい夕焼けを見ることができた。出演時間の19時20分に吉野寿(Gt/Vo)、村岡ゆか(Ba)、田森篤哉(Dr)がステージに現れる。2020年、2021年はフェス自体が開催中止となった。昨年は頭上に季節はずれの雪が降り積もるなか、観客は感染対策のために間隔をとって観ることになった。今回はステージ前に詰めかけた観客から歓声で迎えられ、”夜明けの歌”からスタート。何度もギターを高く掲げて振り下ろし、声を絞り出す吉野の姿の鮮烈さと、3人で奏でる身体に叩きつけられるような威力のある爆音には、一期一会の気迫が込められている。間髪入れずに”街の底”、”青すぎる空”へ。観客のシンガロングとともに進んでいく。ようやく2019年以前の光景が戻ってきた。
「我々eastern youthというバンドです。予報では荒天だっていう話で『またかよ』と思ったんですけど。爽やかな天気になってよかったです。去年は大変だったもんね。雪降ったから。終わってさ、『あー雪降って寒かったな。ビールの一杯でも飲みたいな』と思ったけど、店全部閉まってる。シーン。誰も歩いてない。え? フェスですよね?」
と去年の心境を語る吉野。男性客から「二度と忘れない!」と声が上がる。吉野は「ねぇ?」と応えながら
「辛い記憶の方が、乗り越えてしまうとちょっと勲章みたいな気持ちになる。今日は晴れています。でも心の中はずっと雪が降っている」
続けて演奏されたのは”時計台の鐘”。重量感のある響きと、村岡のベースラインとコーラスが紡ぎ出すコントラストが美しい。歌詞がたたえる寂寥感が、ひんやりした夜の空気とともに染み込んでくる。
「どうやって生きたっていいじゃないですか。どう転んだって俺は俺ですから」と語って始まった”ソンゲントジユウ”では吉野の歌唱はさらに激しさを増す。絶叫するようなサビと、突き刺さってくるモノローグが胸を打つ。
「ウダウダしていると(隣接するHANAGASAステージに、easterern youthの終了直後に出演する)ZAZEN BOYSが始まってしまいます。(向井秀徳の口調を真似て)『長い!』って言われてしまいますからね」
持ち時間を気にしながら、吉野は「なにを喋ればいいかなとChatGPTに聞いてみたんです」と話題の対話型AIについて話る。
AIからは『共演者に対するリスペクト』と、『明日から日常に戻られる皆さん、今夜だけは盛り上がろうじゃないか』というMCが提案されたという。
「今日出演した皆さん、そしてご覧になってる皆さんにもう一度盛大な拍手を!」
吉野の言葉と共に観客から拍手が沸き起こる。
「……と、ChatGPTが言ってました。みんなChatGPTに拍手させられた人ですからね? いいのか? そんな踊らされて。(γ-)GTPは結構自信ありますよ。数値は」
観客の苦笑いのなか、ラストは”夏の日の午後”。観覧エリアではたくさんの拳が上がって壮観だ。大団円を迎えたかと思いきや、アンコールで登場した3人へ観客から口々に「ありがとう!」と声援が飛ぶ。吉野は「こちらこそ!」と応え、両手でハート型を作って掲げると、観客も同じようにハート型を掲げる。
「無理しなくていいからね。別にひとつになろうなんて言ってないから。ひとり対ひとり。全部ひとりだから。その孤独を恐れるな」
すかさず田森のカウントとともに始まったアンコールは、”裸足で行かざるを得ない”。eastern youthを初めて見る人から、ここでの再会を楽しみに足を運んだ人まで、観客一人ひとりが「孤立無援の花、咲くばかり」の歌詞を受け止める。eastern youthがアラバキに出演するのは17回目だが、いつでも一対一で向き合うように歌を手渡していく姿勢は全くブレることがない。
<SET LIST>
01.夜明けの歌
02.街の底
03.青すぎる空
04.時計台の鐘
05.ソンゲントジユウ
06.夏の日の午後
En.裸足で行かざるを得ない
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