LIAM GALLAGHER | 東京 日本武道館 | 2018.09.13

ロックンロール・スターの覚悟

リアム・ギャラガー。約1年ぶりの来日公演は、ソロでは初の日本武道館公演。オアシス時代も含めると約20年ぶりの武道館公演になる。会場に着き、武道館正面玄関に掲げられている興行の看板を目の当たりにして、なんとも言えない感慨深さを感じたが、それを上回る期待感がどうしても隠せなかった。オアシス解散、ビーディ・アイ解散、自身の離婚を経て、新しい一歩を踏み出したソロ・ファースト・アルバム『As You Were』。そして、この日、日本武道館のステージ。そんな彼の復活ストーリーに興奮するなと言う方が無理な話だ。

会場は2階席の一部が黒いシートで覆われていたものの、ほぼ満員と言っても過言ではないい客の入り。開演前の場内BGMにはデヴィッド・ボウイやザ・ジャム、T・レックス、スレイド、そしてザ・ストーン・ローゼズと、リアムらしいブリティッシュでロックな音楽嗜好が表れていた。そんな中、開演前で座席指定にも関わらずローゼズの”I Am The Resurrection”に立ち上がって踊っているファンも居たりして、自分も含め極めて”濃い”オアシス世代のファンが会場に集まっていた。この曲の終わりとともに会場は暗転し、リアム・ギャラガーの初武道館ライブが始まった。

オアシスのライブでは恒例だった“Fuckin’ in the Bushes”を出囃子に堂々と入場してくるリアム。そしてマイクスタンドの前に仁王立ちする彼の姿を目のあたりにし、会場はオープニングから興奮の渦に包まれた。イントロのギター・フレーズが鳴った時点で大歓声が巻き起こった”Rock ‘N’ Roll Star”、がっつりフル・シンガロングが巻き起こった”Morning Glory”。序盤、王道オアシス曲で始まったこのライブ。中盤にかけては、ソロの曲”Greedy Soul”、”Wall Of Glass”、”Bold”を披露し、”For What It’s Worth”ではこの曲に込められたリアムの「みんなへの謝罪」、そしてそれでも前に進み続けようとする思いに、思わず込み上げるものを感じた。

この日のセットリストは、全体の約半分がオアシスの曲。しかも、その全てが超が付くほどの代表曲たちだ。言わずもがなリアム・ヴォーカルのナンバーワン・アンセム”Wonderwall”、ほぼオリジナルに近いアレンジに熱狂が凄まじかった”Whatever”、この日一二を争う大シンガロング大会になった”Live Forever”、そしてまさかまさかの”Be Here Now”と、全くもって出し惜しみがなかった。そして、この日、最も印象的だったのは”Live Forever”の間奏のワンシーン。ちょうどノエル・パートのギターソロが鳴っている中、映像には「OASIS」のロゴ入りマフラータオルを掲げるファンの姿が。その姿にリアムはファンを指差し、何とも言えない穏やかな笑顔を浮かべていた。その瞬間、嬉しくもあり、切なくもある、なんとも言えない気分になった。

しかし、このようなセンチメンタルに近しい感情や、この日のセットリストを見ると、この事実をポジティブともネガティブとも捉えることができる。単純にオアシスの曲をたくさん聴けて歓喜するファンもいれば、オアシスは好きだが”現在のリアムの歌”が聞きたいファンもいる。その他にも、様々な感情を胸に抱えたファンがたくさん武道館にはいたと思う。けれど、僕個人としてはポジティブな思いのほうが大きく上回っていた。それはオアシスの曲がたくさん聴けたというのが直接的な理由ではなく、この日のライブでリアムの”覚悟”を感じることができたからである。

昨今、音楽業界のメイン・ストリームはポップ・ミュージックに覆い尽くされていると言っても過言ではない。そんな中でリアムはオアシスの曲とビーディ・アイの曲、そしてソロの曲とガチンコで向き合い、堂々と力強くロックンロールを歌い上げていた。17曲中10曲がオアシスの曲だったのは、彼の”覚悟”の証明だ。オアシスと向き合う”覚悟”、個々様々な思いを抱えるファンたちと向き合う”覚悟”、そしてロックンロールを歌い続ける”覚悟”。そこにオアシスに対する感傷的な気持ちがあるかなんて今はどうだっていい。重要なのは、リアム・ギャラガーが”Rock ‘N’ Roll Star”で在り続けること。

その一方で、オアシスとの向き合い方にも変化があったような気もしている。兄のノエルは、今年のサマー・ソニックで”Don’t Look Back In Anger”のサビをオーディエンスに全てに委ねていた。そして、この日リアムもまた”Wonderwall”のサビを全てオーディエンスに委ねていた。ノエルもリアムもそれぞれのやり方でオアシスと向き合っている。近い将来、二人がどんな道を歩んでいくかは誰にも分からないが、今は彼らの進む道を、ただひたすらに信じて付いて行くだけだ。

<セットリスト>
Fuckin’ In the Bushes (Oasis cover)
Rock ‘N’ Roll Star (Oasis cover)
Morning Glory (Oasis cover)
Greedy Soul
Wall Of Glass
Bold
For What It’s Worth
Some Might Say (Oasis cover)
Champagne Supernova (Oasis cover)
Soul Love (Beady Eye cover)
You Better Run
I’ve All I Need
Whatever (Oasis cover)
–EN1–
Supersonic (Oasis cover)
Cigarettes & Alcohol (Oasis cover)
Live Forever (Oasis cover)
Wonderwall (Oasis cover)
–EN2–
Be Here Now (Oasis cover)

Text by Shuhei Wakabayashi
Photo by Mitch Ikeda