NOEL GALLAGHER’S HIGH FLYING BIRDS | 東京 東京ガーデンシアター | 2023.12.01

セカンドキャリアに突入しても、なお深化し続けるソングライターとしての矜持

ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズ(以下、NGHFB)、2019年以来の日本公演は、今年リリースされた最新アルバム『Council Skies』を引っ提げた、ポストコロナ期に入ってはじめてのライブだ。2020〜21年、COVID-19のパンデミックによるロックダウン中に制作されたという『Council Skies』は「原点回帰」がテーマになっていて、ノエルのソロキャリアを反映しつつ、その時のノエルのマインドが反映された作品になっている。「自己を振り返らざるを得ない状況に追い込まれていた状況」の中から生まれた本作は、ノエルが自宅で「今、何が起きているのか?俺たちはこれからどこへ向かうのか?」をぼーっと思いに耽りながら曲を作る─そんな状況を幼少期に過ごしたマンチェスターのカウンシル・エステート(公共住宅団地)で空を見上げながら空想に耽っていた頃と重ねられ、生まれた内省的な作品だ。そして、それが「原点回帰」という作品のテーマ、そして『Council Skies(カウンシル・エステートの空)』というタイトルに繋がっていったわけだ。そこに綴られている歌詞は、パンデミック前後で変わってしまったことから生まれた体験が元になっており、「今、人生の混乱した時期にいるからこそ、それは自分のためになるだけじゃなくて、同じ経験をしてる他の人たちのためにもなる。だから書こう。」というノエルの意志が込められた“メッセージ”がある。

ノエルの曲に“メッセージ”と聞いて、違和感を覚えるファンは多いだろう。何故ならば、ノエルはオアシス時代「俺の歌詞には意味はない」と豪語し続けていたし、実際にその歌詞を読んでみても、あまりに抽象的だったり、そもそも何が何だかわからない、みたいな歌詞が多数あった。しかし、今『Council Skies』の背景と歌詞を読んで、これまでのノエルが作った曲の歌詞を読んで、改めて思うのは、彼の歌詞に「意味」は確かに存在していて、そこにはノエル流の繊細な感情描写があるということだ。そういった部分がNGHFBになって徐々に露わになってきているのは周知の事実であり、『Council Skies』はある意味その集大成と言っても過言ではないし、ノエルのソングライターとしての現時点での集大成がそこにはあるのだ。

そんなタイミングでの今回のライブは、オアシス時代も含めたノエルのミュージシャン人生における、大きな転換期となるライブだった。それは「凄い」とか「感動した」などの、簡単な一言では語りきれないもので、だけど結論はすごくシンプルで──いかにもノエル・ギャラガーらしさが詰まった「変化」だったと思う。ここでは、そんなノエルの大きな転機を感じたジャパンツアー、東京ガーデンシアター公演について書いていきたいと思う。

NOEL GALLAGHER’S HIGH FLYING BIRDS | 東京 東京ガーデンシアター | 2023.12.01
Photo by Shuhei Wakabayashi

当日を迎えるまで、『Council Skies』が軸になるであろう今回のライブが一体どんなライブになるのか、自分の中で期待感があまりに高まりすぎて、前日から変な緊張感があった。とにかく落ち着かなくて、当日は早めに会場に向かった。すると、会場前にはグッズ先行販売待ちのファンが、平日の昼間にも関わらず、既に多く詰めかけていた。NGHFBとリアム、それぞれのライブを観に来た時のひとつの楽しみとして、「ファンの服装を見る」というのがある。今年夏に行われれたリアムの単独ライブの時もそうだったが、着ている服にファンの熱量が詰まっているのが手に取るように感じられるのが、ファンとしては凄く楽しい。ちなみにこの日は、NGHFBの新作Tシャツにフーディ、オアシス関連のTシャツ、あとはマンチェスター・シティのユニフォームやマフラータオルを身につけたファンが多かった。中にはアディダスのリアム・モデルを履いたコアなファンもいる。ちなみに激レアなアディダスのノエル・モデルを履いている人は流石にいなかった。

開場と共に入場すると、エントランスにはグッズ売り場に加え、ノエルの等身大写真パネル(二日目にはノエル本人のサインがしてあった)が立てかけられており、記念撮影目当てに長い列ができていた。そこに並んでいるファンも、グッズ売り場にいるファンも、みんな表情にワクワクが溢れている。そこには世代とか関係なくて、20代から60代、もしかしたら70代と思しきファンもいた。みんな一様に笑顔だ。こういう光景を見ると、同じファンとして、本当に嬉しく思う。

アリーナに入り、まず目に入ってきたのがスクリーンに映し出された「DJ. フィル」の巨大な文字だった。「フィル」という名前を聞いて思い出すのは、かつてオアシスの専属DJを務めていたフィル・スミス、その人だ。「え?フィル来てるの?」とステージを探してみたら、マンチェスター・シティのジョゼップ・グアルディオラ(通称ベップ)監督のパネルが飾られているという…。「ん?え?どういうこと?」僕はこの状況を一瞬で理解しきれなかったので、とりあえず席に着くことにした。ちなみに場内に流れていた曲は、当時フィルが流していたような、いわゆるUKの王道曲(オアシス、ザ・ストーン・ローゼズ、レッド・ツェッペリン、ザ・クラッシュ、ザ・スペシャルズ…など)ではなく、ザ・カメレオンズやザ・ルーム、ザ・サイケデリック・ファーズ、カースティ・マッコールなど70〜80年代のイギリスのアーティストという、フィルの嗜好がギッチギチに詰まった曲ばかりが流れていた。ちなみに、実際にこの選曲をやったのが誰かは不明である…。

NOEL GALLAGHER’S HIGH FLYING BIRDS | 東京 東京ガーデンシアター | 2023.12.01
Photo by Shuhei Wakabayashi

「DJ. フィル演出」があった時点で、何かがいつもと違う感じがしたのだが、それはライブのイントロ曲にも表れていた。まさかのドローンのインスト・チューン、“4-Minute Warning”だ。ジョン・ポール・ジョーンズ(レッド・ツェッペリン / ゼム・クルックド・ヴァルチャーズ)のこの曲、「ジョンジーはいいんだけど、その曲?」と思わず突っ込んでしまいそうになったが、そんな驚きはすぐにスクリーン演出にかき消された。

スクリーンに映し出されたのは、白地にマーブル模様の黒い“何か”。その“何か”はゆっくりと変形し、徐々に見覚えのあるタイプロゴに変わっていく。そう、それは「ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズ」のタイプロゴだ。ライブが始まる確信を得たオーディエンスから上がる大歓声の中、ノエルらバンドメンバーたちが皆リラックスした表情で入場。特にノエルからはいつも以上に穏やかな笑顔も見られ、『Council Skies』ツアーが“いい感じ”で進んでいるのが間接的に伝わってくる。今回のジャパンツアーのバンドメンバーは、ノエル・ギャラガー(Vo/Gt)をはじめ、元オアシスのゲム・アーチャー(Gt)とクリス・シャーロック(Dr)に、元オアシスのセッション・ピアニストだったマイク・ロウ(Key/Pf)、NGHFBの初期のツアーからずっとベースを務めてきた元ザ・ズートンズのラッセル・プリチャード(Ba/Cho)、前回のツアーからバンドに参加しているジェシカ・グリーンフィールド(Key/Ma/Cho)に、サポートキーボードのシャノン・ハリス(Key)と女性コーラス2名の計8人編成。ノエルが絶大な信頼を置くメンバーに囲まれたライブ、絶対に悪くなるはずがない。

NOEL GALLAGHER’S HIGH FLYING BIRDS | 東京 東京ガーデンシアター | 2023.12.01
Photo by Shuhei Wakabayashi

ライブのオープナーとなったのは、ドラムマシーンのビートから始まる“Pretty Boy”。NGHFBのこれまでのビジュアルコンセプトが混ざったような映像をバックに、ノエル流ザ・キュアーなやや影のあるメロディと、ラッセルのベースラインも相まって最高にグルーヴィーなサウンドが広がる。曲のグルーヴとノエルの落ち着きがありつつもノリもあるヴォーカルの計算されたアンバランス感がマッチしていて、テンションアップにドライブがかかる最高なオープナーだった。

曲のアウトロからシームレスで始まったのは、アルバムのタイトルトラックでもある“Council Skies”だ。アルバムテーマである「原点回帰」を感じさせつつも、ノエル新基軸のサウンドデザインが広がるこの曲は、イビサ島で生まれた曲ならではのバレアリックなフィーリングがあって、トロピカルなリズムにビートとサウンド、そして小さく揺らぐグルーヴが心地良い。そこに、緩やかな緩急のあるノエルのヴォーカルと、ジェシカたちの穏やかな女性コーラス、さらにはクリスのスティック投げ上げキャッチのパフォーマンスも相まって、どんどん気分が高揚していった。もう、最高だ。(ちなみに原曲のイントロにある「デジタル化されたゴング音(ノエル曰くプログレ)」は聴けず、クリスのハイハット・シンバルで代用されていた。少し残念だが、これはこれでアリ。)

“Open the Door, See What You Find”では、サイケデリックな映像をバックに、ザ・キンクスやザ・ラーズを彷彿とさせるメランコリックでサイケデリックなサウンドに、ノエルの伸びやかなヴォーカルと、ラッセルとジェシカ、二人の女性バックシンガーの四人による温かみのあるコーラスが美しく鳴り響く。この曲もまた「原点回帰」─ノエルが初めてギターを手にしたその時から、彼の中に存在した作曲スタイルを感じられるような曲だった。

一方、“We’re Gonna Get There in the End”は、新作の作風とは異なった曲ということもあり、アルバムのボーナストラックになった曲だが、ブリットなメロディとリズミカルなノエルのアコギのリフの作り方は、ノエルらしい作曲スタイルの元作られているので、“Open the Door, See What You Find”からこの曲の流れに違和感は全く感じなかった。そんな“ノエル印”の楽曲の連投に、オーディエンスは気持ちよさそうに体でリズムを刻み、コーラスパートでは気持ち良さそうに「Tonight! Tonight!」と叫んでいた。ノエルの円熟味が増したヴォーカル回しが堪能できるこの曲は、ノエルのキャリア史上トップクラスの“B面曲”といっても過言じゃないだろう。

続く“Easy Now”では、まるでカウンシル・エステートのような団地や古びた電波塔、8mmフィルムなどが写り込むレトロなフィルタがかかった映像をバックに、美しいメロディのミドル・テンポのロック・バラードが展開されていく。ゲムのデヴィッド・ギルモア風のギターソロや、存在感の緩急バランスが素晴らしいコーラスとオルガンの美しい音色も合わせて、そこにはまるで“The Masterplan”や“Little By Little”を彷彿とさせる空気感があり、強く胸を打たれた。アウトロのジェシカのソウルフルなコーラスと共に“Easy Now”と『Council Skies』セクションは幕を閉じた。

Photo by MITCH IKEDA

ここからはNGHFBの過去の名曲セクションだ。まずは2ndアルバム『Chashing Yesterday(以降、Chashing〜)』からライブ映えするギター・ロック・ソング“You Know We Can’t Go Back”。アップテンポなビートと重厚なサウンド、そこにノエルのドライブがかったヴォーカルが乗ることによって、曲の持つ疾走感も体感2倍増しで、オーディエンスのテンションも上がり、会場がさらに熱くなった。

続く“We’re on Our Way Now”は、ベストアルバム『Back the Way We Came: Vol. 1 (2011–2021)』に収録されている新曲で、この曲を「3rdアルバム『Who Built the Moon?(以降、Who〜)』までの作品のブックエンド」とノエルは言う。ブックエンド(≒終止符)という言葉ににふさわしく、『Who〜』までのソングライティングを集結させたようなこの曲は、ノエル王道のバラードソングで、『Who〜』風のサイケな映像をバックに、切ないメロディと、そのメロディに寄り添うようなノエルのヴォーカル、そして女性コーラスとのアンサンブルがあまりにも美しく鳴り響いた。

非常にテンポ良く進んでいった今回のライブ。ライブの時は必ずと言ってある「ファンとノエルの“雑談”コーナー」が今回はそんなになかったのだが、ここで満を辞して(?)始まった。まずはノエルコールが発生、それに対して「ようやく温まったのか?」と言わんばかりに微笑むノエル。全く止まぬノエルコールに「わかってるさ…俺が最高だってことだろ?」。…さすがの返しです、アニキ。

そんなやりとりを見て「ノエルのライブを観ている」実感に浸っている中、ラフにギターリフを刻むイントロから始まったのは、NGHFBのライブ定番曲“In the Heat of the Moment”。『Chashing〜』のリード・トラックだったこの曲は、オアシスの残り香を吹き飛ばしたような感覚を与えてくれた曲でもある。しなやかな旋律とイーヴンビートの掛け合わせが最高なノエル流ダンス・ポップ・チューンで、小刻みに踊るオーディエンス。曲の途中に鳴る鐘の音もポップサウンドの良いエッセンスになっていて、この頃からノエルのソングライティングが変わり始めたんだよな、というのをしみじみと思い出した。

Photo by MITCH IKEDA

NGHFBとしてソロデビューした頃、ノエルはインタビューで「オアシス時代はアルバムで1つの物語が作れなかった」と言っていた。それは、“オアシス”というパブリックイメージと、後期オアシスの「ソングライター複数人体制(各々の解釈で作っていたため統率が取りきれなかった)」があったことに起因している。そんな彼がソロになって解き放たれ、初めてテーマ(愛、希望、帰属)を持った一貫性のある作品としてのアルバムを作った。それがソロデビューアルバム『Noel Gallagher’s High Flying Birds』だった。同時に彼は「これからのライブ」に関して「これからは(オアシスのように)巨大スタジアムじゃなく、もっと小さい会場でやることになる。来た人に曲をちゃんと聴き入ってもらいたいってことさ」とも言っていた。ソロデビューしてから11年。「ライブに来た人に、曲をちゃんと聴き入ってもらいたい」、そんな純粋な思いが今もブレず持てているのが、改めて凄いと思うし、むしろよりソロのソングライターとして研ぎ澄まされていってるもんだから、もう感嘆の言葉しか出てこない。

そんな頃に作られた曲が、次の曲“If I Had a Gun…”だ。オアシス時代に書かれたこの曲は、結局オアシスの音には合わず世に出せなかったという経緯があるが、この曲が持つ「優しさ」や「孤独」そして「ロマンティシズム」は、NGHFBで演るからこそ輝きを放っていて、その輝きは11年経っても決して色褪せてはいなかった。次に演奏された“AKA… What a Life!”もまた同じくだった。今や当たり前となった、ノエルのダンス系トラックの原点と言っても過言ではないこの曲。疾走感のある4つ打ちダンス・トラックに、リリース当時は正直驚いてしまったが、今やNGHFBのライブに欠かせないダンスナンバーとなった。曲の持つグルーヴに迷うことなく横揺れで踊るオーディエンス。中にはシンガロングするファンもいた。そんな光景を眺めながら、2012年1月の初来日公演(東京ドームシティーホール)の時を思い出した。「新しいノエルのサウンドがファンに受け入れられてる!」という喜びを。

ノエルとマイクのみが残ったステージ。オーディエンスの昂った気持ちを落ち着かせるように、ノエルのアコギイントロから始まったのは“Dead in the Water”。『Who〜』のボーナストラックで収録されていたこの曲は、不純物ゼロのノエル節全開なアコースティックナンバーだ。ノエルのアコギとマイクのピアノのみでシンプルに歌われ、オーディエンスのスマホライトによる演出と、海辺から眺める月夜の映像も相まって、最高に感動的な空間を作り上げていた。

Photo by MITCH IKEDA

しばしの静寂の後、ノエルの「90年代の曲だ」という言葉によって空気は一変、ここからオアシスナンバー連投のセクションに突入していく。まずは、“Stand By Me”のB面曲で、アルバム『The Masterplan』にも収録されている“Going Nowhere”。懐かしいイントロと「まさかのこの曲を演るとは!」という驚きに、思わず「おぉぉー!」と歓声が湧き上がる。オリジナルのアレンジをベースにしたライブ仕様の牧歌的なアレンジは、オアシスの3rdアルバム『Be Here Now』のジャケ写に似た色味のあるロードムービー風映像と相まって、否応にもノスタルジックな気分にさせられた。『Council Skies』の楽曲たちに込められたノエルの意図(ノスタルジックというより内省的な作品)とはおそらくズレてるとは思うけど、こればかりはしょうがない。ただ、オアシスにおけるこれぞザ・B面な曲だからこそ、違和感なく今も聴けるのかも?とも感じた。ということはノスタルジックではないのかもしれない。

牧歌的な雰囲気の余韻が残る中、ザ・ラーズの“Clean Prophet”を彷彿とさせるギターイントロが印象的な“The Importance of Being Idle”が始まると、再び歓声が上がる。ノエル流浪花節なメロディに乗せて、ノエルはシニカルに「魂を売るくらいなら、怠けてた方がマシだ」と歌い、そのメロディと歌詞に、まるで身を任せるように体を揺らし、歌を口ずさむオーディエンス。そんな中、ゲムとクリスの元オアシスメンバーの堅実なプレイと、マイクの変則的なキーボード弾きは目を引くものがあり、曲オリジナルの雰囲気をさらに芳醇なものにしていた。

ノエル節炸裂な曲はまだまだ続く。ノエルの「次は“The Masterplan”だ。」という言葉に再び大歓声が上がる中、クリスのドラムスティックカウントをきっかけに、馴染みあるアコギのフレーズから“The Masterplan”が始まる。壮大でエヴァーグリーンな最強メロディとコード進行と、シンセで再現されたストリングス、ゲムの泣きのギター、そして全力でシンガロングするオーディエンス。これらのアンサンブルが作り出す感動的な光景もまた普遍だった。アウトロに入ると曲が終わってしまう寂しさすら覚え、ライブ自体まだ中盤にもかかわらず、会場はクライマックス感のある空気になっていた。

場内にノエルコールとオアシスコールが上がる中、続けて始まったのは、これもまたNGHFBライブ定番曲の“Half the World Away”だ。回る地球の映像をバックに、シンプルなコード進行のアコギに軽快なリズム、あとは最高に美しいメロディが鳴り響く。「こんな最高な曲を、無言で聴いていろというのが無理だ!」と言わんばかりに、曲が始まって早々、自然にシンガロングが発生。ラストのコーラスパートでは、“Don’t Look Back in Anger”のようにヴォーカルをオーディエンスに任せるシーンもあったりと、終始暖かい空気に包まれていた。

曲終わりで拍手が会場内に広がる中、どことなく「もうそろそろ終わってしまいそうだな…」という空気が漂う会場。そんな空気を切り裂くかのように、ディストーションがかったギターとサイケな逆回転風シンセが鳴り響き、聴き覚えのあるヘヴィーなギターイントロから始まった本編ラストナンバーは“Little by Little”だった。ゆったりとしたテンポのこの壮大なバラードナンバーは、原曲の世界観を崩すことない、より重厚感の増したアレンジで、そこに力強く響き渡るノエルのヴォーカルと、最大級のシンガロングが相まって、会場にドラマティックな空間を作り上げていた。そして、徐々にスロウアウトしていくアウトロが生んだ余韻から感じたあの幸福感は、ここにしかないオンリーワンの体験だ。

Photo by MITCH IKEDA

アンコール待ちの最中、夏に行われたリアムのライブと同じく、マンチェスターシティ・チャンピオン・チャントが発生し、その中メンバーが再登場。各々のポジションに立つと、「ボブ・ディランの有名な曲を演るよ。」というノエルの一言から始まったのが、ディランのカントリーでフォークな名曲“Quinn the Eskimo (The Mighty Quinn)”だった。数々のアーティストにカバーされてきたこの曲だが、ノエルがカバーすると、ノエル流のギター・ロック・バージョンに完全に様変わり。ノエルの伸びやかなヴォーカルとコーラス、開放感あるアレンジが、あまりにも原曲の持つエヴァーグリーンなメロディにマッチしていて、何度も感嘆の叫びを上げてしまった。さらに、一部オーディエンスからは「Come all without. Come all within. You’ll not see nothing like the Mighty Quinn.」でシンガロングが発生していたし、ノエルのソロパートの徐々に上がっていく感じに思わずカタルシスを感じずにはいられなかった。曲終わりの大きな拍手がその証拠だと思う。
ちなみにディランのことを「神」とノエルは言っていて、理由は「(あのノエルにして)彼の何を語ればいいのかわからない」ほどの存在であることと、「曲が型破りで、けど一番シンプル」であること。現時点で後者は明らかに二人の共通項なような気がするし、前者に関しても、この視点で「ディランと“今までのノエル”」と「ディランと“これからのノエル”」を妄想すると、もしかしたらノエル・ギャラガーというソングライターの未来像が見えてくるかもしれない。

「(ライブ前日に亡くなった、ザ・ポーグスのフロントマン)シェイン・マガウアンに捧げる」というノエルの一言から始まった“Live Forever”。包容するようなノエルのヴォーカルと、どこまでも優しく温かいアコースティックアレンジ、無数の羽が舞う映像、それぞれが重なって、今までで一番美しい曲として鳴り響いた“Live Forever”。かつてニルヴァーナらグランジロック勢のネガティブな言葉(自己嫌悪や死など)への反発の歌として歌われたこの曲が、今この瞬間は天国に逝ったシェインへのレクイエムとして歌われている。

“多分俺はなりたいもの全てには
なれやしないだろうよ
だけど、今は泣く時じゃない
理由を見つける時さ

(中略)

多分お前と俺は同類ってやつだ
俺らには、ヤツらが見えないものが見える
俺らは、永遠に生き続けるのさ

永遠に生き続けるんだ
永遠に生き続けるんだ
俺らは永遠に生きてやるんだ”

Oasis “Live Forever” 歌詞より(筆者訳)

イギリス生まれのアイルランド人であるシェインに、アイルランド人の両親を持つノエルがレクイエムを捧げたことに対し、ノエルがどういう思いを重ねて歌っていたのかはわからないが、ノエルがシェインに対して“Live Forever”を捧げたという事実があるだけでいいんだと思う。きっと。そう考えると、シェイン急逝も相まって涙せずにはいられなかった。

感動の空気に包まれた、東京ガーデンシアター初日。そのラストを飾ったのはもちろんあの曲、“Don’t Look Back in Anger”だ。28年前に世に放たれたこの曲は、オアシス、NGHFB、それぞれのライブで合わせて何百回も何千回も歌われてきたと思うが、現在のノエルが歌う“Don’t Look Back in Anger”はキャリア史上最も完璧なものだった(本人は否定すると思うが)。ヴォーカルの伸び、緩急、穏やかさ、優しさ…全てにおいて非の打ち所がないのだ。そして、非の打ち所がないからこそ、ノエルは「レッツ シング!」と叫び、いつものようにオーディエンスにコーラスパートを委ねた。それは、どれだけノエルが完璧に歌えるようになろうが、“Don’t Look Back in Anger”が「みんなの曲」であることに変わりはないからだ。それを察してか、オーディエンスのシンガロングはこれまで以上に気持ちが入ってたような気がするし、何よりもノエルからオーディエンスへのボーカルのバトンタッチから生まれたコントラストが最高のカタルシスを生んでいた。
けど、美味しいところだけ持っていくのが、今のノエルでもある。この日のセットリスト、ほぼ全曲ギターソロは全部ゲムに任せていたのに、ドンルクの最後のギターソロだけは、眩いスポットライトを浴びて、最高で最強のクオリティで演り切ってみせたのだ。これがノエル流の「フロントマンとしての自覚」なのかもしれない。

NOEL GALLAGHER’S HIGH FLYING BIRDS | 東京 東京ガーデンシアター | 2023.12.01
Photo by Shuhei Wakabayashi

「原点回帰」がテーマの『Council Skies』を引っ提げたライブは、『Council Skies』から時を遡っていくようなセットリストで、そこにある意味は、大きい解釈で捉えるならば「ミュージシャンキャリアの原点である“オアシス”までの歴史31年を辿る旅」である。しかし、それを紐解いていくと、「俺のソングライターとしての本質はずっと変わっていないんだ」という、ノエルの意志があったような気がしたのだ。それは彼のソングライターとしての信念に基づいているもの。かつてノエルは「俺が、アーティスト、ソングライターとして唯一望むのは、俺がソングライターとして感じていることと、リスナーが俺の作ったその曲を聴いた時に感じることに、何かつながりがあればいいと願ってる。」と言っていた。そう、それが全てなのだ。

2017年に起きたイギリス・マンチェスターで行われたアリアナ・グランデのライブ会場で起きたテロ事件。テロの脅威と不安にイギリス全土が包まれる中、犠牲者を追悼するチャリティーコンサートで人々から自然発生的に歌われ始めたのが、“Don’t Look Back In Anger”だった。事件を通して、この歌から見えるのは「既に起きてしまったことを振り返って感情的になってはいけない」「君の人生をめちゃくちゃにしてくる奴らに決して振り回されるな。冷静になれ。後ろを向かず、前を向かって進むんだ。」というマンチェスターの人々の歌詞に対する解釈であり強い意志だ。

マンチェスターのテロ事件で“Don’t Look Back In Anger”が争い合う人間を宥め団結させたアンセムになったのは、その場所がマンチェスターだったからかもしれないが、ロシアとウクライナの問題や、イスラエルとハマスの問題、それぞれにまつわる様々なことにも重なる部分はあると思っていて、パンデミックで苦しんだ人々にももちろん通づるはずだ。もちろん本人はそんなことが起きるなんて知る由もないし、それに向けて歌詞を書いていたわけでもないが、そこにノエルの凄さがあると思うのだ。

『Council Skies』の歌詞に関しても、そこにある歌詞の見た目はやはり抽象的で、自分なりの解釈が求められるものだ。しかし、オアシス時代と決定的に違うのは、冒頭にも書いた「今、人生の混乱した時期にいるからこそ、それは自分のためになるだけじゃなくて、同じ経験をしてる他の人たちのためにもなる。だから書こう。」というノエルの言葉から感じる意志そのものだ。それはパフォーマンスにも如実に現れていて、これまでよりも全体的に落ち着きのあった演奏や演出は、まるで「オーディエンスのため、この場で音楽を共有したい」という意思の表れなような気がしたし、観ていて彼の崇拝する(現在の)ボブ・ディランやニール・ヤングら重鎮たちのライブと重なって見えたのは、きっと僕だけじゃないと思う。そして、それらから感じたのは、ノエルがオアシス時代から変わらず持ち続けた「俺の作ったその曲を聴いて、リスナーと何かつながりができればいい」という願いそのものだ。

ノエルの曲には、最高なメロディとコード進行があって、そしてノエルの人生哲学を通して言語化された物事の真理を描いた歌詞、それらからそれぞれ「何かを感じてほしい」、そんな思いが込められている。ノエル自身、これからも多くは語らないだろうが、これはノエルにとっての真実で、僕らにとっての永遠だ。

NOEL GALLAGHER’S HIGH FLYING BIRDS | 東京 東京ガーデンシアター | 2023.12.01
Photo by Shuhei Wakabayashi

最後に。今回のノエルのライブと夏に行われたリアムのライブ、両方見て改めて感じたのは、改めてノエルとリアムの向いている方向の違いがさらに如実になったという事実だ。『Council Skies』という内省的な作品を作り上げ、どんどんシンガーソングライターとして深化していくノエルと、他者を受け入れ、新しいコミュニティの中で「オアシスのフロントマンとしての自分ではなく、ソロシンガーとしての自分」を確立していっているリアム。広義に「ファンのために」という思いは同じだと思うが、果たして今の二人が交わって「オアシス」が成立するのか?やはりまだその画は想像できない。もし交わったら“化学変化”が起きるかもしれないという、一縷の期待が少し生まれた感じはするのだが…、引き続き見守っていくしかない。ノエルマインドを借りて一言言うとすれば「人生先のことは誰にも分からない。なるようになるだけで、そういうものなんだ」。

<セットリスト>
01. Pretty Boy
02. Council Skies
03. Open the Door, See What You Find
04. We’re Gonna Get There in the End
05. Easy Now
06. You Know We Can’t Go Back
07. We’re on Our Way Now
08. In the Heat of the Moment
09. If I Had a Gun…
10. AKA… What a Life!
11. Dead in the Water
12. Going Nowhere (Oasis self-cover)
13. The Importance of Being Idle (Oasis self-cover)
14. The Masterplan (Oasis self-cover)
15. Half the World Away (Oasis self-cover)
16. Little by Little (Oasis self-cover)
EN01. Quinn the Eskimo (The Mighty Quinn) (Bob Dylan cover)
EN02. Live Forever (Oasis self-cover / semi-acoustic arrange ver.)
EN03. Don’t Look Back in Anger (Oasis self-cover)

Text by Shuhei Wakabayashi
Photo by MITCH IKEDA