さらさ、彼女の“Origin“と“Live bluesy“は繋がっていく
「まあ、さらさは “Golden Child“ だから大丈夫だよ」
『Golden Child』、先日9月4日にリリースされたばかりの2ndアルバムのタイトルでもあるこの言葉。それは、さらさに何か良くないことが起こった時に、彼女の母がさらさに話していた言葉である。この「Golden Child」という言葉にまつわるエピソードがある。それはさらさが生まれる以前の話。彼女の母が日本でオーストラリアの占い師にみてもらったらしく、その時占い師からこう告げられた。「前世から続く悲しみからあなた(母)を救うために、もう転生するはずのなかった “Golden Child” の女の子が生まれてくる」と。そして、その後に生まれてきたのが “さらさ“ だった。
アメリカの心理学者 ブランディ・スミス博士によると、“Golden Child“とは家族(大体は両親)から根拠なしに特別な存在として見なされている子どもを指すそう。そんな言葉をもって「まあ、さらさは “Golden Child“ だから大丈夫だよ」と言われていたのだが、そこには重々しさはなく、むしろさらさをイジるような、ほど良くファニーな温度感をもって使われていた。
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「特別な子」、そんな意味が込められた新作『Golden Child』を引っ提げ行われた、さらさ自身初の東名阪ツアー。そのファイナルとなる東京公演がリキッドルームで行われた。ここリキッドルームは、彼女にとって特別な場所だ。
3年前、デビュー当時の彼女が立てた目標がある。それは、フジロック、グリーンルーム、そしてリキッドルーム(以下リキッド)でライブをやること。フジロック(2022/2024)とグリーンルーム(2024)への出演は見事に達成し、残るはリキッドだけとなり、それもついに実現こととなった。
まるで、そんな彼女を祝福するかのようにチケットはソールドアウト。フロアは開演30分前にも関わらずほぼ満員状態。さらさにとって特別なこの会場で「未来へ向け、また一歩踏み出した、始まりの作品」であるこの新作をもって、彼女は一体どんな光景を見せてくれるのか?朝からずっと収まらない自分の中にあった高揚感が、この日のライブへの期待を物語っていた。

ライブの開始を待っている間、場内に流れていたBGMがとても印象的だった。コリー・ウォンの“Golden”、アリシア・キーズの“Golden Child”、スティーヴィー・ワンダーの“Golden Lady”……。そう、全て曲名に“Golden”が入っているという、なんとものニクい選曲(個人的にはミーカの“We Are Golden”も入れて欲しかったが…)。そんな遊び心あふれる選曲に、朝から続いていた高揚感はフッと落ち着き、その後思わず笑みが浮かんでしまった。
ライブもいよいよスタートだ。アンビエントなインストをバックに、琥珀色の照明が徐々に明るさを増していく──。そんな温かく落ち着いた雰囲気の中、「さらさららぶりーろんりーばんど」のメンバー、石田玄紀(Key/Sax)、オオツカマナミ(Ba)、松浦千昇(Dr)、磯貝一樹(Gt)が登場し、最後にさらさが登場。オーディエンスは大歓声と拍手で迎えた。
BGMのフェードアウトと共に始まったのは、新作『Golden Child』の1曲目に収録されている“予感”。自身初めて作ったというこのラブソングを、ゆったりとしたグルーヴに身を委ねるように歌うさらさ。琥珀色のバックライトを背に、シルエット姿ながらもその中から歌詞も相待って朧げながらも感じるのは、ゆらゆらと踊りながら脈を打っている恋心。その心地よい“揺らぎ”という渦の中に、自ら身を委ねるように聴き入っていくファンたち。
ゆっくりと雰囲気を作って始まったライブは、ミッドテンポのリズミカルなバラード曲“雲が笑う時”へと続いていく。「傷つけられた記憶より、傷つけてしまった記憶のほうが忘れられないのに、誰かを傷つけてしまった時に聴きたい曲がない」という制作前に書かれたメモをもとに作られたこの曲を聴いていると、思わず胸が締め付けられるような思いになるが、曲を通して、やがて和らいでいった。かつて誰かのことを傷つけてしまった時、自分の中に生まれた「後悔」や「懺悔」などの感情が、少しずつ「許し」や「救い」に変わっていくような感覚は、まさに「Live bluesy」の先にある感情だ。

デビューから3年が経ち、25歳になった彼女の中に、徐々にある強い実感が生まれてきたという。それは「時間の不可逆性」についてだ。「過ぎた時間は取り戻すことができない。けれど、人間として生きている以上、どうしても歳は重ねていくもの」。そんな時間の経過を、彼女は“同じ自分自身のままで時間を重ねていくこと“と捉え、そこに面白さを感じ、楽しめるようになったという。そんな変化から生まれたのが、次に披露された“Roulette”だった。
ステージ後方に聳え立つ4本のポール状のライトが琥珀色の光を放つ中、オオツカの柔らかく弾むベースラインから始まり、ネオソウルとブレイクビーツがミックスされたグルーヴが感じられるこの曲で、まるでそこに漂っているうねりに身を委ねるようにステージをゆっくりと歌いながら歩くさらさ。リズミカルなこのナンバーでオーディエンスは思い思いの踊りを楽しんでいる。
その光景を見ていてふと頭に浮かんだのが、この日会場で販売されていた『Golden Child』のセルフライナーノーツに書かれていた、さらさの「人の複雑な心模様は光です」という言葉だった。人の心にある感情や意思は、各々に訪れる多様な出来事に何かを感じて動き続けているもの。その中には、当然ネガティブもポジティブも両方あって、人はその中へと身を委ねることによって自分の感情を受け入れていける ── そんな考え方と重なって見えたような気がしたのだ。
音源のアレンジよりも、さらにその輪郭がなだらかになった“退屈”が終わると、再び新作から本作にとって重要なピースとなっている“リズム”が披露された。レコーディング・スタッフたちから、「この曲の完成無くしてアルバムの完成はない」というニュアンスの言葉に背中を押され完成したこの曲が『Golden Child』にとって必要不可欠な曲であることは、アルバムを聴いたリスナーであれば自明だろう。ファンキーなグルーヴにトライバルなリズムが加わったこの曲は、彼女のクリエイティブの新機軸の一端を感じさせつつ、アルバム全体に漂う大人な雰囲気の中にあってこれ以上ないアクセントになっている。
この日のライブでも、“退屈“から“リズム“、そこから続く緩やかでジャジーなミッドテンポのソウルバラード“Viburnum”。これら3曲の流れにあるパキッとしたコントラスト。その重要なファクターとなっているのも“リズム“で、そんな3曲の流れにある変調していくグルーヴは、なんとも言えない刺激をオーディエンスに与えていた。“Viburnum”が終わって湧き上がった大きな拍手がそれを物語っていたように思う。
松浦のドラムビートをバックに、この日初めてのMC。「『Golden Child』ツアー、ようこそお越しくださいました。みんなと過ごせてめちゃめちゃ幸せです」とさらさはファンに語りかける。そこから一転して、ニヤリとした表情を浮かべながら「見えてるよ全員。後ろまで見えてるからね。あの、ゲストが手上げないがちなのとかも見えてるからね。頑張って(笑)」とゲストエリアにいるゲストたちをイジるさらさ。曲の雰囲気からして落ち着いたイメージのある彼女だが、一方で明るくラフにファンと接する時の心理的距離の近さとでも言おうか、そこから感じる親近感。そんなギャップもまた彼女の魅力だ。そして、少し緩んだ空気の中、ライブは中盤へと突入していく。

滑らかで柔らかさを感じる磯貝のギターイントロから始まったのは“太陽が昇るまで”。穏やかなメロディの流れの中で囁くように歌うさらさのヴォーカルは、以前より一層落ち着きが増し、曲との一体感がより増している。続く“温度”、そして“ネイルの島”では、“火をつけて”のレコーディングにも参加していた、若干23歳の新世代ジャズトランペッター寺久保伶矢がさらさのライブで初めてそのトランペットの生音を披露。音源のジャジーでメロウな雰囲気はしっかりと残しつつも、彼のスモーキーで掠れた風合いのトランペットは要所要所にかかるエコーも相まって、さらさのヴォーカルのスモーキーさも引き立てていた。
彼女の代表曲のひとつである“グレーゾーン”では、場数を重ねるごとに成熟してきた様子を見せる。リリース当時、曲のなかに僅かにあった角も徐々に削れていき、音源から感じるレイドバック感も抑えられ、“ネイルの島”と同様に綺麗な流線を描くメロディの曲へと深化を遂げているのがその証拠だ。深化を遂げていたのはさらさのヴォーカルも同様で、曲に身を委ねるよう寄り沿った歌声は、まさに歌詞にもある《飛び越えてく感情 なぞり合ってく感覚 頭でも心でも Dancing in the gray zone》そのもので、それはデビューから3年間での成長を強く感じさせたものだった。

そんなさらさの成長は楽曲の成長でもある。進化を遂げた既存曲の間に挟まれた新曲たちはリリースされて間もないこともあってか大きな変化はなかったものの、「Golden Child Tourバージョン」として深度は確実に上がっていた。
昨年リリースされ、いち早くさらさのニューモードが感じられた“f e e l d o w n”は、より透明感が増し、上質なブルーアイドソウルっぽさも感じさせるスタイリッシュなアレンジへと姿を変え、その心地よいグルーヴにオーディエンスを緩やかに踊らせる。一方、新曲“遠くまで“では、音源の70年代ジャパニーズ・フォークな雰囲気を踏襲しつつも、磯貝のブルージーなギターソロをはじめとした、ライブならではの余白を活かしたアレンジによって、徐々にライブ感のあるブルースへと変容していた。それはまるでグラデーションを描くようで、次々と込み上げてくるえも言えぬ高揚感は、ただ心地良いの一言に尽きた。
今回のこのツアーでのいいエッセンスとなっていたのが、東名阪各公演に組み込まれたカバーコーナー。名古屋公演ではBONNIE PINKの“Heaven’s Kitchen”を、大阪ではYEN TOWN BANDの“Swallowtail Butterfly ~あいのうた〜”を披露し、そのことを告げた曲前のMCで、それら曲名を口にする度に「聴きかったよねー」「全部来たら良いんだよ?(笑)」とちょっと意地悪そうに口にするさらさの悪そうな笑みがとてもチャーミングで印象的だった。
そしてここ東京で披露されたのは、彼女が敬愛する90年代を代表するR&Bシンガー、UAの名曲“ミルクティー”。『Golden Child』ツアーライブの世界観をベースにしつつも、原曲の持つポップでソウルなメロディを心地良さそうに、噛み締めるように歌うさらさ。シンプルながらもそこに感じる確かなソウルは、ずっと変わらずそこに在り続けていたもので、まさにエバーグリーン・・・最高だ。

ライブは終盤へ突入し、薄暗い早朝の風景を想起させるような照明の下で始まったのは“朝”。アンビエンスなゆったりとしたアルペジオから始まったムーディーな雰囲気のあるイントロ、それがゆっくりとフェードアウトしていくと共に入ってくる歌い出しの《ねぇ》。この一言で弾ける心の中の何か。そして《いい感じでいたい》とリフレインされるフック、極限まで抑えられたメロウが生み出すグルーヴ。歌い出しでハネる感じ、語感を重視した洋楽的な曲の作りはアレンジも含めて、今もなお中毒性高く響き渡る。
続いて始まった曲は新作の構想の起点となった“祝福”で歌われているのは、「悲しみという闇」と「希望という光」の間を揺れ動くような人間の心である。曲から確かに感じる“揺れる何か”とは、とても曖昧なもので、曲自体も絶対的に救われるものではないかもしれない。しかし、ピンスポットライトを浴びながら歌い上げる彼女の姿を見ていると、気持ちは揺れながらも、まるで心休まる温かな場所に引き寄せられていくようだった。美しいメロディと、感情が果てしなく遠くへ行ってしまいそうな、アシッドでサイケデリックなアレンジ。そして、理屈では語れない「救い」を感じる歌詞に散りばめられたフレーズ──《取り止めのない言葉で眠って ずっとずっと》《明日は流れ出すように 薔薇色 素晴らしい私》──。「救い」と感じるこの感覚が、この曲の本質とは言い切れないけれど、確実に言えるのは、曲が終わって心に残ったシンプルな感情「救われるような感じがした」。この感情は、間違いなく「幸せな感情」だったということだ。
祝福 (Live from Golden Child Tour 2024)(11/12追加)
曲が終わり、さらさの穏やかな表情を見て、心の中に「灯り」がついたような気がした。きっとこの曲は、これから長く大切な曲で在り続けてくれるだろう──と直感的に感じた。

続くMCで、さらさは「歌を始めた頃」から「現在」に至るまでの曲作りの変化について思いを口にした。変化が生まれた要因は、外的要因から、自分ではどうにもならない流れから生まれたものまで、様々だ。
人前で歌い始めた頃のモチベーション源になっていたもののこと──。コロナ禍と自身の環境の変化に気持ちが追いついていなかった頃、なかなか思うようにいかず思い悩んでいたこと──。そして、そんな苦しい状況から彼女を救い出したのが「自分の音楽を聴いてくれる人たちがいる」と去年一年で気づけたこと。そこから年が明け、やっと「いい曲を作りたいな」という純粋な感覚が蘇り「曲を作るのが楽しい」と思えるようになった今の気持ち。そんな自身の心情の変化を、包み隠さず口にしてくれる真摯で誠実で正直な彼女だから、僕らは彼女と彼女の曲や歌詞に惹かれ、その意味を理解したいと思うのだ。
そして、そんな関係性が積み重なっていき、彼女の周りにはたくさんのコミュニティ生まれていく。このコミュニティには、家族はもちろん、友人、バンドメンバー、チームスタッフ、これまでコラボしてきたさまざまなアーティストたちもいて、そこから“さらさ色のクリエイティブ”は生まれている。その中には、今回のワンマンライブのステージ装飾を作ってくれたメンバーももちろん含まれている。今回のステージセットは、ステージの背景一面に立てかけられた、和心を感じさせる絶妙に風合いの異なる無数の幕だった。その装飾を製作したのが、彼女の高校時代からの想像力あふれる友人たちで、それら繋がりから育まれた価値観は、言わずもがな彼女の音楽に影響を与えているはずだ。
MCが終わり、耳馴染みのあるイントロから始まったのは“Amber”だ。「陰と陽のバランスを保つ」という石言葉を持つ、世界で唯一の植物性の宝石、琥珀(Amber)。彼女の活動におけるテーマである「Live Bluesy(ブルージーに生きろ)」そのものと言っていいこの曲で、さらさは歌詞の一言一言を大切に穏やかなソウル込めて歌い、バンドメンバーたちは、彼女の中から溢れ出る感情に寄り添うような演奏で楽曲の魅力を引き立てるていた。
大きな拍手の中、続いて演奏されたのが、スローダウンした曲のアレンジにマイナーチェンジされた“このまま”だった。そんな細やかな変化は、この曲が持つアンビエント感と、緩やかなグルーヴ感に微々な変化を与えていた。それに身を任せるように体を揺らすオーディエンス。曲が終わりに近づいていく中で、より深みが増していくこの曲の雰囲気もまた「26歳のさらさ」が生み出したものなんだと感じる演奏だった。

本編ラストを締めたのは“船”。曲前のMCでこの曲についてさらさが語っていたこと。それは“船”に込められた思いであり、彼女の「ソウルメイト」への一言では言い表せない感謝の気持ちだった。ここでは、会場でのMCの意味をより深く知ってもらうため、Instagramの投稿を引用したいと思う。
🌕F u l l m o o N🌕
さらさの第二の生みの親ことかたぴ率いる
株式会社yutori.の上場を記念して
「船」という曲を贈りました私の制作のモットー
「Live bluesy」を背中に刻んで
東証アローズの鐘を鳴らしてくれるなんて。笑
大きな物語に巻き込んでくれて有難う19、20歳の時、大学も音楽もやめて
分かってくれる人なんていないけど
何かを作り出したい気持ちに溢れていて
古着を売ったりイベントを主催したり絵を描いたり
のんびりゴリゴリと生きていた私を
面白がって拾ってくれたかたぴ
yutoriでは約2年間、インターンでお世話になりましたかたぴに出会えたことは
私の人生でものすごく大きなことで
初めて渋谷のオフィスで面接をしてもらった時
「初めて自分のことを認めてくれる人に出会えた」と
思春期心に衝撃くらったことを覚えてます
かたぴもテンション高くて変なギャグ連発してたな
あの時「この人とは強い縁があるかも」と思ったのは大正解で、
今ではソウルメイトと呼ぶに相応しいぱいせんですいま私の音楽を支えてくれている
スタッフに出会ったきっかけもかたぴの紹介でした家族以外では、そのスタッフとかたぴのふたりが
「この人がいれば、生きていけるかも」という
根拠のない希望を与えてくれる大きな存在です
(エモーショナルエピソード失礼)(中略)
ソウルメイトだなあと思うよ
かたぴがいたら息ができる🧘ゆとりのみんな本当におめでとう
これからもどうぞよろしくお願いします!
さらにこのMCの中で、彼女はワンマンライブには必ず足を運んでくれる社長が、今回タイミングが合わず来場できなかったことにも触れた。
「『Golden Child』に株式会社yutoriの社歌(“船”)を入れて、今日かたぴが来れないとかも、何かが変わっていくタイミングなんだろうなって、私はそう勝手に思っていて、今日この曲を最後に歌えて、すごく嬉しい気持ちです」。
普通ならば寂しい気持ちが出てきてもおかしくないが、そういった状況もまた何かの必然と捉えることができるのも、今のさらさらしい言葉だったように思う。
しばしの静寂のあと、柔らかなギターから、空気の音が聞こえるほどゆったりとしたペースで歌い始めたイントロのフレーズ──
《優しくなる 触れる触れる
息をしてる 願う願う
激しくなる 進む進む》
一言一言、ゆっくりと、そして大事に歌い始め、弾き語りから始まった“船“。この楽曲から感じる、時に静かな海が包む静寂だったり、時に激しい嵐に見舞われている過酷さだったり、それらの光景はまるで「yutori」という船の航海の道程を表しているように感じた。そんな航海を表すように、曲は終盤に差し掛かるにつれ、徐々に激しさを増していき、最後は極上のシューゲイザーとブルースロックが混じり合ったような美しい轟音に変化、ゆっくりと静かにフェードアウトしていった。カオティックでドラマティックなアウトロは、洋楽リスナーとの親和性が高いとされるさらさリスナーの心を鷲掴み、轟音が徐々に消えていくのとすれ違うように、会場を鳴り止むことのない大歓声と大きな拍手で包みこんだ。
さらさが作る楽曲には、「人の感情」というシンプルな共通点はありつつも、曲を聴き終えた時にファンそれぞれの中に残る結論めいたものは、文字通り聴き手の解釈の分だけ多様に存在する。そんな中でも、比較的ストレートに描かれている“船”には、どんなに困難な状況にあろうとも、先の明るい未来を想豫し、祈り、進み続けていれば、必ずその“証”が残るという強いメッセージ性があった。
船 (Live from Golden Child Tour 2024)(11/12追加)
本編ラストの“船”が終わって、アンコールを求める鳴り止まない拍手の中、「Golden Child Tee」を着たバンドメンバーたちが登場。そのあとにさらさが姿を現し、バンドメンバーをひとりずつ紹介すると、ここまで素晴らしいライブを披露してくれたメンバーたちへ向け、オーディエンスから大歓声と割れんばかりの拍手が湧き上がった。
そんな幸福感に満ち満ちた雰囲気の中、さらさライブ恒例の“あの”コーナーがスタートした。「曲リクエストコーナー(初期の呼び名)」改め「みんなが頑張るコーナー(昨年のWWW Xでのライブ時の呼び名)」改め、「マジでデケー声出したもん勝ちのコーナー」だ。改めて説明するが、このコーナーの目的はあくまで「ファンから最も多く声が上がった曲名の曲を演奏すること」。しかし、その目的と同じくらい大切と感じるのは、さらさとバンドメンバーそしてファンたちがコミュニケーションを楽しむための大事な時間であることだ。
「私のワンマンにきた人はわかると思うんですけど」── そうさらさが喋り始めた時点で、客席からは「よっ!」「おっ!」など待ってましたと言わんばかりの、前のめりなファンの声が聞こえてきた。まだ“イントロ”にもかかわらず、みんなハイテンションで一様に楽しそうだ。しかし、実際「せーの!」の掛け声から一斉に叫び声が上がると、案の定というか、予想通りというか、まったく持って何の曲名が叫ばれてるのか分からない!リキッドのキャパ数、900人分の声が上がっているのだから判別つかなくて当然といえば当然だが・・・。
一方で、こういうアクシデント的な光景もまたこのコーナーの楽しさだったりもする。そんな大盛り上がりの空気をさらに煽るように、これまたこのコーナー恒例の「ディレイでレイドバック気味に叫ぶ輩」と、ファンにはお馴染みの「(大阪から東京に引っ越してきた)JJJニキ」も登場!会場中の笑顔が止まらない。このコーナーも回数を重ねてきて若干茶番味が増しつつあるが、ここにいるみんなが笑顔で“楽しい”という共通言語を持って幸せな体験を共有しあっているこの時間に、そんな野暮なツッコミはまったくもって不要だ。
結果ファンの声から選ばれたのは “火をつけて” だったが、これがまたスペシャルな光景を生むことになる。さらさが呼び込んできたのは、先ほど“温度”と“ネイルの島”でも登場した寺久保伶矢だった。“温度”と同様にこの曲でもレコーディングに参加している彼がジョインした“火をつけて”はイントロからスペシャルだった。少しエフェクトがかったような寺久保のトランペットが一気に曲の新しい空気感を作り上げる。ライブ全体から感じる川のような流れと、この曲に込められた「自分の心の中にある激しい感情や新しい幸せを知る、美しくも神秘的な瞬間」を重ね合わせると、人間であることの喜びが込み上げてくる。

曲が終わり、ギターの弦をつまびきながら、会場に集まった満員のファンに感謝の言葉を口にするさらさ。
「今日は本当にありがとうございました。またどこかでお会いできたらすごく嬉しいですし、本当に今日来てくれて、会えて、めちゃめちゃ嬉しかったです。またこうやって、一緒にたくさん思い出を作っていけたらなと思います。ありがとうございました」
その言葉からは、彼女の溢れんばかりの感謝の気持ちが真に伝わってくるようで、こちらまで嬉しくなったし、「こちらこそ!」と言わんばかりの感謝の気持ちが大きな拍手となり、さらさにフィードバックされていった。
リキッドルーム公演、最後の曲に選ばれたのは、この日2度目の“Amber”。彼女が最後にこの曲を選んだ意味。これはあくまで推測だが「Amber=琥珀」が持つ「陰と陽のバランスを保つ」という石言葉、その意味が「Live Bluesy」そのものであり、変わったことも変わらないことも全部ひっくるめてこの曲が「26歳の今だから彼女が感じていること」を表す一曲に相応しいからではないだろうか。
人間は生きていれば、様々な経験をするし、その度に心は動き、新しい感情が芽生えたり、芽生えなくても何かしらの気づきが得られたり ── その繰り返しから、心情や感情は移り変わっていく。だからこそ、人間の心に絶対的な結論はなくて、人間はそれを追い求め続けることで“成長”を得ることができるのだと思う。
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さらさの母がアメリカの占い師から「“Golden Child(特別な子)”の女の子が生まれてくる」と告げられた「Origin(原点)」。そこから彼女の中に幾年もの年月を経て「Live Bluesy」という“核”を生み出した。そして今年に入り、突如芽生えた「いい曲を作りたいな」という感覚と、そこから生まれ落ちた傑作『Golden Child』とこの日のライブ。この一連の物語は果たして偶然的に生まれたものだったのだろうか──?
自分は必然だったと思う。なぜならこの作品は、コロナ禍以降彼女が苦しみながらも、さまざまな経験や体験を取り込みながら、自らの心の内と向き合い、考え、行動し、その繰り返しの先に結実したものだからだ。そしてライブで披露された楽曲たち、それを真正面から感じ心に刻み込んだファン。その信頼関係を作り上げたさらさの楽曲たちは、さらさにとってもファンにとっても間違いなく“Golden Child”である。
<セットリスト>
01. 予感
02. 雲が笑う時
03. Roulette
04. 退屈
05. リズム
06. Viburnum
07. 太陽が昇るまで
08. f e e l d o w n
09. 温度 (w/ 寺久保伶矢)
10. ネイルの島 (w/ 寺久保伶矢)
11. 遠くまで
12. グレーゾーン
13. ミルクティー (UA cover)
14. 朝
15. 祝福
16. Amber
17: このまま
18: 船
─ ENCORE ─
19. 火をつけて(requests from fans) (w/ 寺久保伶矢)
20. Amber