eastern youth | 東京 SHIBUYA CLUB QUATTRO | 2019.04.20

身の丈でいい、生きているだけで大挑戦

開演前、フロアはいつもどおり静かだが、そこはかとない興奮が満ちていた。この日の開場直後、観客の目に飛び込んできたのは、9月28日(土)に日比谷野外音楽堂でeastern youthのワンマンライブが開催されるというニュース。17年前のライブを体験した人で、再び野音で観たいと切望していた人も多いはず。そうでない人も、チラシの堂々たる「日比谷野外大音楽堂公演」の文字に大きな意味を感じたことだろう。eastern youthが「野音だから」といって、お祭り的なライブをするとは思えない。いつもどおり、持てる全ての力を投入して演奏するのだろう。17年前もそうだった。しかし、野音という「場」の持つ特別な力は絶対にある。必見だ。

うつみようこの演奏終了からの転換は早かった。Incredible Bongo Bandの”Let There Be Drums”のリズムとともにステージに登場したeastern youthのメンバー3人。うつみのパフォーマンスの衝撃が残るフロアに吉野寿(Gt/Vo)が向き合うと、

「うつみようこさんのあとにやらせていただくのは非常にやりづらいんですけれども、どっちに転んでもポンコツなんで、適当に観てください。技術も能力もなにもないですけど、そのまま行きますんでよろしくお願いします」

とはっきりした口調で語る。すかさず田森篤哉(Dr)がカウントを入れ、始まったのは”徒手空拳”。驚きの歓声がフロアを満たす。続く”何処吹く風”も珍しい。疾走感に満ちたスタートダッシュ。”雨曝しなら濡れるがいいさ”では、フロアからおなじみの合いの手がしっかり返ってきて、シンガロングも沸き起こった。

「今じゃパンクロックも品行方正の時代ですよ。法令遵守! 他人に迷惑をかけないように、謹んでマナーを守ってお楽しみください、だってよ。はみ出してなかったら、こんなことしてねえよ」

と吉野が吐き捨てると、フロアから同意の歓声。暗転して始まったのは緊張感あふれる”ギラリズム夜明け前”。そして”青すぎる空”へ。レアな選曲と、定番曲の絶妙なバランス。サプライズ感のある序盤だった。隠れた名曲が久しぶりに演奏されても、決して懐メロとして消費されないのが、現在も革新を続けるeastern youthの強みである。野音でもセットリストに大いに期待したい。

この日のゲスト、うつみようこに感謝の言葉を述べたあと、吉野は「自分より年上の先輩がものすごいかっこいいなって思えると、夢があるんですよね。まだやれるんじゃないかなって思う」と続ける。ここから3曲の流れが見応え抜群だった。

吉野のMCを要約する。電車の中吊り広告で、スポーツ選手が「僕は挑戦している方が好きだ、挑戦するっていいじゃない」とオリンピックへ向けての高揚感を煽っているのを見た。別にサッカー選手なんかにならなくても、大リーグとか目指さなくても、生きているだけで奇跡だ。敷かれたレールを踏み外してみればわかる。学力も体力もなんにもないのに、生きていかなきゃいけないのは大挑戦だ、と語り「生きてることに遠慮なんてしませんよ」の一言でフロアが大歓声に包まれて始まった”ソンゲントジユウ”。

あらゆる表現には、やるからには傑作、名作を狙う欲望がつきまとう。その気持ちはわかる。でも、名作じゃなくたっていい。身の丈でいい、と言って始まった”ちっぽけだって、なんだっていいから、歌を俺にくれ”。

ギターを刻みながら「持たざる者の受難は続く。黙っていると、空が落ちてくる。空が落ちてきて、俺たちを押しつぶそうとする。『しょうがねえよ、運命だから』なんて、俺はあきらめたりしねえ」と言って始まった”ナニクソ節”。

吉野自身が生きること、表現することに真摯に向き合い、30年以上あきらめない姿勢を貫いてきたからこその言葉と、身を削るようにして生み出された楽曲。それを村岡ゆか(Ba)と田森が盤石のコンビネーションで支えることで、より説得力が増す。”ちっぽけだって、なんだっていいから、歌を俺にくれ”では青い照明の下で村岡が歌うパートも映えていた。

壮大に鳴った”グッドバイ”以降はクライマックスへと駆け抜けた。フロアから一斉に拳が上がる様が壮観だった”踵鳴る”、”夜明けの歌”から”街の底”へと代表曲が連なり、最高潮の盛り上がりのまま本編を終えた。

再び3人がステージに登場し、あたたかい拍手で迎えられる。村岡は野音でワンマンライヴを行うことに触れ、「ベース上手になりますので、どうぞお越しください」といつもの調子。吉野がもっと喋れと促し、村岡が「私の気持ちはプレイに込められていますので」と応えるやりとりも微笑ましい。アンコールの”サンセットマン”も久しぶりで、しみじみと味わい深い。ダブルアンコールでは、吉野が語る。

「(大歓声に対して)ありがとうございます。とてもうれしい。うれしいところに興ざめのような話ですけど、明日選挙(統一地方選挙)ですよ。関係ないよって言ってると大間違いで、すげえ関係あるんだよ。暮らしに超密接してるから、変な人が当選すると、変なことに税金使われちゃうんだよね……」

静かに聞いている観客に「ほら、引き潮がひくように……」と吉野が言えば、「そんなことないよ」といった様子でフロアに笑いが広がる。

「音楽に政治の話を持ち込まない、なんつったらTHE CLASHはどうするの? 全部政治の話だよ。とはいえね、俺アホでさ、歌詞にそういうこと込められないんだよね。歌える人にお任せします」

吉野、村岡、田森が発する轟音が次第に大きくなり、空間を震わせる。

「ポンコツ一代! 嘶けロシナンテ!」
「ひとり行く身がつらい日は、空の彼方に俺を呼べ!」

吉野の最後の力を振り絞るような絶叫と観客のカウントが、ラストの”DON QUIJOTE”の冒頭を盛大に飾り、「極東最前線」を締めくくった。

<SET LIST>
01.徒手空拳
02.何処吹く風
03.雨曝しなら濡れるがいいさ
04.ギラリズム夜明け前
05.青すぎる空
06.ソンゲントジユウ
07.ちっぽけだってなんだっていいから、歌を俺にくれ
08.ナニクソ節
09.グッドバイ
10.踵鳴る
11.夜明けの歌
12.街の底

En.1 サンセットマン

En.2 DON QUIJOTE

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<eastern youth 日比谷野外大音楽堂公演 開催概要>
2019年 9月28日(土) 日比谷野外大音楽堂
開場 16:45 / 開演 17:30
※雨天決行・荒天中止
前売:¥4,500(全席指定) / ペアチケット:¥8,000(全席指定)
※未就学児童は保護者同伴に限り入場可(小学生以上はチケット必要)
※未就学児童でも座席が必要な場合はチケットが必要です。
詳細: https://smash-jpn.com/live/?id=3150


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Text by Keiko Hirakawa
Photo by Keiko Hirakawa