一癖も二癖もある超個性派フェスをレポート
生前退位、新元号、誰もが初めて体験する長いゴールデンウィーク。そんな例年通りとはいかないソワソワした空気の中開催されたこんがりおんがく祭2019。6回目となる今回は、世代を代表するバンドに成長したceroや稀代のカリスマ坂本慎太郎を筆頭に、「それぞれが一つのジャンル」とでも言うべき個性的な面々がラインナップされた。
からっと晴れた青空の下、リラックスした雰囲気の中のんびりと過ごしながらも、単なる「楽しかった!」を超えた何かがそこにはあった。そんな刺激的な一日をピックアップしながらレポートしていきたい。期待感に満ちた観客を迎え入れるようなエマーソン北村の柔らかいキーボードに導かれて、さあ、こんがりおんがく祭の始まりだ。
こんがりおんがく祭 2019 ライブレポート
一癖も二癖もある超個性派フェスをレポート
Part [ 1 | 2 ]
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ムーズムズ
エマーソン北村からDJプレイのようなシームレスな流れで登場したのは、京都の3人組ムーズムズだ。パワフルだがひんやりとした質感のシンセベースを奏でるyatchiのプレイ、人を食ったように跳ねる小西ゆうじろうのボーカル。後に控える坂本慎太郎にも通じるどこかアンニュイな雰囲気だ。
徐々に増えてきた観客、踊り出す人もちらほらいる。この日がただならぬ日になることを予感させるオープニングアクトであった。
赤犬
そして現れたのは見るからに只者ではない赤いジャケットの集団。本編のトップバッター、赤犬の登場だ。2台のキーボードにホーンセクション、ストリングスやコンガなんかも加えた13人の大所帯が織りなす迫力ある演奏にまず驚かされる。歌謡曲や演歌のような古き良き日本の音楽をベースに、時にムーディに時にスペーシーに飛び回るバンド、その中心で歌うタカ・タカアキは往年の歌謡スターのように妖艶な存在感を放っている。
そして彼らの真骨頂はそのエンターテインメント性。客席の女性を捕まえて一緒にダンスをしたり(「絶対可愛い娘選んでるやろ!」なんて観客の冷やかしも微笑ましい)、シュールな自作衣装に身を包んで寸劇のようなパフォーマンスを披露したり、総合司会も務めるナイトサパーズの漫談のようなMCも相まって、「次は何をするんだろう?」というワクワク感で野外音楽堂はいっぱいだ。
「おいおい」なんてツッコミを入れながらも笑いの絶えないオーディエンス。「いきなりこんなに飛ばして大丈夫かよ」とすら言いたくなる。ライブ?演劇?コント?歌謡ショー?一つのカテゴリーに収まらない彼らのショーマンシップ。<エンターテインメントの卸問屋>の異名を持つという彼らだが、その名の通り。エンターテインメントというものをそのまま体現したようなステージに僕らは魅了されていた。
neco眠る
カレーに唐揚げ、担々麺、果ては似顔絵まで。バラエティーに富んだ会場の出店はどれも「こんがりおんがく」と馴染みの深い方々によるものだという。そんなところもインディーレーベル主催のフェスならではだろうか。
お酒を飲んだりご飯を食べたり、思い思いに過ごす人々でごった返した昼下がりに登場したのは、ホストを務める「こんがりおんがく」の一角、neco眠るだ。ガンガン踊れる定番のダンスチューンよりも抑揚の効いたスタンダードナンバーを中心に据えたセットは、ここに集まった人々への信頼がうかがえる彼らなりの<フェス仕様>だろうか。しかし、それでも6人の個性がぶつかり合った、隠そうにも隠せないアヴァンギャルドなバンドサウンドは健在。スペシャルゲストのテンテンコを迎えた“Animal’s Pre-Human”でも彼女のキュートな歌声を立てつつ、ダイナミックな演奏で会場を沸かせていた。
最後に披露された新曲(セットリストによると“実家の鍵”という曲らしい)は、シューゲイズ風のギターに目を丸くするドリーミーでノスタルジックなナンバー。まるで夢はまだまだ続くよと言わんばかりだ。どこにも属さない個性を放ちながらも、近所の商店街のような親しみを感じさせる彼らのステージは、尖りまくっているけど自然とリラックスできる、こんがりおんがく祭の雰囲気を象徴したものと言えるのではないだろうか。さあ、いい感じにこんがりしてきた。
スチャダラパー
スチャダラパーのステージも、こんがりおんがく祭の風物詩の一つだ。キレッキレのラップでゆる〜い脱力感を生み出す独特のバランス感覚は、やはり野外音楽堂によく似合う。
「最近流行りの〜」とトラップビートに移行してみたり、ノリで気楽にどこへでも飛べるフリーキーな感じ、やっぱりいいよね。ヒット曲抑えめなストイックなセットでも、彼らの手にかかってしまえばどこにいようとダンスフロア。場外を散歩する人達も音漏れに合わせて身体を動かしていたり、SDP Tシャツを着たファンも、熱心に観るでもなくビール片手にフラフラ踊っていたのがとても印象的。楽しみ方になんの制約もない圧倒的な開放感に身を任せ、僕も友人達と踊っていた。
そして、盟友である脱線3のロボ宙も迎え、平成を彩る大アンセム“今夜はブギー・バック”で会場全体が波のように躍動する様は圧巻。思い思いに手を振り声を上げ、フロアは最高潮へと向かっていく。そんなステージを締めくくるのは、ロボ宙に加えneco眠るとも共演した楽曲“ひねくれたいの”。フジロックで観たアンダーソン・パークのステージでも思ったが、やっぱりバンドの生演奏とラップの組み合わせはゾクゾクするほどグルーヴィーだ。照りつける太陽の華やかな光に包まれ、こんがりおんがく祭はピークタイムを迎えたようだ。
ふだん+エマーソン北村+POPO
今回特徴的だったのは、<KONGARI SIDE ACT>としての特別編成ユニット、ふだん+エマーソン北村+POPOであろう。チープなリズムトラックに乗せてゆったり奏でるキーボード、ふだんの素朴で自然と肌になじむ歌声、さりげなく彩りを加えるトランペット。例年のDJプレイのような派手さはなくとも、この空間をコーディネートするように優しく僕らを包み込む。
アプローチは違えど、身体が動くアクトが勢ぞろいした今年のこんがりおんがく祭において、彼らの存在は水族館のイルカショーのような安心感を生み出していたように思う。
[ Part 2 へ続く]
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