こんがりおんがく祭2019 | 大阪城野外音楽堂 | 2019.05.05 | Part 2

一癖も二癖もある超個性派フェスをレポート

こんがりおんがく祭 2019 ライブレポート
一癖も二癖もある超個性派フェスをレポート
Part [ 1 | 2 ]

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DODDODO BAND


そんなゆったりした空気から一転、和田晋侍のダイナミックなドラムが響き渡る。こんがりおんがく祭を仕掛ける首謀者の一人、DODDODO率いるDODDODO BAND(ドッドド・バンド)の登場だ。
いきなりの代表曲“猫がニャ~て、犬がワンッ!”で、会場は一気に陽気で楽しい祝祭的なムードに。吹き抜ける初夏の風が気持ちいい。自由に遊ぶような松永ケイゴのクラリネットと中尾マサコのバイオリンが民族音楽のようなフィーリングを持ち込み、童謡のような懐かしさと親しみを持ったDODDODOの歌声と絡み合う。フロントの3人がこんなに自由に踊れるのも、どっしりとしたリズム隊がいるからこそであろう。
「しんじ〜!まこと〜!けいご〜!」なんて声が飛び交うホーム感の中、楽しそうにセッションする彼らを見ていると思わず笑みがこぼれてくる。





最後には、ゲストのリンダ&マーヤが登場。2人で1つのドラムを叩く姿は笑ってしまうくらいぎこちないが、みんなで音を合わせる喜びに満ち溢れていて本当に楽しそう。こんなゆるいゲスト出演にも、人と人との繋がりでできているこのフェスの魅力があらわれているようだ。音楽の楽しさ、そんな初々しい気持ちを思い出すような暖かいステージであった。

cero
観るたびに新たなバンドへと変貌していく。2015年の出演当時とは別の次元のバンドへと成長したceroは、昨年の傑作『POLY LIFE MULTI SOUL』のフィーリングも完全に身体に馴染ませた万全のセットで僕らを新たなフィールドへと誘ってくれた。
サウンドチェックからして「これ、まだ始まってないんだよね?」と言いたくなる重厚なグルーヴで期待感を煽る中、開幕一番の“Yellow Magus”で高城晶平の歌声が僕らを音楽の海原へと招待する。遠くの風景を想起させるストーリーテリングな言葉を、ラップのようなフロウでリズムに溶け込ませていく彼のスタイルはここでも際立っている。そして彼らの真価が現れているのが“魚の骨 鳥の羽根”や“Buzzle Bee Ride”といった最新作の楽曲だ。
8人編成のバンドアンサンブルが織りなす、ポリリズムと変拍子を多用した複雑怪奇なリズムに身を委ねていると不思議と身体が動き出す。どのリズムでもあってどのリズムでもない一人一人の身体のリズムが浮かび上がってくる、この気持ちよさったらない。以前単独公演を観た時よりフレンドリーなステージのように感じられたのは、<フェス仕様>というよりも彼らの進化だろう。
ジャンルの枠を超えて多種多様な音楽を吸収し、ジャムセッションのようにフレッシュなライブを通してポップに昇華する彼らの姿は、新時代を先導していくような力強さに満ちていた。自身の最高を更新し続ける彼らは、次に僕らをどこに連れて行ってくれるだろうか。

坂本慎太郎
そろそろ疲れが見えてきた夕暮れの時間、セッティングに姿を見せただけで嬌声が飛び交う異様な期待感の中、登場した坂本慎太郎。
飾り気のないシンプルな演奏を淡々と披露しているだけのように見えるのだが、まるで人でない何かがそこにいるような異物感がものすごい。サウンド面にもそんな感覚がにじみ出ていたゆらゆら帝国と違い、今の彼はまるでサイケデリアをそのまま体現しているかのようだ。どこに焦点が当たっているのかわからない簡素で脈絡のない言葉選びが不穏な空気を漂わせる中、不意に身体が動き出す。自分がどこに共振しているのかすらまったくわからないのに、踊らずにはいられない。「なんだこれは?」
極め付きは“あなたもロボットになれる”で、牧歌的でのんびりした演奏とディストピアとしか言いようがない歌詞のギャップに、おぞましさを感じながらも身体はただひたすら動く。周りを見渡してもみんな踊り狂っている。疲れも相まってか、気づくとこの狂気的とすら言えるような空間に陶酔感を覚えていた。危ない。そして、この陶酔感をどんどんかき混ぜるようにギターは勢いを増していき、最後までただただ淡々と彼のステージは過ぎ去っていった。「なんだったんだこれは…」
正直に言うと、このレポートを書いている今でもここで何が起こっていたのかいまいち説明ができない。しかし、わけもわからないまま享楽的に巻き込まれていく心地よさ。今も貪るように彼の音源を聴いてしまっている。熱狂的に支持されるのも当然だろう、周りの景色をすべて塗り替えられてしまうような衝撃的なパフォーマンスであった。

オシリペンペンズ

坂本慎太郎が作り出した狂気的な雰囲気を引きずったまま、暗くなりつつある空の下登場した大トリ、オシリペンペンズ。
実を言うと始まるまで「ceroか坂本さんのほうがトリっぽいけどなー」なんて考えていたが、彼らのステージが始まった瞬間にそんな考えは吹き飛んだ。歌なのか叫びなのかわからないボーカルに、ギターとドラムだけとは思えないほど暴力的に叩きつける演奏。それぞれの無軌道が奇跡的に合致した瞬間を切り取ったような、今にも壊れそうなギリギリのサウンドスケープ。キャプテン・ビーフハートとか、あぶらだことか言うのも野暮に感じる独創性。なんとスリリングなバンドだろうか。
観客が渡したパックの焼酎を一気飲みしたかと思ったら、そのままステージ後方の鉄柱に登って歌ったり、かなりの長尺を使って会場のちびっ子にインタビューしたり、事故スレスレの石井モタコのパフォーマンスは一つ一つ数え上げていったらきりがない。「何かがここで起こっている感じ」とでも言えばいいのだろうか。一瞬一瞬が劇的に染め上げられていく感覚に、ただただ圧倒されるばかりだった。彼らの暴挙のようなステージが加速するにつれ、怒声のような観客の叫びがこだましていく。彼らが全力で向かってくるなら観客も全力で応える。清々しいまでの信頼関係だ。
最後の最後まで暴風雨にように走り抜けていったオシリペンペンズ。ビリー・アイリッシュが、先月開催されたコーチェラ・フェスティバルにおけるステージのMCで「今この瞬間が全てだから全力で楽しもう」といったことを言っていたが、そんな気持ちを誰よりも体現していたのが彼らであろう。単なるジャンルを超えた精神としてのパンクが宿った彼らのライブには、こんがりおんがく祭のすべてが詰まっていた。




ゴールデンウィークも終わり、新元号に変わっても日常は特に変わらないことにそろそろ気づき始めた今日この頃。「音楽とは、バンドとは、ライブとはこういうものだ」なんて固定観念にとらわれず、各々の音楽を突き詰める彼らの姿に大きく勇気付けられたのは僕だけではないはずだ。さあ、新時代を歩み始めよう。

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Part [ 1 | 2 ]

Text by Hitoshi Abe
Photo by Tomoko Okabe