#ライブフォレストフェス -森と川と焚火の音楽- |多摩あきがわ ライブフォレスト@深澤渓 自然人村 | 2020.08.01 

小さな会場の大きな可能性

■生の音楽を求めていた

コロナウィルスのために、自分は今年の3月以来、ライヴにはいけなくなってしまった。6月頃から徐々にライヴも再開されていったので、どこか生で音楽を聴く機会があればと思っていたら、この『#ライブフォレストフェス ~森と川と焚火の音楽祭~』があることを知り、7月31日から3日間の開催の中で、8月1日のチケットを購入した。

主催者はフジロックではジプシーアヴァロンでお馴染みのアースガーデン。場所はあきる野市にある「多摩あきがわ ライブフォレスト@深澤渓 自然人村」という小さなキャンプ場であった。アースガーデンではすでにこの場所でROVOや加藤登紀子のライヴをおこなっていて、小規模なフェスができるところとして育てていくようである。

五日市線という東京都内でも屈指のローカル線の終点である武蔵五日市駅から歩いて20~30分、駅の周辺は多少の住宅街もあるけど、ほとんどは里山の風景が広がる道を経て会場に着いた。基本的には登り坂である。近づくとDJが流している音楽が聴こえてくる。

■会場は小さなキャンプ場

入場のときにチケット代わりになるスマートフォンの画面を係員にみせて、検温を受ける。会場へ下っていく坂道をいくと、小さい川が流れていて、橋を渡り、進むと小さなステージがあった。このメインとなるフォレスト・ステージは、大きさがフジロックでいえば苗場食堂かオレンジカフェか木道亭あたりを少し大きくしたくらい。その横にDJ/トークのブースがある。フロアにあたるところには、キャンプ用の椅子が主催者によって置かれていて、椅子と椅子の間隔も空いているようになっている。検温、消毒液、ソーシャルディスタンス、そしてマスク着用。コロナウィルスの感染が収まらない状況で、こうした試みが上手くいけばいいと思う。

木々に囲まれた場所で、セミの鳴き声や鳥のさえずりに混じり、DJ Autoがかける曲が気持ちよく、楽にいけるところじゃないけど、ここに来てよかったと思った。天気は晴れたり曇ったり、雨が降ったりと安定してないところがいかにも野外フェスという感じでそれも含めて素晴らしいところである。

アースガーデンの代表者の鈴木”南兵衛”幸一さんに話を聞くと、「多摩あきがわ ライブフォレスト」を準常設の会場として「多摩のリキッドルーム」のようにしたいとのこと。アクセスは大変といっても東京都内だし、駅から徒歩30分なら可能性はあるのではないかと思った。常に300人くらい入れば持続できるようである。

椅子に座ってあたりを見回すと、ステージの上あたりに、木々の間からみえる通行量ある道路が、フジロックだと国道17号を思わせるし、ステージ近くにある川がフジロックだとホワイトステージ前の川のように河原に降りて遊べるし、つまるところ最高の場所なんである。

トイレはキャンプ場に常設のものがあり、この日の集客であれば、長く待つこともない。飲食はいくつか出店していて、タイミングにもよるけど、注文や受け取りに長く待つことはなかった。そしてフジロックのフィールド・オブ・ヘヴンや朝霧JAMのムーン・シャインにありそうな店やサービスがいくつかでている。出店に関しては狭いキャンプ場なのですべてをコンパクトにまとめることはできず、ちょっとした移動が必要になるものもあるけど、ストレスを感じるほどではない。

■久しぶりの音

13時30分頃からライヴが始まる。まずはMichael Kanekoが登場する。ギター&ヴォーカルの弾き語り、キーボードとドラムの3人編成である。ジャック・ジョンソンやジェイソン・ムラーズを思わせる、シンプルでオーガニックな響きが特徴である。ベースラインは録音されているものかもしれないけど、それでも生の音楽の響きがこれほどまでに待っていたものだったと改めて感じさせた。この数ヶ月、生まれたての音を直接体験することができなかったので、自然の音や光に囲まれて聴く喜びを感じることができた。

Michael Kanekoの音がこのロケーションに合ったものだったのもよかった。曲によってはダンサブルなものもあり、そのときには、多くの人がその場で立ち上がり、思い思いに踊っていた。

ライヴが終わると隣のブースで、「フェスおじさん」菊地崇さんとフェス情報サイト『Festival Life』の津田昌太朗さんの2人が「コロナ禍の中での全国フェス事情」と題して、国内外のフェスに関してのトークがおこなわれた。正直、厳しい話が多いけれども、この会場のようなところから地道にやっていくことに希望を見出していくのだろう。

次のステージは、Ovallのギタリストの関口シンゴ。ひとりでギターを弾く。アンビエントな響きのあるインストゥルメンタルな曲や、“Lovin’ you”や“Time after time”などのカヴァーなど織り混ぜた心地よい空間だった。そしてMichael Kanekoのバンドを呼び込んでセッションをおこなう。フジロックの木道亭や朝霧JAMのムーンシャインのようなゆったりとした雰囲気がよい。さまざまなセミの鳴き声が聞こえる中での体験なのがフジや朝霧との違いかもしれない。それがよい。

■ステージからステージへ

セッションが終わると、離れた「小さな美術館ステージ」で泉邦宏が演奏するというので、歩いて向かってみる。思った以上に離れていてフジロックでいうとグリーンステージから奥地のカフェ・ド・パリまで歩いているような体感だった。途中、道を間違えたのではないかと思ったら、スタッフの人に「合ってますよ」といわれる。「深沢小さな美術館」は友永詔三という彫刻家の私設美術館で、自分の世代だとNHKの人形劇『プリンプリン物語』の人形を作った人といえばわかるかもしれない。『プリンプリン物語』にでてきた人形が多数展示されている他、さまざまな作品、入り口には大きな錦鯉やチョウザメが泳ぐ水槽がある。

その美術館の駐車場に小さなステージがあった。泉邦宏は渋さ知らズでサックスを吹いていることで知られているけど、この日はサックスだけでなく、カリンバ、笛(鼻でも吹く)、ギター、パーカッション、そして演奏したフレーズをサンプリングしてループを作り、そこにまた演奏を重ねるというひとりオーケストラ状態であった。実験的ではあるけど、それよりも演奏している様子の楽しさの方が勝っていて充分にエンターテインメントであった。

道を下ってフォレスト・ステージに戻ると、津田昌太朗さんと南兵衛さんのトークが始まった。この場所を選んだ理由や可能性などを語り合う。ぜひライヴの場として持続できることができればと思う。

そして七尾旅人。19時に始まる予定だったけど、15分くらい前倒しで始まった。ステージの前では焚き火が焚かれる。久しぶりに人前で演奏することの不安、喜びを冗談も交えながら語り、披露された曲は、すっかり暗くなった会場に浸透していった。セミの鳴き声が潜め、すると川のせせらぎが聞こえてくるという中で聴く体験。

アコースティックな「ストリッパーのおねえさん」、お客さんたちを踊らせた「Rollin’ Rollin’」など披露し、「顔が見たい」と照明をお客さんたちに向けて、場を共有する切実を身をもって示した。ライヴが終わると、アンコールを求める拍手が沸き起こり、再びステージに立ち未発表曲「途方もないこと」を歌う。大きなものが立ち塞がり、小さな希望であっても途方もないことであるという歌。今、ここで歌わなければならないことが伝わる。七尾旅人が終わると、またDJが登場して締めくくるのだけど、自分は帰路につく。何台かのタクシーがお客さんを乗せて駅に向かう。下り坂なので、暗くて寂しい以外は、そんなに苦もなく20分くらい歩いて駅に着いた。

■今後も続く場として

会場のお客さんたちは総じてマナーがよく、苗場初年度のフジロックとか1年目の朝霧JAMのような雰囲気があった。自分たちの行動がイベントの成否に関わる緊張感はあった。ただ、声をださないとか、飲食物の共有はしないとか、(自分は望んでないけど)ステージとフロアにアクリル板かビニール幕で隔てないといけないとか、さらなる感染対策が求められるかもしれない。

やはり、自分には音楽の現場が必要であることを改めて感じさせた。この場が持続できればと思う。自然に囲まれたステージなので、アコースティックなアーティストやアンビエントな音、ジャムバンドなどが似合うけれども、こうした所はいろんなアーティストに解放してほしいし、現場に飢えているアーティストに挑戦してほしい。例えばイースタンユースが蝉時雨の中で「夏の日の午後」を演奏したら最高だと思うし、椅子から離れなければ踊るのもOKなのだからテクノも聴きたい。テクニカルなプログレッシヴロックなんかは椅子に座って聴きたいからちょうどよい。ジャンル的に縦ノリのパンク系バンドは難しいけど、そのアコースティックヴァージョンで演奏するとか、可能性は広がる。

だいたい武蔵五日市駅22時ころ発の電車に乗れれば23区の東側や横浜市の中心部でも帰れるし、思ったよりも遠くない。バンドが2~3組登場するイベントを20時30分ころに終わるようにすればよいのではないか。真冬はさすがに厳しいけど、桜の季節から紅葉の季節までできると思う。少しの雨は問題ない(この日も開場したときににわか雨があったけど、ライヴが始まったら雨は降らなかった)。

素晴らしい場所をみつけてくれたことに主催者の方々に感謝。そしてコロナウィルス以後のライヴ会場として大きな可能性があると感じたフェスだった。

#ライブフォレストフェス 公式HP

Text by Nobuyuki Ikeda
Photo by Nobuyuki Ikeda