eastern youth | 長野 りんご音楽祭 | 2020.9.28

渾身の2020年初ライブ

eastern youthが9月26日・27日に長野県松本市で開催された音楽フェスティバル、「りんご音楽祭」に出演する旨が発表されたのは、フェスの開催まで2週間前を切ったころだった。8月にニュー・アルバム『2020』が発売されたが、11月21日の名古屋クラブクアトロまでライブは観られないと思っていたところに、思いがけない報せだった。

eastern youthの出演日はフェス2日目の9月27日。昼間は青空が広がり、絶好のフェス日和となった。徐々に肌寒くなってきた17時近く、メインステージである、そばステージに吉野寿(Gt/Vo)、村岡ゆか(Ba)、田森篤哉(Dr)の3人が姿を現し、サウンドチェックを始める。田森、村岡、吉野の順でチェックが進み、最後に3人の音が合わさったとき、eastern youthをお目当てにステージ前に集っていた観客には「ああ、ようやく」とも言うべき、特別な感慨が湧いたのではないだろうか。

サウンドチェックを終えて、そのまま演奏が始まる。吉野はステージ前に集っている観客へ向かって語りかける。

「マスク! 着用、マスク! 俺の飛沫をナメてはいけない。2メートルどころじゃないからな?」

「もうちょっと下がった方がいい。消毒液とか持ってますか? すぐ顔洗った方がいいよ、次の転換の時までに」

と注意を促しつつ、

「東京からやってまいりました、東京からやってまいりました。eastern youth、2020年初ライブ」

と言い放つ。始まった1曲目は”今日も続いてゆく”。『2020』の冒頭を飾る曲で、観客の期待に応えた。飲み込まれそうな爆音と、吉野の鋭いギターと絞り出すような歌声に胸ぐらを掴まれ、パワーを感じる田森のドラムのどっしりとした響きに圧倒される。この日から新しいベースを使い始めた、村岡の紡ぎ出すベースラインとコーラスも光っている。ライブで初めて聴く曲なのに、「これだよ!」という気持ちになる。

“街の底”、”沸点36℃”、”夜明けの歌”と続く。昨年の12月14日以来、9ヶ月半ぶりのライブとは思えないほど、恐ろしく手堅い演奏。30年以上、どういう状況にあっても、今できる最高かつ渾身の演奏を重ねてきたバンドの矜持を感じた。吉野は「しゃべりませんよ、今日は」とつぶやきつつ、5曲目は”ソンゲントジユウ”。最後に「なあ、そうだろ?」と問いかける吉野の表情は、迫力満点だった。

“今日も続いてゆく”のPV以降、ようやく見慣れてきた感のある髭面の吉野。「失業中ですよ、何もしてない。ゼロ円、ゼロ円生活。…….ウソ、ゼロ円生活じゃない。家賃払ってる。マイナス生活、持ち出し。あとで帽子回すからね、(お金を)みんな入れてね」と語る。

「払う、払う!」と返した女性客に「払うって言われると、いいね。価値を感じて嬉しいですよ」と笑顔で答えつつ、

「いいですよ、無理しなくて。どこへでも行きゃいいんだ、どこへだって行きゃいいんだ」

とつぶやいて、”いずこへ”。古くからの代表曲だが、吉野のアクションのキレがハンパない。眼光にも圧倒されて、観ているこちらも思わず拳を握り締めてしまうような凄みを感じた。去年までと変わらないどころか、自粛期間を経て、パワーが充填されたのかもしれない。これは11月21日からの東名阪ツアーも、期待するしかない。

ラストは”夏の日の午後”。吉野は改めて「東京から来ました、eastern youthです」と言ってから、演奏が始まった。この日の松本市の日没時間は17時37分。青くが深くなっていく空の下、ステージ向かって左側の向こうには赤味が徐々に薄らいでいく空、右側には沈みゆく太陽の光が見えて、ドラマチックな時間帯だった。去年までと比べると、周囲に配慮してバンドと一緒に歌ったり、歓声を上げるのを抑えた人もいたはずだ。わかりやすい「盛り上がり」が薄まったのは否めない。そのかわりに、日常から切り離され、生の演奏を目の前にしながら周囲の自然と場の持つ力、バンドが放つ気迫、自分のなかで湧き上がる感情が渾然一体となる、フェスで過ごす時間の濃密さとかけがえのなさは、久しぶりだけに格別だった。演奏を終え、「ありがとう、さよなら!」の言葉を残してステージを去る3人に、大きな拍手が向けられた。

今年のりんご音楽祭はキャパシティを従来の1/5の1000人に減らし、チケットは長野県内限定で発売され、大幅に規模を縮小したうえでの開催となった。場内の人数が少なくなったことで、ステージ前付近の観客が密集しているスペースの面積は、前回の出演時より確実に少なくなっていた。しかしライブ中、観覧エリア後方には場所取りで置いてあると思われる無人のキャンプ椅子がかなりの数放置されており、座らないのであればその場所をライブを観たい人に譲れば、観客同士のソーシャルディスタンスをもっと確保できたのではないか、とも思った。

元どおりの日常を取り戻し、かつてのようにライブが楽しめるようになるのはまだ先になりそうだ。フェスやライブがようやく再始動し始めたいま、主催者がアナウンスする感染拡大防止の対策に協力するとともに、誰かから注意されたりスタッフに誘導される前に、参加する観客ひとりひとりが周囲の人を思いやり、会場内でどう行動するのがベストかを考えながら、このかけがえのない時間と場を次に繋いでいく必要がある。

<SET LIST>
01.今日も続いてゆく
02.街の底
03.沸点36℃
04.夜明けの歌
05.ソンゲントジユウ
06.いずこへ
07.雨曝しなら濡れるがいいさ
08.夏の日の午後


『eastern youth 極東最前線 2020 あちらこちらイノチガケ』
https://smash-jpn.com/live/?id=3411

名古屋 11/21(土) 名古屋 CLUB QUATTRO
open 17:00 / start 18:00 前売 ¥4,500(前売/1 ドリンク別)

大阪 11/22(日) 梅田 CLUB QUATTRO
open 17:00 / start 18:00 前売 ¥4,500(前売/1 ドリンク別)

東京 12/5(土) 渋谷 TSUTAYA O-EAST
open 17:00 / start 18:00 前売 ¥4,500(前売/1 ドリンク別)


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Text by Keiko Hirakawa
Photo by Keiko Hirakawa