それでも成長していく
8月8日の大阪で始まったザ50回転ズの『Magical Acoustic Tour』は、この日、東京キネマ倶楽部で最終日を迎えた。キネマ倶楽部は鶯谷駅の近く、周辺はラブホテル街があるエリアで、この会場自体も以前はキャバレーであった。
入場するときは接触確認アプリの提示が求められ、検温、消毒がおこなわれた。これからはしばらく、もしかするとこの先ずっとこうしたことが必要になるかもしれない。
フロアには椅子が等間隔で並べられ、お客さんたちはマスクをつけて椅子に座り静かにライヴの始まりを待つ。ステージにはアコースティック楽器に椅子が配置され、マイクの周りには透明な円形アクリル板が取り付けられている。会場にはソニックスの曲が流れていた。今回のツアーは2部構成となっていて、第1部は15時30分、第2部は18時から始まる予定だった。15時30分を少し過ぎるあたりで第1部が始まった。いつものようにドクター・フィールグッドの“Riot in Cell Block Number 9”が流れステージ下手の斜め上にあるバルコニーにボギー、ドリー、ダニーの順番に登場し3人でポーズをとってからステージに降りていった。
「レッツゴー3匹!!」からスタート。軽快なケルティック(アイリッシュ)パンクに合わせて、お客さんたちは座ったまま手拍子や持参してきたパーカッションを鳴らす。次の「マブイあの娘」を聴いているときに思い浮かんだ言葉が「グルーヴ感」である。今まで50回転ズのリズムといえば縦ノリというイメージだったけど、縦に乗ることができない今、ボギーの小気味よいドラムと、ダニーの明るくやんちゃだけどアコースティックゆえに繊細な響きを持つギターに、ドリーのウッドベースの低音が加わると、横でも乗れる味がでてくるのだ。今回のツアーの最初と最後を観て感じたのは、その演奏の熟成である。
「エイトビートがとまらない」でボギーが歌詞を「あの日あのときのベース」と変えたところで聴けるドリーのベースラインの気持ちよさはハッとしてグッとくるところで、それに対抗してダニーが「俺のことも取り上げろ」と言わんばかりにドラムセットに向かってギターを弾きまくるところが笑えた。
哀愁あるロカビリー「ホテルカスバ」でせっかくカッコよかったのに、「ちんぴら街道」で三味線を手にしたダニーが津軽三味線や浪曲のパロディみたいなことをクド~くやっていた。この日ダニーはボギーのことを「大阪出身のお笑いのDNA」とよくイジっていたけども、ダニーも十分に芸人である。「ちんぴら街道」も初日は普通にやっていたのだけど、ツアーを重ねるうちにクドくなっていったようだ。
濃いお笑いのあとはお口直しに、すっきりとした「ロックンロール・ラブレター」。そして中盤はカヴァーコーナーへ。というものの、なかなか本題に入らずチャック・ベリーの“Johnny B. Goode”を演奏したりする。これもカヴァーだからよいか。そうしたセットリストにないお遊びのあとで、まずはダニーが「ゲゲゲの鬼太郎」。ついでに、先日配信が始まったwebアニメ『キャップ革命ボトルマン』のテーマソング「キャップ革命ボトルマン」を披露する。50回転ズらしいシンプルで親しみのあるメロディを持つロックンロールに仕上がっている。
ドリーはイングランドのトラッドソングで、ダブリナーズやポーグスも歌った“Leaving of Liverpool”。ボギーは小林旭の「自動車ショー歌」を歌うけど、ダニーやボギーの「小林旭です」というモノマネがあまりに似てなくてショーもない。ボギーの歌は原曲の能天気さのバイブスを感じさせ素晴らしかった。
「デヴィッド・ボウイをきどって」はアコースティック・ヴァージョンによって、より曲のよさが引きだされた。曲の浮遊感とロマンティック感に浸れるものになっている。ステージにコンガが運び込まれて、ダニーがボギーをイジりながら「テキーラ」やラモーンズの“Blitzkrieg Bop”を軽くセッションしながら、「涙のスターダスト・トレイン」。
ボギーがドラムに戻って「故郷の海よ」、終盤に向けてテンションを上げてく“Vinyl Change The World”、カントリーぽい感じになった“YOUNGERS ON THE ROAD”と立つこともできないし、声もだせないけど、パーカッションや手拍子でお客さんたちも盛り上がっていく。時間が押しに押しているので、ダニーはアンコールはやるけど、ステージに居残ってそのままおこなうことを宣言。「おさらばブギウギ」で、ドリーが歌う通常の歌詞に「このままやるんですけどね」とか細かくダニーの合いの手が入っていくのが笑えた。ドリーはウッドベースに乗っかってコール&レスポンスを求め、お客さんたちは声をださずに音でそれに応える。
そのまま居残りアンコールへ。「たまにはラブソングを」そして「50回転ズのテーマ」。アコースティックでも勢いある曲で締めくくる。やっぱり、いつの日か爆音でやりたいという思いが伝わってくる。ホセ・フェリシアーノの「ケ・セラ」が流れる中、メンバーたちは拍手に応えて、感謝を示しながらバルコニーへ。登場時と同様に3人でポーズを決めてからカーテンの向こうに去っていった。
初日と最終日を観ると、演奏は熟成されて、笑いの要素は濃くなり、コロナウィルスが蔓延しているという大変な状況でも成長していくというしたたかな姿をみせてくれた。こうした完成度高いステージを観ると――彼らの爆音のロックンロールが大好きであるし、いつかその日を願っていることが前提なんだけど――お客さんの間には適度な距離があり、椅子に座って観るというこっちの方を愛する人もでてくるのでは、と思ってしまった。
ネット配信がおこなわれた第2部も素晴らしく、若干演奏曲が違っていたけど(特にドリーがカヴァーした加川良の「教訓1」がよかった)、サービス満点のステージをみせてくれた。
Setlist 1st set
1.レッツゴー3匹!!
2.マブイあの娘
3.たばこの唄
4.エイトビートがとまらない
5.ホテルカスバ
6.ちんぴら街道
7.ロックンロール・ラブレター
8.ゲゲゲの鬼太郎(キャップ革命ボトルマン)
9.Leaving of Liverpool
10.自動車ショー歌
11.デヴィッド・ボウイをきどって
12.涙のスターダスト・トレイン
13.故郷の海よ
14.Vinyl Change The World
15.YOUNGERS ON THE ROAD
16.おさらばブギウギ
アンコール
たまにはラブソングを
50回転ズのテーマ