KING BROTHERS | 大阪 心斎橋ANIMA | 2020.12.12

ぶっ放された完璧な轟音

12月12日、キングブラザーズが観客を入れて年内最後のワンマンライブを、大阪心斎橋アニマにて開催した。彼らが今年3月以降に録画配信を含め行ったライブは10本あまり。例年なら1~2ヶ月でこなす本数だ。この日のライブは1年の集大成というよりは、この日に照準を合わせたかと思えるような、バンドのピークを感じさせるものだった。

筆者が14時に現場入りすると既にメンバーは到着していて、セッティングの真っ最中だった。アニマはフロアを挟んで両側にステージがあり、イベント等で交互にライブが執り行われやすい設計となっている。この日は両ステージ上に観客席を設け、フロアの中央にセットが組まれていた。ケイゾウ(Vo/Gt)自らライトの位置を調整していた。開場は19時30分だ。6時間以上かけ、綿密な調整が続けられた。

20時05分、SEもない中メンバーがフロアに登場した。フロアのメンバーに向けて両ステージ上から拍手が沸き起こるという不思議な状況だ。ゾニー(Dr)が繰り出すタムの音色が、着席してキングブラザーズのライブを観る、という所在なげな観客の心を弾ませていく。「キングブラザーズです。2020年今年最後のロックンロールショー!」ケイゾウがメンバーの名前を挙げるのを合図に、ハープの熱いブロウが咆える“wasteland”でライブは始まった。メンバーそれぞれに配信カメラマンが張り着き、アーカイブ無しのライブ配信がなされていた。バンドは速度をあげて“何も欲しくない”“Bang! Blues”と続ける。ケイゾウは、セクシーなMCにのせながらスライドバーを付けると、MC同様色気のあるスライドギターで観客を惹きつけた。ゾニーが全身全霊で高速の8ビート打ち鳴らし、二人のギターを牽引していく曲後半は圧巻だった。マーヤ(Gt/スクリーム)は一音一音をとても丁寧に想いを込めるかのようにギターに集中していたが、時折観客の方を見て笑顔を浮かべた。緊急事態宣言後、バンド初めての配信ライブ『FUCK THE COVID!』の現場が緊張感で張り詰めていたことを思い出す。あの日のリハーサルは本番さながらの熱量で、本編全曲を通しで行なっていた彼らだったが、合間にマーヤが「誰かスタッフ1人でもいいから目の前にいてほしい」と自らの思いを吐露していたのが印象深い。ライブバンドとして観客はそのステージングに欠かせないものであり、フロアとバンドが一体となってトルネードのような爆発的なエネルギーを放つライブを行う彼らにとってこの1年、ライブが行えないこと、無観客で演奏することは、筆舌に尽くし難いことだっただろう。あの日、先を見据え「死力を尽くすだけ」と語ったマーヤが、2m離れていても目の前に観客がいてくれることの喜びを隠せるはずがなかった。

バンド20周年に出されたアルバム『wasteland』からの選曲が続く。“踊る屍”ではゾニーが控えめにリズムを刻み、マーヤのアタック強めなカッティングを際立たせていたかと思えば、ドラムが曲の舵を取ることでより曲をドラマティックに魅せる場面もあった。また、ケイゾウがハープを差し込み、絞り込むように心情を重ねていくと途端、リリックが胸に突き刺さってきた。着席する観客はじっくりと演奏に耳を傾けながらも、思い思いに身体を揺らしていた。

しかし、そんな余韻を引き裂くように“魂を売りとばせ”へと雪崩れ込む。マーヤは観客席まで近付いては戻り、マイクを投げては戻りを繰り返し、観客を湧きに沸かす。ケイゾウは拳をあげ「やってやってやりまくるぜ」とシャウトしては観客と視聴者を煽っていく。そのまま流れるように低いケイゾウのベースギターが鳴り響き、繊細なマーヤの旋律が重なるイントロが会場の空気を塗り替えていく。ミラーボールが頭上に煌めき光を浴びながら演奏されたのは“ロマンチスト”だ。2本のギターが奏でるその美しさに圧倒されているところに、ドラムが曲の中心で歌い上げていく。そのアンサンブルのスケール感にただ息を飲んだ。

間髪入れず演奏されたのは、6月20日に発売された7インチアナログ盤『CRAYON SPLIT COLLECTION VOL.1』に収録されている“-UFO-”と“ぶっ壊せ”だ。本来なら新譜を生で聞ける喜びに、飛び出したいところだが、観客はその場を離れることなく動ける範囲で身体を委ねていた。

そして高速の“BIG BOSS”が始まると、さぁここからだと言わんばかりにバンドの本気が炸裂していく。3人が束になって音塊に身を投じていく。目をかっと見開き、情け容赦ない本気度で生み出す熱量は、凄まじい。“☆☆☆”ではそれまでコーラスに徹していたマーヤが「アーユーレディー!一体今年は何やったんや!来年もロックンロールでぶっ飛ばそうぜ」と声が枯れるほどにスクリームした。

今が一番バンドの状態がいいんじゃないかなと、ライブ前にゾニーが語っていた。コロナ以前、国内外を含め年間何十本とライブをこなしていく中で、バンドのアップダウンは当然あっただろう。今年彼らは今まで以上に1本1本のライブに向き合い、取り巻く苦境を乗り越えてきた。9月のシマネジェットフェスでは走行する機材車の中での演奏を配信したり、タイムマシーンに乗って過去から現在を繋ぐというコンセプトの配信を行ったりと、毎回趣向を凝らして、コロナがなかったら見られなかった映像を見せてくれた。そこからは、20年以上ライブバンドとしてあらゆる壁を乗り越えてきた維持と誇りが垣間見えた。

腹の底まで響く低いギターをけしかけるように、ゾニーがカウントを重ね“皆殺しのブルース”が始まる。彼は曲の要所要所で吠えては、ケイゾウとマーヤへ交互に視線を送り、バンドのテンションを更に引き上げていく。重いビートを打ち鳴らしながらあたかもそれは、疾走する馬に鞭で追い込む騎手に見えた。キングブラザーズは3ピースというイメージが強いが、ゾニーがバンドに加入するまではバンドの歴史において、ベースのシンノスケを入れた4ピースバンドとしての活動がその中心を占めた。2014年1月11日西宮フレンテホールのライブからキングブラザーズの軸を支えてきたゾニーもバンド史上最長ドラマーとして8年目に突入する。彼の雄々しいドラムスのドライブ感と強烈な推進力がなければ、今の勇猛果敢なキングブラザーズはなかったかもしれない。彼の絶対的なバランス感覚は、どんな逆境でもバンドを明るい場所へ導いてくれそうだ。

バンドは“ドカドカ”“あッ!!ああ”と初期のナンバーでラストへと走り抜けた。「ほんとはここで終わる予定だったんですけど、このままじゃ終われない感じなんでもう1曲やります」そう言ったケイゾウはメンバーの名前を連呼し”マッハクラブ”としゃがれた声でシャウトした。高速のビートが観客を奮い立たせたところでマーヤがマイクを掴むと「皆さん今年はどうでしたか?やっぱり今年は最悪だぜ、今年最後のライブに大阪来てくれてありがとう!」と叫び、観客ものともグルーヴした。

ライブ後、バーカウンターでのメンバートークまで配信されたが、本編で飛ばしてしまった“Action!”を含め4曲を「ここからはオフレコで」とアンコール演奏した。『世界が変わらないことなんて知ってる、だったら無茶苦茶にしてやるんだよ!』とケイゾウは吐き捨てるように歌い、マーヤは「来年は今より前へ!進んだらいいね!」と観客に投げかけ「ソーシャルディスタンスはお前で決めろ!」と繰り返し叫んだ。つまらない日常をぶっ飛ばしてくれていたのは、エネルギッシュな非日常のライブハウスだったはずが、日常はパンデミックという非日常へと逆転してしまった。しかし、彼らはそこにいて、完璧なロックンロールを見せてくれていた。

逆境を物ともせず、むしろバネにしてバンドは続いていく。新年明けて配信されるのは、いつも彼らが物販を制作している地元西宮の印刷所からだ。

タフで柔軟なキングブラザーズだからこその活動から、まだまだ目が離せない。

<SET LIST>

01.wasteland
02.何も欲しくない
03.Bang! Blues
04.踊る屍
05.魂を売りとばせ
06.ロマンチスト
07.-UFO-
08.ぶっ壊せ
09.BIG BOSS
10.☆☆☆
11.皆殺しのブルース
12.ドカドカ
13.あッ!!ああ
14.マッハクラブ

En1.ACTION!!!!
En2.GET AWAY
En3.スパイ・ボーイズ
En4.ルル

今後のライブ予定詳細はキングブラザーズ オフィシャルサイトにてご確認ください。

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Text by Tomoko Okabe
Photo by Tomoko Okabe