1月末をもっての閉館に寄せて、リムプレスのライター2人が思い出を語る
今年1月末、新木場スタジオコーストが約20年の歴史に幕を下ろした。数々の名演と思い出が詰まったこの会場の思い出をリム・プレスのライター2人が語る。これを読んでいただいて、ファンそれぞれが思い出を振り返ってもらえたらと思う。
居心地よく楽しめたハコ
スタジオコーストが閉館したということで、スタジオコーストの思い出を頭に浮かべてみる。新木場という都心からやや離れたところにあり、仕事終わりで通うのは厳しくて、交通の便が悪い会場という印象が強かったが、自分はそれでも結構好きな会場だった。
ライヴハウスと言うには少し広めで、ゆったりと観られる場所も多かった。バーも広くて長丁場のイベントのときは逃げ場(休憩するところ)もあった。さらにメインのフロアだけでなくラウンジや外にテントを建て、そこで演奏が行われてたりもした。さらには、会場前にスペースにケータリングカーを設置されることもあったりして、小さなフェスのような体験ができた。アンドリューW.K.がヘッドライナーだったワープドツアーがフェス感あって楽しかった。スウェードがヘッドライナーだったJAPAN JAMもよかった。今は千葉の野外でおこなわれる春の邦楽フェスというイメージがあるけど、その年は洋楽バンドも登場してスタジオコーストでおこなわれたのだ。
自分の記録を遡ると2003年9月12日のブラフマンが初めていったスタジオコーストで、最後に観たのは2019年5月19日のザ・ジーザス&メリーチェインだった。ざっと印象に残るライヴを挙げると、復活して非常に格好よかったPIL、幸せなステージをみせてくれたミーカ、ノイズがすごかったマイ・ブラッディ・ヴァレンタイン、東日本大震災の1週間くらい前に観たベル&セバスチャン、まだ初々しいエド・シーラン、貫禄あったアラバマ・シェイクス、プライマル・スクリームあたり。プライマル・スクリームは会場に着いたとき、ライヴハウスの外でボビー・ギレスピーがいてカメラマンのミッチ池田さんが撮影をしていた。このときのライヴもすばらしかったうえに、ステージ上でないボビーを目撃できて新鮮だった。
スタジオコーストで不満があるとすれば、会場から駅周辺あたりにライヴが終わってからいく店が少なくて友人に会ったときには、月島とか豊洲で途中下車して飲んだりしたのだった。それも面倒くさいので挨拶だけしてとか、有楽町線に乗っているときだけ話してそのまま帰ることが多かった。
それでも新木場駅から運河を渡って会場に着いたときにみえる看板にアーティスト名やイベント名があるとそれだけで気分が上がってきたという体験は、わざわざ新木場まで足を運んだ者の特権だったのだ。スタジオコーストでおこなわれたライヴのリストをみるとアイドル系のイベントや邦楽ロックのライヴが驚くほど多いので、自分はそこまでヘビーユーザーでなかったかもしれないけど、やはり無くなって残念に思う。(イケダ)
熱気と極寒が同居する唯一無二のライブハウス
新木場スタジオコースト。こんなにも「好き」で、同時に「苦手」でもあった会場は他にない。東京郊外在住の自分としてみたら、会場は遠くて電車賃高くつくし、冬場は海風が刺すように寒いし、「ライブは楽しみだけど、会場に行くのはなんか憂鬱」なんてことはザラだった。
初めて会場に足を踏み入れたのは、2006年のアークティック・モンキーズ初来日の際。会場外のエリアにはインディーロック好きのお客さんがパンパンに詰めかけていた。場外で待っているときは、大体「どこの位置で観ようか?」とか「前で見るとしたら何列目あたり?」とか主に観る場所について考えている。しかし初めてなので会場がどんな構造になっていて、どういうルートを辿ればライブフロアに辿り着けるかなんて、当然全く分からなかった。ゆえに「どこで観ようか?」に加えて「観たい位置で観れるかな。最短距離で行けると良いな。」的な不安を感じていたのを今でもよく覚えている。結局そのときは前のほうに突っ込んでいき、案の定モッシュで揉みくちゃになったが、バンドの臨場感を体感するにはいいポジショニングだったと今でも思う。
そこからは自分のベストポジションを見つけるべく、いろんな場所で観た。テラスエリアの策前、PAの両サイドか真ん前、個人的にあまり好きじゃない2階席もトライしてみた。結論「ここが一番!」っていうのは最後まで見つからなかったが、その時の自分のモードにあった場所取りはできるようになったと思う。例えば、ミューズやフランツ・フェルディナンドのようにパフォーマンスの臨場感を体感したいときは前に突っ込むし、アーケイド・ファイアやミーカのようにアーティストの世界観を丸ごと楽しみたいときはステージ正面奥にあるPA前を陣取った。
そんな新木場スタジオコーストでのライブだが、自分にとってのベストアクトは?と思い返したとき、真っ先に浮かんだのはボン・イヴェールとフリート・フォクシーズだ。フリー・フォークやニュー・フォークを代表するこの二組の共通項は「フォーク」。フォーク・ミュージックが持つ趣きと、それぞれのオルタナティヴなエモーションが重なり、会場の空気をガラッと変える、そんなパワーが両組にはあった。どちらも冬のライブだったのだが、帰り道の海風はいつもよりも暖かく感じた。もうあの体験ができなくなると思うと本当に寂しいが、あの会場でなければ味わえない体験をさせてもらえたことには感謝しかない。(若林)