吉野寿(eastern youth, outside yoshino)インタビュー / 「これが30年目の俺の心境です」

シングル『循環バス』配信スタート! 結成30周年を迎えたeastern youthと、吉野の近況に迫る

eastern youthの結成30周年を記念した、デジタルシングル『循環バス』が9月5日(水)より配信スタートする。やるせなさと倦怠を包んで昇華していく、広がりのあるコーラス。胸が締めつけられるような、終盤の狂おしさ。「循環バス」は昨年発売されたアルバム『SONGentoJIYU』以来の最新曲として、吉野寿(Gt/Vo)が30年をかけてたどり着いた、現在進行形のリアルな境地を映し出す。9月23日(日)、千葉LOOKよりスタートする、全国ツアー『極東最前線/巡業 ~石の上にも三十年~』における、象徴的な一曲となるだろう。全国ツアーの会場では、12月12日(水)に一般発売される7インチシングル『循環バス/歩いた果てに何もなくても』を一足早く手に入れることができる。吉野に聞けば、ジャケットも自身で撮影したという。

「荻窪駅の2番乗り場の、下井草行きのバスの中から撮影しました。そのバスは路線バスですけど、都市部にも循環バスって言われているバスがあるし、あと、俺が子どもの頃に乗っていたバスも循環バスで、そういうイメージです。バスは味があっていいんですけど、乗るたびに侘しい気持ちになる。疲れてますよね、バスに乗ってる人って。電車はちょっとウキウキしてる人が乗ってることもあるけど、バスははしゃいでる人がいない。電車よりさらに枝葉に分かれて行く路線ですから。車内も暗くて、押し黙って運ばれて行くって感じ。相変わらずたくさん歩いていますけど、歩き疲れてビールを一杯飲んでしまって、夕方『帰ろう、無為な1日だった』と侘しく帰る時の気持ちです。これが30年目の俺の心境ですよ。とぼとぼ歩いてきましたよ、30年間。30周年だからって、狙ったものは作りたくないです。ただ、続いてるだけですからね。機会を作って『よし、やるか』っていうだけで、やるときは変な狙いとか考えないです。その時、その時の感覚を凝縮できれば。ずっとそうやって生きてきた気がします」

11月14日(水)にはCDシングル『時計台の鐘』が発売される。『時計台の鐘』は、10月8日(月)から放送開始するTVアニメ『ゴールデンカムイ』第二期のエンディング・テーマのために書き下ろされた。2008年放映のTVドラマ『栞と紙魚子の怪奇事件簿』の主題歌「赤い胃の頭ブルース」以来、久々のタイアップ曲となる。楽曲に通底する神聖さと孤独感が、映像や作品の世界観とどのようにマッチングするのかも楽しみだ。今回のタイアップのきっかけを聞いた。

「直接お会いしたわけではないですが、『ゴールデンカムイ』の原作者の野田サトルさんが我々を指名してくださったようです。『読ませていただいてから考えます』とお答えして、読みました。最初の3巻くらいを資料としていただきましたが、調べると続きがあるみたいだったので、荻窪の本屋で最新刊まで全部手に入れました。面白かったですよ。とてもよく取材してあって、アイヌがテーマになっているところが気に入りました。野田さんも北海道の方らしくて、そういうシンパシーを持っていてくれたんだと思います」

今年7月のFUJI ROCK FESTIVAL出演も、結成30周年を彩ったトピックのひとつだ。会場内で一番大きな、グリーンステージの出演を果たし、その様子はYoutubeで生中継された。結成20周年の2008年以来、10年ぶりのグリーンステージでの演奏だった。

「楽しかったですね。たくさんの人に、『Youtubeで観ました』と声をかけられました。2008年よりよく演奏できたように感じています。大きなステージだから心境の変化があったわけではないですが、余計なことを考えなくてよかった。緊張もしませんでした」

2008年以降の10年を振り返る。2009年に吉野は急性心筋梗塞で倒れ、一時活動休止したが、復帰以後はアルバム『心ノ底ニ灯火トモセ』『叙景ゼロ番地』『ボトムオブザワールド』『SONGentoJIYU』を発表。たゆまぬライブ活動とともに、傑作を更新し続けている。

「20歳の頃は、40歳くらいで死ぬと思っていました。真面目に働かないですから、世の中が許さないはずだ、野垂れ死ぬんだと思っていました。バンドで食おうとも思っていませんでした。なんなら復讐というか、世の中にバンドでやり返してやるぞ、くらいの動機でしたよ。バンドという表現手段がなければ、本当に犯罪に走ることになっていただろうし、そうはなりたくなかった。よかったですよ、そこで発散できて。41歳で倒れたときは『あ、やっぱり』と思いました。今は倒れる前より、調子いいですよ。声も前より出ます。あれで死ななかったってことは、もうちょっと長生きするような気がしています。最近、MAXに調子良かった時よりは、ちょっとバテるようになってきました。しょうがないですよね。今のスタイルのライブは、今、こういう風にしかできないからこうなっているわけです。『できないものは、できない』ってなったら、これからも少しずつ変わっていくんだと思います。そこに計算とかそろばんみたいなものを用いたくない。自然な推移にまかせようと思っています」

バンドの活動と並行して、ソロでのライブ活動も盛んな吉野。最近、自身のTwitterに「ソロをやめようと思っていた」との記述もあったが。

「ソロも10年以上試行錯誤してやってきたんですけど、嫌になっちゃったんです。世の中に必要ないだろうと。俺がいいっていうものと、皆がいいっていうものは違うんだ、大勢の人たちにこういうの必要ないんだな、少数派の人たちの中でも必要ないって。3台買いためて持っていたVOXの3Wのアンプも、壊れて最後の一台になっちゃって。現行のモデルは音が違うんです。『いいや、わかった。俺は降りる』って思っていました。ソロは用意できる全部の機材、マイクスタンド一本まで持ってまわっていたんだけど、今年のフジロックの苗場食堂ではそれはできないってことになって、ローランドの120Wのアンプ(JC-120)でやることになりました。そのときにスタジオに何時間も入って、120Wでやったり、3Wでやったり、いろいろ機材を試しました。JC-120は、必ずどこのスタジオにもあるし、あのアンプでしか出ない、独特な音が確かにある。JC-120とフェンダーのギターのマッチングで、気持ちが盛り上がったんです。『まだ盛り上がれるな?』と思えて、そこそこの手応えがあったから、いろいろ試しながら、行けるところまで行ってみようかなと思って。やめるのを、やめました」

吉野は近年、eastern youthのワンマン・ライブだけではなくフェスやイベントでも、観客へ「ロックでひとつにならなくていい」という趣旨の発言を繰り返している。フェスの大きなステージでは、MCで観客に振り付けや盛り上がり方を丁寧に説明し、モニターに歌詞を表示するなどの工夫を凝らして、見事な一体感を作り上げるアーティストが若い観客に人気を博すなか、吉野の発言は異端とも思える。

「気持ち悪いんですよ。力を合わせなきゃならないときもあるのは、わかるんです。一つの大きな力に個性を委ねて、均一化されてしまったり、それが自分の個性に向き合わなくて済むから楽でいい、という考えは『ちょっと待てよ』っていう。そういう風潮が嫌で、俺は音楽を始めたから。『冗談じゃねえんだよ、わかってたまるか』で始めたことですから。『わかるよ、こっちにおいでよ』なんて、『大きなお世話なんだよ』と思って、踏み外すために始めたことですから。嫌ですよ。みんな同じ振り付けで踊ったり、同じところで拳を振り上げたり。それは踊っていることになるのか? 盆踊りは繰り返しの独特のグルーヴ感があるけれど、それとも違う。号令をかけられて、動かされているのは嫌じゃないの? 大きな音が鳴っているからって、自分を忘れないでくれ。むしろ『自分の目』から見てくれ。俺らのプレイもデカい音も会場も、全部、お前のものなんだぞ。そういう気持ちで俺らに対峙してくれ、俺もそうする。って思っています。『お前誰だ? 俺、吉野。名を名乗れ』そういう関係性でいたい。号令をかける側、かけられて気持ちよくなっている側、ではなくて対等ですよ。そうじゃないと、人が会ったことにならない。踊りたい人は踊ってもいいし、拳を振り上げたい人は、振り上げてもいいんです。お前はお前なんだぞってことを忘れないでほしい。あまりにもみんな同じ方向に流れている。俺は指図されるのは嫌だし、同じ動きをして、疑問を持たないで楽しめることが怖い。同じように動けない奴は、その場にそぐわないと思わせる同調圧力すら感じる。ここでダメだったら、どこにも行き場所はないでしょう。俺がそうしてここにたどり着いているんだから、他の人にそれを強要したくないんです」

吉野の言葉は、同調圧力に居心地の悪さを感じている少数派の人にとって、よくぞ言ってくれたと感じられるものかもしれない。

「心配するな、大丈夫だよ。ライブをどんな風に見ていても、酔っ払って奇声を上げてもいいよ。街はそういうもの。度がすぎると怒られるってだけで、理想は街なんです」

eastern youthのライブは、初期の頃から、動員が一気に増えた時期を経て現在に至るまで、一貫して「街」的であったともいえる。

「そうですね。同じ動きをしたりする人は、いませんでしたね。ダイブする人はいて、怪我する人が出てきた。お客さんには女の子もいるし、やめてくれって言ったら『うるせえな』って離れた人は多いかもしれないけど。今度の結成30周年のツアーも、いままでどおりです。その時その時、人とどういう風に出会えるのか。楽しみに会おうよって気持ちでいます。会えるのが楽しみです」


デジタルシングル
『循環バス』
2018.9.5 on sale
定価:\250 単曲配信
レーベル:裸足の音楽社
販売配信サイト:iTunes / OTOTOY


7インチシングル
循環バス/歩いた果てに何もなくても
2018.12.12 on sale
9月23日(日)より、ツアー会場先行リリース
定価:¥1,512


シングル
時計台の鐘
2018.11.14 on sale
定価:¥1,200+税
GNCA-0544
1.時計台の鐘
2.循環バス
3.歩いた果てに何もなくても


eastern youth 極東最前線/巡業 ~石の上にも三十年~
9/23(日)千葉 LOOK
9/29(土)京都・磔磔
9/30(日)金沢 GOLD CREEK
10/6(土)札幌 cube garden
10/27(土)仙台 CLUB JUNK BOX
10/28(日)盛岡 the five morioka
11/3(土)新潟 CLUB RIVERST
11/4(日)長野 LIVE HOUSE J
11/10(土)福岡 DRUM Be-1
11/23(金・祝)広島 4.14
11/24(土)岡山 ペパーランド
12/1(土)大阪・梅田CLUB QUATTRO
12/2(日)名古屋 CLUB QUATTRO
12/8(土)渋谷 TSUTAYA O-EAST

Text by Keiko Hirakawa
Photo by Keiko Hirakawa