吉野寿インタビュー / 11年ぶりのソロ新作『outside yoshino #1』を語る【前編】

やっては失敗して、やっては失敗して、っていう時間を持ててよかった

easern youthのギター、ボイス担当の吉野寿の5枚目となるソロアルバム、『outside yoshino #1』が3月22日にリリースされた。

発売日前日の3月21日には、東京・上野のYUKUIDO工房にてソロライブが開催され、『outside yoshino #1』も会場で先行発売された。本来、このライブは昨年7月に予定されていたが、新型コロナウイルスの影響で発表前に延期となり、12月の日程が発表されるも再度延期、今年3月にようやく開催できたという経緯がある。当日は強い雨が降るあいにくの天気だったが、天井が高くガレージかアトリエのような趣のある広い空間で、主催者が手作りしたガラスの衝立の向こうの吉野の歌を、観客がじっくりと受け止める静かな時間が流れていた。

昨年2月までメインで使用していた、ソロライブでおなじみのギターやアンプも新しい機材に変わり、『outside yoshino #1』の収録曲も”ビンビール”と”小さな明かり”の2曲が披露された。前作『bedside yoshino #4』から11年ぶりのリリース、ソロ活動における新章とも呼ぶべき今作について、吉野に話を聞いた。


まず、アルバムのタイトルが前作までの『bedside yoshino』から、ライブ活動の名義と同じ『outside yoshino』に変わりました。

もう『bedside yoshino』はやめました。以前はインストとか、パッと思いついたものをメモみたいな感じで録音して、自分の実際のライブ活動とは違うものもたくさん入れていました。思いつきのメモみたいな曲も、それはそれでいいと思っているんですけど、今回はちゃんと歌が入っているものというか、ライブでできそうな曲を作って、それをアルバムにしていこうという気持ちで作ったんです。それで今作を『#1』にして、改めてここから歌と音源を更新していこう、いい機会だからタイトルもライブのときの名義と同じ『outside yoshino』に一本化しようと思って。

たしかに今作は音の質感に統一感があり、アルバムとしての完成度が高くなっています。

録った時期は10年前や5年前のもあるので違うんですけど、ソフトでいろいろ調整できるんです。そんなにいじったりはしていないですけど、バランスはできるだけ整えるようにして、マスタリングにも出しました。

吉野さんの特徴的なギターの音色と、歌が大きな柱になっていた今までライブでよく演奏されていたソロの曲と比較すると、今作ではドラムやハーモニカ、アコースティックギターなど、エレキギター以外の楽器の存在も大きく感じます。ライブで演奏されるのも楽しみですし、フェスなどでもしかしたら他のミュージシャンとともに演奏されるかもしれない、と想像できるような広がりを感じます。

バンドでやっているような音を、ひとりで録り重ねてやるのはなんか空々しいなって感じがするので、シンプルな、ギター一本で必要最小限なものを、と思って何曲か録ったんですけど、なんかペラペラだなあ、と思って、なるべく足し算しないように、トラックが多くなりすぎないように気をつけながら、ドラムやベースを足しました。なるべくオルタナロックみたいなバーンとした感じにならないように、と思ってやったつもりなんですが、実のところ、そんなことすら考えていなかったです。もう必死で。去年は『2020』が完成したらライブがピタッとなくなって、やることが一気になくなりました。この先どうなるのかもわからなくなっちゃったんで、自分の身をどう立てられるんだろうか、という問題に直面してしまったわけです。何をしていいのかわからないので、とにかく曲を作って出そうと思いました。

『2020』の完成後にソロアルバムの制作に着手して、どのように進行していったのでしょうか。

なかなか忙しかったですよ。まず、鳴らないギターがあったんで、それをバラして修理しました。いろいろパーツが売ってるんで買ってきて、はんだ付けしたらものすごいノイズが出たりして。なぜだ? と調べる。直す。直らん。パーツを買う。入れる。直らん。パーツを買う。あ、直ってきた。いや、駄目だ。そういうことをずっと繰り返していました。

ムスタングっていうギター2本が調子悪くて、それと格闘してました。どっちも直して鳴るようになったんで、新しい方のムスタングで録りました。

古い方のムスタングはフジロックの苗場食堂でのライブや、『2020』のレコーディングでも使っていたものですね。今までのソロライブで使用していたのはYAMAHAのセミアコでしたが、昨年10月11日のQueen’s Hotel antiquesのライブで使っていたのは、また別のギターですね。

Queen’s Hotelのときのギターはテレキャスターでした。違う境地が見えるのかな? と思って、中途半端な値段のものを買っちゃったんですけど、なんか気に入らない。もっとすごい高いやつを買えば良かったのかもしれないけど、お金も持ってないし。それもパーツやピックアップを変えたり、気に入らないからまた戻したりして、延々とそういうことをしていましたね。中身もぐちゃぐちゃにしちゃったんで売れないし。

アンプも今までの3Wのアンプが気に入らなくて、スピーカーが悪いんじゃないか? 替えてみるか? と思ったんだけど、あのアンプはスピーカーを交換できる仕様になってないんですね。それを無理やり替えてみる。合わないからもう一回戻したり、ネジが折れちゃって、だめだ、もう破棄するしかない、ってなったり。スタジオに入ってみるけど、なんか違う。ギターを変えて、また入る。そういうことを延々繰り返しました。そして全て無駄。全部、無駄足ですよ。どうしてなんだろう。

Queen’s Hotelのライブでは、アンプも変わっていました。

あの時はVOXの15Wのアンプでした。一度やってみて、そこでまた迷いが出て、もっと軽い1Wの真空管アンプを買ってみたけど、全然駄目でした。VOXの15Wのアンプはなかなかいいです。とてもいい音がするし、値段が安いので、もし壊れてもあまりショックも受けないだろうし、もうあんまり余計なものを買わないようにしてやっていこうと思っています。この先、3Wはやめようと思っているんですが、まだ迷ってるので、また戻って「やっぱこれだよ」なんていうことも、なくはないですね。3Wの移動システムはよくできてるんですよ。ちっちゃいカバンの中に全部ピッタリ収まってるから。軽いし。

我ながら馬鹿なことをして過ごしているなと思いますが、活動が中断して、時間を持て余してしまって、そういったことにも時間を取れるようになったので、みんながみんな悪かったわけではないような気もしますね。はんだ付けもだいぶ上達しました。はんだが上手く付かないのは「使ってるはんだごて自体」がダメなんだ、と思って新しいはんだごてを買いましたけど、そうじゃなかったですね。単に俺が下手くそなだけでした。

ピックアップも色々やってみて、これだっていうのが発見できたので収まりました。ピックアップってマイクですから、交換すると音が変わるんですよ。試奏するわけにもいかなくて、買ってつけてみないと分からないんです。ここに至るまでいくら使ったんだろう? パチンコとか競馬ですったんじゃないけど、同じようなもんですよ。結局、無駄ですから。商品レビューにもっともらしいことが色々と書いてあって、藁をもすがる気持ちだったから、そうなのかなあ? すげえ良くなるんじゃないかな? 俺の気に入らないところがパーっと開けるんじゃないかな? 高いっていうのはひとつの信用だよね? なんて思って買うけど、ダメ。その繰り返しですよ。やっぱり何かを得るための授業料っているんですね。タダで自動的にポンと空から降ってくるようなものはないんですよ。自分でひとつひとつ失敗して掴んでいくしかないんだなあ、と痛感しています。

大変な出費と時間と手間がかかったんですね。曲はどのように作ったのでしょうか。

あまりに必死すぎてちょっと細かいことは忘れかけていますが、ギターでジャンジャンジャンってやって、クリックでギターだけ録っていって、ドラムとかを足していったりとか、先にギターで曲を作って、ある程度形になってきたら、ドラムのパターンを考えて打ち込んで、それに乗せていくっていう曲もあったように思います。

Macが開発したお手頃価格なLogic Proっていう音楽制作ソフトがあるんですけど、あれで大体のことはできるんです。プラグインの録音用エフェクターもたくさん入っていて、俺にとっては今のところ、それ以上のものはあまり必要じゃない。

全て自宅での録音ですか。

全て地獄の6畳間で録りました。外の騒音がひどくて、自動車の音とかが常に聞こえるんですが、ベースはプラグインのアンプのシュミレーターみたいなやつで録れるし、ドラムは打ち込みだし、アコースティックギターやエレキギターはマイクを立ててやってるんですけど、音が大きいんで意外と騒音は入らない。歌は段ボールでブースを作って、布団を乗っけて、そこに立膝になって首をつっこんで録りました。さすがに歌だけはそうしないと、俺の声自体も近所迷惑になりますし、録音に周りの騒音が入ってきちゃうから。

アルバムには2020年の怨念が詰まっていますよ。3曲くらい余分に録って、それはボツにしています。呪いの11曲です。アイデアはいっぱいあるんで、諦めないでまた録っていこうと思ってます。

前作から11年もの時間があいたのは何故でしょうか。

単純に暇がなかったからですかね。バンドの曲作りが始まったらもう半狂乱ですから、他の事を全くできない。それが終わったらツアーが始まっちゃうんで、実演するための訓練が始まっちゃう。そうこうしてるうちに次のツアー、フェスとかイベントが入ってくる。それが終わるとソロのライブを入れていったりして。人とやり取りして、実演するのは面白いですし、バンドの曲もソロでアレンジし直してやってるんで、そこがまた面白くて、そういう事ばっかりやってました。

コンピューターの録音が全然できなかったんですよ。以前に一度トライしてみた事があるんですけど、ちんぷんかんぷんで、わけがわかんなくなって断念していて。それでずっとMTRでやってたんですけど、液晶画面が小さかったりして、ミックス編集とか、とてもめんどくさいから、必要に迫られてイチから勉強しました。どうすりゃいいんだ? オーディオインターフェイスってなんだ? MIDIってなんだ? とか、そういうところからやり直しました。

でも、知識として調べても、なんか身にならないんですよね。元々、勉強が嫌いなんで、実際に使って身体で覚えていかないとできないんですよね。やっては失敗して、やっては失敗して、っていう時間を持ててよかったですよ。

『bedside yoshino』のシリーズの最初の頃はCD-Rを手焼きしたアルバムを売っていましたが、今作はそういったことはしないのですか。

しません。今回は裸足の音楽社の通販サイトでの直販だけで売ります。1000枚しかプレスしていませんし、ディストリビューションに乗せませんので、レコード屋さんとかには流通しません。そんなに大勢の皆さんに聞いてほしいとか、一人でも多くの皆さんに届けたいとか思っていませんので、しんみり自分で売って、本当に欲しい人が買って聞いてくれればいいや、と思っています。そんなに大したものではないし、レコード屋に並べるようなものでもないので。お土産みたいなものですから。

アルバムのジャケットは、前作までは吉野有里子さんによる切り絵のジャケットでしたが、写真に変わりました。砂浜に映し出された長い影が印象的ですが、目をこらしても砂浜に足跡が見えないところが不思議です。どこで撮ったのでしょうか。

江ノ島の海岸です。ある日、朝起きて天気がいいなと思って、ちょっと遠出してみようと思い立って行ったんです。久しぶりに第三京浜を走って行ってみたら、すごい強風の日でした。せっかく来んだから、って浜まで降りてみたら、風紋ができていてかっこよかったんで、ちょっと携帯で撮ってくれって撮ってみたらよかったんで採用しました。特段狙ったわけでも、ジャケ撮るぞー、と思ったわけでもないんですけど、行ったらそんな感じだったんです。本当に立っていられないくらい、風がめちゃめちゃ吹いていたんで、すぐ足跡が消えちゃうんですよ。

有里子さんが撮影されたんですね。

そうです。車で海まで行って、ぐるぐる回って帰ってきただけで、楽しいこともなかったですけど、それでも気晴らしにはなりましたね。海をあんまり知らないで育ってきたんで、海がすごく珍しいんですよ。たまに行きたくなるんです。(後編へ続く

吉野寿インタビュー / 11年ぶりのソロ新作『outside yoshino #1』を語る【後編】


『outside yoshino #1』
2021.3.22 発売
定価:¥3000(税込)
http://hadakanbo.shop-pro.jp

【収録曲】
1.捨てて生きる
2.ビンビール
3.今日を生きるしかねえんだ俺たちは
4.フラッシュバック
5.ワンチーム
6.ナニクソ節
7.用事もないのに
8.ポンコツ街道一直線
9.小さな明かり
10.わたしだけのもの
11.日暮れどき

Text by Keiko Hirakawa
Photo by Keiko Hirakawa