スポンサーから見えてくることは…
――さっきスポンサーの話が出ましたけど、去年って米軍や軍事関係の企業がスポンサーになったことに対して100組くらい出演ボイコットがあったのが大きな話題として物議をかもした経緯があって。それで事務局は後日そういった企業と提携することは今後ないと宣言していましたよね。多様性を表現しているはずのSXSWがそういうスポンサーと手を組んでしまった裏にはSXSW自身の財力の弱さが一要因としてあるらしく、理念の一貫性のなさに疑問を感じるところもあります。今年はリヴィアン(Rivian)っていう車の企業がメインスポンサーになったようですが…この件について、去年からの変化を感じ取れたことなどありましたか?

森:地元オースティンがお膝元のテスラはどうしたの?って思っちゃったんだよね。テスラを差し置いてリヴィアンなの?って、ただ素直に不思議に感じた。
堤:今のテスラに金は出させられないでしょうね(笑)。アメリカでもヨーロッパでもテスラアンチ層が増えていて売り上げが下がっていってると聞きますし。とは言え、さすがお膝元と言うか、ウーバーを頼んだら普通にテスラの車が来ましたけどね。
去年みたいにスポンサーに発起した問題は特に気にならなかったですけど、そもそもいくら公式が去年のことを撤回するような発表しようとも致命的な過ちだったことは確かですよね。今後数年響くような悪手だったと思います。アーティストだったら嫌な気持ちになるだろうし、僕自身もずっとそのことは引っかかっています。ただ、他のオフィシャルスポンサーを見渡してみると、イスラエルを支援している企業なども見受けられますよね。これはSXSWに限らず音楽産業に従事してきた人たちが見過ごしてきたことでもあるんじゃないかなって。昨年度のSXSWのことを考えると、入念な準備と大きな資金をかけて参加しているアメリカ以外のインディーアーティストは難しい選択を迫られたはずです。出演数が1200組から1000組程度に減ってきたって話がさっきありましたけど、それって無言の主張が隠れているということじゃないでしょうか。去年の出来事が尾を引いているんじゃないかって。
――実際に軍事的なことに関わっているわけじゃなくても、そういうイメージはもうついてしまったんだろうなと、そこは残念ですよね。

森:国単位でのボイコットもあったよね。アイルランドだったかな。
――そう、確か全アーティストがキャンセルしたんですよ。
森:あと、SXSWロンドン(SXSW London)*があるし、ヨーロッパ勢がわざわざアメリカに来なくなったんじゃないかって話をしている人もいたな。
堤:シドニー(SXSW Sydney)*もあるしね。そういう要因もあるのかもしれない。
今年、6月2日から7日にかけて初開催されたロンドン版のSXSW。
2023年にはじまったシドニー版のSXSW。今年は10月13日から19日にかけて開催される。
森:ただ、その話を聞いたときに思ったんだけど、そもそもヨーロッパのアーティストがSXSWに出るのは、アメリカで売り込むことが目的でしょう。なのに、ロンドンのSXSWに出ることに、どれくらい意味があるのかなって。「アメリカで売れたいから、その国にいって演奏する」みたいな考え方は、今の時代はもうないのかな。
堤:その辺は僕も想像の世界ですけど、多くの人間がオンラインでグローバルにつながれる感覚を持ってしまったことも大きな要因な気がします。でも、SXSWってオースティンという街に全てを集結させることにもっとも価値があるのに、フランチャイズ化していってるのはどう転ぶか少しあやしいところがありますね。
――コロナ渦でリアル開催がなくてオンラインのみで開催した年があったじゃないですか。2021年の。あの時、世界各地で好き放題にやっていましたし、特にオーストラリアは家のバックヤードとかから配信するバンドもいて、古き良きSXSWの楽しさが伝わってきたんですよね。あの年の試みが今に至るフランチャイズ化のきっかけではと感じたりしています。
堤:それで感じていることの一つはインディーシーンのドメスティック化ですね。例えばアジアを見渡しいくと、台湾でもインディーと言われる業界が成長してきていて、国内のドメスティックなバンドこそが好きだという層が増えているみたいで。音楽が好きだと言っても、海外のアーティストに目を向ける必要性を感じていない人にちらほら会います。日本でも京都の若いアーティストと話していると、案外身近なところから影響を受けていることも少なくない。そういうことを聞いていると、インディーのドメスティック化みたいなものが進んでいるんじゃないかと思うんですよね。そもそもインディーって言葉が形骸化していて、メジャーなアーティストがサウンドを表現する言葉として発するようになってもきている。なんかギャルって言葉がライトに使われ始めたのと似ているなって。
――ほう、ギャル?
堤:最近友だちと話していたんですが、ギャルってそもそも、不良とか落ちこぼれ的な文脈も持っていたはずですよね。でもそういったものが取っ払われて、ギャルマインドって言葉がひとり歩きしていますよね、最近。なんか、その感じがインディーと一緒だなって。「ギャルとインディー、置かれている立ち位置同じなのでは論」です。インディーに置き換えると、バックヤードとかガレージ臭というか雑味がなくなってきていることが近いのかなと。そんな流れを感じる中でさっき話したハー・ニュー・ナイフみたいなバンドに出会ったから、刺さっちゃって。
――ああ、ちゃんとまだいるじゃん!みたいな(笑)
堤:今、そんな音出しちゃうの??みたいな感じ(笑)
――台湾の音楽シーンの話が出ましたけど、私も去年あたりから魅力を感じて何度か台湾に行ってまして。つい先日も高雄のメガポート・フェスティバル(MEGAPORT FESTIVAL 大港開唱)に行ってきたんですよ。

堤:お、僕も行ってましたよ。
――おお、そうでしたか。2日目のトリがフレーミング・リップス(The Flaming Lips)で、十分盛り上がっていたんですけど、その前のソーリー・ユース(Sorry Youth)っていうバンドの盛り上がりが比にならないほど熱狂的で。
堤:ソーリー・ユースは地元の星ですからね。
――ソーリー・ユースを目指しているようなローカルバンドもたくさん出演していて、盛り上がっているのが見て取れて。さっきの話のインディーシーンのドメスティック化を目の当たりにしたなって思い出しました。
堤:今話していて思いついたんですけど、インディーってそもそもが学校で好きなものを共有できる友だちが見つけられない属性の人のものだったはずなんだけど、今はそれがさらにナショナリズムとも結びついたっていうか、ソーリー・ユースってまさにそうじゃないですか。台湾民喃語で歌い、独立のフラッグを掲げて人種としてのアイデンティを表現してるんですよね。そこまで分かりやすくなくとも、世界中でそれが起きてるのかもしれない。SNSで世界がつながった結果かもしれないけど。ごめんなさい、話が広くなりすぎちゃいましたね。
――いや、すごく興味深い話ですよ。スポンサーの話から発展して、SXSWはもとより世界のフェスに関して改めて意識を向けるきっかけになるような話でした。見過ごさずに突っ込んでいくべきところが多々ありそうですね。
堤:最近知り合った学校教育関係の人と「大人が幼稚化している」って話をして。大人の幼稚化と音楽の商業化、なんか繋がっているかなって。全てのことをメリット/デメリットに換算できるって思い込んでいる大人たちが増えているんですよね。音楽からアート的な側面が削られてビジネスライクになっている。世界に先駆けてSXSWがそれを象徴しているのかもしれないですね。
――SXSWって世間の動きの数年先が表現されていると言われたりしますもんね。だから、本当にそういうことなのかも。くすぶってきたことが噴き出してきてしまっているのが、今なのかもしれないですね。
オースティンの治安問題について
――ちょっとまたよくない話になっちゃうけど、去年ひき逃げ殺人事件があったじゃないですか。エリジウム(Elysium)のすぐ外の通りで。ちょうど日本勢のショーケース『INSPIRED BY TOKYO』をやっていた時でした。その10年前にもモホーク(Mohawk)の屋外で同様の事件が起こっていて、バリケードの設置などがはじまったものの昨年のような悲劇が起きてしまっているんですよね。今年は安全対策とかセキュリティ面で変化していたことはありましたか?

堤:ああ、なんか警察の駐屯所みたいなのができていましたよ。
森:あれはわかりやすい改善点だったかもね。そういえば発砲事件の話も今年は聞かなかった。
――発砲事件、以前は毎年のように耳にしたから、少しは治安がよくなっているってことなのかな?
森:けど、ベニュー入場の際の荷物チェックは例年より甘かったかもしれないな。銃規制とか気になるところなのに。
――実際、これまでSXSWに参加して現地で危ない怖い目にあったことってないじゃないですか。夜中まで遊んでいようと。けど、オースティンはテキサス州にあるわけで、そもそも銃がかなり出回っている土地なんですよね。
森:われわれの行動範囲が比較的安全な場所に限られているのかもね。
堤:それはあるかもしれない。その手の話で去年のことでめっちゃ印象に残ってることがあるんです。現地の友だちの家を初めて訪ねるって時にイエロー(Peelander Yellow)さんが一緒に来てくれたんですが、その時に彼から「電話をして相手に家から出てきてもらってほしい」って言われて。要は押しかけた先がもし別の家だったとしたらその住人に撃たれる可能性があるって意味だったんじゃないかと推察しているんですが、それはイエローさんの声のトーンが明らかにシリアスだったからなんですよね。めちゃくちゃリアリティを感じました。
森:初めて訪れる家で直接ピンポンするのは危険ってことね。
堤:そう、僕らが東洋人というのもやっぱり無視できないのではと。現地には僕らの肌感にはないリアルが確かにあるんだなって。
森:20年も行ってるけど、オースティンで危ない目にあった記憶って特にないなあ。差別的なことも特に感じたことはないし。
――そうだね。オースティンはテキサス州にある都市だけど民主党支持層が多くてリベラルだし、基本的には過ごしやすいところなんだと思いますよ。
堤:うーん、これからのアメリカ情勢を考えるとそうも言えないかも…今年は…テロがあってもおかしくないかもって、ちょっと思ったりしてました。SXSW中のオースティンは世界中の人が集まる場所だから、ヘイトの対象にはなりやすいかもなって。何事もなくてよかったですけど。

SXSWにおける日本について
――今年の日本勢についても教えてください。今年も昨年に引き続きオフィシャルショーケース『TOKYO CALLING』と『INSPIRED BY TOKYO』が開催され、更に『Sounds from Japan』もあったそうですね。
堤:ここ最近、現地で日本人まで追ってないんですよね。
森:まあね、せっかくオースティンまで行かなくても観られるわけだし。
堤:それはあるし、最近だと韓国や台湾の方が気合いが入っていて、実際に入場者数も増えている印象がありますね。勢いというか。台湾はトップ層のアーティストたちを連れてきていて、何が世界でウケるのかを真剣にテストしている感じも見えますし。
――森さんは撮影の仕事で今年も日本のショーケースに入ったと思うけど、どうでした?
森:前はね、Perfumeとか東京スカパラダイスオーケストラとか、いわゆるメジャーどころが出ている一方で、インディー色の強い面子も出ていて、幅広いアピールができていたと思っていたんだけど。ここ数年は日本だと誰もが知っているようなアーティストはもう出なくなった印象かな。でも今年はセイパ (CEIPA:一般社団法人カルチャー アンド エンタテインメント産業振興会)っていう団体がスポンサーになってて、日本のショーケースはかなり大きな会場を貸しきってたし、客入りも多かった。

――現地のお客さんも多かった感じですか?
森:そうだと思う。日本人の音楽がどんなものか興味本位で来てるって感じなのかな。
堤:その話、もう少し視野を広げて考えると、アメリカ人が持っているイメージを元に、アメリカのマーケットに接続させるために参加するアーティストが決まるってなると、そこに障壁がある気がするんです。今年観たインドネシアのアリ(Ali)ってバンドが、すごいよかったんだけど、クルアンビン(Khruangbin)とかが好きなアメリカ人に引っかかるように仕込まれた東南アジアの音楽って印象は多少なりともあって。音楽自体はすごくいいんだけど、アメリカ人のイメージの中の東洋の神秘に近いアーティストを呼ばざるを得ないのかって。なんかそれってインドネシアならでは、とからしさとかとは少し別の話ですよね。各国がショーケースをする中でちらほらそういうのは感じ取れることがあって、日本に関してもそういう部分はあるだろうとは思います。
森:CHAIなんかは、かなり計画的にアメリカでウケるようにチャレンジした上で実際レーベル契約もしてたよね。おとぼけビ〜バ〜なんかにも言えるけど。
堤:おとぼけはそもそもロンドンUKのレーベルに所属してるっていう背景がありますね。彼女たちはファストパンクをベースにしてるっていうのがまず人気になった一つのウケた要因だとは思うんだけど、その枠に押し留められないれだけじゃない特異なあり方存在感がハマったんだろうなとは思います。パフォーマンスのレベルがとても高いし、京都弁でゴリゴリで歌って、やりたいことを押し通した感じがよかったのかな。

――去年、日本のショーケース後に東京初期衝動が数日後のライヴに誘われたりとかHelsinki Lambda Clubはグラミー絡みのメディアから声がかかったらしいんですよ。今後に繋がりそうなリアクションが実際にあるから、出る価値はやはり大きいだろうと思います。現場で観てくれた人とすぐ繋がれるっていうのはSXSWならではでしょうね。
堤:アクシデント的な、予期せぬ出会いは普通の音楽フェス以上に生まれやすいですしね。
――やっぱりあの距離感の近さですよね。オーディエンスがすぐに直接感想を言ってくれるのが良いって聞きます。どう伝わったか生のレスポンスをその場でくれるのが嬉しいって。
森:50回転ズが話したんだけど、終わってすぐ話しかけてきたお客さんがいて、「よかったよー!」って言うから嬉しくなって話を聞いていたら、ちょっと裏でいけないもの嗜まないか?と誘われたって(笑)
――それはさておき(笑)、日本では演者とオーディエンスの間に壁みたいなのが強固にあるから、やっぱり全然違うものが得られるということですよね。演者としても、オーディエンスとしても。
森: アーティスト事務所の知人が去年SXSWに来たとき、アンオフィシャルにバンドを出すにはどうしたらいいかって模索してたんだよね。それで、SXSWを知り尽くしてるピーランダー・イエローを紹介したんだ。色々と伝授してもらったようで。その成果もあってか、今年は公式以外にアンオフィシャルのいくつかのショーケースでも出演できたみたい。事前に音源を聴いてた関係者から、逆オファーがあったんだって。日本のバンドがちゃんとチェックされているんだなって実感した話だった。

なぜSXSWなのか
――さて、ぼちぼち大詰めです。今年行かなかった自分から聞きたいのは、行けばそりゃ絶対に楽しい、けど物価高も円安も止まらなくて相当な出費になるし、加えて今後の情勢の影響も心配。世界との分断が起きて多様性も失われていくのではって懸念もあるんです。正直なところ、SXSWというかそもそもアメリカに行くことへのモチベーションが弱まっている自分がいるんですよ。シンプルに行きづらくなってきたというか。こういう自分みたいな感覚になっている人に対して、それでも行く価値があるのかっていうのを聞きたいです。

堤:うーん自分は、SXSWに行くことに限らずなんだけど、あんまり価値のあるなしで物事を捉えてないところがあって。対象に価値があるかないかじゃなくて、自分の中でどう価値付けをし直すのかが重要だと思っています。その前提で僕はたまたまSXSWしかりオースティンという土地に縁ができたから、行ける限りは行きますね。やめる理由がないですし。
ただ、岡安と二人で10年近く行っていることを考えると、渡航費や滞在費でざっくり800万円くらいは使っている計算になるんですよ。めちゃくちゃいい車買える額じゃん!って。それこそリビアンが買えちゃうくらい。それでも、元をとるみたいな考え方はそもそもSXSWの価値観と反する気がしているんですよね。
会社やメディアを運営していく上で「根付く」っていう行為が非常に重要だと思っていて。覚悟を決めてある程度年数を費やしてでも自分が関わっている場所とかプラットフォームを耕すことができる側になるのがこれからのメディアの役割だと感じているというか。SNSが台頭して、少子化によってプレイヤーも減っている中で責任を持って泥を被って嫌なものも見なきゃいけないのがメディアの立ち位置になるわけで、そういうものを積み重ねていった先の10年20年後にくつがえせないような存在意義っていうのができて、代替できないような役割になれるんじゃないかと思うんです。自分はまだまだオースティンで耕せることがあるんじゃないかと思っていて、なんならここまでの10年は楽しませてもらう側だったワケだから、例えばさっき話に出たやり方への問題提起とか、今京都に根付いている自分だからこそできることもあるんじゃないかと、一緒にやっていきたいなっていう思いもあります。一歩先の関わり方をどうメディアとして作っていくかを課題として、まだまだ参加していく意味があるなと自分は思っています。責任を帯びたいなと思っています。
――なるほど。京都の行政でもSXSWを参考にした催しへの動きがあると耳にしたんですが、そういうところに繋がっていくような話ですね。
堤:そうですね。それもありますけど、そういうところに物申せるくらいの説得力とパワーをもっと地道に積み上げて、繋げていきたいですよね。
――熱い!SXSWから広がる可能性を感じます。
堤:僕らが今こういう会話ができているのって同じ現地の景色を知っているからじゃないですか。やっぱりあの光景を見ていない人たちには、どんなに言葉を尽くそうとも伝えきれない。本当に唯一無二な場所だから。「あの感じ」をもっといろんな場面で共有していけるようにしていきたいんですよ。

――森さんはどうですか?SXSWに20年参加し続けている上で、この先も行き続ける意義について。
森: いろいろあるかな。メディアの立場で話すと、SXSWを初めて取材してからもう20年経つんだけど、あのときに感じた衝動とかおもしろさを、もっと多くの人に伝えたいっていう使命感は、いまだに消えてないんだよね。2004年に1人で参加してから、その後は4人、5人、多いときには10人の取材チームを組んだこともあるし、映像メインで取材した年もあった。そうやって「伝える」っていう思いがある限りは、これからもきっと行き続けると思う。
もう一方でひとりの写真家としては、一つのテーマを長い時間かけて追うことにすごく価値を感じていて。それはフジロックも同じなんだけどね。そして自分自身の目で見たもの、撮ったものをどのような形でアウトプットしていくかを模索している限りは、この先も来続けると思う。あとはビジネス的にはSXSWは自分の“看板”になってて。このフェスの勝手を知っていればこそ、くる撮影依頼もあるし。なので意義、目的はたくさんあるかな。

――それぞれの立場において意義を失うことはないってことですね。
森:そうだね。けどさっきの話聞いたら俺は20年で一体いくら使ったのかって、考えちゃったけど(笑)
堤:とは言え、初年度に行った時って色々わからない中で無駄金もたくさん使ったと思うんだけど、それでも30万円くらいだったと思う。今は当然50万円近くはいきますからね。
森:ここ数年は現地に住んでいる友人を頼ったりして、宿代をなんとか浮かせたりできているけど。純粋に遊びに行くってなればチケット代も含めて相当な額になるだろうなあ。そういう費用的なハードルも高いのか、周りの若い層がSXSWに来てくれなくなったんだよね。自分たちのメディアにも若い人たちはいて、昔は誘えばかならず手を上げてくれる人がいて、過去最高10人くらいのチームで取材に行っていた時代もあったのに。
堤:うちも一緒ですよ。今、タイパ・コスパ信仰が根強くて、時間とお金を費やして行く価値あるの?って考え方は根強いですよね。そうなると、それに50万円は払えないよ!ってやっぱりなっちゃうんでしょうか。
――そういうことなんでしょうね。
堤:今って、情報が溢れちゃったせいで想像力の内側がすべてだと思わされちゃうことが多い気がします。想像力の外側にあるものに向けて想像する力が養われにくいないというか。
でも、AIも出てきたからこそ、今そうした冒険が重要な気はするんですよね。ある人は200万円かけて南極に行ったりしますよね。想像していたものがリアルだったとかそれ以上のものがあるのかっていうのを体感するために行くわけじゃないですか。望遠鏡でペンギンを見るためだけに。例えが極端だったかもしれませんが、そうした経験をSXSWなら50万円で買えちゃうわけだから、人生レベルで見たら高くはないんじゃないかとは思いますね。
森:その金を3年かけて貯めるって言ってるやつがいたな。
堤:いや、3年は遅すぎる。今お金を貸すから3年かけて返してくれって感じ。みんなゆっくり時間をかけて考えるべきポイントと、スピードを出して反応して突っ込んで行った方がいいポイントがあるはず。もったいないです。死ぬまで追いつかねえぞって。

――うんうん。いい感じに口が悪くなっていい締めへの流れができましたね(笑)。自分、思い返すとSXSWってライヴを見終わって他の会場に移動する時間が大好きで、めちゃくちゃ幸せだなって感じるんですよ。本当にあそこでしか味わえない瞬間なんですよね。
堤:他の海外のフェスもそれなりに行きましたけど、やっぱSXSWがぶっちぎりで好きだなって思いますね。あの街全体に没入している感じやステージの距離感、だんだん攻略していく感じとか。SXSWのそんなところがすごい楽しいんだなってあらためて分かりました。
――距離感という意味ではステージだけじゃなくて、会場間の遠さとかも街を楽しむ要因になっていていいんですよね。
堤:気候もいいし、みんな自由な感じあるし。隙間が多いって感じが魅力なのかもしれないですね。
――では、たくさんいい話が聞けたところで最後の質問をします。ズバリあなたにとってSXSWってなんですか?一言で表現してください!
堤:うーん、ちょっと考える時間がいるな(笑)
森:色んな側面があるからなあ、一言でまとめるって難しいよね。写真家としての立場とメディアとしての立場で見えるものも違うし。反面プライベートの海外旅行気分で行っている部分だってあるしな。年に一回のご褒美みたいなところもあるし。
――ちなみに、一昨年も取材した人にこの質問をしたのね。ピーランダー・イエローさんは「未来を見つける場所」って言いました。
一同:カッケー!
堤:かっこいいこと言いますねえ(笑)
――ピーランダー・ブラックこと早川哲也さんは「里帰り」のような場と言っていました。
森:俺は「友達に会いにいく場所」みたいなふんわりしたこと言ったかも。
堤:よし!まとまったんで、忘れないうちに言いますね。「まだ自分の中で言葉にできていない喜びを見つけられる場所」で。今年、ハー・ニュー・ナイフで感じた衝動がまさにそれで。そういえばこういう感覚、大事だったなって思い出せました。そういう「まだ、自分も中で言葉にできていない感覚を捉える術を得られるのがSXSW」なんだなって思います。
森:俺は「自分をアップデートする場所」ってことで。
――はい、ありがとうございました。結局ここまで話して、今年もやっぱり行きたかったなってなってしまいました!
一同:絶対そうなるよね!(笑)
インタビュー進行・文: 三浦孝文
編集補助: 東いずみ
