自分にとっては久しぶりのソニックマニア/サマーソニックだった。2018年以来なので4年ぶりとなる。コロナ禍がその間に挟まり、いまだにそれが続いている状況であるけど、まずは開催にこぎつけた関係する人たちに感謝である。
ソニックマニアから入場して深夜にホテルに帰り、翌朝サマーソニックに昼前にいき、1日目を楽しんだ。ソニックマニアは自分が好きなアーティストを観る、サマーソニックは自分にとって新たなアーティストを学ぶ、というスタンスで臨んだ。観たものの多くはすばらしく、刺激的だった。
ただ、コロナ禍が収まったわけではないので、フジロックのときと同様に、自分はなるべく密集しているところにはいかない。騒いでいる人からは離れる、酒を飲む回数を減らし、酒を飲むとき、ご飯を食べるときは周りに人が少ないところにする、常にマスク着用を心がけた。なのでステージを遠くから観て、アーティストの表情などはスクリーンで補っていた。
コロナ禍を踏まえた、お客さんたちのマナーという点では不安な場面もあった。さらにお客さんたちが声をだすことに対して、アーティストのスタンスの違いも浮き彫りになった。抑圧されたかのような2年間だったのでストレスが溜まっているのはわかるけど、もうちょっと我慢するしかないのでは、と自分は思う。
さて、今年のサマーソニックが始まる前にThe 1975のマシュー・ヒーリーが、今後男女比が同等のフェスにしか出演しないと表明した。
それを受けてなのか、元々のブッキングなのか女性アーティストやメンバーに女性がいるバンドが目立っていた。お客さんたちも大勢入っていたので、そのような姿勢は支持されているのだと感じた。
自分が観た中でも、ザ・リンダ・リンダズはパンクへの愛情が自己の主張と混ぜ合わさり昇華してキュートな世界を作っていた。バンド名の由来となったブルーハーツの“リンダリンダ”のカヴァーでは、ステージ前に詰めかけた人たちの琴線に触れるどころか揺さぶりまくりなので、盛り上がりがすごかった。
セント・ヴィンセントは、ロック、ポップ、ソウルなどを混ぜ合わせた刺激的で完成度の高いステージをみせてくれた。ギターが元ジェリーフィッシュのジェイソン・フォークナーをはじめ、セント・ヴィンセント=アニー・クラークを支えるメンツも豪華だった。
注目のマネスキンはバンドのパフォーマンスもマリンスタジアムに詰めかけた人たちの期待も「これは伝説だ」という空気感が満ちていて、その中で期待以上のステージをやり遂げたマネスキンはぶっちぎりで今年1番の素晴らしさだった。その中でベースのヴィクトリアがバストを露わにしていた。それはジェンダーレスな価値観、もしくはボディ・オートノミー(身体の自己決定権)の表明であるということを知る。男がステージで上半身裸になるのだから女がしてはいけないということはない、ということなのだろう。バンドを通じてボディ・オートノミーということを学ぶのだ。その自分がしたいスタイルをするというのは、東京2日目に出演したメーガン・ザ・スタリオンがセクシーな衣装にセーラー服(というかセーラームーン的な)装飾をつけたのも、自分のしたい格好をするのだ、という文脈で理解できる。
リナサワヤマやSIRUPがステージから同性婚を支持する発言をおこなったように、今年のサマーソニックは、こうした意識に触れる機会となった。
よく「フジロックは左翼/リベラル」という雑な捉え方をする人がいる。一部アーティストの発言や、フェス内イベントであるアトミック・カフェのゲストの傾向でそのように思えるのだろうけど、フジロックには保守的な思想を持ったり、東京オリンピックに協力したアーティストも出演しているので、同じ考えの人たちがでてきてひとつの色に塗り込められているわけではない。
一方、サマーソニックは、特に思想性は無いように思われて、保守的な人や冷笑家の槍玉に上がることはなかった。しかし、今年のサマーソニックは刺激的なアーティストの表現は、自由でリベラルな考えの最前線に触れることになるのだということを感じることができたのではないかと思う。「ポリコレに配慮したフェスなんて」と思うかもしれないけど、今年のサマーソニックは最高に楽しかったし、自分が観た中でいえば、オール・タイム・ロウやFear, and Loathing in Las Vegasなんかは男たちがステージで思う存分暴れるものだったし、そうした選択ができる多様性はある。
あと、ソニックマニアに出演した、コーネリアスと電気グルーヴは、過去に犯したことから立ち直る機会が設けられることも大事なんだということがステージから伝わったと思う。
会場で観たアーティスト一覧
■ ソニックマニア
KASABIAN、SPARKS、電気グルーヴ、PRIMAL SCREAM present Screamadelica Live
■ サマーソニック東京 1日目
The Linda Lindas、Squid、All Time Low、MÅNESKIN、Fear, and Loathing in Las Vegas、St.Vincent
▼サマソニ2022/ソニマニ総括
Vol.1 価値観を提示するサマーソニック
Vol.2 新しい音楽フェスティバルの在り方と、変わらないライブの在り方
Vol.3 一人ひとりの意思と選択をリスペクトするアーティスト達のエンパワーメント