【サマソニ2022/ソニマニ総括 Vol.2】新しい音楽フェスティバルの在り方と、変わらないライブの在り方

3年ぶりのサマーソニックとソニックマニア。その時、個人的に本職の仕事が忙しかったと言うこともあり、事前に「出演アーティストの曲を聴いてテンションを上げていく」という“儀式”の時間があまり作れなかった。ソニマニが開催された金曜日も、夜アパホテルにチェックインし、ソニマニに出かける準備だけ済ませたら、次にはノートPCを開いて仕事をしていた。そんな仕事モードもビールと音楽の前には敵わない。同じ部屋に泊まる友達と合流し、コンビニで買ってきたビールを喉に流し込み、ラインナップを見ながら語り合えば、もう100%フェスモードだ。

会場に入り、ステージに移動してまず感じたのは、プラチナチケットのサービス拡充っぷり。専用のプラチナラウンジは2倍近く広くなっていたし(ディスタンスを保つと言う意味もあると思うが)、各ステージに設置されたプラチナ専用エリアも大幅に拡大。マリンステージのそれも同様で、PA横に高台エリアが設置されていて、後方からでも見やすい環境が整えられていた。自分は一般チケットを買って行ったのだけど、正直かなり羨ましいと思ってしまうくらい充実していた。来年も同じ恩恵が受けられるなら、来年はプラチナチケット買っちゃおうかな……と、まぁそんなことはさておき、今年のサマソニとソニマニのライブアクトはどうだったか?ここからはその3日間を、それぞれの日で特に印象的だったアーティストもしくは体験を中心にして、簡単に振り返っていきたいと思う。

The 1975ポスト・マローンのレポートはそれぞれのライブレポートをご覧ください。

過去も現在も未来も続いていく

まずはソニマニ。翌日の昼に出演するザ・リンダ・リンダズとビーバドゥービーをどうしても観たかったので、ソニマニはそこそこにして、早めにホテルに戻ろうと当初から考えていた。会場に入り、まずは腹ごしらえ。サマソニ定番のマグロの漬け丼とビールを購入。ついさっきホテルでビールを飲んだばかりだが、会場に着いて1杯目のビールもまた格別なものがある。腹ごしらえも済み、まだ開演まで時間もあったので、まずは物販に行ってみようという話になった。ソニマニは例年だと、幕張メッセのエントランスがある通路部分に物販エリアがあったのだが、今年はそこには無く、数十分ほど会場内をウロウロ。マウンテン・ステージの入口近辺にあるのをようやく発見した。そこで気になっていたプライマルのVIVA Strange BoutiqueコラボTシャツ(7,500円!)を購入し、ライブに臨んでいった。

最初に観たのは、フロントマンのトム・ミーガンが脱退し、ギターボーカルだったセルジオ・ピッツォーノ(以下サージ)がフロントマンとなったカサビアンだ。トムの脱退こそあったものの、サポートとして新たにザ・ミュージックのロバート・ハーヴェイ(以下ロブ)がギターとして参加していたりして、他にも新たな手練れたちの布陣を敷いており、盤石のパフォーマンスを見せてくれた。サージのフロントマンっぷりも、ツアーを続けていく中でだいぶ板についてきている様子で、トムのボーカル曲も全く違和感なく歌えていた。ライブ全体を通して見てみても、先日リリースされた新作『The Alchemist’s Euphoria』の曲も含め、今までのイメージ通りの“カサビアン”なライブで、正直ホッとした。

これはあくまでも個人的な憶測だけれど、サージは、いつかトムが戻って来た時のために、敢えてサウンドの軸を変えずにやっているところがあるんじゃないか?と、そう思わずにはいられなかった。理由は、前述の通り、全くブレることなく“カサビアン”だったからだ。楽曲は今も昔もサージが中心にいることに変わりはないので、“カサビアン”っぽさを失っていないのは当然といえば当然なんだけれど、新曲含め、フロントにトムが居て歌っているのが簡単にイメージできたのは、嬉しくもあり、「これでいいのか?」と複雑な気分にもなった。ただ、それをポジティブに捉えるならば、サージが今後、新生カサビアンをどう進化させていくのか。新しい道を切り開いていくのか、それともカサビアンらしいサウンドを貫き通すのか、そんな未来を楽しみに思える、そんなライブでもあったように思う。

あと、これは余談だが、ライブ中、サージがザ・ミュージックのアンセム“The People”のワンフレーズを歌った。予想外の展開に思わず「えっ?!」と声に出してしまいそうになったが、あの瞬間はとても嬉しかった反面、「ロブが歌ってくれよ…!」なんて贅沢な願いも頭をよぎってしまった。まぁ、こういうちょっとしたサプライズもまたライブならではだ。

カサビアンが終わった後は、スパークス、プライマル・スクリームと、お酒片手にゆるゆると楽しんで、早々に会場を後にした。本当はエイウィッチもザ・スペルバウンドも観たかったけれど、翌日のことを考えるなら…よし、もうホテルに帰ろう。というのが、いつもの僕のソニマニの過ごし方だ。

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多様化がもたらしたアーティストの表現の可能性

先ほど「ザ・リンダ・リンダズが絶対に観たい」と書いたが、実際はその通りにならなかった。ちょっとしたキッカケが行動を変える。これもまたフェスの醍醐味だ。ちなみに、そうなった原因は「物販」だった。朝、ホテルを出て友人と「ちょっとマリン側の物販見てみたいよね」という話になり、直接マリン・ステージに向かった僕ら。現場に到着して唖然とした。サマソニ史上最長と言っても過言ではないほどの長い行列ができていたのだ。そんな状況にグッズはあっさりと断念した。その後、友人と別れ、僕はマリンに移動し、念願のビーバドゥービー(以下ビー)を観ることができた。そんなビーのライブも素晴らしかったのだが、それと同じくらい、いやそれ以上に強く印象に残ったのがビーの後に出たリナ・サワヤマだった。

日本生まれ、イギリス・ロンドン育ちの彼女のサウンドは、ブリトニー・スピアーズのようなポップさと、コーンやエヴァネッセンスのようなニューメタルっぽさ、そしてレディー・ガガのような立ち振る舞いと存在感が相まって、マリン・ステージに強烈で独自なバイブスを生み出していた。バイセクシャルであることを公言している彼女は、日本が抱える問題と課題について、最後のMCでこう口にしていた。
「私はバイセクシャルであることを誇りに思っています。ただ私がここで同性婚をしようとしてもできないのです。何故かと言うと日本では禁止されているから。G7の国の中にも唯一プロテクションがないのが日本です。そこから生まれる差別。(性別関係なく)認めて平等な権利を持つべきだと思う人たちは、私たちと私たちのために一緒に戦ってください」。
そんなMCから、ラストは彼女が「LGBTである人たちのための曲」と称するレディー・ガガの“Free Woman”をカバー。その彼女の目つきには決意と覚悟が感じられ、その迫力に思わず黙って見入ってしまった。フジロックに登場したホールジーにしてもそうだが、覚悟を持って偏見や差別と立ち向かう人間は本当に強い。そう感じた1時間のライブはあっという間に終わりを迎えた。ビーにしてもそうだが、満足するには圧倒的に時間が短い。リナ・サワヤマに関しては、来年来日ツアーが行われるとのことなので、それを楽しみに待とうと思う。

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シンプルな再発見

ミッドナイトソニックを諦め、早めにホテルに帰ってきたおかげで、しっかりと睡眠も取れて迎えた2日目。1日目がかなり充実していたので、この日はゆっくり行こうと考えていた。マストで観るつもりだったのは、ヘッドライナーのポスト・マローンとイージー・ライフのみ。他はその時々の気分でその都度選んで行こうと、そんな緩めの1日をイメージしていたのだが、緩めながらも心を揺さぶられるようなひとつの再発見があったので、それについて触れていこうと思う。その再発見とは「ライブはアーティストとファンが一緒になって作り上げていくもの」という極めて単純なことだった。コロナ禍に突入し、ライブ自体も無くなってしまい、少しずつ「ライブ」というものを忘れていってしまった。それを思い出させてくれたのが、この日に観たライブとオーディエンスだった。

そこにはもちろんアーティストのパフォーマンスが素晴らしいという前提はありつつも、ファンの存在の大きさみたいなものがダイレクトに感じられる時間がとにかく多かった。かつてのハイスタンダードやモンゴル800を彷彿とさせるようなキャッチーなサウンドと、とにかく楽しそうなファンの表情(目元しかわからないが)が印象的だったWANIMA(とサプライズ出演したモンゴル800)。もはや外タレと言っても遜色のない壮大なライブを披露していたONE OK ROCKと、そのファンたちが作り上げる一体感のあるライブ体験。

あと、これはライブではないのだけれど、会場に散見されたサマソニとTOMORROW X TOGETHERのコラボTシャツを着たファンの多さと、そのファン層の広さには驚いた。これは後から聞いたのだが、知人の母親が彼らの熱狂的なファンらしく、グッズを買うために朝イチで会場に入り、ライブも前方の方でガッツリと観て応援していたそう。なんかそういう話を聞くと、直接的にファンではなくても嬉しい気持ちになる。老若男女みんなが楽しめる音楽がそこにあることって本当に素敵だと改めて感じた。

Rui Hashimoto (SOUND SHOOTER)

会場で観たアーティスト一覧

■ ソニックマニア
KASABIAN、SPARKS、電気グルーヴ、PRIMAL SCREAM present Screamadelica Live

■ サマーソニック東京 1日目
BEABADOOBEE、RINA SAWAYAMA、THE LIBERTINES (VIDEO LIVE)、MÅNESKIN、KING GNU、THE 1975

■ サマーソニック東京 2日目
EASY LIFE、YUNGBLUD、WANIMA、MEGAN THEE STALLION、ONE OK ROCK、POST MALONE

▼サマソニ2022/ソニマニ総括
Vol.1 価値観を提示するサマーソニック
Vol.2 新しい音楽フェスティバルの在り方と、変わらないライブの在り方
Vol.3 一人ひとりの意思と選択をリスペクトするアーティスト達のエンパワーメント

Text by Shuhei Wakabayashi
Photo by ©SUMMER SONIC All Copyrights Reserved., Rui Hashimoto (SOUND SHOOTER)