【サマソニ2022/ソニマニ総括 Vol.3】一人ひとりの意思と選択をリスペクトするアーティスト達のエンパワーメント

大阪2日目ヘッドライナーのThe 1975がライブの一番最後に“Give Yourself a Try”を披露したタイミングで花火があがったこと。このことが僕のサマソニ&ソニマニ2022を完全に象徴していたので、その後別ステージのセント・ヴィンセントに流れるという選択をあえてしなかったし、相も変わらず暑くて暑くて暑い大阪サマソニだったが、この3日間をThe 1975で締めくくれることを心底幸福に思ったものだ。

3日間を通して僕は、集まった一人ひとりの意思と選択をリスペクトする、アーティスト達のエンパワーメントを強く感じていた。2019年に同じ舞洲で観たThe 1975が、ライブの最初に歌った“Give Yourself a Try”で「やってみないか?」と投げかけた時から早3年。世界を覆ったCOVID-19を中心に僕らは様々なことを体験し、考え、見てきた。今回のソニマニ&サマソニ2022でも様々なアーティストの力強い表現に触れ僕らは色んなことを思い、考えた。ある人のMCが物議を醸したりなど、SNS上でも様々な話題が飛び交ったが、それでも僕らは思い悩みながらも3日間をたくましく過ごした。

そして前回のライブで印象的だったきらびやかな演出の一切を廃し、モノクロのアーティストショットのみで堂々たるヘッドラインステージを務め上げたThe 1975が、この3日間を終えて日常を歩む僕らに再び「Won’t you give yourself a try? / 君自身に挑戦してみないか?」(≒多様な価値観に触れて、今日までの凝り固まった自分を少しだけ変革してみないか?)と投げかけたこと。そこで感じたのは、僕らにはそれができるというそれぞれの意思と選択へのリスペクトに他ならない。それを讃えるように打ち上げられた無数の花火。間違いなくこれが僕の今年のハイライトだ。

だが僕をそんな感情にいたらせたのはThe 1975のライブが素晴らしかったからというだけではなく、3日間を通して様々なアーティストの表現に感化され続けてきたからであり、それこそが多様な人々が集うフェスティバルの素晴らしさだろう。そんなソニマニと大阪サマソニの3日間を、印象深かったシーンをピックアップしながら思い返してみることとしよう。

 

僕も自分自身を誇りたいと強く思った

アーティストの表現から感じるエンパワーメント。この話をするにあたってまずリナ・サワヤマのライブに触れないわけにはいかないだろう。(僕の基準で言えば)発声などの“ルールやマナー”が良かったとは言えない3日間ではあったし、様々なアーティストが様々な立場からそのことに言及していたが、リナがしきりに口にしていた「ジャッジしないで」という言葉が、僕にとって最も腑に落ちるものだった。それは「声を出す奴らは〜」と雑に決めつけるのではなく、集まった人たちの意思と選択をどこまでも尊重しているから発せられる言葉であり、僕はそれでも発声しないという選択をしたが、この“正しさ”が揺らぎ続ける世界の中で、やむにやまれぬ気持ちで声を発する人々のこともリナは決して排除しない。

力強い歌唱とダンスで僕ら一人ひとりを鼓舞する姿は、ここに集ったすべての人に対して開かれている。だからこそ「LGBTQの人たちは人間です」というあまりにも当たり前のはずの言葉が重く重く響いたが、それでもリナはこの不寛容な国で生まれた日本人であることを誇りに思い、LGBTQのB、バイセクシャルであることを誇りに思うと語るのだ。なんと美しく誇り高い姿だろうか。僕はその切実で鮮烈なパフォーマンスに居合わせた友人とともに涙しながらも、リナのように自分を誇りたいと強く思ったのだ。

 

同様に胸を打たれたのが、メーガン・ザ・スタリオンのパフォーマンス。エヴァンゲリオンを彷彿とさせる紫のラバースーツに身を包む彼女の姿は、モニター越しでも存在を主張するオーラがものすごい。お尻をブルブル震わせるダンスやキレキレのラップに、なにかすごいものを見ているように圧倒されるばかりだったが、共通するのはその誇り高い姿だろう。

ダンサーとシンガーという形式だけで言えば類似しているものの、キュートでポップなきゃりーぱみゅぱみゅのステージや、クールな表現に痺れたCLのパフォーマンスにも感嘆したもので、形式だけではくくれないそれぞれの魅力が存分に感じられた今年のサマソニ。女性アーティストの幅広さはThe 1975のマッティによる「ジェンダーバランスが不平等なフェスには出演しない」というステートメントの影響も大きいのだろうが、女性であることの喜びごと高らかに表現するようなライブがとても印象的だった。「男性だから/女性だから」という安直なラベリングを意識して自身の性質を押し殺すのではなく、その事も踏まえて自らの魅力を打ち出す表現者の堂々たる自負。その力強い姿の数々に、今の時代の表現の広がりを感じたものだ。

そういう意味でマネスキンのパフォーマンスも特筆すべきものだ。例えば若い頃のレッド・ツェッペリンやローリング・ストーンズのようなロックスターを観るのはこんな感じなのかと追体験するような、圧倒的にデカいロックンロールのダイナミズム。だがどちらかといえば雄々しいイメージの強かった従来的なロックンロール像を刷新するようなグラマラスで妖艶なその佇まいは、とても同時代的なものにも感じられる。そんな2022年を歩むそれぞれの矜持に触れられたことは僕を強く勇気づけた。

 

心底楽しむその表情といったら!

大阪から幕張のソニマニに行って即帰阪し大阪会場に向かうという、おそらく誰よりも強行スケジュールだったため、初日の舞洲会場に着いた時にはすでに眠気がかなりあった(帰宅してシャワーだけ浴びた家の滞在時間は30分もなかった)。それでもなんとしても観たかったのが、舞洲マウンテンステージの開幕を飾ったイージー・ライフ。ステージだけ気温が違うのかと感じるほど涼しげで洒脱なパフォーマンスは、「日本は宇宙で一番いい国」なんて言葉も飛び出し気分は上々だ。それでいて鬱屈とした感情を包み隠さず滲ませるのが彼らの真骨頂で、ここ数年クラブシーンのアンセムとなっていた“nightmares”でも、単にチルいだけでは言い表わせない情感がマウンテンステージを包んでいた。

2日目の冒頭に登場したザ・リンダ・リンダズとビーバドゥービーのなんとも楽しそうな表情は、観ているこちらも自然と頬が緩み、どこまでも明快なパンク/ギターロックに揺られたもの。(ひねくれたバンドも好きだけど)今一番真摯でかっこいいのはこういった率直で明瞭なアティチュードだよなと感じたし、Mrs. GREEN APPLE、04 Limited Sazabysの流れとあえてテレコに配置するサマソニの意向もフェスティバルらしく小粋に感じられる。だからこそザ・リバティーンズが来ないことが残念で仕方がなかったが、奴らのことはまた後で。

そしてイージー・ライフだったり、30分ほど押しながらも全身全霊でポップに歌い上げたカーリー・レイ・ジェプセンのステージもしかり、グッズのタオルを持ったTOMORROW X TOGETHER(以下トゥバ)のファンと思わしき人たちがいたるところで楽しんでいたのも、今年のサマソニを象徴するシーン。僕もトゥバのステージに足を運んだが、パワフルなバックバンドに支えられ少し不器用ながらどこまでも真摯に楽しく表現する5人の姿に、「愛せるなあ」なんて口をついてこぼれたものだし、マウンテン史上一番じゃないかというファンの熱気もうなずける。何より歌ものからファンク、エレクトロポップにロックなど、あらゆる音楽性を縦横無尽に行き来するその姿を見ていると、ファンも別け隔てなく色んなアーティストを楽しんでいたことにとても納得ができた。これはフェスティバルの理想がひとつ実現したかたちだと思うし、今年のサマソニで最もポジティブに感じたこととして書き記しておきたい。

 

深夜の喧騒の中で垣間見た強い覚悟の数々

ソニマニが再始動2ステージ目となったCorneliusはフジロック同様淡々と演奏しているように感じられたが、その時より少し冷静に観られたからか深夜の屋内ステージだからか、はたまた残念ながら堀江博久を欠いたコンパクトな3人セットだったからなのかはわからないが、僕はフジロックよりCorneliusの表現をより素直に堪能できた気がした。映像と演奏が混ざり合うコラージュ的な面白さや、複雑なリズムの“いつか / どこか”の「全員、みんな、ね」や“COUNT FIVE OR SIX”の「7,8」が僕の身体とかっちり噛み合う気持ちよさを存分に感じられたし、ギター小僧のような好奇心溢れる小山田圭吾のピュアな表現欲求に触れられたような気もして、とても嬉しい気持ちになったものだ。ある意味では禊のような見られ方もしたであろうこの日のステージだが、終演後の小山田はなんともいえないとてもいい表情をしていた。

同様の見られ方で言えば電気グルーヴだろうが、フジロック2021の大トリで観ていたこともあって僕は今回はパス。でもあらゆるフェスティバルに出現し「いたらノリで観たり観なかったりする存在」だったかつての彼らを今また雑にスルーできることは、妙な言い方にはなるが僕にとって大きな喜びでもある。彼らはこれからもいてくれる。そんな安心感を胸に次のステージへ。

そして喧騒の夜の中で随一のチルアウトスペースとなっていたNujabes Eternal Soulもそうだが、この夜の最後を飾ったTHE SPELLBOUND(以下スペルバ)も活動終了したBOOM BOOM SATELLITES(以下ブンブン)の第2章を志向しながら、新たな表現を探求するバンド。最後に披露したブンブンの代表曲“Kick It Out”には流石に腰を抜かしたが、この曲を今演奏することが4人にとってどれほど重いことなのか、僕には想像がつかない。往年の盟友である中野雅之(Ba / Prog)と福田洋子(サポートDr)に、小林祐介(Vo / Gt、THE NOVEMBERS)と大井一彌(サポートDr、yahyel)が合流した4人がひたむきにその先を鳴らしているからこそ、幾度となく観たブンブンの姿が思い起こされると同時に、単なるサプライズではない今現在のスペルバのバンドサウンドを存分に感じることができたのだ。長年のファンとしてこんなに嬉しいことはない。

批判を真摯に受け止めたり、偉大な先達の歩みも想起する重圧に応えたり、様々な想いが渦巻く中でも今ここで力の限り表現するアーティスト達の気概と勇気。(おそらく本人にその意図はないだろうが)これもまた3日間を通して感じたエンパワーメントのひとつだ。僕もまた強く歩みを進めよう。

 

なんだかんだ大好きなザ・リバティーンズと大阪サマソニ

まだまだ書きたいところだが最後に奴ら、ザ・リバティーンズの話を。個人的にもここ数年で一番楽しみにしていたアクトだっただけに、ビデオライブで良かったと言うつもりは毛頭ないし、ビザの問題とか「なんでやねーん」って感じだ。でも思いの外楽しくて、ビデオライブなんてもののためにわざわざここに集ったファンと、愛を共有する時間がそこにはあった。近くで楽しそうにUKの国旗を振り回していた集団の悔しさも嬉しさも僕にはわかるし、冒頭に表示されたメッセージやこのために収録したというUKでのライブ映像を観ていても、画面越しの4人が本気で悔しくて申し訳なく思っていることが伝わってきた。ならもうなんの後腐れもない。今年はもうこれでいい。誰もが「来れんの?」と思っていた中、果敢な招聘に挑戦したクリエイティブマンにも改めて敬意を示したい。

そして、悪態をつきながらもなんだかんだ大好きだし、通い続けてしまうのは大阪サマソニも一緒なのだ。幕張が豪華で快適なこともよく知ってるけれど、「今年も暑いなあ」とか「シャトルバス乗り場遠いなあ」とか思いながらも、オーシャンステージの夕焼けや帰りのコスモスクエア駅に向かう海沿いの景色を眺めながら、「今年も楽しかったな」としみじみ思うこの感じ。それが関西に住む僕らにとってかけがえのないものなんですよ。この場を借りてぜひ言わせていただきたい。大阪に素晴らしいフェスティバルをありがとう。また来年舞洲でお会いしましょう。

会場で観たアーティスト一覧

■ ソニックマニア
どんぐりず、KASABIAN、Cornelius、MADEON、Nujabes Eternal Soul、TESTSET、THE SPELLBOUND

■ サマーソニック大阪 1日目
EASY LIFE、SALEM ILESE、TOMORROW X TOGETHER、Mega Shinnosuke、KULA SHAKER、MEGAN THEE STALLION、きゃりーぱみゅぱみゅ、CL、CARLY RAE JEPSEN

■ サマーソニック大阪 2日目
THE LINDA LINDAS、BEABADOOBEE、RINA SAWAYAMA、THE LIBERTINES (VIDEO LIVE)、MÅNESKIN、KING GNU、THE 1975

▼サマソニ2022/ソニマニ総括
Vol.1 価値観を提示するサマーソニック
Vol.2 新しい音楽フェスティバルの在り方と、変わらないライブの在り方
Vol.3 一人ひとりの意思と選択をリスペクトするアーティスト達のエンパワーメント

Text by Hitoshi Abe
Photo by Hitoshi Abe