これからの時代は女性が牽引 ~Fuji Rock Festival ’19を彩る女性アーティスト特集~

ここ最近、女性がパワフルだ。「#MeToo運動」(セクシャルハラスメントや性的暴行の被害を告発する運動)や「タイムズ・アップ(Time’s Up)」運動(セクハラや性的虐待を見て見ぬふりをするのを終わりにし、被害の撲滅を訴える運動)の世界的な拡がりをはじめ、女性が自分が今いるところから、自分の体験に基づいて自由に発言し、表現をしているように見て取れる。これは音楽の世界でも同様のようだ。例えば、今、世界中から熱視線を集める若干17歳のBillie Eilish(ビリー・アイリッシュ)。彼女のコーチェラ・フェスティバル(Coachella Valley Music and Arts Festival)でのライヴはその醸し出す独特の世界観も、オーディエンスの「待っていた」感もすごかったが、何と言っても“all the good girls go to hell”の途中で歌詞をど忘れしてしまったシーンだろう。彼女は、隠すでもやり過ごすでもなくストレートに「歌詞、何だったっけ!?」と叫んだのだ。当然会場は大喝采。何とも感動的な瞬間だった。今をときめくアーティストによるこの大舞台での出来事だ。また、同コーチェラ・フェスティバルに出演した韓国のガールズグループ、BLACKPINKの堂々たる歌とパフォーマンスには、国境を吹き飛ばす音楽のパワーを感じたし、昨年YUIMETALが脱退し、2人体制となった直後に神戸で観たBABYMETALのステージでは、脳天をダイレクトに直撃するかのような研ぎ澄まされたSU-METALの歌声から「何が起きようが、私たちは前進して高みに上る!」という熱い意思が感じられた。世界の至るところで、このようなパワフルな女性アーティストが出現し、今の音楽シーンを牽引しているのである。

さて、早くも来月に迫ったFuji Rock Festival ’19(以下フジロック)のラインナップはどうだろうか?面白いアーティストをブッキングしたらこうなったというだけで、意図的なものではないと思われるが、世界各地から多くの要注目女性アーティストが軒を連ねている点が今年のフジロックのラインナップの大きな特徴のひとつと言える。それでは、LIM PRESSがプッシュする見逃し厳禁なイチオシ女性アーテストを以下に紹介していきたい。


SIA – 7/27(土) GREEN STAGE

今年のフジロックはこの人の登場に尽きると言っても過言ではないだろう。オーストラリアきってのシンガーソングライター、SIA(シーア)が二日目のトリとして登場。2004年にZERO 7のゲストボーカルとして出演して以来、15年ぶりの帰還となる。今年の3ヘッドライナーの中でも文句なしに一番の注目株。Rihannaの“Diamonds”をはじめ、ヒット曲を量産している名作曲家にして、素顔を覆ったミステリアスな存在のもと投げかけられる極上の表現と歌声。今の時代を代表するアーティストであることは言わずもがなだ。年内にライヴが決定しているのは現状フジロックのみ。この貴重なステージに国内外から多くのファンが駆けつけることになるだろう。生“Chandelier”が聴けるかと思うと今から楽しみでならない。 英国のミュージシャンのLabrinth、米国のDJであるDiploと結成したLSDの1曲をお届けしたい。これが彼女の最新の一手である。


ANNE-MARIE – 7/26(金) GREEN STAGE

英国はエセックス出身のシンガーソングライター、ANNE-MARIE(アン・マリー)。フジロック初日のグリーンステージに登場予定だ。まだデビューして4年足らずだが、Ed Sheeranのヨーロッパツアーのオープニング・アクトを務め、昨年リリースされたデビュー・アルバム『Speak Your Mind』では今の英国音楽のヒットメーカーのみを投入したのではというほどの錚々たるプロデューサー陣ががっちりとサポート(スティーヴ・マック、トム・メレディスなど)。「今最もUKで愛される女性シンガー」と噂されているのも頷ける愛されっぷりだ。米国の覆面DJ、Marshmello(マシュメロ)とコラボした1曲をどうぞ。


ALVVAYS – 7/27(土) RED MARQUEE

ここらで、女性が核となって活躍するバンドを紹介しよう。カナダはトロントからやってきた、シューゲイズ・ドリーム・ポップ・バンド、ALVVAYS(オールウェイズ)だ。バンドが紡ぐ、甘酸っぱさ満載のメロディーの上を浮遊するフロントウーマン、モリー・ランキンの儚い歌声は気持ちいいの一言。ALVVAYSは2日目のレッドマーキーに登場する。熱狂続きの苗場とフジロッカーの熱を冷ましてくれる砂漠に出現したオアシスのごとく、オーディエンスを包み込むようなステージになることだろう。彼女たちのミュージック・ビデオは、音同様にどれも甘酸っぱさ満載、かつアーティスティックで大好きだ。こちらを観てキュンキュンしていただきたい。


COURTNEY BARNETT – 7/27(土) WHITE STAGE

お次はオーストラリア出身のロック娘。2016年のフジロック初登場以来、3年ぶりに苗場に帰ってくる、COURTNEY BARNETT(コートニー・バーネット)。初作『Sometimes I Sit and Think, and Sometimes I Just Sit』でグランジを今に活き活きとよみがえらせ、世界的なブームの再来を牽引した張本人だ。盟友カート・ヴァイルとコラボしたアルバムを挟んで、昨年リリースされた最新作『Tell Me How You Really Feel』がこれまた素晴らしかった。本作では彼女の内面を前面的に表現したからということもあるだろう。歌声がよりクリアに際立ち、彼女の優しさが込められているような感覚を抱いた。コートニーは2日目のホワイト・ステージに姿を見せることになる。音の良さに定評のあるホワイトだ。3年前を軽く超えるステージを繰り広げてくれることだろう。アトランタのパイドモント公園で収録した新譜のリードトラックのライヴ映像をどうぞ。


STELLA DONNELLY – 7/28(日) RED MARQUEE

コートニー・バーネットと同郷、オーストラリアのシンガーソングライター、STELLA DONNELLY(ステラ・ドネリー)。親友からレイプ被害を告白された体験を元に書かれた“Boys Will Be Boys”で一躍、#MeTooを象徴するアイコンとなった女性アーティストだ。爪弾かれるフェンダーのストラトキャスター1本と、ヴィブラートが効いた声のみで世界と対峙する佇まいが最高に魅力的。毒気を含む静謐な世界観は、屋外ステージ、特にヘブンがピッタリな気もするが、最終日のレッドマーキーに登場する予定になっている。ぜひ足を運んでほしい。彼女の口から投げかけられる言霊に心打たれることだろう。アメリカの公共ラジオ放送局、NPRの小さな事務所内で開催される有名なコンサートシリーズ「タイニー・デスク・コンサート」の模様をご覧あれ。


SABRINA CLAUDIO – 7/26(金) RED MARQUEE

先日のコーチェラで披露したパワフルな歌声が記憶に新しい、アメリカはフロリダ州マイアミ出身の歌姫、SABRINA CLAUDIO(サブリナ・クラウディオ)。Beyonceの“Heaven”のカバーで火が付いた、YouTube発のアーティストだ。2017年にリリースされたデビューアルバム『About Time』は、ビルボードの年間R&Bアルバムのトップ10にランクインしており、“Don’t Let Me Down”ではヒットメーカーのKhalid(カリード)とコラボをしていたりと、彼女の妖艶な美しさと相まってスターダムの頂点へ急ピッチで駆け上がっている最中。苗場ではキューバ系とプエルトリコ系の血を引いているという彼女が歌い上げる、南米の色香が醸し出されたR&Bに息をのむことだろう。初日のレッドマーキーに登場予定だ。必見!


MITSKI – 7/26(金) RED MARQUEE

今年2月の東京と大阪での来日公演をあっという間にソールドアウトにしてしまったMITSKI(ミツキ)。ニューヨークを拠点に活動するシンガーソングライター、ミツキ・ミヤワキによるソロプロジェクトだ。アメリカ人の父親と、日本人の母親をもち、父親の仕事の関係でコンゴ民主共和国、マレーシア、中華人民共和国、トルコ等、様々な国を行き来する環境の中で育まれたグローバルかつボーダレスな視点と、70年代の日本のシティ・ポップを今風に更新したサウンドが持ち味だ。彼女が再来日し、苗場の地を踏みしめる。つい先日、9月7日のニューヨークのセントラル・パークでのステージが、無期限で当面最後となる公演と発表された。音楽活動を休止するわけではないようなので、MITSKI名義のソロプロジェクトが一旦完了し次のステップに移行するということなのだろう。苗場で披露されるMITSKIの音楽を全身で感じ、その雄姿を目に焼き付けておきたい。


YAEJI – 7/26(金) RED MARQUEE(PLANET GROOVE)

ニューヨーク生まれの韓国人女性アーティスト、Yaeji(ヤエジ)。MITSKI同様に自分の出生と背景の色を英語と韓国語の二か国語を併用し、エレクトロとラップを絶妙にブレンドさせたトラックに乗せて唯一無二の世界観を創り出している。Yaejiの存在を世に知らしめた“Raingurl”をとりあえずチェックいただきたい。中毒性が高く、一癖も二癖もあるサウンドにはまってしまうことこと請け合いだ。フジロックでの初陣を見逃すことなきよう。


中村佳穂 – 7/26(金) FIELD OF HEAVEN

京都在住の音楽家、中村佳穂。2016年のジプシー・アヴァロンに出演以来、3年ぶりのフジロックとなる。「ひとつとして同じ演奏はない、見るたびに新しい発見がある。」と評されるほど彼女のライヴは自由なインプロビゼーションに溢れ、遊び心が満載なのだ。昨年久方ぶりに来日したHothouse Flowersに近いヴァイブスを感じる(今年もフロントマンのリアムが帰って来るってよ。やった!)。今回は、初日のフィールド・オブ・ヘブンのオープニングを務めることになりそうだ。パワフルな歌声と自由自在な演奏でフジロックの開会を高らかに宣言してくれることだろう。


Superfly – 7/28(日) GREEN STAGE

2010年の初出演以来、9年ぶりの出演となるSuperfly。ウッドストック40周年記念ライヴに日本人として唯一出演を果たした。天から授かった声の持ち主、和製ジャニス・ジョプリンこと越智志帆のハイエナジーな歌声が苗場に帰ってくる。今や日本の音楽シーンを代表する歌姫だ。全国から集まるであろうSuperflyファンのみならず、60年代のウッドストック世代の音楽ファンを唸らせるようなライヴを繰り広げてくれることを期待したいところ。初回のウッドストックから半世紀を迎える今年。9月からはアリーナツアーの開催も決定している。Superflyが更に飛翔する年になることだろう。


Alice Phoebe Lou – 7/27(土) Gypsy Avalon

南アフリカ共和国出身、ベルリン在住のシンガーソングライター、Alice Phoebe Lou(アリス・フィービー・ルー)。ロックにソウル、ジャズのニュアンスははっきりと感じられるが、様々なジャンルの交配がなされたサウンドだ。彼女独特な表現や、ストリート・パフォーマンスで培ってきたストイックな音への向き合い方に、思わずLou Reed(ルー・リード)と重ねてしまった。デビューアルバム『Orbit』は、ドイツ・レコード批評家賞にて、ベスト・フィメール・アーティストにノミネートされている。今年3月リリースされたニューアルバム『Paper Castles』を引っ提げ、苗場にやって来る。2日目のジプシー・アヴァロンのトリが彼女のステージになりそうだ。とっぷりと夜に包まれた苗場をアリス色に演出してくれることだろう。


ANNA LUNOE – 7/27(土) RED MARQUEE(TRIBAL CIRCUS)

オーストラリアはシドニー出身のDJ/プロデューサーのANNA LUNOE(アンナ・ルノー)が2日目の深夜のレッドマーキーでのダンスパーティー、「TRIBAL CIRCUS」に登場。アンナは楽曲の作詞も手掛け、自らヴォーカルも取っている。当日は彼女の可憐な歌声を聞けるかもしれない。Salt N Pepaをはじめ、The WeekndやBanksといった猛者たちとのツアー同行やオープニング・アクトを務めた確かなスキルで、苗場に集ったクラバーたちを存分にロックすることだろう。YouTubeで300万回以上再生される人気曲となった、同郷のDJ、Flumeとコラボした“I Met You”で彼女の歌声を堪能してほしい。


JANELLE MONAE – 7/26(金) GREEN STAGE

最後はこの人で締めくくりたい。2017年のアカデミー賞作品賞を受賞したヒット映画『ムーンライト』にテレサ役で出演し、女優としてもブレイクしているマルチアーティストのJANELLE MONAE(ジャネール・モネイ)。2007年のデビュー以来、ソウル、R&B、ファンクといったブラックミュージックの旨味を抽出し、近未来型の最新フォームを世に提示し続け、耳目を集めている。フジロック初日のグリーンステージの大舞台で彼女の表現が弾けることになる。故プリンスを想起させるセクシーでゴージャスなステージは間違いなく見逃し厳禁ものだ。


<FUJI ROCK FESTIVAL’19 開催概要>
開催日:7月26日(金) 27日(土) 28日(日)
開場/開演:開場 9:00 / 開演 11:00 / 終演予定 23:00
開催地:新潟県湯沢町苗場スキー場
オフィシャルサイト:http://www.fujirockfestival.com/

Text by  LIM Press
Photo by  LIM Press