桑田研究会バンドやのっちインタビュー / 「サザンオールスターズの次に好きなバンドは……?」

朝霧JAM中止は残念無念……。台風で中止になった今年の朝霧JAM。出演予定だった桑田研究会バンドの「やのっち」こと矢野康弘さんのインタビューを文字起こししながら思った。もしかしたら難病にかかっている彼の復帰ステージになったのかもしれなかったからだ。また、いつかどこか、もちろんフジロックや朝霧JAMでその姿を観ることができれば、と願うばかりだ。

矢野さんのフジロックから難病の話は、フジロッカーズorgに載っているのでご覧いただきたい。(→ こちら

今回のインタビューは、その続編ともいうべきもので、矢野さんの音楽歴、トリビュートにあたっての方法論など、音楽面を掘り下げたものになっている。こちらも興味深いので読んでいただきたい。

もはやサザンは洋楽

小学生の頃にテレビでサザンオールスターズを観て「なんじゃこの人たちは」と感じるのはありました。中学生のときにKUWATA BAND(1986年に期間限定で結成された桑田佳祐のソロバンド)があって「スキップ・ビート (SKIPPED BEAT)」や「BAN BAN BAN」がすごくいい歌だったんです。カッコよかったです。そこからサザンオールスターズがいいなあと思いました。

あの頃の中学生って「邦楽聴いている奴ダサい説」ってあったんです。でも1990年に映画『稲村ジェーン』のサウンドトラックが曲の半分が英語かスペイン語かインストゥルメンタルなんです。有名な「希望の轍」や「真夏の果実」などは日本語なんですけど、これは僕の中で洋楽だということにしたんです。そこからみんなに「え〜サザン〜?」っていわれても「お前ら、サザンは洋楽だよ」っていってました。

サザンのメンバーだけでなく、大物のスタジオミュージシャンが集まっているから、めっちゃ上手いんです。それで最高だなとなって傾倒していくんです。僕思うんですけど、演奏の妙とか歴史的背景は別として、日本人として単純に歌メロのセンスは桑田佳祐にかなわないですね。誰も。ビートルズですら歌メロだけの勝負なら桑田佳祐の方が上じゃないかと思うんです。Aメロがよくて、ブリッジがよくて、サビがよくて、そのあとでCメロみたいなのがでてくるじゃないですか。ここまでメロを全部いいメロで作り上げる。洋楽の人は演奏とかはいいですけど、日本人の琴線に触れるような歌メロは弱いですね。サビがずっとあって、ここでCメロ欲しいなみたいなところでもずっと同じサビみたいな。日本人感覚からしたら桑田佳祐の方が上だなっていう。

サザンの次に好きなバンドは?

サザンが飛びぬけちゃっているでしょ、2位のバンドはめっちゃいるんですよ。(しばらく考えてから)……クイーン、イーグルス、井上陽水とかですかね。へヴィ・メタルもハードロックも好きだし、ボブ・ディランもザ・バンドも好きだし。格別なのはサザン、陽水かな……。リトルフィートとか南部の泥臭い音楽はサザンを聴いてから聴くようになりました。サザンの初期の曲に「いとしのフィート」(1978年アルバム『熱い胸さわぎ』に収録)という曲がありますし。レッド・ツェッペリンとかのハードロックはサザンより先ですね。

— 初めてコピーした曲は?

覚えてないですね。最初は趣味だったの。桑田研究会バンドの前に、稲村ジェーンズっていう本当に趣味でおじさんたちのバンドをやってたんですけど。そのときは自分たちが大好きなやつをやるんで、ライヴで「ジャズマン (JAZZ MAN)」(1980年シングル)とかやってました。最初にやったのは覚えてないですね。

深夜、ラジオから新曲が流れてから翌朝にカヴァーした曲をYouTubeにUPした

— コピーの方法を教えてください

僕は譜面を読めないけど、バンドのメンバーには音楽大学出身者もいるんで、譜面を起こしてもらうこともあります。僕は譜面はよくわからないけど、サザンをめちゃめちゃ聴いているから「いや、あそこでこの音が鳴っている」とわかるんです。サザンはライヴのヴァージョンだと、ホーン隊がいてキーボードが2人いてコーラスが何人もいて、しかも同期も使っているんです。だから音がめちゃめちゃ入っているんです。コピーバンドの場合、それより全然少ない人数で生演奏するわけなんで、そのとき何が大事なのかっていえば「どの音は取って、どの音を捨てるか」なんです。

サザンをそこまで聴きこんでない人がやると「あれ?あの音を捨てちゃったんだ」っていう間違いが起きるんです。「You」(1990年アルバム『Southern All Stars』収録)の後ろでカンコン鳴っているパーカッシヴな音を取らないと「You」じゃないとか、サザンファンはこのカウンターのメロディがみんな好きだから、ここは絶対なんですとか「この音を取ってください、この音を捨ててください」というのが僕の役目です。

—1曲をモノにする時間ってどれくらいかかりますか?

曲によりますね。バンドが得意とするジャンルは、わりとすぐできるものもあるけど、いつまでたっても形にならない、上手くいかないというものもあるんです。僕のバンドは僕以外は、まあまあ若いんです。若者ってリズムが跳ねたものを聴いてから音楽を始めた世代なんですね。跳ねることがカッコいい時代を生きてミュージシャンになったから、サザンのベッタリした8ビートの曲になると緩急がだせなくなるんですね。

— 具体的にどれだけかかったかというのはありますか?

マネージャーさん:せっかくなので、今までで一番早くカヴァーした時のことをお話しましょうか。

桑田佳祐さんのラジオ(TOKYO FMの「桑田佳祐のやさしい夜遊び」)で、シングル発売前に新曲が流れるんです。初めて「東京VICTORY」(2014年シングル)かかりますという日に、高崎で花火大会のイベントがありまして、高崎のホテルで泊まりだったんです。思いついて夜にバンドのメンバー全員をホテルの部屋に集めて、夜11時に始まるラジオを聴かせて流れた瞬間にそれを耳コピして譜面をおこさせて、高崎でスタジオを押さえてもらって、明日の朝までにYouTubeにUPすることはできないかっていうと、「やろう、やろう」ってなったんです。その日、3ステージくらいやってみんなヘトヘトだったんですけど、みんなで聴いてスタジオに入って、3時間くらいで固めて、「こんな感じだった」とかいって明け方に一発で録って、それを朝の5時か6時にYouTubeに上げました、っていうのが最短です。

マネージャーさん:でも、そんなことは、たまたま条件が揃ったんで勢いでやったんですけど、普段は事前に聴いてもらってっていう感じですね。(「東京VICTORY」のときは)YouTuberだったなと。そうやってみんなで勢いで録ったりすると、フルバンドの生演奏で新曲を聴きたいという人に聴いていただけるので、すごく再生されていたりして、ライヴに「YouTube観ました」って来てくださる方が、すごく増えました。

今後の活動について

マニアックな病気を認識してもらいたい。知らない病気、名前を聴いてもわからない病気があることを知ってもらう、広めたいということを今、真剣に考えています。そういう病気の方は自分たちがツラいから強めに訴えるんですね。僕はできればそれにユーモアを混ぜつつ、こういう病気になったら、こんなエピソードがあったんですよということを難病を持っている方にインタビューしていきたいなと思っています。たとえば障がいを持った人の「すべらない話」みたいなのを立ち上げるとか、まずは世に知ってもらうことに、これから身を捧げていきたいです。ひとくくりで障がい者といっても、千差万別、ライヴハウスやフェスも、もっとそういう多様性のある人たちが楽しめるエンターテインメントとして進化していったらいいなということを考えています。

やのっち Official Site
https://yanocchi.com/

やのっち 公式YouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/channel/UClIQ8UOTHkzvDWevNbj1WiA

桑田研究会バンド公式サイト
http://www.kuwaken30.jp/

Text by Nobuyuki Ikeda
Photo by Ryota Mori