2人になったRABIRABIが語る、すべてにおいてLOVE目線で向き合う姿勢と新作EP「自分の感覚を信じていれば目標を定める必要はない」

日本中を駆け巡りながら旅の先々でライヴをする、という活動スタイルが特徴的な縄文トランス・ユニットRABIRABIが、2020年立春の日に新作『Luminous Flow』をリリースした。しかも、az3(アズミ)とNanaの2人編成に戻ってから初めてとなるEPだ。2人編成の作品としては16年ぶりとなる。”光の流れ“と名付けられたアルバムタイトルが示すように、新生RABIRABIが放つ新たな煌めきは、深みと浮遊感を感じさせるCHILLなサウンドに集約されていて、何度も繰り返し聴きたくなる響きに仕上がっている。アルバム名の由来となったハワイ島での溶岩トレックの体験や4つの収録曲の舞台裏、今だから話せるジェンダーの話、アイヌとの交流など、2020年を”ルミナスイヤー“として駆け抜けるaz3とNanaにたっぷり語ってもらった超ロングインタビューをお届けしよう。

目次
1.原野とルミナスレッド:『Luminous Flow』が灯った場所
2.喋りかければソレは答える:4つの楽曲の舞台裏
3.いつか分からないくらい昔から:アイヌとのつながり
4.百人いたら百通りのジェンダーがあって:多様化するジェンダーの時代に思うこと

銀河系の端っこを通りかかった時

― 新作『Luminous Flow』が出て数ヵ月経とうとしていますが、反応はどうですか?

az3:プロデュースしてくれたクニユキさん(Kuniyuki Takahashi)、ウッチーさん(内田直之)に「世界の辺境パーティーで鳴っているスローハウスのような音にしたい」とオーダーしました。そういう意味ではDJさんの評判がやっぱりいいですね。

もうひとつは、ライブと並行してやっている「RABIRABI音泉(おんせん)」っていうストーリーテリング(語り部)があって、その物語に出てくる曲が全部収録されています。「音泉」で体感したことを、後でじっくり味わってもらえる感じ。参加した人にはいい復習(笑)になっているみたい。

― 今回はどういったイメージでこのEPを作ったんですか?

az3:宇宙旅行をしていて、銀河系っていう名前のところにやってきました。その銀河系の端っこを通りかかった時、聞こえてきた音。何か鳴っているなーって近寄っていくと青い星が現れて、さらにズームしていくと、各地のいわゆる辺境パーティーみたいな所ですごく自由な生き物がその音につられて揺れている。

― そうだったんですね。確かに“Attenpolow”の出だしから、どこからか聞こえてきた音楽のようなイメージあります。

Nana:あとは「カフェでかけられるRABIRABI」。今まではかけられなかった(笑)。

― なるほど。確かにかけられなかったかもしれないですね(笑)。

az3:これまでのアルバムは、運転していたら時速が勝手に10キロ、20キロ上がってくみたいなアゲアゲな感じで。それは元メンバーのPIKOが超アッパーグルーヴだったのが大きいのと、3人のときは3という数字の黄金律、究極の神聖幾何学を突き詰めてしまうというか。何かを目指す集団だった。

だけど2人になっていきなりそれがなくなって。ぜんぜん目指さない。無方向。無重力。インフィニティ。いろんな意味で自由になったんです。そのムードをEPに落とし込めたらと思いました。

原野とルミナスレッド

― もう一つ、キラウエア火山の話がこのアルバムのテーマには関わっているんですよね?

az3:RABIRABI3人体制のファイナルライブを迎える直前(2018年1月)に、1週間ハワイ島へ行ったんですよ。

ハワイ島の南東部にはね、火山の噴火口とか陥没クレーターが数十キロも続く「リフトゾーン」って言われる大地の割れ目の帯があるんです。割れ目から流れ出した溶岩は、空気に触れた瞬間、蛍光の赤から黒く変色していくんですけど、ゆっくり冷え固まった真黒な熔岩流(ラヴァフロウ)が、刻々と新しい大地をつくり出している一帯があるの。まさに生まれたての原野。

自分たちが行ったのは、キラウエア火山から東へ伸びるイースト・リフトゾーンって言われる火山活動が活発な噴火帯だった。タイミングと場所は刻々と変わるけど、流れ出る熔岩が実際に見られるエリア。でもこれ、全部あとで知った。そのときは何の予備知識もなく、原野とルミナスレッドをこの目で見たい!って言う冒険心だけ。 いつもそうなんだよね、冒険の時って(笑)。

Nana:それで旅の最終日に行った。ローカルの人に行き方をざっくり教わった時「ラヴァを観るなら夜がいいよ」って言われて。ものすごく軽い気持ちで「そっかぁ!じゃあ夜行こう」ってなって。翌日の早朝6時半の飛行機に乗って帰りますよ、って言う前の晩。

az3:夕方、スコールの中を車で南に向かって、小さな街と森をいくつか抜けてくと、道の両脇にレンタサイクル屋のテントが並び始めた。と思ったら、州道が突然、熔岩流で寸断されて終わるってびっくり(笑)。それで州道だった先は、熔岩の凸凹をとりあえずシャベルで平らにしました、って言うような道が1本だけ延々と伸びていた(全長約14km)。どうやらそこから先は観光用シャトルバスか、レンタサイクルか徒歩でしか入れないらしくて。それでレンタサイクルを借りました。雨が上がるのを待って自転車を漕ぎ始めたんです。

ちょうど三日月の日でね。どんどん雲が晴れてく。すごく綺麗だったんですよね。三日月に向かって西に進んでいくんですけど、左側(南)は熔岩平線と、その向こうにある海(見えない)の潮騒が聞こえる。右側(北)はイースト・リフトゾーンの割れ目の稜線。空は薄紫のトワイライトカラーで、大地は真っ黒。原野好きのRABIRABIには、もうワクワクしかなかった。

― すごいシチュエーションですね。

az3:そのDIYな1本道の入口に第1ゲート、シャトルバスの終着点に第2ゲート、さらに自転車で行ける最終ポイントに第3ゲートが設けられていました。第2ゲートまで来るとだいぶ暗くなって。と同時に、遠くにルミナスレッドの光がぼぉっと見えたんですよ!そこからさらに光を追いながら第3ゲートに着いて。夕方6時にレンタサイクル屋を出て、第3ゲートに着いたのは7時半前くらいでしたね。

そこからはもう徒歩のみ。あとは自由に歩きなさい、と。ゲートに立っている標識のポールに、自転車をチェーンキーでくくりつけて歩き出した。もうトレックですよ。真っ黒な凸凹(2階建くらい)を登ったり降りたりしてただ歩く。ゲートにある工事用のライトと、ラヴァへ行く人、帰る人のヘッドライトが蛍みたいにところどころで揺れていて、明かりはそれだけ。あとは真っ暗闇。見えるのは、おでこに付けたヘッドライトで照らすほんの1歩先だけ。

Nana:地球にいる気がしなかった。月のクレーターにいるのかなと本気で思った。

az3:それに溶岩ってガラス質で、不用意に触ると切れるんです。

Nana:スッて切れる。いきなり血がめっちゃ出てきちゃうくらい。

az3:2時間近く歩いて、ヘトヘトになり始めた頃に風と地面が熱くなってきて、ただでさえ緊張していたのに一気に怖くなって。そもそもいつどこからラヴァが湧き出てくるか分かんないし、足元から突然溢れてきてもおかしくない。どれくらいの距離で眺めるかも自由。どこをゴールに決めるかも自由。その自由と緊張感がたまらなかった。最終的に赤い熱風でこれ以上は近づけないってところまで行きました。ラヴァまで数メートル。

あぁ世界中の人がこれを見るためだけに自分のレーダーで1歩1歩集まって、その美しさにみんなが見とれている。私、あんまり不用意にピースとかって言わないんですけど、その時は初めて平和ってこういうのなんだと思いました。

ただそこに流れている存在の象徴として

az3:でも感動したのは20分くらい。みんなどんどん帰っていくんです。当たり前ですけど、夜だから。蛍みたいな(ヘッドライトの)明かりもほぼなくなって。あ、これ帰らなきゃいよいよヤバいかなと。

Nana:ラヴァに着いた時も、そこにいた人ってすでに数えるくらいしかいなかったんですよ。

az3:遠くに小さく見えるゲートの明かりを頼りに帰ればいいや、と思っていたら、最終のシャトルバスが出発した瞬間、そのライトが消えたんですよ。全っ部!(笑)。目印がなくなった。それでもう恐ろしくなって。

Nana:確かラヴァがこれぐらいの角度で見えていたな、みたいなのを頼りに1歩1歩進んでいって。

az3:もう怖くて怖くて、すごくドキドキして。オリオン座の角度とか潮騒のボリュームとかも頼りにして、凸凹をいくつも越えて。凸の時はラヴァが見えるけど、凹の時は黒い壁みたいな気配だけ。怖くてたまらなくなったら立ち止まって、お水飲んで必死で呼吸して。

それで空を見上げると、ほんとにネットでしか見たことないような星空でした。たぶん翌朝6時半のフライトがなかったら、もうここで寝ようって言っていたと思います。朝が来れば全部見えるわけだし。本当は素晴らしい景色の中にいるから、そのことにすごく感動している自分もいて。怖いやらキレイやら帰らなきゃやらでグチャグチャ。

そしたら山の方からすごい速さでヘッドライトの光が近づいてくるのが見えて。アメリカの高校生だったの。女の子2人で、Tシャツに短パンみたいなすごい軽装なんです。「第3ゲートへ行く」と言うので思わず「ついてっていい?」って言ったら「OK!OK!」ってすごい速さで歩き出して。あぁ彼女たちはエンジェルなんだって思いました(笑)。

Nana:自分の感覚では、行き道にラヴァが見えていた角度と、エンジェルたちが向かった方向が結構ズレていた。そっちかな?と思いつつも、自信を持って「第3ゲート」って言われたら、自分も絶対とは言い切れないから。じゃあ感覚がだいぶ狂って、違う方向に行っちゃってたんだなぁと。

az3:歩きながら「なんでわかるの?」って聞いたら「コンパス持っているから」って。ですよねって(笑)。もうその頃には思考が完全に哲学モードになっていたので(笑)、もうバチーン!て音が聞こえるくらい自分に響いた。すぐに自分フォルダにセーブした記憶あります。真っ暗闇で必要なアイテム=レーダーとコンパス!(笑)そしてついに、あの1本道に出たんですよ!

Nana:アレ?自転車がないって。

az3:「これ第2ゲートじゃない?」「そう。でも、チャリは第3ゲートに置いているから。じゃあね」みたいな感じで行っちゃったんですよ。エンジェルたち(笑)

Nana:ピンポイントで第3ゲートを目指していた私たちと違って、彼女たちはもともと第2ゲートに出てから第3ゲートまで歩くつもりだったみたいです。結局1時間かけて第3ゲートに戻り、また自転車で車まで戻って、飛行機にはギリギリ間に合ったという。

― すごく壮大でドキドキするエピソードですね!

az3:すごく象徴的な冒険だったんですよね。それで、大阪のラストライブの前に私はNanaにこう言ったんですよ。「今度もしエンジェルが現れても、次は自分たちがこっちだと思う道を行こうと思うよ。エンジェルは近道を教えてくれるかもしれない。アドヴァイスには耳を傾けたいと思う。でも最終的に自分たちがほんとにたどり着きたいと思ったポイントには行けなかった。だから今度は自分たちのレーダーとコンパスでダイレクトに第3ゲートへ辿りつこうと思うよ」「うん、そのつもりだったよ」って。

自分たちの感覚を信じようと。逆に言うと、それさえ信じていれば方向や目標を定める必要がない。いつだってその時その時の感覚で行こう。だから2人になってからはずっと無方向。

― 感覚を信じて自由になった感じですね。

az3:あの時見たルミナスレッドがずっとRABIRABIの中に流れていて。これからまたデビューし直すというタイミングに、生まれたばっかりの、熱くて触ったら死ぬんだけど、触りたくなるほど美しくて、ただただそこに流れている存在の象徴として「Luminous Flow」ってタイトルをつけたんです。

暦と数字と流れ

― アルバムのジャケットも溶岩からイメージを得ているんですよね?

az3:そうですね。なんとデザイナーも高校時代に先生に連れられてキラウエアに行ったことがあったんです。

Nana:それこそ、先生が道をちょっと誤って遭難するみたいな。同じくドキドキ体験をしていた。

― ばっちりシンクロして、作られたジャケットなんですね。ニューEPを出すタイミングも立春の日でした。結構、RABIRABIは日付にこだわっていますよね?

Nana:いろいろ数字とか暦とかにこだわっている(笑)。リリースも525枚(笑)。

― なぜまたその525枚なんでしょう?

Nana:525の話はまた長くなっちゃう(笑)。

az3:それはまた次のインタビューで(笑)。

― でも525枚ってかなり少量ですよね。

az3:これまでの1/3か1/4くらいの枚数かな。RABIRABIを20年近くやっているんですけど、CDの需要とか、音楽を聞かせるソフトとかコンテンツが20年前とは全然違うんですよね。今はもうCDで聴く人の方が少ないんじゃないかというくらい。デジタルで聴く人が圧倒的に増え、なおかつやっぱりバイナル(アナログレコード)で聴くって言う人が一定数確実にいる。この作品ではCDに加えてバイナルとデジタルリリースも予定しています。コンテンツも自由に使い分けながら、CDだけに頼るっていう感じからちょっとずつ離れようかなっていうのもありました。

― 時代の流れに則してのことだったんですね。

az3:セルフレーベルなので在庫を抱えるのもしんどいし、リリースから何年も経っているのに新鮮な口調で売り続けるって、アーティストにとってはすごく難しい。

― レコードリリースは9月ですね?

az3:9月9日!バイナルめっちゃいいですよ。A/B面の曲の構成もCDと違うし、ボーナストラックも入っています。デジタルリリースも暦と数字と流れを観ながらベストタイミングに(笑)。

喋りかければソレは答える

― 収録されている4曲について、簡単に曲解説をお願いできますか?

Nana:“Attenpolow”は、青森県(入内)の石神神社(いしがみじんじゃ)の御神体の石神さまに会いに行った時にaz3ちゃんがご挨拶をしたら、あの歌が聞こえてきたそうです。

― そこで鳴っていたっていう感じですか?

az3:聞こえてくるって言う感覚が1番近い。私は「あそこに山がある」ではなくて「山がいる」と感じていて。「石が1個ある」という感覚よりは「石がいる」。だから喋りかければソレは答える。具体的に“Attenpolow”だったら石から聞こえてくるんですよ。最後の曲の“OuO”だったら明らかに岩の割れ目から聞こえてくるんです。ソレが唄っている。だから私が作ったんじゃないと思う。

― なるほど。作曲においては、そのように聞こえてきたものを形にしているという感覚の曲もあれば、そうじゃないのもあるという感じですか?

az3:3曲目の“Love Tide”は私が生まれて初めて作った曲なんです。あの詞については「あなたの なかに はいりたい」って言う言葉が出てきて、そこからダーッとフルコーラスで出てきたんですよ。その当時まだあった公衆電話の電話ボックスに入って、急いでメモした(笑)。

Nana:エモい話(笑)。

az3:作曲スキルは全然なくて、この歌詞が全部出てきたんだからこれに合う旋律が絶対あるはずだ、みたいな。この木にはそもそも仏像が埋もれていて、私は彫らされているだけ、みたいなヤツ(笑)。

― 曲を掘り出すみたいな感じですね。

az3:「静かな湖に背中からザバーンッって飛び込む」イメージをして、集中状態を誘導してから作っていました。言葉と音がくっつくポイントまで潜って、くっつき始めたと思ったら泣きながら取り出してくるみたいな(笑)。メロディが涙になって溢れ出す感じ。とにかく泣きながら、ただカセットウォークマンだけ録音しっぱなしにしておいて(笑)。

Nana:カセットウォークマン(笑)!

az3:25、6年前の話(笑)。

― すごい。大事に取っていたんですね。

az3:いや、アレンジ変わりながら、ずっと演っているんですよこの曲。

Nana:セルフカバーが激しいバンドだから。

― 即興を基本にやっているからこそ、そういう風に曲の形が変わっていくんですよね。

Nana:あの曲やろうって言って演り始めるのに(元のアレンジと)全然違うことをやり出しちゃったり。az3ちゃんからパッと知らない音が飛び出して、それいいね!って行っちゃう。色々なミュージシャンの人がいるから、それを間違えたと取るか、面白い瞬間のチョイスだったって取るかはさまざまだけど、RABIRABIは「間違えた」がないバンド。

― いいバンドですね(笑)。

Nana:「そう行くんか!」みたいな感じだよね。やろうとしていた予定が全然違うことになっても不満に思うことがあまりないっていうか(笑)。

― 普段即興しているときは、2人である程度こうっていうのを決めてから始めるのか、本当にその場で相手の呼吸を見ながら演奏しているのか気になっていました。

az3:全くもって、後者ですね。

明日ってあるのかな

― 私はRABIRABIのライブをみると、すごい高揚感というか、幸せな感じが広がるなって思っているんです。縄文トランスと言われるようなリズムも大きいのかなって思っていたんですが、今の話を聞いたら、即興で“今これが気持ちいいからこれをやろう”という呼吸を合わせた演奏がそうさせているんじゃないかなって感じました。普段の生活ではなかなか即興のようなこと出来ないじゃないですか。むしろ、そんな感覚はとっくに忘れた、みたいな人ばかりで。それがライブで聞けるから、皆幸せな気持ちになるのかなって。

az3:だったら最高ですよね。次の瞬間何が起こるか分からないっていうワクワクが、人を幸せにするんだとしたら。

― そう思いました。

az3:明日コレとコレがあるっていう考え方じゃなくて、明日って来るのかな、明日ってあるのかな、くらいな。そういう感覚=サバイヴスイッチは、そもそも人に備わっている機能なのに、現代生活を送っていくうちに何故かそこのチェックボックスが外れて(あるいは外して)しまう。そこにもう1回チェックを入れて、サバイヴスイッチが入りやすい状態にしますよ、っていうのをまさに「RABIRABI音泉(体感型ストーリーテリング)」でやっているんです。今の話だと、RABIRABIの音楽そのものがそうなのかな、と。もしそうだとしたら、すごくいいものだな!と。

Nana:そういう感想を言ってくれたから、なるほどなって思ったけど、地球上の生き物全員共通で「次の瞬間何があるか分からない」っていう状態が「ワクワク」とか「幸せ」につながるなら、始めから皆幸せってことだよね。でも、普段はあまりそれに気づかない。そこに気づかされる(かもしれない)音楽なんだったら、幸せに一役買ってるね。

― 素晴らしいですよ。

az3:それこそ今のコロナウイルス。コロナってそもそも、漢字で書くと、光の冠(=丸い光の輪)って書くんですよ。

― 光の輪!? 知らなかったです。

az3:放射能もそうですけど「放射する」っていう単語は何か素晴らしい感じがするのに「放射」と聞いただけで悲鳴をあげる。怖い方に意識を向けすぎるのは何か違うなーって思っていたんです。だから「LOVEを放射する」ってずっと言っていたんですよ。

― 「LOVE放射」はそこからきていたんですね。

Nana:「LOVE放射!」も多少の勇気要ったけどね。でも、そこを恐る恐る言っていたら何にも変わらないから、あえて連呼していたけど。

az3:むやみに怖がって抹殺する、それが「差別」と私は思っていて。それは人と人だけではなくて、全てのものに対してそういう扱いをしてはいけないって思っている。当たり前に受け止めて、当たり前に向き合いたい。

自分の身体を整えてくれるものは何なのか、というのを感知できるサバイヴスイッチを持っていればいい。抹殺しましょうっていう前提で動けば動くほど、自分の中に冷えや恐怖思考みたいなものが増殖していく気がする。まずすべてにおいてLOVE目線で。その上で自ずと観えてくるものと当たり前に向き合う。

― それはRABIRABIの主軸みたいな感じなのかなって思います。

az3:うん。そうだと思います。

いつか分からないくらい昔から

― RABIRABIは以前からアイヌ民族の歌をやってきていますよね。RABIRABIとアイヌにはどういう関係があるんでしょうか?

az3:もともとネイティブアメリカンの精神性とか世界観、宇宙観とかがすごく好きだったんですけど、そもそも日本にもネイティブピープルがいるってことをある時知って。接点は全然なかったけど、RABIRABIで旅を始めて北海道に行けるチャンスが巡ってきたときに、じゃあアイヌと言われる人たちに会いたいと思って。調べていくと、アイヌ民族がやっているお祭りがあるらしいことが分かりました。

Nana:お祭りと言っても、フェスって言うよりアイヌ民族が先祖供養のためにやっているガチのお祀り。(供養のための奉納という意味で)音楽をやっている人は飛び込み参加でライブできるっていうスタイルで。RABIRABIも行くなりエントリーしていきなりライブした。

― そこからアイヌとのつながりが生まれたんですか?

Nana:全国からお祭り好きが集まるんだけど、場の中心には北海道各地から集まったり、(本州から)里帰りしたりするアイヌがいて。自然と受け入れてもらえた。

az3:特にアイヌの子供たちと仲良くなって。毎年そのお祭りに10年くらい通ったんですよ。5歳だった子は15歳になるし、10歳の子は20歳になる、みたいなのをずっと見守りながら仲良くなって。だから北海道ツアーをすると必ずその子たちがライブに来てくれるんですよ。それで、アイヌの唄を一緒に唄ってくれたり、踊ってくれたりするっていう交流が今もずっと続いています。

Nana:しっかりとアイヌ刺繍がされた衣装をカバンにいれて来てくれる。呼ばれたら準備はできている状態。

― かわいいですね。それは嬉しいですね。

Nana:それでアイヌ民族は代々、親やおばあちゃんとかから唄を聞いてそれを唄ってる。

― すごいことですよね。アイヌの唄は伝承ですもんね。

Nana:いつか分からないくらい昔から、自然発生したのかなっていう唄をずっと唄っている。その唄が生まれるバイブスがその昔この列島にあったのかぁ、って。しかもそれがめちゃめちゃかっこいいってすごい。

az3:本当に。自分たちは素敵な列島に暮らしているんだなーって。

Nana:『Luminous Flow』の2曲目に入っているアイヌの曲“IYA CO CO”もそうだけど、図書館でアイヌの伝統音楽のCDを借りてきてそれをカバーしようとか、そういう作り方はしない。az3ちゃんはアイヌ民族の人じゃないけど、伝承されてる。実際に会って、何度もいっしょに唄ったり踊ったりして、身体で覚えて、唄ってる。

az3:唄ってもいいですかって聞いて。

Nana:唄え唄えとか言って。アイヌのシャーマンの人が。

az3:自由にやりなさいって。

Nana:いろんな人がいると思うけど、RABIRABIが関わったアイヌの人たちは、割と好意的にどんどんやれって言ってくれるね。

az3:ありがたいことにね。そうやって教えてもらったものがRABIRABIなりに昇華されて、現時点での最新バージョン“IYA CO CO”が収録されています。2人になって最初にアレンジが出来上がった曲。スタジオで即興していたらズルッと全部出てきた。

100人いたら100通りのジェンダーがあって

― アイヌもそうですけど、RABIRABIはいわゆるマイノリティと括られるような人たちのそばにいる感じがします。そんな中で昨今のジェンダーのムーヴメントについてはどう思っているんでしょうか?私もそうですが、Nanaちゃんもいわゆる当事者ですよね。

az3:Nanaに最初に会った時「彼女」と一緒だったんですよ。「彼女でしょ?」って聞くんだけど、ごにょごにょみたいな感じになって。はぐらかそうとするみたいな。

その頃Nanaは専門学校生で、卒業後にRABIRABIを通してNanaやその彼女たちと頻繁に遊ぶようになってもまだそんな感じだったので、あるとき渋谷のタワレコに当時あったアングラカルチャー本フロアの、いわゆるゲイコーナーに連れてって。こんなのあるんだー!ってふたりでいっしょに見て。それで「このパーティー行ってみない?」って誘って、一緒に新宿二丁目に行ったんですよ。

Nana:’ダイヤモンドカッター(※1)’。それでそんな世界があるんだって知った。

az3:その日、置いて帰りましたもんね。Nanaモテるから。

Nana:チャラ男だから。

― 絶対モテますよね(笑)。

az3:(女性が)女性を好きっていうことって、一般社会の中では生きづらいですか?

― 同性カップルが夫婦として認められないことで、さまざまな社会的サービスや控除を受けられない点は生きづらさと言えるかな、と思います。両親に受け入れてもらうのにも時間がかかったし。そういう意味では障害は感じたかもしれないですね。LGBTの友達に聞くとやっぱり、「言えない」「墓場まで持っていく」っていう人が多い一方で、親が超応援してくれるっていう人もいる。家によって違うとは思いますけど、そのへんも結局、日本の社会を変えていかないと、親世代のマインドにも影響を与えづらいと思っています。でも最近は、紅白でもMISIAのステージでレインボーフラッグが広がったり、テレビでも変わってきたな、と。そういう流れをRABIRABIとしても感じていたりするんですか?

Nana:いいことだなと思うんです、世間のそういう風潮とか。若い頃は特に(自分のセクシャリティを)言えなくてちょっと暗くなりがちだけど、今になるとカミングアウトってただ個人の承認欲求的なものが大きいから。話す相手に受け入れる準備があるかどうかも、言っていいかどうかに関係する。カミングアウトされたらノリノリで話すのにっていう人もいれば、逆に「なんて答えればいいんだろう」って思う人もいる。受け入れる側の気持ちになってみても「認めてよ」と押し付けるのではちょっとかわいそう。

うちの親は、こっちがガチガチになって「お話したいことがあります」って切り出したら「なんだ、そんなことか」みたいな。「見たらわかるし」「あ、そう」みたいな。その時はそういう感じだった。でも親は親で覚悟していたのかもしれない。その時になるべくライトな態度でいようっていう準備があったかもしれないし、それは分かんない。

― その後も特に変わりもなくっていう感じですか?

Nana:そうですね。親とはあんまりその件について話さないですね。無理に話すのも、お互いに妙な感じで。

普段の生活では、自分から率先しては周りに言わないけど聞かれたらサラッと「彼女います」っていう感じ。今、時代が変わったから「彼氏いるの?彼女とか?」って、なんとなく冗談めいた感じで足してくる人もいる。いざ「彼女がいます」って言うとビックリされたりね。

― よくありますね。

az3:初めて新宿二丁目に行った後、Nanaにこう言ったんです。「ああいう世界があって、自分を受け入れてもらえる場面があるっていうこと、今まで感じていた社会に対する疎外感みたいなものとは違う世界があるってことを知れたのは良かったと思う。でもその世界だけじゃなくて、その世界も含めてもっと大きなフィールドで活躍してって欲しい。自分の生き方で、いわゆる普通の社会でも通用するってことを示せるような存在になったらカッコいいよね」って。

昨年のレインボープライド(※2)への出演だったり、ここ数年そういうジェンダーを意識したパーティーに呼ばれることが増えました。私は、Nanaが自然とそれを口にできるまで、わざわざ言う必要ないと思っていたけど、何年か前にFacebookで自分でカミングアウトしたんです。

Nana:その後、こっそりメッセンジャーで「実はそうなんです」みたい連絡がきたりね。ただ東京以外の、いわゆる地方と言われるところは未だに結構タブー感が。

― そうですよね。それは全国各地を回っているRABIRABIだからこそ感じるところじゃないかなと。

Nana:でも誰もが自分が暮らしている地域の空気感に沿って最善の感じで生活しているところで、それをカミングアウトした方がいいっていうのは余計なお世話だよね。

― やっぱり東京と地方には時差があって、かたや東京でも世界と時差があって。世界はジェンダーの種類がすごく多様。しかも、それをわざわざ特に言う必要はないみたいな雰囲気がありますよね。東京はまだそこまでじゃないですよね。過渡期なのかもしれません。

Nana:新宿二丁目に行くとたくさんストレートじゃない人がいて、100人いたら100通りのジェンダーがあって、とにかく仲間感というか、同じような人たちがいるっていうだけで、「なーんだ」っていう安心感がある。今はネットがすごいから、そのへんの悩みはすっ飛ばしてる人が多いかもしれない。RABIRABIはセクシャリティじゃなくて音楽が売りのバンドでいたいけど、RABIRABIとして誰かの前に出ている場面では、そこを隠したりモゴモゴしたりしないようにはしたいかな、と思う。そしたら「実は自分も」っていう人もいるかもしれないし。

az3:いや、いっぱいいるよ。

Nana:音楽を聴いてほしいけど(笑)。

※1:ダイヤモンドカッター(DIAMOND CUTTER)
新宿二丁目で20年に渡って開催されている、日本最大級の女性限定パーティー。

※2:レインボープライド「LGBT、いわゆる性的少数者が、差別や偏見にさらされず、前向きに生活できる社会の実現」を目指した団体、およびイベントの総称。’東京レインボープライド’は、代々木公園で開催されている。 RABIRABIは2018年に出演。

ツルッとフワッと導かれていく

az3:Nanaとは出会ってから20年ぐらいずっと一緒に遊んでる。自分の人生の中でNanaがいない人生はちょっとないなというか。それがどういう存在かって言われると当てはまる関係性の代名詞がなくて。

Nana:頼もしい飼い犬(笑)。柴犬くらいはがっちりしてる(笑)。

az3:これまでは私が「行くぞー!」みたいな感じで全力疾走してきたけど、もうそれが年齢的に通用しないことは自分が一番よく分かっていて。経験的にみて、Nanaには「全力疾走できるのはあと10年くらいだよ。思い残すことないよう疾走しなよ」って言っています。

Nana:もうすでに膝プルプル(笑)。

― きっとこの先も2人はずっと一緒にやっていて、そして10年後にやっている音楽はまた少し違うものになっていたりするのかもしれないですね。

az3:16年ぶりで無事にふたりの作品をリリースできた。結果的には16年のRABIRABIの体験と精神性の一面が凝縮されてちゃんと表現できているものになっていると思う。この一面を経て、次はRABIRABIなりの「ダンスミュージック」へのアンサーのような作品をドロップしたい。そこまではやり遂げたいと思っています。

で、そのあともNanaとはずっと遊んでいると思う。無方向、無重力。レーダーとコンパス使ってピンと来たものにツルッとフワッと導かれていくと思う。

Nana:200歳くらいまで唄ってそう(笑)。

― 楽しみです(笑)。

アーティストプロフィール

RABIRABI / RABIRABI / JPN
az3(azumi)= voice , microkorg , livemix
Nana = percussion , kalimba
since 2001.11.11

「縄文トランス」の異名を持ち、声と打楽器そのものをCreative Sourceにダンスミュージックと呼ばれるありとあらゆるシーンを縦横無尽に渡る希少種のドラゴンスター’girled’ユニット。動力は LOVE。

Official Stie / Instagram / Facebook / Twitter / Mail

Text by Paula
Photo by courtesy of RABIRABI