エレキギター1本携え、際立つ歌の力
4月20日、うつみようこがeastern youth主催のライブシリーズ「極東最前線」に出演した。1984年にメスカリン・ドライヴを伊丹英子とともに結成し、20年以上前にソウルフラワー・ユニオンを脱退した後は、ソロ・アーティストとして活動するうつみ。うつみようこ&YOKOLOCO BAND、うつみようこグループなど、自身のバンドを率いたライヴを目にする機会も多いが、この日はeastern youthの吉野寿のリクエストで、エレキギター一本での弾き語りを行った。
「まさかeastern youthさんに呼んでいただくなんて、夢にも思わず、本当にすんません。45分ほど耐えてください」「自分にヒット曲がないので、藤圭子さんの曲で始めたいと思います」
ステージに現れ、素朴に語ったうつみ。1曲目の”夢は夜ひらく”を歌い出した瞬間、空気が一変する。
「赤く咲くのは けしの花 白く咲くのは 百合の花 どう咲きゃいいのさ この私 夢は夜ひらく」
ゆったりと始まり艶のある歌声に心を奪われた瞬間、「どう咲きゃいいのさ」でグッとドスを効かせ、情念を刻みつける。幾多の歌手がカバーしてきた名曲だが、冒頭のワンフレーズだけで桁違いの表現力を見せつける。
「わたし、eastern youthは同級生だって信じ込んでたんですけど、年下でした。ワシのほうがふたつ上なんです。だから優しくしてもらっていいですか」
1曲目から圧倒された様子のフロアに声をかけて緊張をゆるませ、メスカリン・ドライヴの曲”COCAINE BABY”から、ソロの曲”なんのために”。提示されるのは、メスカリン・ドライヴ時代から現在まで全くブレない、優しさとしなやかさを兼ね備え、堂々と媚びず、自立した存在感。
「無茶振りですわ」とうつみがぼやくように語り始める。
昨年開催されたイベント、「夏の魔物2018 in TOKYO」でうつみが演奏している最中、eastern youthは隣のステージでセッティングしていた。準備を終えた吉野はステージに留まり、うつみの演奏の様子を見入っていた。
「その時、eastern youth様が休憩というかスタンバッていて、私がヘコヘコ演奏しているのを吉野くんに観ていただいて、こうなったわけでございます。ほんまにすんません、しかないです。実はこっそり極東、観にきてたんですよ。ちょっとびっくりしていますね。まあ長くバンドやってると、ええことたまにあるんですね」
「夏の魔物2018 in TOKYO」はステージの音の被りがひどく、うつみにとってもeastern youthにとってもタフな状況での演奏だった。しかし、あの日の巡り合わせが素晴らしい共演につながった。
歌詞に込められた怒りのエネルギーに、観ているこちらも腹の底から力が湧いてくるようなP.I.L.の”RISE”から、ソウル・フラワー・ユニオンの”天の生贄 ~Sacrifice~”、ボ・ガンボスの”トンネル抜けて”、日本語詞で歌われた4 Non Blondesの”WHAT´S UP”とカヴァーが続く。力強くシンプルなギターの音色が、伸びやかで鮮烈なボーカルを際立たせている。英語で歌われるメスカリン・ドライヴの”I DON’T LIKE”はうつみの真骨頂。曲の誕生から30年以上経過した今も、いや、今だからこそ「私は自分の国が嫌い」で始まる詞が「結局何もしない私たち」へ痛烈に突き刺さってくる。
あとに出演した吉野は、「圧巻でした。ちょっと言葉では言い表せられない。凄すぎて」と感嘆の表情を隠さない。
「たったひとりで、全然ハードコアでしたよ。もう、バンド。アバンギャルドだけど、王道ですよ。凄かったですね。泊まりがけでずっと見ていたい。第23部くらいまでやってほしいですけど。本当にありがとうございました。大感謝です」
と、ステージからうつみへ感謝の言葉を述べていた。
ラストはこの日の極東最前線のサブタイトル「ヤサホーヤ渋谷」にふさわしい、”満月の夕”で締めた。何度もお辞儀をしながらステージを後にしたうつみを、満場の拍手が見送った。
<SET LIST>
01.夢は夜ひらく(藤圭子)
02.COCAINE BABY
03.なんのために
04.RISE(P.I.L.)
05.天の生贄 ~Sacrifice~
06.トンネル抜けて(ボ・ガンボス)
07.WHAT´S UP(4 Non Blondes)
08.I DON’T LIKE
09.満月の夕