ハイライフ八ヶ岳 2020 |サンメドウズ清里 | 2020.09.12-13

次につなげる思い

ここに来てよかった!

ハイライフ八ヶ岳2020、1日目のトリであるPolarisが演奏していた。日中は曇っていたけど、見上げると満天の星空である。アンコールに登場したときに、オオヤユウスケはステージの照明を落とさせた。天の川までみえるようになって聴く「コスモス」。スマートフォンのアプリのコンパスを起動させて「北はどこかな」と確認して北極星の方向を見てみる。野外ライヴでしか味わえない時間、場所だった。

ハイラフ八ヶ岳公式HP

【1日目に起きた奇跡】

中央自動車道が渋滞していたので、会場に着いたのは昼過ぎだった。曇っていて標高が高いので気温は東京と比べれば低い。

すでにライヴは始まっていたので、お客さんで賑わっていた。入場のときに検温、消毒、個人情報の登録と接触確認アプリの提示を求められたので、少し時間がかかった。お客さんたちの年齢は朝霧JAMのような30代カップルが中心でその前後の世代のフェス好きも集まっている感じ。子ども連れも多い。

会場はサンメドウズ清里という日帰り利用者が多い小規模なスキー場で、売店やレストランやトイレが完備したセンターハウスがあって、その周辺にステージと各種出店がある。ステージは1番大きいハイライフステージがフジロックでいうとアヴァロン、朝霧でいうとムーンシャインのような大きさ、次いで八ヶ岳ステージが苗場食堂くらいの大きさである。あと、DJやソロパフォーマンスに使われる小さなステージが2つとトークができるステージが1つあった。各ステージ前には、ライブフォレストのように主催者がキャンプ用の椅子、小さなステージには長椅子を用意して、ステージ前にお客さんが密集しないようになっていた。お客さんはマクス着用や距離の確保も求められた。会場には注意をする人が巡回していた。

スキー場のリフトは2つ稼働していて、フェス参加者は1日1往復乗ることができるため、早速乗ってみる。終点には、カフェやゆったりできるテラスがあって、晴れていれば富士山なども眺めることができるようだけど、この日はみることができなかった。それでも野辺山の巨大な電波望遠鏡がみえたり素晴らしい眺望なのは変わらない。この山頂のマッタリ感がフジロックのドラゴンドラ山頂を感じさせた。

下界に戻って、ハイライフステージのOvall、tempalayあたりからライヴを観た。どのバンドもお客さんも久しぶりということで、音をだす喜び、生で音を聴く喜びがじんわりと感じられる。このフェスでは周りの人と接触しなければ椅子から立ち上がって踊っていいし、マスクをしていれば声もだしてよいらしいので(といっても全体的には抑制されていた)、十分でないにしても盛り上がりを伝えることができていた。八ヶ岳ステージに移動して勝井祐二“八ヶ岳”セッション。ROVOのヴァイオリニスト勝井祐二とエレクトロニカでermhoi、パーカッションで辻コースケの3人でアンビエントな空間をつくる。この八ヶ岳の場所にふさわしい音が溶け合い、心地よく聴けた。

そしてPolaris。先述のように、このフェスのクライマックスだといえる。高原のひんやりとした夜、柏原譲の重たいベースとオオヤユウスケの浮遊感ある声とギターが聴けて、フィッシュマンズの“SEASON”も演奏した本編と、より星空がみえるようにしたアンコールに極上の体験があった。野外フェスならでは奇跡である。

Polarisのあとも、キャンプサイトのエリアではまだおこなわれているステージもあったけど、メインは終了。標高があって夜は寒いと覚悟していたので、ダウンコートなども持ってきたけど、凍えるほど寒いわけでもなかった。だいたい17度くらい。

【霧に包まれた2日目】

翌日は霧に包まれた。ほぼ終日、会場が霧の中にあった。もう1本のリフトに乗ったり、センターハウスのレストランで昼飯を食べたりしてまったりと過ごす。センターハウスはスキーのお客さんで混雑することことに備えてけっこう大きい。トイレも数多く、あまり待つことはなかった。

午後になってから本格的にライヴを観る。マーケットステージという小さなステージで泉邦宏。ライブフォレストのときと同様に、さまざまな楽器を駆使して、アバンギャルドな音をつくっていた。ステージ前では子どもが遊んでいるというシュールな光景があった。

八ヶ岳ステージでNewspeak。このフェスでは珍しくストレートなロックだった。4人編成でドラムとベースがしっかりして、ギターやシンセサイザーの音がシャープに鳴っている。初めて観たのだけど好みの音だった。UKロックに影響を受けたというけど、それがオアシスやブラーでない世代なんだなと感じる。キーボードが映える曲はKeaneとか、壮大に盛り上げる曲はColdplayとか、ダンサブルでエレクトロ風味がある曲はHot Chipとか思い起こさせる。クラムボンは今年初のライヴだったようで、思いのこもったステージをみせてくれた。途中「ウィスキーが、お好きでしょ」で茶目っ気をみせライヴの緩急をつけて、これが今年初のライヴとは思えない堂々としたものだった。

そしてROVO。新しいアルバム『ROVO』から中心の選曲。ステージの左右にプロジェクターでサイケデリックな模様が投影されて音楽とシンクロした演出でROVOの世界を一段引き上げていた。踊れるし、まったりと浸ることもできるいつものROVOで、2人のドラマーによるソロバトルのあとに演奏された“SAI”が美しいメロディを持っていて染み込んだ。素晴らしいフェスの締めにふさわしい演奏をみせてくれた。

ライヴが終わり、近くの温泉に寄ったり、高速道路のサービスエリアで食事したりしながら帰路についた。天候も大きく崩れることがなく、小さいながらも充実したフェスだった。スタッフの方々はコロナ以降のフェスをやるにはという問題に真摯に取り組んでいたし、気が緩んでいるなと思うところは多少あったけどお客さんも概ね協力的でマナーもよかった。主催者によると2日間で約3,000人規模のフェスと、いわゆる国内4大フェスとでは桁が違うので、今回の方法をそのまま当てはめることは難しいかもしれないけど、まずはやってみるという主催者の試みは次につながるはずと思いたいし、その姿勢を応援したいと思う。

〈追記〉

主催者から以下の報告がUPされました。
開催を終えて2週間の確認と詳細のご報告です

詳細に開催以後の様子が記されていて、誠実な姿勢がうかがえる。まずはこのフェスを原因とする感染拡大がなかったことにひと安心である。やはりこの時期にフェスをおこなうというのは、我々が外側からみている以上に慎重さが求められるのだろう。ここを出発点としてコロナ以降のフェスを主催者・アーティスト・お客さんたちで作り上げることができればと思っている。

Text by Nobuyuki Ikeda
Photo by 丹澤由棋、高橋良平、古厩志帆、片岡一史、Nobuyuki Ikeda