逆境からぶっ放す
1月21日、22日の2日間、渋谷クラブクアトロでeastern youth単独公演~よみがえれ ぶっ放せ 存在~が開催された。
平日開催のため両日とも19時半開演の予定だった。しかし、緊急事態措置にともなうイベントの開催制限のガイドラインに沿い、20時に終演させるため、開演時間が18時に変更された。2日間ともチケットはソールドアウトしており、2日目のチケットは前日の終演後に急遽追加席が発売された。
全員着席のため、収容人数は通常の同会場でのスタンディングのライブの1/4ほど。昨年は、最新アルバム『2020』をリリースしたにもかかわらず、4本しかライブができなかった。クアトロやO-EASTでの公演後は次回の日程が発表されるのが通例だが、今回はそれもない。今月の16日、17日に出演予定だった、Music Lane Festival Okinawa 2021も2月に延期された。1日目、吉野寿(Gt/Vo)は”明日の墓場をなんで知ろ”の演奏前に「どん詰まり、苦しいのど真ん中ですよ。おしまいだ、もうだめだ、そんな気分」と吐露していたが、正直な心情なのだろう。厳しく先が見えない状況が続いている。
一夜明けて2日目の18時。フロアにBuilt to Spillの”Some”が流れ、ステージに3人が登場。観客が静かに見守るなか、吉野がギターを柔らかく鳴らし、3人の呼吸が合ったタイミングで田森篤哉(Dr)がスティックを打ち鳴らして”今日も続いてゆく”が始まる。爆音と眩さ、圧倒的なエネルギーに一気に飲み込まれる。続く2曲目は2019年9月の野音での名演奏も記憶に新しい”サンセットマン”が沁みてくる。”明日の墓場をなんで知ろ”は、吉野の歌に合わせてコーラスしながら、緻密なフレーズを正確な運指で弾きこなす、村岡ゆか(Ba)の主張せずともテクニカルなプレイに目を奪われた。コントラスト豊かな冒頭3曲を終えて、吉野が観客へ挨拶する。
「本日はこの大変な状況のなか足をお運びいただきまして、ありがとうございました。ふた回し目でございます。昨日来られた方もおられると思いますけど、昨日のことは忘れてください。一番一番、自分の相撲をとるだけです。ありがとうございます」
なぜか最後は口調がインタビューに答える力士風になった。静かなフロアからはあたたかい拍手が返ってくる。吉野が合図の声を上げ、”浮き雲”。そして”青すぎる空”と名曲が続く。ノイズが空間を切り裂いて、久々に演奏された”静寂が燃える”は村岡のコーラスも加わって、新鮮な驚きがあった。ラストのサビ前、激情とともに放たれる吉野の絶叫が、前半のハイライトとなった。
「8時までに退去しなきゃいけないんです。昨日はおしゃべりが過ぎて、ギリッギリ、8時3分前にみんな走って退出しました」「8時になったら爆破されますから。だから今日は巻いていきます。すべて2倍速で」と、吉野が冗談を言って、フロアの空気が和む。「曲に入る前の、このなんていうかね、お相撲さんの塩撒いたり、何回か仕切ったりするような、そういうのが欲しいんですな。それにね、お付き合いしていただいてるんです。早くやれってオーラをひしひし感じるときがありますよ。それを感じれば感じるほど、やりたくない。永久に喋っていたい。だって聞いてくれる人、日頃いないからね」
「みなさん黙食ですよ、黙食。昨日も言いました。角食じゃないよ。黙して食べる、これを黙食というらしいですよ」「みなさん黙観ですよ。黙して観る。黙観でお付き合いください。最後までどうぞよろしくお願いいたします」
中盤は、”スローモーション”の詩情に胸を打たれ、「ひとり行く身が辛い夜は、空の彼方に俺を呼べ!」と吉野が叫んでカウントすれば、一緒に「DON QUIJOTE!」のコールはできないものの、座ったままのフロアからいくつもの拳が掲げられた。
「団結することは大事だと思いますよ。(中略)でもさ、なんていうのかしらね。力を合わせるつもりがないわけじゃないんですよ。力は合わせて、何か乗り越えていかなきゃならないときに、自分も微力ながら力を合わせたいんですよ。でも、その前にですよ。自分が一体何者だったんだろうかと、そういうことをザーッと打ち消されて、何かひとつの駒っていうか、原材料、コーンスターチみたいな。……コーンスターチってなに?(観客笑)よく書いてあるけど。コーンスターチって。そういうものにされていっちゃうきらいがある。それは全体主義っていうのが戦時中にあったそうですけど、いえいえ今だってどうしたもんだか。『全体のためならお前ひとりくらい死んでくれ、雑魚め』そんな声が聞こえてくるような気がしますよ。聞こえてくるような気がすればするほど、ぜってえ死にませんから」
そう語って毅然と鳴らされる”ソンゲントジユウ”から、ライブは佳境に入る。”矯正視力〇・六”は吉野の歌に引き込まれ、間奏では轟音の嵐のなか田森のドラムが炸裂し、ラストは村岡のコーラスでハーモニーが彩りを増す。おなじみの曲だが、現体制のeastern youthの良さが存分に詰まっている。立て続けに演奏された”ズッコケ問答”、”いずこへ”、”雨曝しなら濡れるがいいさ”では吉野の気迫と演奏のキレはさらに増し、観ている者の感情を揺さぶってくる。
「おい、だれかいますか。合図をずっとずっと送り続けている。反応はない。誰かいませんか。気配はある。黒い影がかすかに動いているのが見える。でも鍵が開かない。ずっとずっと合図を送り続けている。聞こえますか。聞こえますか。聞こえませんか。聞こえますか。合図を……」
と吉野が独白して始まった”合図を送る”。穏やかなAメロのリフとリズム、ベースラインの絡みが印象的だ。これでようやく『2020』の収録曲も昨年の東名阪ツアーと、今回のクアトロ2daysをあわせて、”雑踏に紛れて消えて”と”夜を歩く”以外の8曲がライブで披露されたことになる。
「最近よく聞く言葉で、『生き残る』『生き残るためには』そういうのがしきりに言われていますよ。ニュース番組とかで。生き残る、っつーことはその反対側に生き残れない人がいるってことですよね。生き残れない人と生き残れる人と、峻別されるんですか。そういう世の中になったんでしょうか。就職はサバイバルだ、なんつって、俺就職したことないからわかんないけど。サバイバルってことは、誰かを蹴落として、割りを食わせて、泥水を飲ませて自分がのし上がるってことですか。いいでしょう、それが世の中なら。やってくださいよ。俺はやだね。だからこんな生き方しているわけよ。終わりか、やだよ。嫌なこった」
そう語って”存在”が演奏された。ニュースが新型ウイルス関連の数字に埋め尽くされ、自粛要請による行動の制限に従うなか、差別や分断、監視が発生してしまうようになった世の中。吉野が歌う「取り戻せ やり返せ 存在」の歌詞によって、そんな日常に抑圧されそうになる人間性がフッと回復されるような、痛快なクライマックスだった。
テンションのピークを維持したまま”夜明けの歌”と”街の底”で本編を締めくくり、アンコールでは吉野は両手で作ったハート型をフロアへ示しながら登場。いつものように村岡が挨拶する。
「今日は大変な状況のなかお越しくださってありがとうございます。お越しいただくのにも結構悩まれた方がいらっしゃると思うんですけど、こんなえらいことになってと思います。それでもなんとか、昨日も今日もライブできてよかったなと思います。皆様のご協力のおかげです。ありがとうございました」
「セリフが昨日と同じ」と言う吉野から「モアー!(more)」のデス声を連発されて、「あの、みんな健康に気をつけてがんばってまいりましょう」と村岡が付け足す微笑ましい場面もあった。
アンコールは、これも久しぶりに演奏された”地図のない旅”。この選曲に、思うように活動できない逆境にあっても、不屈であり続けようとするバンドの意思表示を見た。
2回目のアンコール前はSexの”無力のかけら“が流れていた。1日目も、この日もアンコールを求める拍手が曲のテンポに合っていく。観客と同じように手拍子しながら再々登場した吉野が「(昨日と)同じですよみなさん。この曲どうしてちゃっちゃっちゃっ(拍手)が合いやすいんですか? この曲を聞いてみんなで楽しもうっていうコーナーじゃないからね。いい歌だけど」とフロアへツッコむと笑いが起こっていた。
吉野は観客に時間を尋ね、この時点で19時45分。前日よりは余裕があるからか、「皆さん、8時になったら爆破しますからね」から話題が飛んで、映画の予告編が好きという話を始める吉野。またギリギリに終わるのか? と時間が気になってきたところで「15分あるから安心しちゃった。ずっと喋ってるけど、こう喋ってる間にも刻一刻と爆破の時刻が近づいてきてる」と話を止め、最後の曲は「街はふるさと」。堂々の演奏を余韻たっぷりに終えて、吉野の「今日は本当にありがとうございました、また会う日まで! 解散!」の声でライブは締めくくられた。フロアからの盛大な拍手に「ありがとうございます!」と頭を下げる吉野、手を上げて答える田森、一礼する村岡。3人がステージを降りると、8時まで残り6分。じゃがたらの”もうがまんできない”が鳴るなか、スタッフの誘導にしたがい、観客は静かに退出していくのだった。
<SET LIST>
01.今日も続いてゆく
02.サンセットマン
03.明日の墓場をなんで知ろ
04.浮き雲
05.青すぎる空
06.静寂が燃える
07.スローモーション
08.DON QUIJOTE
09.ソンゲントジユウ
10.矯正視力〇・六
11.ズッコケ問答
12.いずこへ
13.雨曝しなら濡れるがいいさ
14.合図を送る
15.存在
16.夜明けの歌
17.街の底
E1.地図のない旅
E2.街はふるさと
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