2020年代における多種多様なロック&ポップスを体験できる3組
2010年代はポップ・ミュージック全盛のディケイドだった。EDMの台頭、メインストリームミュージックのポップス化など、非ロックなものを挙げ出したらキリがない。そんな中でロック・ミュージックはメインストリームから外れ、ずっと耐え続けていた。そして2020年代、ロックの再盛が始まる。と言っても、それでポップスが衰退していった訳ではなく、ロックとの共存共栄が始まったのだ(厳密に言うと戻ったとも言える)。この記事では、今年のフジロックに登場するアクトの中でも、今のロック&ポップスを象徴するような3組を挙げたいと思う。
Vampire Weekend 7/29 (Fri) 21:10-22:40 GREEN STAGE
初日のヘッドライナーを飾るのはアメリカのインディー・ロックバンド、ヴァンパイア・ウィークエンド。彼らの「ロック」の特徴は、ポストパンクをベースにアフロビートの要素を含ませポップなサウンドへと昇華させたところにある。
初めて聴いたときの印象は「こんなスッカスカなサウンドで売れるんだろうか?(好きだけどね!)」と少しネガティブなものだった。しかし、そんなネガティブな印象は新しい作品が発表される毎にポジティブなものに成り代わっていく。初期のアンセム”A-Punk”から始まり、祝祭感溢れるロックサウンドの”Cousins”、ヴァンパイア・ウィークエンド版ラウドロック”Diane Young”、そしてプライマル・スクリームの”Loaded”を彷彿とさせるような”Harmony Hall”と、数々の楽曲において幅と奥行きが広がっていった。その結果、3rdアルバム『Modern Vampires of the City』と最新作『Father of the Bride』で2度のグラミー賞(オルタナティヴ・ミュージック・アルバム部門)受賞を果たす。
今回のライブはエズラ・クーニグ(Vo/Gt)曰く「日本と韓国でのライブは『Father of the Bride』の締めくくりを飾るライブになる」とのこと。果たしてどんなパフォーマンスをどんなセットリストで見せてくれるのか?グラミー賞を受賞し、おそらくピークを迎えているであろう彼らのライブを見逃すという選択肢は無い。
“Cousins”
“Harmony Hall”
Foals 7/30 (Fri) 19:00-20:10 GREEN STAGE
イギリス・オックスフォード出身のロック・バンド、フォールズ。2010年代、ポップ・ミュージックに押され、ロック・ミュージックが衰退していく中、それに逆らうように成長を続けていけたアーティストは決して多くない。フォールズはその数少ないアーティストのUK代表格と言っても過言ではないだろう。
ポストパンク・リバイバルの流れから生まれた彼らは、アルバムを重ねるごとに変化、そして成長を遂げていく。1stアルバム『Antidotes』のポストパンク/マスロックから始まったサウンドは、マスロック要素の排除〜悠久のサウンドスケープとエモーションの誕生〜強靭なフィジカルのグルーヴの獲得を経て、唯一無二のサウンドを確立していった。
とはいえ、彼らの成長過程は決して順風満帆なものではなかった。5人組ロックバンドとしてデビューしたものの、2度(実際は3度)に及ぶメンバーの脱退を受け、その度に「構造の変化」や「音楽との向き合い方の変化」のそれぞれに順応することを余儀なくされた。しかし、彼らはそれらハードルをポジティブに捉え、環境の変化という壁も糧として血肉に変えてた先に結実したのが2枚のアルバム『Everything Not Saved Will Be Lost – Part 1』と『Everything Not Saved Will Be Lost – Part 2』だ。この2部作はフォールズ初のセルフ・プロデュース作品で、全てを自分たちでコントロールすることで、自分達の強みである知性と肉体性をより確固たるものにした。
そして2022年。時代はコロナ禍。彼らは更なる境地を最新作『Life Is Yours』で見せてくれた。コロナ禍で溜まりに溜まった鬱憤、その反動から生まれた本作はアップリフティングでダンサブルなサウンドに溢れている。リードトラックとしてリリースされた”Wake Me Up”なんかはその最たる例で、最初聴いた瞬間に「あ、これは絶対にライブで踊りたいやつ!」と思ったし、きっとセットリストにも組み込まれることは間違いないだろう。
2日目何を観ようか迷っている人がいたら声を大にして伝えたい。「踊りたいならフォールズを見よ!」と。
“Wake Me Up”
“2001”
Halsey 7/31 (Sun) 21:10-22:40 GREEN STAGE
今年のフジロック、グリーン・ステージのラストを飾るのは、アメリカのシンガーソングライター、ホールジーだ。既に予習をしている人も多いと思うが、おそらく大半の人はシンプルに「ポップ・ソングを歌う女性シンガー」という認識を持ったであろう。しかし、彼女のステージ、そしてメッセージはとてもロックでパンクだ。
ホールジーは、自らバイセクシャルであること、双極性障害を患っていることを公表している。そんな彼女が紡ぎだす言葉にはフェイクがなく、あらゆるモノゴトに対して、ただひたすら誠実で居続ける。そのことを知っている海外のファンたちは彼女に共鳴し、その証として大シンガロングで彼女を迎えるのだ。ちなみに、その様子はライブアルバム『BADLAND (Live at Webster Hall)』(Apple Music / Spotify)で聴けるので、是非聴いてみて欲しい。
そんな彼女の名前が世界中に広がるキッカケになったのは、ザ・チェインスモーカーズやポスト・マローン、そしてBTSらとのコラボレーション作品だが、彼女の本領は「ホールジー」名義の楽曲にこそある。ナイン・インチ・ネイルズ(以下NIN)のトレント・レズナーとアッティカス・ロスのプロデュースによる最新作『If I Can’t Have Love, I Want Power』ではその辺が顕著に表れていて、リアルを語るホールジーのリリックにNINの楽曲テイストが合わさることで、途轍もないエネルギーを放つロック・アルバムに仕上がっている。
今回のステージは、直近のステージのセットリストを見た限り、グレイテストヒッツなセットリストを新作の世界観・空気感で表現した感じになっていそうだ。さらにステージセットに関しても、彼女のSNSを見た限り、非常にインパクトのあるものになっていて、これにあの音が重なるのかと想像するだけで鳥肌が立つ。
“Easier Than Lying (Live from Los Angeles)”
“Without Me”
全3回に渡ってお届けした『リムプレスライターが選ぶフジロック’22 注目アクト』。ここに挙げた9組のアーティスト以外にも、注目のアーティストはまだまだいるはずだ。会場に行く人も、お家でフジロックの人も、自分にとっての「注目するに値したアーティスト」を是非見つけて欲しい。
なお、リムプレスでは8月中旬頃に今年のフジロックを総括する記事の公開を予定している。そちらの方も楽しみにしていただけると幸いである。