eastern youth | 東京 LINE CUBE SHIBUYA | 2021.09.22

拡散、反響、渦巻く轟音

「何の因果かこんな広いところでやることになりまして、自分でもちょっと戸惑っておりますけど、いいかんじにバラけていて、いいじゃないですか」

ライブ序盤、3Fまである客席を見渡しながら吉野寿(Gt/Vo)は語った。eastern youth初のホール単独公演となるLINE CUBE SHIBUYAでのライブが、9月22日に開催された。4月17日の渋谷クラブクアトロでのライブ以降、5月の名古屋、大阪公演は新型コロナウイルス感染拡大の影響で中止されたため、5ヶ月ぶりのライブになる。この日はライブ配信も行われ、川口潤監督をはじめ、昨年12月5日に行われたバンド初のライブ配信と同じ、長年バンドを支えてきたスタッフが勢揃いで携わっている。

客席は複数枚チケットを購入すると連番となるが、グループごとの座席の間隔が空けて配置される、グループディスタンス方式が取られていた。平日だからか、やはりeasten youthのお客さんらしいというか、ひとりで観に来ている人が多い様子。日々発表される新規感染者数は減少しているとはいえ、コロナ禍第5波、緊急事態宣言下での開催となり、開催前にはチケットの払い戻しにも応じていた。観客の事情に配慮した、誠実な対応だった。

開演前には、ホールのコンサート前によく流れる落ち着いた女性の声のアナウンスで、今回は貴重なホールでのライブであることと、「一粒で二度おいしい」と強火加減なライブ配信の案内があり、思わず笑ってしまった観客もいたかもしれない。開演時間の18時30分には、突然『8時だョ!全員集合』のオープニングテーマが鳴り響く。しかし客席通路を一列に並んだメンバーが小走りで登場……することはなく、続けてBuilt to Spillの”Some”が流れ、ステージ上手からメンバーが現れた。

3人が向き合い、それぞれの呼吸が整ったところで始まった1曲目は、”今日も続いてゆく”。爆音が拡散し、壁や天井に跳ね返って包まれるようなホール独特の音響に、吉野の叫び声が切り込んでくる。“沸点36°C”を切れ味良く駆け抜けて、”荒野に針路を取れ”は生き生きと伸びやかに響く。冒頭3曲で観客を圧倒するも、3人に久々のライブだったり、いつもと異なる環境に由来する気負いは一切感じられない。そのかわり、3人の眼差しや身のこなしから、この限られた機会に込めた、冴え渡った気迫がビシバシ伝わってくる。小さなライブハウスからフジロックのグリーンステージまで、どこであっても、そのときの力の限りの演奏を積み重ねてきたeastern youthの強さを感じる。

「大丈夫よ。大丈夫、大丈夫。全然大丈夫」と吉野が語って始まった”サンセットマン”。噛み締めるように歌われるAメロから心を鷲掴みにされる。吉野は観客に向かって「大丈夫」と安易に気休めを言ったりしない。焦りも逡巡も包み隠さず歌に込め、その姿に嘘がないからこそ、こちらも胸を打たれるのだ。

”男子畢生危機一髪”はダイナミックに攻め、間髪入れずの”ズッコケ道中”に驚かされる。この曲はかなり長い間演奏されていなかったはず。村岡ゆか(Ba)のコーラスによって、豊かなハーモニーを伴ってライブで鮮やかに蘇ったことがただ嬉しい。

続けて”青すぎる空”のイントロが始まると、客席からは自然と拍手が返ってくる。コロナの感染拡大前なら、大きな歓声が沸き起こっていたはずだ。広い空間に鳴り響く、バンド屈指の代表曲は格別だった。

「なんていうんですかね、何をどう言っていいのかわかりませんけれども、『助からんわ、これは』と思うことが少なくないですよ。優先順位っていうか、世の中のヒエラルキーっていうか、そういうものが露骨な順位制になってきて、追いつかないですよ。『これは助からんな』って自分で自分に言い聞かせて、『しょうがねえんだ』って。……しょうがねえのかな? 役にも立たず、こんな歳にもなってしまいました。まさに『生まれてすみません』みたいな。……じゃねえんだよ! 『生まれてすみません』じゃないんだよ。ねえ、そうでしょう。(観客から拍手)なあ、そうだろ?」

そう観客に問いかけて始まった”ソンゲントジユウ”。何かと抑圧を感じる場面に遭遇しがちな今だからこそ、この曲の歌詞と吉野の自問自答の果ての問いかけが説得力をもって響いてくる。

次の曲間では、何かを間違えそうになっていたことに気づいて笑う吉野。歳を取ると「劣化」するというけれど、「それを誤魔化すのがいちばんみっともないと思うよ」と語る。「いいじゃないの、劣化でさ。劣化の風合いがありますよ。そういうの分からない人とは友達になれない」と言うのが吉野らしい。

「(客席が)シーンとしてるの好きなんですよね、シーンとしてても、(観客が)いますよ、ちゃんと。それが街ですから。我々のふるさとですからね」と語って”街はふるさと”が演奏された。

最新アルバム『2020』からの”それぞれの迷路”は温かみと広がりをもって響き、”踵鳴る”は吉野と村岡による会話のようなフレーズのやりとりから始まり、クライマックスへと上り詰めていく。”踵鳴る”で白熱したためか、”グッドバイ”を歌う吉野の声はかすれて苦しそうだ。それでも懸命に歌う姿が胸を打つ。

”直に掴み取れ”も、久しぶりに聴いた。緊張感を保ちつつ展開する曲を、小気味良いカッティングと村岡のファルセットのコーラスが彩り、満を辞して到来する吉野によるラップのパートなど、聴きどころ満載だ。行動が制限される今のご時世で聴くと、サビの「誰かが決めた未来を突き返して 人間万事塞翁が馬 直に掴み取れ」という歌詞には、魂が開放されるような痛快さがある。

”矯正視力〇・六”はしみじみと響き、間奏で赤く点滅する照明の中、嵐のように轟音が渦巻く様はホールならでは。その激しさと美しさに打ちのめされる。

吉野はおもむろに「(ズボンの)チャック開きっぱなしだったんじゃねえかな? 開いてませんでした!」と、12月の配信ライブと同じようなことを言っていた。相変わらずだなあと思っていると、”裸足で行かざるを得ない”から終盤へ突入。たまらない流れだ。

吉野は田森篤哉(Dr)へMCを振る。

「こんばんは。お久しぶりです。うちらもライブは久しぶりで、最近になってこのライブがあるんで、3人メンバー集まってスタジオに入りました。新鮮な気持ちでライブができて、大変嬉しく思っています。つきましては、年内に皆さんとお会いできるのを楽しみにして、頑張っていきたいと思います。田森でした」

返ってくる拍手が温かい。吉野も田森に「グー!」と親指を上げて声をかけ、田森も笑顔だ。

”夜明けの歌”が始まると、ライブの終わりが近いことが感じられて、名残惜しい。そして本編ラストは”街の底”。真っ直ぐに正面を見据えて歌う吉野の眼差しに射抜かれる。

アンコールでは吉野は両手で作ったハートを掲げて登場。村岡へMCを促す。

「みなさんこんばんは、今日はお越しくださって、あと配信をご覧くださってありがとうございました。また今年もいっぱいライブが飛んでしまったんですけど、今日こうやってライブができて、本当に嬉しいです」

いつもの通り、村岡へ「モアー!」(もっと喋って)と繰り返す吉野。

「ライブができる機会に、力一杯やってしのいでいけたらと思います」
「バンドに入れていただいて6年経ちました。これからも頑張ります」

と村岡が付け足すと、ようやく吉野からOKが出て空気が和んだ。徐々に吉野の爪弾くギターの音が大きくなり、塊のような重音が”テレビ塔”の始まりを告げる。”グッドバイ”も、”直に掴み取れ”も、この”テレビ塔”も、収録されているアルバム発売時のツアーではセットリストの要となる曲だった。人気曲だけでライブを構成することもできるはずだが、こういった重要な曲も折り込まれた濃密なセットリストに、このライブへの心意気を感じる。

「ありがとうございます。私も、我々3人も、皆様方も、今日はとても不思議な空間で、これは一体どうなっているのかなと。でも、とてもいい経験になりました。ありがとうございました。我々がやるとこじゃないよ。こういうとこは」と吉野は最後までホールへの慣れなさを隠さず、「私たちまた出会うことがあるんでしょうか。あるよね、きっと。ねえのか? この辺(客席の一部を指して)なさそうな感じ……。ウソ!」

と言って観客の苦笑いとともに始まったアンコール2曲目は、”夏の日の午後”。”青すぎる空”に続き、イントロが鳴り始めただけで「待ってました!」と言わんばかりの拍手が沸き起こる。メンバー同士向き合って奏でた最後の一音までテンションが保たれた、圧巻の演奏だった。

「ありがとう、また会う日まで。さよなら!」

吉野の挨拶とともにライブは締めくくられる。1F客席から沸き起こり、3F席、2F席から降り注ぐ拍手が3人を見送った。観客は整理退場のアナウンスに従い、静かに帰っていった。終演後の物販の列もソーシャルディスタンスが保たれていた。

吉野はライブ中、「こんなことがあったからこそ、我々はこんな珍しいシチュエーションで演奏することができます」と語っていたが、やはりLINE CUBE SHIBUYAでの公演はバンドの歴史に残る特別なライブであり、かなり贅沢だった。TPOによっては「ライブに行く、行ってきた」ということすら、話題にしづらくなってしまった世の中。未だ先の見えない状況の下、eastern youthはいま持てる全ての力を込めて熱演を届けた。それぞれの思いを胸に会場に足を運んだ観客は、間隔の空いた客席で静かにそれを受け止め、この日、この場所でeastern youthのライブを観ることができた喜びを噛み締めたことだろう。

ライブ配信を視聴した方も、そのスペシャルな空気感と、臨場感を存分に味わえたはず。このライブの模様は、10月3日(日)の配信終了時間(23:59)まで、何度でも追体験できる

同日、12月4日(土)に渋谷TSUTAYA O-EASTでワンマンライブが開催される旨が発表された。チケットは10月3日(日)までオフィシャル先行予約(抽選)を受け付けている

<SET LIST>
01.今日も続いてゆく
02.沸点36°C
03.荒野に針路を取れ
04.サンセットマン
05.男子畢生危機一髪
06.ズッコケ道中
07.青すぎる空
08.ソンゲントジユウ
09.街はふるさと
10.それぞれの迷路
11.踵鳴る
12.グッドバイ
13.直に掴み取れ
14.矯正視力〇・六
15.裸足で行かざるを得ない
16.夜明けの歌
17.街の底

E1.テレビ塔

E2.夏の日の午後


<ライブ配信期間>
2021年 9月22日(水)18:30~ 10/3(日)23:59
視聴チケット: ¥3,000
発売期間: 9/10(金)17:00~10/3(日)21:00
購入サイト: https://w.pia.jp/t/easternyouth/


『eastern youth 年末単独公演 2021』

2021年 12月 4日(土) TSUTAYA O-EAST
開場 16:00 / 開演 17:00
前売:¥5,000(指定席) ※1F/前方・2F/最前列
¥4,000(立ち見) ※1F後方エリア・2F後方エリア

※小学生以下は入場不可です。中学生以上はチケットご購入が必要です
※購入時に同行者含め個人情報の登録が必要となります
※指定座席は全席お客様がお座りになる設定です
※ライブ生配信はございません
https://w.pia.jp/t/easternyouth/


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Text by Keiko Hirakawa
Photo by Keiko Hirakawa