「やれるだけのことを、全部やろうと思いました。冥土への旅ですから」eastern youth、昨年9月の日比谷野音ライブに込めた想いを語る

『eastern youth 日比谷野外大音楽堂公演 DVD 2019.9.28』劇場公開記念 吉野寿、村岡ゆか、川口潤監督による舞台挨拶

eastern youthの日比谷野外音楽堂で17年ぶりに開催されたライブをノーカットで収録したDVD、『eastern youth 日比谷野外大音楽堂公演 DVD 2019.9.28』が3月4日に発売された。同作品の劇場公開版の上映を記念して、3月7日、東京・新宿のK’s cinemaにてeastern youthの吉野寿(Gt/Vo)、村岡ゆか(Ba)による舞台挨拶が行われた。司会を務めたのは音楽ライターの石井恵梨子。完売の客席には、新型コロナウイルス対策のマスク姿の観客が目立つ。上映初日の2月29日に舞台挨拶を行った、監督の川口潤も急遽登場し、観客には嬉しいサプライズとなった。

まず、日比谷野音のライブの感想を聞かれた吉野と村岡。吉野は「面白かったです! すごいよかったですね。再び野音で演奏できると思いませんでした。もうないものだと思っていたので、17年ぶりということは考えませんでした。前回のことも覚えていますが、全然違いますね。景色は一緒で気持ちよかったですけど。冥土の土産みたいでした」と独特の表現で語り始めた。村岡は「あの日はものすごい曲数があったので、とにかく最後まで体力を持たせて立っていられるか? という緊張感がありました」と語る。実際に演奏した感想を聞かれると、「手がちぎれるかと思いました」と演奏中を振り返った。

過去に行った野音のライブで記憶に残っているものは? の質問には、吉野は「パッと思い出すのはNUMBER GIRLですね。最近のじゃなくて、前のやつ(2002年5月)を観ました」と答え、村岡は「私は住んでいるのが岡山なので、こちらに来ることがそんなにできなくて。1回だけ野音でライブを観たことがあるんですけど、それが17年前のeastern youthです。深く印象に残っております。吉野さんより覚えているかもしれないです」と語る。2015年に加入する前は、長年eastern youthの熱心なファンだった村岡らしい答えに、客席からは感嘆の声が上がった。

オールタイムベスト的だった野音のセットリストの話題になると、吉野は「全部やろうと思いました。やれるだけのことを、この機会にやろうと思って。冥土への旅ですから。やり足りなかったですけど。まだ曲はありますから」と選曲に込めた思いを語る。

「スタジオでみんなで時間をかけて練習して、ある程度骨組みを作って、僕のギターのチューニングの兼ね合いもあったりして、何度も直しながらいろいろ考えました」

メンバーやスタッフから演奏する曲のリクエストはあったか? の問いに、吉野は「”サンセットマン”はやる予定なかったんです。20年くらい我々のライブの制作をしている、イワイマン(SMASH WESTの岩井慶太氏)という人がいるんです。その人が『サンセットマン、やらないんですか?」って言ったんですよね。言われるとなんとなくその気になって、『じゃあやろうかな?』と思って、2日前に増やしたんです。で、どんどん曲数が増えていきました」と明かした。

野音で演奏して印象に残った曲として、村岡は”歌は夜空に消えてゆく”を挙げた。「17年前がすごく印象的だったので、『これはいいプレイしなきゃ』と思って、むちゃくちゃ思いを込めています。あれは私のイースタンユースへのラブが全て込もっています!」と力説。吉野は1曲目の”ソンゲントジユウ”を選んだ。「1曲目でしょう、やっぱり。あれが一番言いたいことですよ。でも緊張していましたね。チケットの売れ行きの情報は入ってきていましたが、本当は誰も来ないんじゃないかなと思っていました。自分が誰かから思いを寄せられる、みたいな気持ちで観られている意識がないんです。俺はただ発信しているだけ。ワオ! と思ってやってるだけなんですよ? ”ソンゲントジユウ”はそのエッセンスみたいなところがあるので、一番のヤマでしたね」

映像のなかで、吉野のギターアンプの上に置かれた、ライブによく足を運ぶファンにとってはおなじみのガーベラと中指を立てた形のモデルハンド(”SHOW RACISM THE RED CARD”と書かれたパッチが貼ってある)のカットが多い点についても触れられた。その二つのアイテムの意味を問われると、「意味、ありますよ。あれ(モデルハンド)はなまら意味ありますからね? ファック、ですよ。ネトウヨ、レイシストですよ。自分の内向きなプライド、愛国心を履き違えている奴らへの俺の態度です。正義がどうかっていうのはわかりませんけど、面白くないですね。自分と違う奴、価値観の違う奴を嫌いなのはいいけど、排除することによって自分のプライドを成り立たせるのは気に入らないですね。それに対する、俺の意思表示です。で、お花は『そうは言っても、お花くらいあってもいいじゃないの? パンクでぶっ飛ばせとか言ってたって、お花くらいないとギスギスするじゃないのよ?』っていうか。そういう気持ちです」

川口の監督としての起用は吉野からの指名だったのか? と聞かれると、吉野は「そうです。当たり前でしょう?」とゆるぎない信頼関係を垣間見せる。「川口君は、当日違う仕事で海外に行くって言っていたんです。川口君がいないなら、野音は録らなくていいって思っていました。何かの時に喋ったら『録るんだったら行きますよ?』って言うから、『いるの? いるなら撮ってよ』と」

川口も続ける。「吉野さんたちはもともとライブを映像に残そうとしないんです。僕が好きで撮っているだけなので、『野音、形にしないんですね、残念です』って言ったら、『だって川口君来ないんでしょ?』と……」

「いねえっていうから、あきらめてたんですよ?」という吉野に「いやいや、いますよ!?」と川口があわてて応える微笑ましいやりとりもあった。多少のすれ違いはあったものの、映像化の実現に感謝したい。

劇場公開版の見どころを聞かれた3人。村岡は「全部です」と笑顔で答えた。川口は「5.1chで聴けるのは映画館だけですね。初日に上映しながら音の調整をしてもらいました。今日はだいぶ落ち着いているはずです。ステージの上から撮らせてもらって、カメラの視点も少しずつ変えたりしているので、そういうところも観てもらえたら嬉しいです」と監督ならではのポイントを挙げた。吉野からは「今日のことはみなさん速やかに忘れてください! 観て、すぐ忘れるのがいいと思います」と照れ隠しのような言葉が飛び出し、客席は和やかな笑いに包まれた。

最後に観客へのメッセージを求められた村岡と吉野。「このご時世にお集まりいただき、本当にありがとうございました」とのお礼の言葉とともに、舞台挨拶が終了した。

K’s cinemaでの上映期間は当初13日(金)までだったが、3月14日(土)〜20日(金)まで期間延長された。京都みなみ会館での上映は、新型コロナウイルス感染拡大の状況を踏まえ、上映期間が延期された。


【劇場公開版『eastern youth 日比谷野外大音楽堂公演 2019.9.28』上映】
上映時間:105分 一般・学生¥1,500 / シニア¥1,000
※詳しくは各公式サイトをご覧ください。

[札幌] KLUB COUNTER ACTION ※終了
上映期間:2月16日(日)~2月17日(月)
https://twitter.com/kcasapporo

[東京] 新宿K’s cinema
上映期間:2月29日(土)~3月20日(金) ※期間延長
http://www.ks-cinema.com

[名古屋] 名古屋シネマテーク ※終了
上映期間:2月29日(土)~3月6日(金)
http://cineaste.jp

[青森]弘前Mag-Net
上映期間:3月2日(月)~3月3日(火) ※終了
http://www.mag-net.jp

[京都]京都みなみ会館
上映期間:3月6日(金)~3月12日(木) ※延期
http://kyoto-minamikaikan.jp/

[大阪]第七芸術劇場
上映期間:3月14日(土)~3月20日(金)
http://www.nanagei.com


『eastern youth 日比谷野外大音楽堂公演 DVD 2019.9.28』
発売日:2020年3月4日(水)
定価:4,500円+税
収録分数:本編約153min

収録曲:24曲(当日セットリスト全曲収録)
01 ソンゲントジユウ
02 夏の日の午後
03 砂塵の彼方へ
04 故郷
05 扉
06 いずこへ
07 雨曝しなら濡れるがいいさ
08 サンセットマン
09 踵鳴る
10 スローモーション
11 月影
12 青すぎる空
13 道端
14 裸足で行かざるを得ない
15 矯正視力O.六
16 ナニクソ節
17 街はふるさと
18 時計台の鐘
19 たとえばぼくが死んだら
20 荒野に針路を取れ
21 夜明けの歌
22 街の底
EN1 歌は夜空に消えてゆく
EN2 DON QUIJOTE

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Text by Keiko Hirakawa
Photo by Keiko Hirakawa